ZMWG 2010年11月30日
廃棄物からの水銀排出の管理のための
グット・プラクティス(ドラフト)へのコメント

情報源:Zero Mercury Working Group, 30 Novemver 2010
COMMENTS ON THE DRAFT GOOD PRACTICES FOR MANAGEMENT OF MERCURY RELEASES FROM WASTES
http://www.zeromercury.org/UNEP_developments/101130_ZMWG%20Comments%20on
%20Management%20of%20Hg%20Waste%20Releases.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
Translated by Takeshi Yasuma (Citizens Against Chemicals Pollution (CACP))
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2010年11月22日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/zmwg/zmwg_101130_comments_GP_wastes.html


はじめに

 ゼロマーキュリー・ワーキング・グループ(ZMWG)は、廃棄物からの水銀放出管理のためのグッド・プラクティス(ドラフト)を作成するにあたり、作成者の困難な作業と努力を認めたい。このドラフトは、様々な国々や地域から収集した水銀廃棄物管理の様々な側面に関する豊富で様々な情報を含んでいる。この理由だけでも、このドラフトは、水銀に関する国際条約の協議の中で、ある諸国に価値ある情報を提供するものであると言える。

 我々は日本におけるINC2のために含めるべき全てのコメントを収集するためには時間的制約があることを理解している。しかし、与えられた時間とレビューされるべき情報量は、ある時間と注意深い検討を必要とする。

 ZMWG はさらに、このドラフトはまだ作業中であると理解しており、このドラフト作業を継続していく中で詳細な点に貢献したいと考えている。

 ZMWG は、加盟国のためにこのドラフトの価値を高めることを支援し、INC2への準備を遅らせることがないようにするために、この文書の全体的な枠組みとドラフト中のある特定事項へのコメントを提出する。

一般的なコメント

I. グッド・プラクティス(優れた実施)とは何か?

 このドラフトのタイトルは、文書中に含まれる様々な管理の事例を記述する時に”グッド・プラクティス”という語句を使用している。”グッド・プラクティス”という語句の使用は、直ちに二つの重要な疑問を提起する。a) グッド・プラクティスとは何か?、そして b) グッド・プラクティスであると誰が決定するのか?

 このドラフトは、何が”グッド・プラクティス”を構成するのかを定義していないし、水銀廃棄物管理の中で、何が”グッド・プラクティス”を構成するのかを決定するための基準を与えていないし、これらの基準がどのようにしてこのドラフトに反映されるのか説明していない。

 バッド・プラクティスかグッド・プラクティスかを決定するのは誰かという疑問は、決定する実体や個人の資格にまで及ぶので、何が”グッド・プラクティス”かという問題を混乱させる。これはまた誰が又はどのような機関が”グッド・プラクティス”の決定をするのが適切かという重要な疑問を提起する。廃棄物パートナーシップは、政府間交渉委員会(INC)又はバーゼル条約加盟国の権限を奪う又はそれらの審議を受けずに決定するというようなことせずに、何が”グッド・プラクティス”かを決定することができるのか?

 このドラフトが、一群の水銀廃棄物の管理を”グッド・プラクティス”という用語を根拠にする時には、これは明らかに敏感できわどい問題である。

 我々は、情報を諸国に提供するということは貴重なことであるし、このドラフトがその試みに役立つと信じる。この問題を回避するために上記のことを強調し、このドラフトの”グッド・プラクティス(優れたれた実施)”という語句を変えて、廃棄物からの水銀放出の管理に関する”カレント・プラクティス(Current Practices(現状の実施))”と名前を変えることを提案する。

 ”カレント・プラクティス”という語句を使用することにより、このドラフトはそこに含まれる実施に価値をもたせることはせず、収集した現在広く行なわれている実施の記述を正確に提供することになる。これらが”グッド”なのか”バッド”なのかは議論せず、それは他のどこかでなされることが必要であると信じる。重要なことは、検討対象の文書がほとんどの国にとって容易にはアクセスできない情報を提供しているということである。

II. ドラフトとバーゼル技術指針/バーゼル条約との関係

 このドラフトとバーゼル技術指針/バーゼル条約(バーゼル TG)との関係は二つの部分で混乱がある。a) ”バーゼル TG のいくつかの部分を実施するために特定の水銀技術文書を開発すること[1]”とするこのドラフトの目的、及び b) ”バーゼル TG は原則を提供する一方でこの文書(ドラフト)は実際的な事例についての情報を提供するということ[2]”。

脚注
[1] Para. 5, page 1, Good Practices for Management of Mercury Releases from Waste (Draft).
[2] Id. at para. 6, page 1.

