有毒化学物質と小児がん:証拠の検証
エグゼクティブ・サマリー

2003年5月
情報源:Toxic chemicals and childhood cancer: A review of the evidence
by Tami Gouveia-Vigeant, MPH, MSW and Joel Tickner, ScD, May, 2003
A Publication of the Lowell Center for Sustainable Production
Exective Summary
Full Text

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2005年4月16日

 アメリカでは0〜15歳の子どもの死亡原因の中で、小児がんは、事故死に次いで第2位であり、毎年8,000人以上が小児がんと診断されている。マサチューセッツ州では1990年〜1999年の間に0〜19歳の子ども2,688人ががんと診断され、394人が死亡した。マサチューセッツ州の小児がんの罹患率は年間100,000人当たり16.7人であり、全米平均の16.1人より少し高い。マサチューセッツ州ではアフリカ系アメリカ人とラテン系アメリカ人の子どもたちは、白人、アジア人、太平洋諸島人より約25%小児がんが多い。

 小児がんは比較的発症例が少ない病気であるが、がんの発症率は1975年から1998年の間に21%近く増えており、毎年約1%増加していることになる。がんの原因には遺伝的なものもあるが、我々の環境中の有毒物質、食物、水、消費者製品などを含む環境曝露がある役割は果たしているように見える。マウント・サイナイ病院が召集した専門家委員会は最近、遺伝的要因が小児がんの全原因の20%以上を占めることはなく、環境的要因はがんのタイプにより5%から90%の間に入ると結論付けた。このことは、小児がんの多くを防止することができるということを意味している。

 環境曝露と小児がんの間にはよく確立された関連性がいくつかあり、それらには、1940年代後半から1970年代の初めにかけて流産防止ために処方されたジエチルスチルベストロール(DES、合成女性ホルモンなどの医薬品)、電離放射線、化学療法薬剤が含まれる。しかし、溶剤、殺虫剤、石油化学品、工業的副産物(ダイオキシン、多環芳香族炭化水素類)等を含むある種の化学物質に対する親の曝露及び幼児期の曝露が小児がんの原因となり得ることを示す証拠が増大している。
 ”健康な明日へのマサチューセッツ連合(he Massachusetts Alliance for a Healthy Tomorrow)”に委託されたこの報告書は、溶剤、殺虫剤、石油化学品、工業的副産物への曝露と子どものがんとに関連する証拠を検証するものである。この報告書は、疫学研究、動物毒性データ、公表されている研究の検証と分析、事例報告、ファクト・シート、及び会議録などの、公表されている文献の検証に基づいている。

 我々の分析で下記のことが分かった:
  • 疫学研究は、ある種の小児がんと、親と幼児期の殺虫剤及び溶剤への曝露との関連性の増大を一貫して示している。研究は、親のある種の石油系化学物質及び親と幼児期のダイオキシンや多重環芳香族炭化水素などの燃焼副産物への曝露が小児白血病及び脳や中枢神経系のがんとの関連性を増大しているかもしれないということを示している。

     農薬曝露に関するある研究では、白血病の子どもたちは病気でない子どもたちに比べて、4〜7倍、庭や公園で殺虫剤に曝露していた可能性があることを示している。他の研究では、白血病の子どもたちは健康な子どもたちに比べて、11倍、妊娠中に殺虫剤の噴霧に曝露した母親を持っているらしいことを示した。父親が曝露していない子どもたちに比べて、父親が職業上、工業製品中に使われているベンゼンやアルコールに曝露している子どもたちは、父親の曝露が妊娠前なら、6倍近く、白血病になりやすい。ニュージャージー州のドーバー・タウンシップでは、白血病の子どもたちは、白血病ではない子どもたちより5.4倍、ライヒ農場汚染地(Reich Farm Superfund)、あるいは近くの工場施設からの工場廃水により汚染されたことのある地下水範囲にある個人の井戸水を飲んでいた。他の研究では、急性非リンパ球白血病(ANLL)の子どもたちは、ANLLではない子どもたちより2.4倍、その親たちが職業上、石油化学品に曝露していた。

     この証拠は、研究所での、同様な曝露による成人のがんに関する研究及びデータに裏付けられている。ほとんどの場合、研究は特定の化学物質によるがんの証拠ではなく、化学物質の混合又はその族(例えば、殺虫剤、溶剤炭化水素、)を証拠として挙げている。

  • 受胎前の子宮中での曝露、及び幼児早期での曝露により、小児がんは増加するように見える。母親又は父親の胚細胞(精子及び卵子)が妊娠前に傷つけられると、胎児ががんになる可能性がある。また、胎児は子宮の中で、潜在的に有害な化学物質に曝露するかもしれない。そのような場合、有毒物質は胎盤を通って発達中の胎児の体内に入り込み、がんを引き起こす可能性がある。

     文献によれば、小児がんに最も強く関連するように見える曝露のタイプには、親の職業、農業、家庭、及び公園で使われる殺虫剤への曝露、親の製造及び塗装時の溶剤への曝露、親の職業上の炭化水素への曝露、母親の溶剤で汚染された水への曝露、子どもの家庭及び公園で使用される殺虫剤への曝露、子どもの飲料水中の溶剤への曝露、子どものダイオキシン類への曝露などがある。

  • これらの有毒物質への曝露と小児がんとの関連性を裏付ける証拠は、白血病、脳及び中枢神系のがんに強く表れている。

 有毒化学物質が小児がんに与える全体的な影響の程度を正確に決定することは難しい。市場にある化学物質の大部分−そのうちのあるものは広く日用品に使われている−は、がんを引き起こす潜在的能力について研究されていないので、子どもたちのがんの原因となる化学物質に関して全貌を知ることはできない。小児がんとの関連性が適切に研究された化学物質はほのわずかしかない。まして、日常的に起こる化学物質の混合物による複雑な曝露に関しては、もっと研究されていない。

 人々は多くの化学物質やその他の薬剤に同時に曝露しており、また、がんの発症例はまれなので、因果関係を確立することは非常に難しい。これらの困難さ及び研究コストのために、関連性を検証する疫学研究は比較的少なかった。さらに、実施された多くの研究は深刻な限界に突き当たり、小児がんと原因について弱い証拠しか提供できないのではないかと危惧された。しかし、有毒物質と小児がんの直接的な因果関係の証拠ないことは、安全性の証明と解釈すべきではない。すでにテストされ、安全性が示された物質よりも、有害性又は安全性の証拠がほとんどない又はない化学物質の方がはるかに多く身の回りに存在する。

 この報告書で示された証拠は、発がん性を疑われる化学物質への親と子どもの曝露を防ぐことが健康にとって重要な益をもたらすということを示している。この報告書で検証された化学物質は、発がん性の懸念だけでなく、例えば、胎児の神経系や発達系への有害性のような他の健康影響の懸念もある。発がん性を疑われる化学物質への曝露を防ぐことは、最近のヨーロッパの化学物質政策が示すように、可能である。欧州連合は、間もなく、上市されている全ての化学物質は基礎的なテストを受け、発がん性、変異原性、又は生殖毒性として知られている、あるいはその可能性がある物質は、より安全な経済的及び技術的に実行可能な代替品が存在しない場合にのみ使用することを求めるであろう。化学物質の安全性に対するこの常識的なアプローチは、潜在的に危険な化学物質に対する子どもの曝露を大幅に減らす結果をもたらすであろう。













化学物質問題市民研究会
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