EPA法務局長への書簡 2006年5月22日
人工ナノ物質の米有害物質規正法・新規物質製造前届出に関する エンバイロンメンタル・ディフェンスの見解 (前半部の紹介) 情報源:Environmental Defense, May 22, 2006 Letter to General Counsel, US Environmental Protection Agency Environmental Defense Position on TSCA's PMN Provisions for Engineered Nanomaterials http://www.innovationsgesellschaft.ch/images/fremde_publikationen/5265_StatusofNMsUnderTSCA.pdf 訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会) http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/ 掲載日:2006年6月29日 2006年5月22日 米環境保護庁法務局長 アン・ R. クリー殿 アメリカ化学工業協会ナノ技術審議会(以降、審議会と称する)(American Chemistry Council’s Nanotechnology Panel)が、有害物質規正法(TSCA)目録にすでに含まれている化学構造の人工ナノ物質はTSCAの意味する”新規”化学物質ではなく、したがってTSCAの製造前届出(PMN)条項の対象とならないと主張する文書1を配布していることはエンバイロンメンタル・ディフェンスの注目するところである。 エンバイロンメンタル・ディフェンスは審議会のこの主張に強く反対するものであり、この書簡及びTSCA双方の精神によれば、人工ナノ物質は、たとえ化学構造がTACA目録に含まれる物質と全く同一でも、そのナノ物質の化学的及び物理的特性が、化学的構造が同一の既存の当該物質と同一であることが示されなければ、TSCAの下で”新規”物質である(したがって製造前届出の対象となる)と信じる。 この書簡で、我々の見解2を明らかにする。 1. 人工ナノ物質を”新規”とすることが合理的な環境政策である 人工ナノ物質は多くの適用分野において非常に有用であるとが期待される。しかし、アスベスト、CFCs、DDT、加鉛ガソリン、PCBs、その他多くの物質によって示された通り、製品が有用であるという事実は、それが健康又は環境に害がないということを保証するものではない。そして、もし製品が広く使用されるようになった後に危険が知られるようになったなら、その結果は、人が被害を受け環境が損なわれるだけでなく、長期間の裁判闘争、金のかかる浄化修復、訴訟費用の大きな出費、そして社会関係の大きな歪みをもたらす。 そのような結果を避けるために、議会は1976年に有害物質規正法(TSCA)を制定した。TSCAは新規化学物質の製造者は製造前届出(Premanufacture Notice (PMN))を少なくとも製造着手90日前に環境保護庁(EPA)に提出することを求めている。PMN手続きはいくつかの重大な限界もあるが、少なくとも常識的な”跳ぶ前に見る”という機会を与え、EPAは新規物質が市場に出る前にその潜在的なリスクを検証し評価することが可能となり、もし必要があれば、さらなる情報を要求するかその使用を制限することも可能となる。 TSCA立法時の議会記録には下記のように記されているる。
1 この書簡は、2006年3月付け文書 ”人工ナノスケール物質の潜在的なリスクに対応するためにTSCAの下でEPAの権限の広い範囲に関するアメリカ化学工業協会ナノ技術審議会の見解”のパートTに対する応答として出されている。 2 エンバイロンメンタル・ディフェンスは、この問題及び関連する問題に目を向けて、以前にEPAに2004年9月2日付け書簡を出しており、この以前の書簡が添付されている。 3 Conference report No. 1679, 94th Congress, Second Session (1976), page 65. Reprinted in Legislative History of the Toxic Substances Control Act. Committee Print: House Committee on Interstate and Foreign Commerce. Washington, DC: U.S. Government Printing Office. 2. 人工ナノ物質は、それらが”新規である”、すなわち、”ナノであること”の直接的結果として著しく強化された又は新奇な特性を持つために、まさしく興味がある。 国家ナノ技術イニシアティブ(NNI)は、ナノ技術を下記の要件を満たすものとして定義している。
ナノ物質の”新奇さ”以外の他の明確な特徴は、それらが広く特許をとられていることである。最近(2006年)のナノテク・レポートで、ラックス・リサーチは、1985年4月以来、アメリカでは4,000近くの特許が出願されていると報告している。4 4 http://www.nanotechwire.com/news.asp?nid=3283 3. TSCA の”化学物質”の定義は、物質の分子構造以上のものを包含する TSCAは”化学物質”を”特定の分子同一性”の物質として定義している。Section 3(2)(A) 審議会は、”分子の同一性(molecular identity)”は、”分子構造(molecular structure)”と同義であると主張している。この主張は、下記に示すように法的構造の基本的規範と常識を無視するものである。 TSCAには、”分子構造(molecular structure)”5という言葉が2回出てくる。 Section 8(a)(2)(A): (2) 長官は paragraph (1)の下に、報告書を作成した人が知る限り、又は合理的に確かめられる限り、報告書の保守と報告を求めてよい。 (A) 報告書が求められる一般名又は商品名、化学的同一性(chemical identity)、および各化学物質の分子構造(molecular structure)、又はそのその混合物 Section 26(c)(2)(A): (2) paragraph (1)の目的のために: (A) 用語”化学物質のカテゴリー”は、その用語が、新規化学物質であるということに基づいて単にひとつにまとめられた化学物質のグループを意味しない場合を除いて、分子構造(molecular structure)、物理的、化学的又は生物学的特性、用途、又は人の体又は環境への入り方が類似の化学物質のグループ、又はこの法の目的のために相応しい分類のグループを意味する。 これらの条項の検証は下記を明確にする: a. 議会は”分子同一性”と”分子構造”を別けて用いているという事実はそれらが同義であるとは見なしていないことを示している。これが立法構造の基本的な規範である。 ”同一性”という言葉はTSCAでは2回出てくるだけであり、ひとつは、Section 3(2)(A)の”化学物質”の定義の中での”分子同一性”であり、もうひとつは、Section 8(a)(2)(A)の中の”化学的同一性”の用語の一部としてである。この2番目の使い方は、それぞれの用語は報告されるべき必要性のあるものとして別々にリストされて、”分子構造”の”同じフレーズの中で明確に区別されている。もし議会が、審議会が主張するように、”分子的(又は化学的)同一性”は、”分子的(又は化学的)構造(又は分子式)”完全に同義であると信じたなら、なぜ同じフレーズの中でこれらの用語を分離してリストしたのか? それはこの二つの用語が同義ではないということを示しているのではないか? b. TSCAには、”化学物質”の定義に物理的及び化学的特性を含めることを排除するようなものは存在しない。 審議会は、化学物質の定義は物理的及び化学的特性について述べていないと主張しているが、それは正しい。そこで審議会は、定義はそのような特性を除外するという結論に跳んでいる。この結論は、全く支持することができない。 さらに、 上記で引用した化学的同一性の Section 26(c)(2)(A)の定義は、物理的、化学的(生物学的も同様に)特性を参照している。そのような特性は類似することがあり、したがってそれらの化学物質をひとつのカテゴリーに分類することを支持することに留意すれば、議会は逆のことを暗黙に認めている。すなわち、物理的及び化学的特性は化学物質を区別するために用いることができる。 5 一般的使用でおそらく分子構造(molecular structure)と同一視することができる類似の用語には、分子式(olecular formula)、化学式(chemical formula)、又は化学的構造(chemical structure)がある。しかしこれらはいずれもTSCAには出てこない。 (以下訳省略) |