C&EN 2010年10月7日
ナノ粒子 食物網に入り込む

情報源:Chemical & Engineering News, October 7, 2010
Nanoparticles Worm Their Way Into The Food Web
by Laura Cassiday
http://pubs.acs.org/cen/news/88/i41/8841news11.html
オリジナル論文:
Evidence for Bioavailability of Au Nanoparticles from Soil and Biodistribution within Earthworms (Eisenia fetida)
http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/es101885w
Jason M. Unrine*†, Simona E. Hunyadi§, Olga V. Tsyusko†, William Rao†, W. Aaron Shoults-Wilson†, and Paul M. Bertsch†‡
Department of Plant and Soil Science, Tracy Farmer Institute for Sustainability and the Environment, University of Kentucky, Lexington, Kentucky 40546, United States, and Savannah River National Laboratory, United States Department of Energy, Aiken, South Carolina 29803, United States

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2010年11月9日

 科学者らは、毎年200万トン以上製造されているナノ粒子の一部が放出されてどのように環境中の生物に影響を与えるのかについて、ほとんど知っていない。新たな研究が、ミミズ(Eisenia fetida)が周囲の土壌から金ナノ粒子を摂取し、その組織内に蓄積することができることを報告しており、この発見は食物網に大きな意味合いを持つものである (Environ. Sci. Technol., DOI: 10.1021/es101885w)。

 製造者はナノ粒子を化粧品、衣料品、医療機器などに加える。衣料品を洗濯するというような通常の使用によりナノ粒子が排水中に放出され、最後には下水汚泥中に行き着く。アメリカやヨーロパでは、農民は下水汚泥を肥料として畑に施す。

 レキシントンのケンタッキー大学の環境毒性学者ジェイソン・ユンリンらは、これらの畑に施されたナノ粒子が最終的には食物連鎖中に入り込むかどうかを知りたいと思った。”我々はナノ粒子は土壌粒子上に凝集すると思ったので、生物が土壌からそれらを摂取するということについては最初は非常に懐疑的であった”とユンリンは述べている。

 確かめるために、ユンリンのチームは食物連鎖の下位の生物であるミミズを金ナノ粒子で汚染させた人工土壌の中に混ぜた。”我々は、その安定性、非溶解性、検出の容易さから、金ナノ粒子を用いた”とユンリンは述べている。”金粒子は追跡性がよい”。

 28日後、研究者らはナノ粒子の摂取を見るためにミミズの組織を調べた。科学者らは、最初にレーザーアブレーションICP質量分析(LA-ICP-MS)を実施してミミズの組織中の金の全体分布を確認した。その後、選定された部位にシンクロトロンX線顕微鏡法と呼ばれる手間のかかる技術を適用して金が金属形態であり、製造過程で残った金イオンではないことを確認した。

 ユンリンらは、20〜55nmの金ナノ粒子がミミズの体中に分布し、特に腸での濃度が最も高かった。しかし、曝露したミミズは、金属イオン感知たんぱくであるメタロチオネインの遺伝子発現量を増加させず、ミミズの組織中で検出された金はナノ粒子形状であることが確認された。

 金ナノ粒子はミミズの死亡率に大きくは影響を与えなかったが、曝露したミミズの繁殖力は最大90%落ちた。ユンリンは、ミミズのナノ物質への生物学的反応をもっと詳しく調べる研究を計画している。

 ”この研究は、ナノ粒子を土壌から組織内に取り込むことを示す今日までの最良の証拠を提供するものである”とブラウン大学の環境技師であるロバート・ハートは述べている。そして彼は、この研究は重要な示唆をもたらしていると考えている。すなわち、”ナノ粒子は一般的に環境中において低濃度で検出されるが、もし食物連鎖中で生物濃縮するなら、ヒト健康を損なう大きな可能性がある”。


オリジナル論文
Evidence for Bioavailability of Au Nanoparticles from Soil and Biodistribution within Earthworms (Eisenia fetida)
http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/es101885w
Jason M. Unrine*†, Simona E. Hunyadi§, Olga V. Tsyusko†, William Rao†, W. Aaron Shoults-Wilson†, and Paul M. Bertsch†‡
Department of Plant and Soil Science, Tracy Farmer Institute for Sustainability and the Environment, University of Kentucky, Lexington, Kentucky 40546, United States, and Savannah River National Laboratory, United States Department of Energy, Aiken, South Carolina 29803, United States

アブストラクト
 金ナノ粒子は酸化溶解しにくく、検出しやすいので、生物学的系内におけるナノ物質の挙動を探るための安定した”探り針”として使用されてきた。以前の研究では、食物連鎖中での金ナノ粒子の生物学的利用能については幾分限定的な証拠であったが、その理由は、金の組織中での空間的分布及び種分化が決定されなかったためである。
 今回の研究では、金ナノ粒子は土壌からモデルのミミズ(Eisenia fetida)に生物利用能があるという生物学的証拠はだけでなく、直交マイクロ波分光計技術によるものを含んで複数の証拠を提供している。我々はまた、金ナノ粒子がミミズの生殖に有害影響を及ぼすかもしれないという限定的な証拠も示している。
 これは、金ナノ粒子が腐食性生物によって土壌から摂取され組織内に分配されることができることを示した、おそらく初めての研究である。我々は一次粒子サイズ(25nm又は55nm)が質量ベースの蓄積濃度に一貫して影響を与えるということはないが、粒子数ベースでは20nm粒子の方が生物学的利用能が高いということを発見した。生物学的利用脳の処理による違いは、間隙水中での凝集によって説明されているかもしれない。
 結論は、汚泥肥料の施肥のような行為により土壌中に存在するナノ粒子は、陸生の食物網に入り込む可能性を持っていることを示唆している。



化学物質問題市民研究会
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