2012年11月
INC5 議長の条約テキスト案への
ZMWGの予備的見解


情報源:ZERO MERCURY WORKING GROUP PRELIMINARY VIEWS
ON INC 5 CHAIR'S DRAFT TREATY TEXT
NOVEMBER 2012
http://www.zeromercury.org/phocadownload/Developments_at_UNEP_level/INC5/
zmwg%20preliminary%20views%20on%20inc%205%20draft%20chairs%20treaty%20text-%20november%202012.pdf


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
Translated by Takeshi Yasuma
Citizens Against Chemicals Pollution (CACP)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2012年12月12日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/mercury/INC5/ZMWG/
ZMWG_pre-views_INC5_Chair's_draft_text.html

はじめに

 この文書は、INC5での交渉のベースとなるべきオプション及び代替に対するゼロ・マーキュリー・ワーキング・グループ(ZMWG)の勧告をまとめ、INC5での支持、修正、追加、又は削除の論拠となる重要な規定案を示するものである。
 ZMWGは、下記を検討するよう勧告する。

序文
追加 汚染者負担原則を再確認する序文文言を追加。
第1条 bis. 他の国際協定との関係
削除 第1項は、水銀条約は、他の条約に由来する権利と義務に影響を与えないと述べている。この文言を採用すると不必要にWTOの挑戦を助長するかもしれないので、ストックホルム条約では同様な文言が退けられた。
第2項は、貿易と環境条約は”相互に支えあう”というストックホルム条約の文言を反映しており、保持できる。
第2条 定義
追加 ASGMでの水銀使用は、第9条で規定される場合にのみ許容されるとする”許容される用途(uses allowed)に対する説明”の追加。(第31項の議長の注釈と一貫性がある)。
第9条5項に対する変更提案も参照のこと。
削除 K (alt) は、第8条の下に締約国に対し現在利用可能なプロセスに不必要に免除を与えることになるので削除。 訳注:[(k) alt この条約の下に締約国に許容される用途”とは、一般的に許容され、締約国の特定の必要性と代替の製品及びプロセスの利用可能性を考慮するであろう水銀又は水銀化合物の用途]
第3条 供給
保持 第6項及び第7項の下に水銀貿易のための情報に基く同意(informed consent)を保持。
情報に基く同意は、水銀が自国に入るのは自国の国内法の下に許される目的のためにだけ、及びこれらの目的に必要な量だけ、使用されることを確実にするために、締約国にとって非常に重要なメカニズムである。このメカニズムは、付属書E 第1項(f)で求められるように、ASGMへの望まれない水銀の転用を管理する又は防止するために特に重要である。
保持 塩素アルカリプラントの水銀電極の廃棄に伴う水銀が市場に入り込むのを防ぐ第5項(b)を保持。
既に1か所に集められている大量の水銀を隔離することにより、世界の水銀供給を削減するための重要な機会をもたらすからである。汚染者負担原則の下に、産業側はこの水銀の環境的に適切な保管と処分のための責任を負うであろう。
保持 第1項(b)を保持し、貿易条項内の特定の水銀化合物を含めること。
これらの化合物は容易に、また利益をもたらしつつ、元素水銀に転換できるため。訳注:第1項(b) ”水銀化合物”とは、塩化水銀(I) 別名カロメル、酸化水銀(II)、硫酸水銀(II)、硝酸水銀(II)、 辰砂鉱石及び硫化水銀を意味する。
削除 第4項(a)の一次水銀採鉱からの水銀の販売と流通の禁止の例外を削除。
一次水銀採鉱は水銀で最も望ましくない水銀供給源である。締約国は新たな水銀を世界の汚染問題に追加するのではなく、既存の水銀供給源を利用するよう求められるべきである。
第6条 製品
追加 第3条8項の要求と同様に、この条項の要求が満たされていること示す報告要求の追加。
締約国会議は、この条約の有効性を調べるために製品の製造と貿易に関する定期的な報告を必要とするであろう。
