米化学会 C&EN 2008年6月23日
米議会 ナノテクノロジーに注目
新法案 新規分野における監視とR&D推進の
連邦政府イニシアティブを再確認

情報源:Chemical & Engineering News, JuNE 23, 2008
Congress Addresses Nanotechnology
Bill reauthorizes federal initiative to monitor and guide R&D in emerging area
Britt E. Erickson
http://pubs.acs.org/cen/government/86/8625gov2.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2008年12月15日

 2001年に立ち上げられた”国家ナノテクノロジー・イニシアティブ(NNI)”は(訳注1)、連邦政府の研究と開発を調整するものである。過去数年間、NNIはナノテクノロジー分野の成長のペースに合わせようと試み、研究開発(R&D)を推進するための、特に重要な環境、健康、安全(EHS)研究の実施を確実にするための戦略を策定することに努力を払ってきた。

 NNIがその責任をよりよく全うできるよう、議会はNNIを統制する法を再評価し、修正しようとしている。6月5日、407対6という圧倒的多数で米下院は法案 H.R. 5940、「2008年 国家ナノテクノロジー・イニシアティブ修正法」(訳注2)を通過させた。EHS研究を必要性を強調した同法案を産業界と環境団体は等しく称賛した。

 法案 H.R. 5940 は、ブッシュ大統領が2003年12月に署名して発効した「NNI 21 世紀ナノテクノロジー研究開発法」(訳注3)を修正するものである。”この連邦政府間機関ナノテクノロジー研究プログラムはまだ十分に設計されておらず、適切に基金が供給されておらず、ナノテクノロジーの環境と安全の面に焦点を絞った研究プログラムは効果的に実施されていない”と下院議員で下院科学技術委員会委員長でこの法案を導入したバート・ゴードン(民主・テネシー)は述べた。”法案 H.R. 5940 は、詳細な目的と資金目標に裏づけられた研究計画が開発され早急に実施されるべきことを求めることによってこの非効率に目を向けている”と彼は述べた。

 この法案は過去数年の間に提起されたいくつかの問題に取り組んでおり、”商業的な成功だけでなく安全で持続可能なナノテクノロジーの開発のための場面を設定している”とウッドロー・ウィルソン国際学術センター/新興ナノテクノロジーに関するプロジェクトの主席科学顧問アンドリュー D. メイナードは述べている。メイナードは C&ENの編集顧問委員会のメンバーである。

 例えば、この法律はNNIに関わる25の連邦機関の全てによって実施されるナノテクEHS研究の公開データベースを作成することになる。現在、全米ナノテクノロジー調整局 (NNCO)がそのような情報を収集しているがそのデータセットの信頼性は不明である。

 ”毎年、NNCOはNNI予算のうち、どのくらいがEHS関連プロジェクトに行くのか推定している”と非営利団体エンバイロンメンタル・ディフェンス・ファンドの上席科学者リチャード A. デニソンは述べている。その推定には問題があるが、それは調整局がプロジェクトの資金について特定の情報を発表することはほとんどなく、そこで、NNIの外部のほとんどの専門家らがEHSにわずかでも関連すると考えるプロジェクトの数をNNCOは勘定しがちであると彼は言及した。”毎年、このようなゲームを続けるより、このデータベースの方が記録公開を確実にするのに役立たせるために使いでがある”。

 2006会計年度に、NNIは3,700億ドル(約37兆円)あるいはNNI予算総額の3%がEHS研究に使われている。しかし政府会計検査院(GAO)は、その研究の20%は実際には(ナノテクの環境及び健康影響に関する研究として定義された)EHS研究ではなく、環境浄化、水浄化、太陽発電のための技術開発のようなプロジェクトを含んでいると報告している。”多くの数値は分析目的ではなくて推進目的のためのものである”とメイナードは述べている。”それらは政府には都合が良いであろうが、EHS戦略的計画立案プロセスにとっては必ずしも役に立たない”。

 この法案はまた、ナノテクのEHS研究を監督するために、ホワイトハウス科学技術政策局(OSTP)内に高級レベルのポジションを置く。”そのポジションにつくのは機関からではなく外部からの人であり、その人は、各機関がEHS研究という全体のパイの割り当て分に向けて必要なことを実施することを確実にするための権限と責任を持つことになる”とデニソンはC&ENに述べた。

