IPEN 2023年10月
IPEN クイックビュー:水銀条約 COP-5
情報源:IPEN, October 2023
IPEN Quick Views: Mercury Treaty COP-5
https://ipen.org/sites/default/files/documents/mercurycop5_qvs_10_2023_final.pdf

訳:安間 武 化学物質問題市民研究)
https://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2023年10月26日
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https://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/IPEN/IPEN_
2023_October_IPEN_Quick_Views_Mercury_Treaty_COP-5.html

 水銀に関する水俣条約(水銀条約)の第5回締約国会議(COP-5)が2023年10月30日から11月3日までジュネーブで開催され、いくつかの重要な決議が議論される予定だ。 これらの決決議には次のものが含まれるかもしれない。
  • 実効性評価指標
  • 付属書 A (製品) 及び付属書 B (製造プロセス) の修正
  • 第 11条の下に水銀廃棄物の閾値濃度(カテゴリー C)の確立
 さらに、IPENは、COP-5では議題にはなっていないが、地球規模の水銀汚染を削減し、人間の健康を保護するという条約の目的にとって極めて重要であるため、COP-6では議題となるべき 3つの重要な問題についての意識を高める予定である。これらの目的は下記によって最もよく達成できるかもしれない。
  1. 世界的な水銀取引を終らせること
  2. 水銀の許容される使用として、人力小規模金採掘 (ASGM) を禁止すること
  3. 特に ASGM 地域において、暴露した人々に対する適切な医療サービスを促進すること
 詳細については、この文書の第二部の”COP-6 の議題の設定”を参照ください。

COP-5の主要な課題と決定事項

廃棄物閾値 (カテゴリー C - 水銀または水銀化合物で汚染された廃棄物)

 廃棄物閾値に関する専門家グループは、COP が第 11条第 2項に基づいて水銀廃棄物を定義するための閾値を設定するという要件について議論するために数年間会合を行ってきた。専門家グループは以前、カテゴリー A の廃棄物 (水銀からなる) とカテゴリー B 廃棄物 (水銀を含む、本質的に水銀添加製品) には閾値が適用されず、単に水銀廃棄物とみなされるべきと勧告した。 締約国会議(COP) は同意したが、カテゴリー C 廃棄物は多くの議論の対象となっており、1 mg/kg (1 ppm) から 25 mg/kg (25 ppm) までの閾値が提案された。

 2023年2月に開催された最新の会合では、専門家グループは閾値レベルに関して合意に達することができなかったが、総濃度アプローチ(すなわち、浸出値ではなくmg/kg)を採用すべきであることに同意した。 専門家グループは、3 つの濃度値を考慮すべきであることを COP に勧告することを決議した。 括弧内の値は、[10 mg/kg]、[15 mg/kg]、及び [25 mg/kg] である。

 括弧内のレベルのみを議論する場合、IPEN は 10 mg/kg のレベルを採用し、それ以上高い値は推奨しなない。このレベルは水銀検査機器によって自信を持って評価できるからであり、これは分析能力が十分ではない発展途上国及び移行途上国にとって重要な問題である。

付属書 A (水銀添加化粧品) の最初の修正案

 アフリカ地域は、水銀添加化粧品、特に水銀及び水銀化合物を含む美白クリーム、石鹸、その他の化粧品の継続的な生産、使用、貿易に対処するため、2部構成の修正案を提案した。 フィリピンに本拠を置く IPEN メンバーである EcoWaste Coalition は、美白製品の多量の国際取引、特に税関規制を逃れることができるオンライン販売を通じた国際取引の調査、分析、暴露の最前線に立ってきた。 IPEN は、以下に概説するように、提案の両方の要素を支持する。

この提案の最初の要素は、附属書 A パート I を修正することである

現在、条約第 4 条の附属書 A パート I では、1 ppm 以上の水銀を含む水銀添加化粧品の段階的廃止が義務付けられている。 これにより、水銀含有量が 1 ppm 未満の化粧品の取引が可能になる。 アフリカ地域の提案は、2025 年までに 1 ppm の制限を撤廃し、すべての水銀添加化粧品を禁止することである。これには、いかなる量の水銀を含む化粧品の製造、輸入、輸出も含まれる。 このアプローチにより、レベルを正確に定量化できない場合でも、XRF、Lumex、または Jerome 分析装置などのすぐに入手できる水銀スクリーニング装置を使用して、水銀を含む化粧品の検出が簡素化されるはずである。 IPEN はこの修正案を支持している。

