C&EN ニュース 2004年4月26日
全米子ど健康調査の実施が危うい
長期調査のための予算削減

情報源:Chemical & Engineering News Online April 26, 2004
CHILDREN'S HEALTH STUDY IMPERILED
Long-range study is nearly ready, but funds aren't available for implementation

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2004年4月28日

 広く期待されている小児期の健康問題と先天性欠損症に関する長期間調査については4年間の準備を経て、ほぼ実施可能な状況にある。しかし、アメリカ議会がこの調査を適切に実施するために必要な資金の割り当てを行わないであろうという懸念がある。
 この調査の必要性は、近年、報告されている小児期の深刻な健康問題の発生が増加していることによってもたらされている。
 例えば、子どもと青少年の肥満の割合は1970年代初期に比べて2倍以上となっている。また、ぜん息患者の数は1980年以来2倍以上に増加している。現在、約600万人の子どもたちがぜん息であり、ぜん息による年間の死亡は過去20年間に3倍となっている。
 概略、幼児250人ののうち1人は先天性欠損症である尿道下裂で生まれてくる。

 過去20年の間に研究者たちは、胎児及び幼児期の発達段階のある重要な時期に有毒物質へ曝露すると、もっと後に曝露するよりも深刻な結果になることがあるということを知るようになってきた。

 2000年、このような観察に基づき、超党派の強い支持を得て ”子ども健康法 Children's Health Act of 2000”が成立した。この法は、国立子ども健康人間発達研究所 National Institute of Child Health & Human Development (NICHD)  に対し、 ”子どもの健康と発達に関する物理的、化学的、生物学的、そして心理学的側面を含む環境影響についての全国長期調査 (a national longitudinal study of environmental influences--including physical, chemical, biological, and psychological--on children's health and development)” を実施する権限を与えた。

 NICHD、国立環境健康科学研究所(National Institute of Environmental Health Sciences)、疾病管理予防センター(Centers for Disease Control & Prevention)、環境保護局(Environmental Protection Agency)はこの調査の計画立案のために合計1200万ドル(約12億円)を2001年から2004年の間に費やした。ほとんどの計画立案は完了し、その実施を待つばかりとなっている。

 この調査は子どもを胎児の時から21歳までの間、約10万人のコホートについて追跡するものである。この調査では、化学物質への低レベル曝露と社会生活及び食事要因が、子どもの有害な健康影響を引き起こす遺伝子構成にいかに作用するかについて評価することとなっている。これはかつてアメリカで実施された子どもの健康調査の中で最も大規模で長期間にわたるものである。

 「この調査の最大の特長の一つは長期間にわたる調査であるということである。すなわち、胎児の初期及び幼児期の曝露と、後年になるまで発現しないその結果との関連性を確立できる可能性があるということである」 とEPAの国立環境評価センター(National Center for Environmental Assessment)の上級科学者キャロル A.キンメルは述べている。

 しかし、この調査に着手するのに2700万ドル(27億円)必要とするところを、2005会計年度で提案されたのは、わずか1200万ドル(12億円)である。「我々は、この調査を進めるために、2005年度にさらに1500万ドル(15億円)必要するということを示した。しかし、大統領の予算の中には、この金額はないようだ」と NICHD の”全国子ども調査計画”の理事ピーター C.シェイドは述べている。

 この資金不足については、アメリカの多くの分野で研究開発費はほとんど増額されていないという事実以外には説明することが難しい。小児科の研究者たちと公共利益団体は全て、この調査は重要であり、進められるべきであると述べている。例えば、アメリカ化学協議会(American Chemistry Council)と子どもの環境健康ネットワーク(Children's Environmental Health Network)はともに、なぜ、ある健康条件が子どもたちにとって悪化しているのかを理解するうえでこの調査は重要であると考えている。

 「アメリカ化学協議会は、子どもの健康法が成立して以来、この調査を支援してきた。また我々はこの調査の計画にも参画してきた。この調査は、環境全体を広く検証しようとしているのだから、最もインパクトのある領域に資源を割り当てることが役に立つであろう」とアメリカ化学協議会(ACC)の公衆衛生チームの部長、リー・サラモンは述べた。

 調査対象に含めるべき健康領域としては、ぜん息、肥満、未熟児、先天性欠損症、自閉症、注意欠陥多動症、怪我、栄養・成長及び思春期発達などがある。

 例えば、調査官が答を得たいとしている一つの重要な調査項目は妊娠中の糖尿病と胎児の心臓奇形との関係である。その他の調査項目として慢性的な低レベル農薬曝露と中枢神経系の発達障害との間に関係があるかなどがある。
 この調査における真の力の発揮所は複合曝露を評価し、子どもの健康との関連性を見出すことにあるとシェイドは述べている。

 この調査における女性は妊娠初期に登録されることになるが、それは初期胎児の発達に影響を与えるかもしれない化学物質への曝露を調査する必要があるからであるとシェイドは述べている。広い範囲の環境及び生物学的サンプルが両親、子どもたち及び彼らの環境から収集されるであろうと彼は説明している。

 調査の課題の一つは、現在の調査だけでなく、将来、研究者が仮説を検証するためのフォローアップ作業のためにも必要となる、文字通り数十億点のサンプルを保存する場所をどう確保するかということであるとして 「この調査は、はじめには想定もしていなかったような疑問に対して答える機会をたくさん提供するであろう」とシェイドは述べている。

 他の課題の一つは、人間に負担を与えずに、しかし高いレベルの一貫性を保持できる精度のよいデータを収集することにある。「我々は国中の異なる場所からのデータを統合することができなくてはならい」とキンメルは述べている。

 研究者たちは、調査の実施が直ぐに着手されなければ、勢いが失われ、計画に対する適切な資金も得られなくなるであろうと心配している。「この研究の計画立案に多くの時間を割いてきた人々、及び、実際に実施するためのステップをまだ見ていない人々に関心を持たせ続けることに真の問題がある」とジョン・ホプキンス大学公衆衛生ブルームバーグ校のリン R.ゴールドマン教授は述べている。

 4月28日、この調査の概要説明が上院及び下院における委員会で行われる。提唱者たちは、これらの努力がこの計画に対するもっと多くの資金確保につながることを期待している。

ベッティ・ハイルマン


化学物質問題市民研究会
トップページに戻る