 バーゼルTG[1]のいくつかの部分を実施するために特定の水銀技術文書を作成するという目的についての問題は、権限及び手続きに関する問題である。第一に、廃棄物パートナーシップがバーゼル条約の外側で別個の技術指針を作成するということには矛盾が存在する可能性がある。

 バーゼル条約第10条の下では、加盟国は適切な技術指針及び/又は実施規範を開発するためにお互いに協力することが求められている。この義務は、これらの技術指針は加盟国会議(COP)の承認を通さなくてはならないので、これらの技術指針の開発がバーゼル条約の権限内で行なわれるということを前提にしている。

 そうでなければ、廃棄物パートナーシップがドラフトをバーゼル条約の権限と文脈の中で技術指針として構成して相乗効果を得ようとする努力と反するものである。

 第二に、技術指針を作成するに当り、バーゼル条約と矛盾しないと仮定すれば、そのドラフトが実施しようと試みていることは、バーゼル TG はまだバーゼル加盟国会議によって承認されていないのだから、バーゼル TG のドラフト版ということになる。

 バーゼル TG は原則だけを提供し、ドラフトは実際的な事例を提供するという説明は不正確である。

 決議II/13の元にバーゼル加盟国によって採択されている”バーゼル条約対象の廃棄物の環境的に適切な管理のための技術指針の作成に関するバーゼル条約ガイダンス文書(ガイダンス)”によれば、特定の廃棄物の流れの管理のための技術指針は、適切ならば下記のような要素を持たなくてはならない。

(a) 前文
(b) 廃棄物とその廃棄物を生成す産業を記述する全文る
(c) 環境的ハザードの記述
(d) 廃棄物回避のための機会の特定
(e) 回収のための機会特定
(f) 処理と処分の技術の記述
(g) 適切な廃棄物管理の経済的側面に関するコメント
(h) 適切な技術の実施と関連する安全面のための基準の記述
(l) 用語

 提案されている上記の内容は、単なる原則の領域を超えて広がっていることに留意すべきである。バーゼル条約の下の技術指針を生成し形作るために開発されるガイダンスは、バーゼル条約の下における義務を加盟国が実施するのを支援するために実際的で技術的な情報を加盟国に提供する文書を心に描いている。

 バーゼルTGが単に原則だけを提供すると記述することは不正確である。

 もし上記のようなことがあるなら、現状のドラフトは、バーゼルとの可能性ある矛盾と二つの文書間の混乱を回避するために、上記の問題を明確にすることが重要である。

 このジレンマの解決はこのドラフトの目的を単純にすることであり、それは、廃棄物管理における水銀放出を管理する分野における実際的で現状行なわれている実施を提供することである。

III. 範囲−ライフサイクル・アプローチ

 ドラフトの文脈の中でライフサイクル・アプローチとは何かという定義は非常に明確というわけではないので、もし廃棄物だけに焦点を当てるなら、バーゼルが定義している環境的に適切な管理("environmentally sound management")という用語を使用することを提案する。

 2ページ、パラ11でドラフトは、ライフサイクル・アプローチの定義の出典としてUNEP/SETAC 2009を引用していが、それは商品とサービスの持続可能性を分析し管理するための枠組みである。しかしそれに続く文章で、ドラフトは、(訳注:広義には)材料の購入、製造、製品の使用、そして廃棄物の収集、処理、処分をカバーすると述べているが、実際には廃棄物管理に焦点を合わせ、ライフサイクル・アプローチを狭い意味(訳注:狭義/発生源での廃棄物の分別、収集、処理)で見ているように見える。

 新しい定義を考え出したり、これらの用語の記述に取り組むということではなくて、もし”ライフサイクル・アプローチ”が廃棄物管理に狭義に適用するなら、廃棄物管理の文脈の中で、一般的に、そして法的に受け入れられている”環境的に適切な管理”又はESMという言葉を使用することが賢明であろう。