 このリーダーのポジションは重要であるとメイナードは付け加えた。”もし本当に進捗させようと思うなら、広い視野、見通し、そして同じ方向に皆を引っ張っていくために全ての機関を鼓舞する能力を持った人が必要である”。

 しかし、OSTP内の新たなポジションの影響が制限されることを心配する人たちもいる。”それは他のタイプの調整役のように見え、もしそれが特にEHSに特化しているのなら良いかもしれない。しかしその人は、予算を各機関に配分する権限や機関内のEHS研究のための資金レベルを設定する権限がないであろう”とライス大学にある国際ナノテクノロジー協議会(ICON)のクリステン・クリノウスキーは述べている。

 ICONは最近、ある国際的な研究者のコミュニティーにより特定された人の健康と環境に及ぼすナノマテリアルの影響を予測するための重要な研究の必要性をハイライトする報告書を発表した。”ICON報告書の中で特定されたことのあるものはこの法案には入っていない”とクリノウスキーは述べている。”例えば、その報告書は標準化と研究の調和化を強く強調しており、そのことは、”科学界はEHS研究の品質と比較可能性の改善のための標準化の重要性を認識しているので、非常に勇気付けられる”とクリノウスキーは述べている。

 この法案のもうひとつの魅力ある点は、独立した諮問委員会の創設を求めていることであるとデニソンは述べている。”それは実際には元々の法で要求されていたことである”と彼は 2003年ナノテク R&D 法に言及しつつ、C&ENに述べた。”ホワイトハウスは、監督及び助言機関とし大統領科学技術諮問協議会(PCAST)を指名した(訳注4)。それは関係において居心地が良すぎ、十分に独立性があるものではないことがわかった”と彼は付け加えた。H.R. 5940 は助言機能を政府から切り離し、真に独立した団体にそれを託す”。

 デニソンによれば、この助言の役割を PCAST に与えるのは問題であるが、それは PCAST は健康と環境に関することにほとんど専門性を持たないからである。この法案は、諮問委員会の下の小委員会には特にEHS問題に対する専門性を持つ人を選任することを求めるであろうと彼は特に言及した。

 ナノテク産業を代表するナノビジネス・アライアンスは、強くこの法案を支持するとこのアライアンスの政策法律顧問である K&L Gates の弁護士R. ポール・スティマーズは述べている。”アライアンスの立場からすると、EHSへの関心が高まることは実に重要なことである。我々は遺伝子組み換え食品がうまくいかなかったことを経験した。これらの問題に十分注意を払わなかったときに何が起きるかを我々は見てきた”と彼は強調する。

 産業側に魅力あるこの法案のひとつの側面は、基礎研究を研究室から市場に移すことを強調していることである。”ここ数年の投資に関して、我々は約100億ドル(約1兆円)をナノテク研究に費やした。現在はこの投資に対する見返りを得ることを確実にしなくてはならない時である。我々は我々の基礎研究の成果の全てが海外で商業化されるのを見たくない”とスティマーズは C&ENに述べた。

 この法案は現在、上院に提出され、、商務科学技術委員会が検討することになる。この法案に何が起きるか不確かであるが、ナノテク関連法案日手はその委員会内に支持者がいる。”確かに、上院議員ジョーン・ケリー(民主・マサチューセッツ州)は、もし我々がEHSに目を向けなければナノテクノロジーの便益を得られないので、我々はEHS面に対して適切に対応しなくてはならないと非常にはっきり言っている”とメイナードは言及した。。

 上院の結果がどうなるか分からないが、ナノテクのコミュニティーは早急に立法かされることを期待していると全米ナノテクノロジー調整局 (NNCO)のディレウターである E. クレイトン・ティーグは述べている。”丘の上の誰もが、上院を通過することを望んでいる”と彼は付け加えた。



訳注0:この記事に関連する情報 C&EN, December 11, 2008
NRC report blasts federal research strategy for addressing risks of nanomaterials

訳注1:NNI関連情報 訳注2:NNI Amendments Acts of 2008 関連情報
訳注3:NNI 21 世紀ナノテクノロジー研究開発法 関連情報 訳注4:PCAST関連情報


化学物質問題市民研究会
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