追加 締約国が国内法で禁止されている水銀添加製品の輸入を防止することができるようにするために、水銀製品貿易に関連する情報に基く同意を追加。
このメカニズムは、開発途上世界への望まない製品の投棄を防止するために特に重要である。
追加 第3項に締約国は、この項の下に確立される情報の登録を容易にするために、付属書Cにリストされていない水銀添加製品の製造に関して報告する義務を追加。
報告要求の負荷を最小にするために、この要求は製造が実施されている場所の締約国に限定するよう我々は提案する。
追加 新たな水銀添加製品の製造を思いととまらせる、締約国会議(COP)のレビューと承認のような文言を第5項に追加。
追加 付属書C、パートTにボタン型電池、非医療用測定機器、及び局所的消毒薬を追加。
これらの製品の水銀を使用しない代替品が既に広く入手可能であり、この付属書と第8条で考慮する時間枠内で世界的に入手可能となるであろう。
追加及び
保持
付属書C、パートTに歯科アマルガムを追加するとともに、廃止期日に先立つ進捗の継続を可能とするために付属書CのパートUの段階的廃止措置を保持。
削除 付属書Cの文化的及び伝統的用途の一般的免除を削除、及びその代わりに、それが適用する特定の製品カテゴリーの文言を修正すること。(すなわち、伝統的塗料中の辰砂(cinnabar)の使用に目を向けるために、農薬及び殺生物剤)
第7条 プロセス
保持 第4項(c)で規定されるように、付属書Dによりカバーされるどのような施設をも特定する要求を保持。
保持 付属書Dにリストされているプロセスを使用する新たな施設に禁止を課し、どのような新規プロセスをも許す前に実証を求める第5項 altを保持。
保持 付属書Dにおける塩素アルカリ、ナトリウムメチラート、及び触媒として又は電極に水銀を使用するその他のプロセス(すなわちポリウレタン製造)での水銀使用の短期間での廃止。
削除 付属書D、パートUから塩ビモノマー(VCM)製造を削除し、それをパートTに入れる。
塩ビモノマー(VCM)製造の廃止の遅れは、他の製造プロセスのように第8章の免除メカニズムの対象とするようにするため。
追加 第3条8項の要求と同様に、この条項の要求が満たされていること示す報告要求の追加。
締約国会議は、この条約の有効性を調べるために、特にもしVCM製造が付属書DのパートUに残っており、無期限に継続使用される場合には、プロセス中での水銀使用に関する定期的な報告を必要とするであろう。
第8条 免除
削除 第8条の下で現在締約国が利用可能なプロセスを不必要に免除する第8項bisを削除。
第9条 人力小規模金採鉱(ASGM)
追加 ASGM用の水銀貿易を管理するために第5項に下記を追加。
  • 水銀の輸入が水銀削減の進捗と一貫性をもって時間と共に低減するようにするために、締約国の行動計画はもちろん、第3項(c)の下に提出される3年進捗レポートと矛盾がないことを求める文言を第5項(a)に追加。
  • 第8条の第5項の免状要求と一貫性をもって、条約発効後最初の5年間、ASGMのための水銀の輸入の締約国会議(COP)のレビューと承認を追加。
  • 国家行動計画の実施を通じて達成された水銀使用の削減が後戻りするのを防ぐために、また市場原理を通じて水銀使用の削減をさらに推進するために、締約国会議(COP)がそのような貿易はもはや必要ないと決定した場合、ASGMのための水銀貿易を終了させる権限をCOPに与えること。
第10条及び第11条 排出と放出
保持 新たな施設にBAT遵守義務を可能な限り速やかに適用させるとする文言を保持。
保持 様々な潜在的な管理アプローチを通じて達成されるべき管理目標のレベルを規定する第6項を含んで、既存の排出源からの排出を管理するための義務的な、しかし柔軟性のある義務を確立するとするオプション1を保持。
保持 付属書Fにリストされている大気排出源カテゴリーを保持。
削除 既存の排出源が水銀を減少させることなく排出し続けることを許すであろうオプション2、特に既存源からの排出/放出削減を単に”促進”するだけの第10条及び第11条の第10項(d)の削除。既存の源に目を向けなければ、水銀条約の効果を危うくするであろう。
訳注:10(d) 既存の排出/排出源について、経済的及び技術的実行可能性、手ごろな価格及び国家の状況に依存しつつ、水銀の大気排出を管理/削減するための措置の採用を促進すること。
第12条 保管
追加 環境的に保護的な水銀保管を確実にするために、将来、締約国会議(COP)が条約の付属書として保管要求を採択するために、第3項に拘束力のある義務を追加。
第13条 廃棄物
