IPEN プレスリリース 2017年12月6日
水銀汚染は全ての人々への脅威:新たな調査が、
水銀に関する水俣条約第1回締約国会議(COP1)への代表者らは
危険な汚染レベルであり、
特に小島嶼開発途上国からの代表者が
最も高いレベルであることを明らかにする


情報源:IPEN Press Rlease, December 6 2017
Mercury Pollution, A Threat to All:
New Study Reveals Dangerous Mercury Levels
Among Delegates at Minamata Mercury Convention COP1
with Highest Levels from Small Island Developing States
http://ipen.org/sites/default/files/documents/
FINAL%20COP1%20Mercury%20Report%20Release.pdf


訳:安間 武(化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2017年12月10日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/IPEN/IPEN_Press_171206_
New_Study_Reveals_Dangerous_Levels_of_Mercury_Among_Delegates.html


報告書全文:http://ipen.org/documents/mercury-cop1-delegates
Press Conference at UNEA3, Nairobi, Kenya, 12/06, 11am, Press Conference Room: http://ipen.org/news/press-release-mercury-cop1-delegates

【ナイロビ・ケニア】神経毒性金属水銀は全ての人々に健康の脅威を及ぼすという証拠は、第1回水銀条約締約国会議(COP1)への代表者らの体内汚染を分析する調査により、本日明確になった。その調査は、COP1 に参加した世界の政策策定−決定者の半分以上から健康警戒閾値以上の水銀レベルを検出した。研究者らは、水銀のリスクに関して教育を受けている世界の政策策定−決定者でさえ、水銀汚染から保護されていないと結論付けた。

 世界的な公衆健康と環境のネットワークである IPEN と生物多様性研究所 BRI は、2017年9月24日から29日までジュネーブで開催された第1回水銀に関する水俣条約締約国会議(COP1)に参加した代表者ら(女性104人、男性76人)から採取した毛髪サンプル中の水銀レベルを分析した。調査結果は全ての参加者から水銀を検出し、調査参加者の半数以上が、それ以上のレベルでは脳損傷、IQ 低下、腎臓及び心血管系の損傷が起こるかもしれないとする米国環境保護庁(EPA)の健康助言レベルである 1ppm を超えるレベルであったことを明らかにした。多くの地域からの代表者の水銀レベルは、数倍高いことが判明したが、成人に有害な水銀は胎児の神経系統の発達に最大のダメージを及ぼす。

 国連の地域グループごとの評価では、アフリカ、アジア太平洋、GRULAC(ラテンアメリカ・カリブ海)、JUSCANZ(日本、米国、アイスランド、イスラエル、リヒテンシュタイン、スイス、カナダ、オーストラリア、及びニュージランド)、小島嶼開発途上国(SIDS)、及び西ヨーロッパの諸国からの代表者の平均水銀濃度レベルは米国環境保護庁(EPA)の健康助言レベルである 1ppm を超えていた。アジア太平洋地域からの代表者の毛髪中の水銀平均レベルは、全体として 2ppm を超えていた。小島嶼開発途上国(SIDS)だけに限れば平均水銀は 3ppm を超えていた。

 サンプルの中で最も高い水銀レベルを持った人々は、世界中の様々な地域出身者に見られたと、IPEN の水銀政策顧問である著者のリー・ベルは述べた。”アジア太平洋地域からの代表者らは高いレベルであったが、JUSCANZ や西ヨーロッパからの代表者のレベルも同様に高かった”。代表者らは、水銀の毒性及び暴露についてよく知っていたが、その知識が彼ら自身を水銀汚染から守るということにはならなかった。これらの結果は、世界中の政策決定者に水銀汚染は全ての人々に対して差し迫った脅威であるという明確な注意を喚起している。我々は、水銀汚染を代表者や大臣の個人的問題として取り上げることにより、最終的には水銀汚染を引き起こす源に目を向けるであろう効果的な世界行動を彼らが推進することを希望する。石炭火力発電所の段階的廃止、小規模金採鉱に供給される水銀の取引禁止、及び汚染サイトの浄化は直ちに行動が求められる。

 サンプリングは匿名で行われたが、多くの代表者らは、自身の水銀レベルが健康助言レベルである 1ppm を超えており、神経系の健康問題を引き起こし、妊娠に影響を及ぼすということを知って驚いたと報告してきた。

 サンプルを提供した一人であるスウェーデン環境大臣カロリーナ・スコーグは次の様に述べた。”水銀検査のために毛髪サンプルを採取した代表者は、私たちにとって世界的な問題を個人的な問題としてとらえました。女性にとって、水銀は我々自身の健康だけでなく、もし妊娠することになったら、水銀はまだ生まれていない子どもに引き渡され、恐ろしい影響を及ぼすのです”。水俣条約は私たちにツールを与えるものです。今こそ、その実施のために一緒に働きましょう”。