この提案の 2 番目の要素は、附属書 A パート II を修正することである

 水銀添加化粧品の販売とマーケティングを最小限に抑えるという国家目標

 提案のこの要素は、パート II に新しいセクションを追加し、部分的または全体的に講じられた場合、水銀添加製品の段階的廃止を加速し、一般の需要と販売及びマーケティングを削減する可能性があるオプションの措置のスケジュールを提供する。 これらの措置は、提案の最初の要素と連動して機能することを目的としている。 これらの対策には次のものが含まれる。
  • 水銀添加化粧品の危険性について、一般の人々、医師、美容師、市民社会組織(CSOs)、及びこれらの製品の消費者に影響を与える可能性のあるその他の関連団体のて意識を高める。
  • 水銀添加化粧品の広告(オンライン広告を含む)、表示、販売を制限する規制を導入する。
  • 水銀添加化粧品によってもたらされる危険性に対する消費者の認識を高めるために、禁止されている化粧品のリストを公表する。
  • オンラインマーケティングプラットフォーム協会と協力して、水銀添加化粧品の広告や販売を防止するための製品安全誓約などの戦略を策定する。
  • 安全基準を満たすための化粧品メーカーの認可と規制、及び消費者が水銀を含まない製品を選択できるように成分リストを化粧品に表示する。
  • 製品の内容について透明性を持った知識と情報を提供する。
 修正案のその他の側面には、水銀添加化粧品の国境を越えた移動に向けた省庁間レベル(健康」、医薬品管理、貿易、税関などを担当する大臣を含む)での水銀添加化粧品の段階的廃止に関する地域的および世界的な調整と協力が含まれる。 IPEN は修正案を支持する。

附属書 Aに対する 2 番目の修正案 (歯科用アマルガム)

 アフリカ地域による提案は、歯科用アマルガムに関する第 4条附属書 A のパート I 及び II を修正するものである。

 この修正案の最初の要素は、附属書 A パート I の表に歯科用アマルガムを水銀添加製品という見出しの列に 1 行追加し、その隣の列の見出しに2030 年それ以降は歯科用アマルガムの製造、輸入または輸出が許可されなくなる日(段階的廃止日)を追加する。 この改正案が成功すれば、2030年までに歯科用アマルガムの製造と取引が禁止されることになる。BR>
 提案されている修正案の 2 番目の要素は、歯科用アマルガムをリストする表にさらに 2 つの必須規定を追加することである。 締約国が次のことを行う条項を追加することが提案されている。
(i) 歯科用アマルガム使用の段階的廃止を実施するための国家計画を事務局に提出する。
(ii) 政府の保険政策及びプログラムにおける歯科用アマルガムの使用を除外するか、許可しない。

 これは、締約国が講じる措置を書面で約束する効果があり、保険適用を除外することで、歯科医師、特に女性、妊婦、子どもにとって歯科用アマルガムの使用の魅力が大幅に薄れることになる。 IPEN はこの修正提案を支持する。

残りの蛍光灯を段階的に廃止するための提案 (附属書 A パート I)

 アフリカ地域はまた、以下の修正案を提案している。
  • 2026 年までに一般照明目的の直管蛍光ランプ (LFL) を段階的に廃止する。
  • 2026 年まで一般照明用の非直管蛍光ランプ (NFL) (U ベンドや円形など) を段階的に廃止する。
  • 2025 年までに 30 ワットを超える一般照明用途のコンパクト蛍光ランプ (CFL) を段階的に廃止する。[脚注1
  • 2025 年までに一般照明用の非一体型安定器 (CFL.ni) を備えたランプ バーナーあたり 5 mg を超えない水銀含有量で 30 ワット以下ののコンパクト形蛍光ランプを段階的に廃止する[脚注2]。 IPEN は提案のこれらすべての要素をサポートする。
脚注1 : Africa Region proposal carried forward from COP-4.
脚注2 : 同上

その他の付録 A の考慮事項

電池

 COP-4 は、水銀を含む残りの電池タイプ (空気亜鉛及び酸化銀) を段階的に廃止すべきであると決定し、廃止日の決定は COP-5 で決定されるべきであると決定した。 これらの電池の代替品が現在世界中で入手可能であることは明らかであり、IPEN は 2025 年の段階的廃止を支持している。

