C&EN 2010年8月12日
ナノ毒性に光をあてる
ナノ物質:カーボンナノチューブのあるものは
太陽光の下で活性酸素種を生成する


情報源:Chemical & Engineering News, August 12, 2010
Shining A Light On Nanotoxicity
Nanomaterials: One class of carbon nanotubes produces reactive oxygen species under sunlight
by Laura Cassiday
http://pubs.acs.org/cen/news/88/i33/8833news5.html?utm_source=feedburner&utm_medium=feed&utm_campaign=Feed%3A+cen_nano+%28Chemical+And+Engineering+News+NanoFocus%29&utm_content=Google+Reader

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2008年9月1日


酸性溶液中での光効果:
光が照射されるとカルボキシル化された
SWNTs が懸濁液から出てくるが(左)、
暗い場合は出てこない(右)。
 いつの日にか、ナノ産業は大量の単層カーボン・ナノチューブ(SWNTs)を製造するようになるであろう。その独特の物理的及び化学的特性は、をれらを微細電子回路、診断用画像、ドラッグ・デリバリーなどの広範な電子機器や生物医学の分野等で魅力的な素材にしている。

 科学者らは、これらのナノ物質が環境にどのような影響を与えるのかについて、まだほとんど分かっていない。今回、研究者らはある種類の単層カーボン・ナノチューブ(SWNTs)が、水中に分散し、太陽光に当たると細胞を損傷する活性酸素種(reactive oxygen species ROS)(訳注1)を生成し、ナノチューブの生態学的安定性と毒性に影響を与えることを実証した(Environ. Sci. Technol., DOI 10.1021/es101073p)。

 ”もし、我々が大量のSWNTsを生成し、処分するようになれば、それらがどのように環境中で変換され、それらが元の物質(親物質)よりも有害性が高くなるのか低くなるのかを知る必要がある”とプルード大学のチャド・ジャフバートは述べた。

 研究室での実験で、カーボン・ベースのナノ物質は、科学者らがレーザーを照射すると活性酸素種(ROS)を生成した。不対原子価殻電子(unpaired valence shell electrons)を有するこれらの酸素含有成分は、生物のDNA、脂質、及びたんぱく質を酸化し、ダメージを与える。しかし、科学者らはナノ物質がこれらの高い活性成分を自然条件の下で生成するかどうかは分からなかった。

 それを確かめるために、ジャフバートと彼の同僚らは、カルボキシル化された SWNTs が懸濁(訳注2)した水を満たしたガラス管に自然太陽光を浴びせて環境中での曝露を模擬した。研究者らは、特定の化学剤(chemical scavengers)を用いて、3つの活性酸素種(ROS)、一重項酸素、スーパーオキシドアニオン、及びヒドロキシルラジカルの生成を検証した。

 彼らは、そのガラス管を80時間照射した後に、カルボキシル化されたSWNTsが3種類の活性酸素種(ROS)の全てを生成したことを見つけた。科学者らは、このナノ物質を酸性溶液に懸濁させてガラス管を照射したときに、SWNTsは懸濁液から出てきて凝集した。このことは、活性酸素種(ROS)が電荷反作用を減少させて、凝集させることにより、この物質の通常の化学的特性を変えることができることを示している。これらの化学的に変更された SWNTs 又はROS自身は水生生物に有毒であると研究者らは述べている。

 しかし、自然に発生するフミン酸(humic acid)と呼ばれる物質(訳注3)もまた水中で活性酸素種(ROS)を生成するので、これらのプロセスの環境的な意味はまだ未知であるとジャフバートは述べている。研究者らは、SWNTs 自身又は製造過程での化学物質が活性生物種を作り出すかどうか分からないとしている。

 この研究は、”カルボキシル化された SWNTs が自然環境下で様々な ROS を作り出すことができることを初めて示した”ということであるとライス大学の環境技術者ペドロ・アルバレツは述べている。彼は、この発見は、科学者が工業物質が環境中に放出されたときに、その毒性を理解するのに役立つであろうと述べている。


訳注1
活性酸素種(ROS)−ウイキペディア
 酸素が化学的に活性になった化学種を指す用語で、一般に非常に不安定で強い酸化力を示す。

訳注2
懸濁液−ウイキペディア
懸濁液(けんだくえき)とは、固体粒子が液体中に分散した分散系。粒子はコロイド粒子(100nm程度以下)のこともあるが、それより大きな光学的粒子のこともある。コロイド粒子の場合は懸濁コロイドなどと呼び、光学的粒子の懸濁液を特に懸濁液と呼ぶこともある。

訳注3
フミン酸−ウイキペディア
 フミン酸(フミンさん, humic acid)とは、植物などが微生物による分解を経て形成された最終生成物であるフミン質(腐植物質)のうち、酸性の無定形高分子有機物。狭義では、腐植土や土壌などにおいてアルカリに可溶で、酸で沈殿する赤褐色ないし黒褐色を呈する、糖や炭水化物、タンパク質、脂質などに分類されない有機物画分のことを指す。腐植酸(ふしょくさん)とも言う。



化学物質問題市民研究会
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