 ペルーの環境副大臣マルコス・アレグレ・チャンは次の様にコメントした。”私の結果は、私の地域の平均値より低かったので良かったと思いました。しかし、私は、私の髪の毛の中にそのようなレベルの水銀を持っていることに驚きました。これは、水銀汚染のない地球の推進を私に動機づけました。水俣条約は、水銀と水銀化合物の人為的な放出と排出から人の健康と環境を守ることを目指す多国間協定なので重要です。世界的及び国家の調整のとれた取組だけが複雑な水銀関連の問題に対処することができます。ペルーには、水銀を使用する原始的小規模金採鉱があります。水俣条約は、国家レベルで水銀の使用を最小にし、水銀の使用を廃絶する素晴らしい傘を私たちに提供してくれます”。

 平均水銀濃度レベルは、小島嶼開発途上国(SIDS)のメンバーのための健康助言レベルより3倍以上高い。この発見は、25か国からの妊娠可能年齢の女性の水銀汚染の世界調査から得られた以前の発見を反映していたが、そこでは太平洋諸島で試料採取された女性の85.7%が 1ppm 閾値を超えるレベルであり、ほとんどの女性が EPA 標準を3倍超える測定値であった。これらの高い濃度を反映している小島嶼開発途上国(SIDS)の代表者らからのサンプリングは、様々な汚染源、特に石炭火力発電所から海洋に堆積された水銀が彼らの主要たんぱく源である魚類をが汚染している太平洋地域の人々の脆弱性を反映している。

 キリバスの環境国土農業開発省の環境大臣アレクサンダー・ティーボは、キリバスでは多くの場所で市販の食料が入手できないので、水銀は食料安全問題と共にキリバスの人々の健康にとって深刻な懸念である。水銀はまた、魚の繁殖能力に影響を与えるので、漁獲高が減少し、魚の輸出による歳入に影響を及ぼすであろうと述べた。

 ”政策を策定している人々でさえ、水銀で汚染されるようになってきたので、教育だけでは十分ではないことは明らかです。私たちは水銀の汚染源に目を向けなくてはなりません。太平洋の小島嶼開発途上国(SIDS)は世界の水銀汚染に寄与しているわけではないのに、私たちは石炭火力発電所からの水銀蒸気による世界の海洋の水銀堆積による影響を受けています。私たちが日々のたんぱく源及び輸出収益として依存している魚のこの汚染を終わらせるために、私たちは、海洋汚染を低減するための世界的な協力の一環として、他国に対し石炭火力発電所を段階的に廃止してもらう必要があります”と、そのメチル水銀レベルが米国EPAの健康助言閾値の2.5倍であったクック島の住民で島持続可能連合のイモゲン・イングラムはコメントした ”。

 ”水銀はいったん環境中に放出されてしまうと、それを回収する簡単な方法はありません。水銀は、私たちの大気、水、そして土壌を汚染し、私たちの食物連鎖中に留まることができます。水銀貿易と小規模金採鉱(ASGM)分野における水銀使用を直ちに止めることが社会と環境の被害を守ることになり、小規模金採鉱(ASGM)に替わる生計手段が、持続可能な開発目標を達成するための貧困削減プログラムとして導入されなくてはなりません”と、ゴールドマン環境賞の受賞者であり、IPEN の 水銀・鉛の主担当であり、インドネシアを拠点とする NGO バリフォクス(BaliFokus)の創設者であるユーユン・イスマワティはコメントした。

以前の研究:妊娠可能年齢の女性に関する世界調査

 IPEN は UNEP 及び BRI とともに、 2015-2016 年にアジア太平洋地域の 6か国、236人が参加したパイロット調査『MERCURY MONITORING IN WOMEN OF CHILD-BEARING AGE IN THE ASIA & THE PACIFIC REGION (アジア太平洋地域における妊娠可能年齢の女性の水銀監視)』を実施した。同調査の対象となった女性のうち 69.2 %は 1 ppm を超える水銀レベルであったが、地域ごとに分けてみると、サンプル採取した小島嶼開発途上国(SIDS)地域の女性の96%が 1 ppm を超える水銀レベルであり、小島嶼開発途上国(SIDS)地域以外の女性でこのレベルを超えるのは 21.4%だけであった。この調査は、後のもっと大規模な調査である『MERCURY IN WOMEN OF CHILD-BEARING AGE IN 25 COUNTRIES(25か国の妊娠可能年齢の女性の水銀)』を実施する動機となった。

 この種のものとしては最大規模の調査であった『MERCURY IN WOMEN OF CHILD-BEARING AGE IN 25 COUNTRIES(25か国の妊娠可能年齢の女性の水銀)』の中で、IPEN の研究者らは、6大陸、25か国、37か所の妊娠可能年齢の女性 1,044 人の毛髪サンプル収集をコーディネートした。BRI により実施された分析は、サンプルを採取した女性の42%は、それ以上のレベルでは脳障害、知能指数低下、および腎臓と心血管系障害を引き起こすかもしれない米国環境保護庁(EPA)の健康助言レベル1ppm を超えていることを発見した。その調査はさらに、女性の全体サンプルの55%は0.58 ppm 以上であることを発見したが、このレベルは胎児の神経系障害の発症に関連する。



化学物質問題市民研究会
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