スイッチとリレー

 COP-4は、水銀を含有するタイプの残りのスイッチ及びリレーを段階的に廃止されるべきであり COP-5で決定されることになる廃止日に関する議論を行なって決定されるべきである。 これらのスイッチやリレーに対する水銀を使用しない代替品は現在世界中で入手可能であり、IPEN は 2025 年の段階的廃止を支持している。

付録 B の考慮事項

 水銀含有触媒を使用したポリウレタンの製造は現在、附属書 B パート II の対象となっており、その措置には条約発効後 10 年以内に使用を段階的に廃止することを目指すことが含まれている (ただし、段階的廃止日は義務付けられていない)。

 現在、ポリウレタン製造の代替法は世界中で利用可能なので、ほとんどのメーカーはポリウレタン製造における水銀ベースの触媒を廃止している。 COP-4 は、水銀含有触媒を使用したポリウレタンの製造を附属書 Bパート I に追加し、段階的廃止日を決定することをさらに検討することを決定した。 IPEN は、附属書 B パート I へのこの追加を支持し、2025 年の段階的廃止日を支持する。

有効性評価

 COP-4以来実施されている会期間プロセスでは、条約の有効性評価プロセスで使用できる潜在的な指標が評価されている。 事務局は、条約の条項や生物モニタリングや環境モニタリングなどのその他の基準に基づいて、2023年1月31日までにコメントを提出するための指標リストの草案を作成した。 指標リスト草案は、受け取ったコメントに基づいてさらに開発された。 このリストは COP-5で採択される可能性がある。 IPEN は指標リストの草案の作成をサポートしており、結果を改善できる可能性のある特定の指標について次のようなコメントをしている。

指標 2 ”一次水銀鉱山から採掘された水銀の総量”

 第 3 条に基づくこの品目に関する国の報告は一貫性がなく、一部の国では採掘された辰砂(訳注:しんしゃ:硫化水銀(II)(HgS)からなる鉱物/ウィキペディア)の量を報告し、他の国では辰砂に由来する金属水銀の量 (これらは同等ではない) を報告しており、ある場合は違法な一次水銀採掘が行われているにもかかわらす一次水銀採掘を報告していないので、この指標はより具体的である必要がある。これらの問題は、指標の最終テキストで解決される必要がある。 締約国が辰砂の量のみを報告している場合には、元素水銀換算が利用可能とすべきである。 ただし、辰砂中の水銀の割合に関する追加情報は、より良い情報を提供するのに役立つ。

 また、指標が辰砂の合法的及び違法な一次採掘の推定値をカバーしていることを確認する必要がある。 この指標のより正確な表現は、”一次水銀 (辰砂) 採掘から抽出された総水銀”または同様の表現になる。

指標 3 ”水銀在庫を特定するために『努力』した締約国の数…」

 この指標には、水銀在庫を特定しようとした締約国だけでなく、水銀在庫を効果的に特定した締約国の数と特定した総量も含めるべきである。 この指標は、これらの在庫の供給元である、または在庫が使用される予定の業種もカバーする必要がある。

指標 6 ”条約に従って取引される年間の水銀推定世界量(トン単位)”

 この指標は、水銀供給、水銀添加製品、及び水銀使用プロセスの合法的貿易を対象としているが、HS コード別の製品タイプと数量(低及び中所得国の具体的な金額を記載)もリストする必要がある。また、法的に ASGM の使用を目的として取引される水銀を具体的に指定し、ASGM のための違法な水銀取引に関与する量の推定値を含めるべきである。 現在、世界的に取引されている水銀の量と、ASGM による国家行動計画の水銀使用量の推定値との間には大きな差があり、推定値ははるかに低い。 一部の量は、他の許可された用途からの転用、及び水銀の違法取引や密輸によって説明される可能性がある。

 指標の問題とは別に、有効性評価のための科学グループ (OESG) は、モニタリング・ガイダンスと一致するデータ分析の計画草案を作成した。 この文書が表 1 のポイント 5”暴露と悪影響の推定”の下で議論される場合、IPEN は不作為のコストの評価を含めることを支持する。 同様に、表 3. 分析テーマに関連したデータ分析から得られる暫定情報、セクション E. 健康と環境への影響について、IPEN は不作為のコストの評価を含めることを支持する。