 バーゼル条約の第2条8項で、ESMを次のように定義している。
「有害廃棄物又は他の廃棄物の環境上適正な処理」とは、有害廃棄物又は他の廃棄物から生ずる悪影響から人の健康及び環境を保護するような方法でこれらの廃棄物が処理されることを確保するために実行可能なあらゆる措置(訳注:taking all practicable steps)をとることをいう。

 ESM の定義は、”実行可能なあらゆる措置(taking all practicable steps)”という要求の範囲に入るので、狭義のライフサイクル・アプローチがカバーする購入や製造の分野を含んで様々な選択肢をカバーする。
 結論として、類似の領域をカバーするために新たな用語を使用するのではなくて、このドラフトでは法的に受け入れられている用語である環境的に適切な管理又はESMが使用されるべきであると我々は提案する。

IV. 範囲−製品及びその他の関連パートナーシップによってなされた作業と重複しないようにすること

 我々は、このドラフトは ESM の下に想像できる全ての領域をカバーしようとしていると理解する。これに関しては、我々はこのドラフトは、他のパートナーシップによってすでに実施された仕事を複製(replicate)しないこと、及び、どのような情報も他のパートナーシップの仕事の結果と矛盾せずにこのドラフトの中で記述されること−を確実にしていただきたい。

 例えば、保管パートナーシップでは、商品としての水銀は廃棄物としてみなされることなく長期保管の対象になるという認識が高まっており、このドラフトの中で保管の問題に関する議論が反映される必要がある。

 このドラフトが、すでに実施された作業を繰り返さないこと、及び、他のパートナーシップで行なわれていることと矛盾がないことを確実にすることによって、利用者に対するこのドラフトの価値は高められるであろう。

V. ドラフト中の全ての事例のためのテンプレートの一貫性

 このドラフト中で目立つことのひとつは、事例を議論する時にあるテンプレートを使用しているということである。そのテンプレートは一般情報というカラムから始まり、対象地域/製品等が続いている。このテンプレートは、対象する利用者がすぐに照準を合わせることができるよう、取り扱いやすいサイズのデータとフォーマットとなっている。

 しかし、テンプレートの実際の価値は、このドラフトで示される全ての事例について一貫性を持たせることであり、特に”このシステムを実施する時に直面する主要な課題と、それらの課題を克服するための方法”に関する項目を追加する必要がある。

 一貫性を持たせるために有用であろう他の興味ある問題は、”実施のコスト又はプロジェクトのコスト及び資金調達又は解決のための方法”である。

 我々は、これらは全ての事例に一貫して適用又は示されていないことに気がついている。実際的な実施レベルにおいて、これらは利用者が最初に見るであろう事項である。これらの事項がこのドラフト中の全ての事例で記述され回答されれれば、対象とする利用者への価値を高めることは間違いない。  また、ある項目に単に”NOT APPLICABL”と示すのでは役に立たない。利用者はなぜそれが適用可能ではないのかを知りたがるので、利用者に対する短い説明が有用であろう。

VI. 管理選択肢の適用/除外

 現状の実施リストを準備するときの主要な課題のひとつは、ある時点で実施又は管理の選択肢は除外されるであろうということである。従って、ドラフトは、どれが実施を記述され、どれが記述されないのかを決定するときに、ドラフトが採用するプロセスを対象利用者に説明することが重要である。

 なぜある実施が含まれないのかについての説明に加えてドラフトは、実施又は方法論がある他者に都合よいように見えることがないよう、データや事例を示す時にはできる限り客観的であることが重要である。

 言及されていないが非常に重要な実施のひとつは水銀廃棄物を焼却しないこと(nonincineration of mercury wastes)であり、これがどのように行なわれているのかということである。フィリピンは、フィリピン法8749又は大気浄化法(1998年)と呼ばれる法律を制定したが、これは廃棄物の焼却又は野焼きを禁止するものである。実施レベルでは、これは具体的な廃棄物管理の選択肢であり、水銀廃棄物のひとつの ESM 選択肢として焼却をしない方法を考えているかもしれない対象利用者には価値がある。この実施はドラフトに含まれる必要がある。

 現状の実施の中で見落としている他のものには、欧州連合(EU)の特定有害物質の使用制限指令(訳注:RoHS)、及び廃電気・電子製品 に関する指令(訳注:WEEE)がある。水銀の廃止及び EPR (訳注:拡大製造者責任)に関する議論にこれらを含めることは有用であろう。

以上



化学物質問題市民研究会
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