追加 環境的に保護的な水銀廃棄物管理を確実にするために、将来、締約国会議(COP)が条約の付属書として廃棄物管理要求を採択するために、第3項に拘束力のある義務を追加。
追加 付属書が水銀廃棄物の管理に関して何を含むのかを明確にする文言を第3項(a)に追加。”廃棄物施設の場所”などは付属書でカバーされるべき将来の廃棄物管理の要素の単なる典型であり、したがって適切な処分技術や方法論のような要素、及び閾値もまた含まれるかもしれない。
保持 非締約国との貿易に関してバーゼル条約と一貫性を持たせるために、”特に(in particular)”の節を除く第3項(c)のカッコ付文言を保持。
訳注:第3項(c)この条項にしたがった、そしてもし有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約の締約国ならその条約にしたがった、環境的に適切な処分の目的以外で、国際的境界を越えて輸送されないこと。
[バーゼル条約は国際的境界を越える輸送に適用しないという状況で、バーゼル条約で規定されている同等の管理、特に事前通報・同意及び引き取り義務に関して、が適用される場合にだけ、締約国はそのような輸送を許容しなくてはならない。]
第15条 財源とメカニズム
(第21条の暫定的資金調達計画に関しても参照のこと)
保持 下記構造と矛盾しない文言の保持。
  • 資金メカニズムは、遵守を促進し、非遵守を思い留まらせるために適切な財源を確実にするための専用の基金を含めなくてはならない。
  • そのメカニズムは、財源は締約国会議(COP)の優先順位に矛盾することなく割り当てられることを確実にする締約国会議の権限と指針の下に運用されなくてはならない。
  • 資金支援メカニズムは、この条約の義務の遵守を促進し、非順守を思い留まらせるよう設計され、運用されなくてはならない。
  • 専用基金の管理構造は、開発途上国の代表を含み、運用の透明性がを保たなくてはならない。
追加 第2項に汚染者負担の原則を追加。
第16条 技術的支援
保持 そのような支援を求める締約国のための適切な技術の特定と知識を促進するオプション1と2 の文言を保持。
第17条 遵守
保持 遵守を促進するための構造が条約実施の最初から適切に準備されるようオプション2を保持
第18条 情報交換
削除 公衆の健康と安全及び環境的脅威に関する情報への公衆のアクセスは国内法の条件次第という第5項の文言を削除。
この条件は、知識のない脆弱な集団に曝露させ続け、条約実施の効果を監視するCOPの能力を危うくするからである。ストックホルム条約はこのような国内法の例外を含んでいない(第9条第5項参照)。
第19条 広報、意識向上、教育
保持 条約を遵守するための活動に関する情報の流れを容易にするよう締約国に求める第1項(a)(v)の文言を保持。
第20条 研究、開発、監視
保持 水銀と水銀添加製品の商業及び貿易に関して条約の下に編集されるデータの改善を促進するための第1項(f)中のカッコ付文言を保持。
そのような研究と開発は、統計品目コード化(customs code harmonization)及び水銀貿易の追跡と報告を強化することに関連するその他の活動を含んでもよい。
第20bis条 健康面
保持 既存の条約文言が十分でない場合、魚類と哺乳動物摂食ガイドライン及び勧告のような、脆弱な集団及び先住民を水銀曝露から守るための健康に基く指針とリスクコミュニケーション戦略の開発と実施に関連する第20条bisの要素を保持する(第1項(a)〜(b))。
第21条 実施計画
保持 締約国が、批准前、又はその直ぐ後に、どのように締約国が条約を遵守しようとしているかに関するロードマップを示す国家実施計画(NIP)を策定する義務を課す条約の文言を保持。
国家実施計画の開発(及び関連する目録とギャップ分析作業)のための資金的支援は、確固とした暫定資金計画の下で利用可能となるであろう。ASGM国家行動計画のような条約管理措置により求められる計画は別のもっと詳細な文書であり、典型的には国家行動計画(NIP)が完成した又は順調に策定された後に作成される。
第22条 報告
保持 条約の下に様々な管理措置の実施を監視するために必要とされる報告を求める議長のドラフトを保持。
第23条 効果の評価
保持 適切な条約の効果の評価を確実にするための議長のドラフトを保持。
第33条 留保
保持 この条約の全ての面を遵守するを締約国に義務付けるために、この条約に対する留保を禁止する文言を保持。
ストックホルム条約は留保を規定していない。


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