COP-6の議題設定

IPENは、COP-6で条約本文の修正案を作成することを目的として、以下の3つの問題に関する議論に代表者らを招待する。

1. 世界的な水銀取引を終わらせる時が来た

 水銀に依存したほとんどの製品と合法的な製造プロセスが段階的に廃止された現在、世界的な水銀取引を継続する正当な理由はほとんどない。取引されている水銀のほとんどは、世界的な水銀排出源である ASGM に流入している。 これらの排出は食物連鎖の汚染をもたらし、先住民族や小島嶼開発途上国の住民など魚に依存している人々の人権を損なうものである。50 か国以上が ASGM 分野での水銀使用を廃絶するための国家行動計画を策定し、水銀にかわる代替方法を導入している。 他の多国間環境協定との相乗効果の観点から、この提案は、”安全で健康的で持続可能な未来のために、化学物質や廃棄物による害のない地球を実現する”という新しい SAICM の目標(objective )とその目標 A5(Target A)”各国政府は、 国際義務に従って、国内で禁止されている化学物質の輸出を禁止する”とも協調する。

 水銀の取引総額は世界のほとんどの商品と比べて低く、条約第3条の修正による水銀取引の禁止は、条約の締約国または非締約国の経済に重大な影響を与える可能性は低い。 米国と EU はすでに水銀の輸出を禁止している。 安定化および長期保管/廃棄の対象となる水銀輸出については、免除が検討される可能性がある。 詳細については交渉可能であるが、原則として水銀取引はきっぱりと終わらせるべきである。

2. ASGM を水銀の許容使用として禁止する時が来た

 この条約は、水銀を使用するほとんどの製品と製造プロセスを段階的に廃止するのに効果的であるように見えるが、ASGM における水銀使用の削減に関しては同レベルの効果はない。ラテンアメリカ、アフリカの一部、東南アジアの ASGM 地域では依然として水銀が大量に使用されており、過去 5 年間で使用量が減少したという検証可能な兆候はない。

 ASGM の水銀供給源は、合法的に取引された水銀、密輸水銀、および一次採掘 (特にインドネシアとメキシコ) からの辰砂製錬の組み合わせである。 ASGM 部門における水銀の長期使用は、合法または違法の金採掘行為から利益を得られない先住民、地域社会、その他の弱い立場にある人々の人権を損なっている。 ASGM の活動は食物連鎖を汚染し、先住民族と地域社会が生存と生計の基盤としている保護された環境を破壊している。

 条約が ASGM を水銀の”使用が許可された”部門として認めている限り、この条約は金の採掘が人権よりも重要であるというシグナルを送ることになり、この慣行は多くの国で国家レベルで容認され続けるであろう。 さらに、多くの国では、ASGM 現場から取引される水銀と金の違法ビジネスが、犯罪やその他の種類の違法ビジネスの集中につながっている。 この条約は、ASGM 分野での水銀使用が国際社会によってもはや容認されないという明確なメッセージを送る必要がある。 これは、特に第 7 条および附属書 C の修正を通じて達成されるかもしれない。

3. 特に ASGM 現場において、水銀暴露の影響を受ける人々の予防、治療、介護のための適切な医療サービスを推進する時期が来た

 水俣条約が発効してから 10 年が経過し、ASGM が行われている加盟国の多くは水銀を他の方法で代替するための情報と技術支援を受けてきた。 しかし、多くの場所で、水銀中毒は10年よりもずっと長く続き、下流地域に広がり、より広い人口と広大な地域に影響を及ぼしている。 健康面に関する第 16 条は、締約国が、危険にさらされている人々、特に脆弱な人々を特定し保護するための戦略とプログラムの開発と実施を促進するよう奨励されると規定している。 さらに締約国は、水銀暴露の影響を受ける人々の予防、治療、介護のための適切な医療サービスを促進することも奨励される。

 多くの国はすでに水銀を含む医療機器を段階的に廃止しており、ASGM が行なわれている発展途上国の多くの採掘労働者らは金を抽出するために水銀を使用しない方法に移行している。 ただし、締約国は健康リスク評価を実施し、水銀中毒を特定し、影響を受けた地域社会を治療し介護するためのプログラムを開発するために医療従事者を訓練するためのプログラムを設計する必要がある。 さらに、第 17 条は、水銀暴露に伴う健康への影響に関する情報交換を促進することを締約国に奨励している。 水銀中毒の治療に関する進歩は共有/交換される必要があるが、これは現在まで目立った形で行われていない。



化学物質問題市民研究会
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