G8 マイアミ宣言以後5年間の各国の進捗情況
7. 内分泌かく乱物質による子どもへの新たな脅威

情報源:Five year review of progress since the G8 Declaration / April 2002, Canada
掲載日:2003年10月28日
(訳:安間 武 /化学物質問題市民研究会

7. Emerging Threats to Children’s Health from Endocrine Disrupting Chemicals
7. 内分泌かく乱物質による子どもへの新たな脅威
7.1 マイアミ宣言における主要なコミットメント

  • 我々は、研究活動の国際的な目録を収集する努力を続けることを奨励し、科学状況の国際的な評価を展開し、研究の必要性とデータのギャップを特定して重点項目を決め、研究の必要性の収集に関する協力体制を開発する。

  • 我々は、内分泌かく乱化学物質の主要な源とその環境的な結末を特定し、協力してリスク管理、又は汚染防止戦略を展開することを誓い、また、新たな知識が得られ次第、公衆に情報を提供し続ける。

7.2 各国の実施状況

■カナダ

 改正されたカナダ環境法(1999年)は、保健省と環境省に内分泌かく乱化学物質に関する調査を実施するよう求めている(ss.44(3))。この要求に沿って、カナダは、 ”カナダの環境中の内分泌かく乱物質の科学的評価に関する国家計画” を作成し、現在、実施中である。
 この国家計画の目標は、次のことを確立することにある。  ・内分泌かく乱物質(EDCs)に関する国の主導と情報伝達  ・カナダの環境中の EDCs の曝露と影響に関するより良い知識ベース  ・スクリーニングとテスト方法に関する国内及び国際的な整合性  ・科学的評価の強化と重点物質に対する行動

 研究プロジェクトと活動に関する国内目録は2000年に取りまとめられ、『世界の内分泌かく乱物質研究計画データベース』 としてウェブに掲載された。
 連邦有毒物質研究計画の下における重点分野の一つが EDCs である(カナダ9.4項参照)。

世界の内分泌かく乱物質研究目録

 内分泌かく乱物質に関連する、現在実施中の研究プロジェクトの編集は、 ”化学的安全性に関する政府間フォーラム(IFCS)” と ”子どもの環境健康に関する8カ国環境リーダの1997年宣言” の勧告に従い、実施されている。

 化学的安全性に関する国際計画(IPCS)は、内分泌かく乱に関する国際的な科学状況の展開に関連して、この責務を引き受けることに同意した。
 当面の目標は既存のアメリカの目録にカナダと EU の目録を組み込むことである。詳細については下記ウェブサイトを参照のこと。
 http://endocrine.ei.jrc.it/gedri/pack_edri.All_Page

■欧州共同体(EC)

 ”内分泌かく乱物質に関する欧州共同体の戦略(1999)” が実施されている。
 ”第5回 研究と開発のための共同体枠組み計画(1999-2002)” の下に、約2,000万ユーロ(約24億円)が現行の EDCs 関連プロジェクトに使われ、それ以外の2,000万ユーロ(約24億円)が2002年に開始予定の4つの新たな研究プロジェクトに割り当てられた。
 欧州共同体の助成を受けたいくつかの調査もある。飲料水を通じての EDCs への曝露、テスト方法の開発、データ収集、特定物質の詳細評価、などである。
 2001年6月に、スウェーデンで ”内分泌かく乱物質に関するヨーロッパ・ワークショップ” が開催された。

■フランス

 フランスは、人間の内分泌をかく乱する可能性のある4つの化学物質 (2つのフタル酸化合物と2つの臭素化難燃剤) のリスク評価を実施した。これらのリスク評価に基づき、リスク削減措置がヨーロッパ レベルで実施された、あるいは直ちにに実施される予定である。
 フランスは、3歳以下の子どもが口に入れる可能性がある、軟性塩化ビニル(PVC)製でフタル酸化合物を含む玩具や赤ちゃん用品の販売を禁止した。
 ダイオキシン排出を低減するための計画が1997年に実施された。監視結果により、家庭ごみの焼却と金属産業が2つの主要なダイオキシン発生源であることが判明した。
 その後の措置により、1997年から2000年の間に、家庭ごみの焼却設備からのダイオキシン発生は約70%低減された。同程度の削減が金属産業においても観察されている。
 フランスもまた、人間の内分泌システムをかく乱する物質の特定を可能にするテスト方法を開発するための OECD の計画に参画している。

■ドイツ

 連邦政府の環境省と研究省は, ”内分泌システムに影響を与える環境化学物質” に関するする研究プロジェクトに約600万ユーロ(約7億2千万円)を支援している。
 これらのプロジェクトには、データベース検索と文献調査、テスト方法の開発、環境中の選定した物質の監視、毒物学的調査、及び、人間の健康と野生生物/生態系への影響に関する評価、などが含まれる。
 ドイツは、EDCs を検出するための毒物学的及び生態−毒物学的テスト方法を見直す OECD の活動を支援している。これに対応する国内作業部会が設立された。
 化学的安全性に関する国際計画(IPCS)と WHO による ”化学物質への曝露に関連する生殖系への健康リスクの評価原則” に関する基準文書を開発するための作業と関連研究に関するデータベースの設定は、連邦政府の環境、自然保護、及び核の安全省によって資金的に支援を受けている。

OECD スクリーニング及びテスト指針

 1997年宣言の Annex A で、G8 環境大臣は、子どもに対する特別な感受性と曝露を考慮した内分泌かく乱化学物質のためのスクリーニング及びテスト指針を開発するための OECD 計画を支援することに同意した。
 2002年に、OECD は内分泌かく乱化学物質のための3つのテスト指針を開発し、完成させ、法的に有効なものにすることが期待されている。

■イタリア

 イタリアは、1999年に採択された ”内分泌かく乱物質のための EC 戦略” に対する活動に寄与している。この戦略の目的は、内分泌かく乱の問題を特定し、問題に対し早急に効果的に対応するために、予防原則に基づいて、適切な政策措置を特定することにある。
 この戦略は、さらなる研究、国際的な協力、公衆とのコミュニケーション、及び適切な政策措置の必要性を指摘し、これらの要求に合致した、短期、中期、及び長期の行動を特定している。
 イタリアは、2001年6月にスウェーデンで開催された ”内分泌かく乱物質に関するヨーロッパ・ワークショップ” に参加した。

■日本

 日本は、 EDCs に関する研究活動を強化した。監視、スクリーニング・テスト手法の開発、及びリスク評価など省庁間活動が、特に政府の2000年紀プロジェクトを通じて、実施された。さらに日本は内分泌化学物質に関する国際シンポジウムを開催した。

 ”環境内分泌かく乱物質に関する戦略的計画 '98” を発表した環境省は、65物質の環境的監視、それらのいくつかに対する胎児の曝露についての調査、及び、年次国際シンポジウムの開催を実施した。また、2001年3月に、新たに建設された環境調査国立研究所の施設において EDCs に関する調査を開始した。

■イギリス

 イギリスは、”内分泌かく乱に関する世界の科学状況評価” に関する IPCS と WHO の展開に対し資金援助を行っている。IPCS 評価からの勧告は国際的な目録及び特定されたギャップと比較されるであろう。
 イギリスはまた、 ”内分泌かく乱物質の EC 戦略 ”、及び国際的に合意された OECD によるテスト指針の更なる展開に寄与している。
 イギリスは、出生前及び出生後の化学物質への曝露による男性生殖機能への影響に関する研究など EDCs についての広範な研究プログラムを実施している。
 内分泌かく乱物質に関するその他の活動は、下記ウェブサイト ”環境中のホルモン(内分泌)かく乱物質” で記述している。
 http://www.defra.gov.uk/environment/chemicals/hormone/index.htm

内分泌かく乱化学物質に関するの世界の科学状況評価

 これらの懸念に対応し、多くの国際的及び各国の当局は、世界保健機関(WHO)/国連環境計画(UNEP)/国際労働機関(ILO)/化学的安全性に関する国際計画(IPCS)に対し、内分泌かく乱化学物質に関する世界の科学状況評価に関し、リーダシップをとるよう要請した。
 この評価の目的は、内分泌かく乱化学物質の健康と生態系への影響に関し、何がわかっており、何が不確実として残っているかを取りまとめた国際的な研究者用の科学的報告書を提供することにある。詳細については下記ウェブサイトを参照のこと。
 http://www.who.int/inf-pr1998/en/pr98-31.html

■アメリカ

 アメリカの EDCs に関する研究プログラムは下記のような主要な問題提起に着目している。
 ・どのような影響が人間と野生生物に起きているか
 ・対象となる化学クラスは何か
 ・テスト指針は潜在的な内分泌の影響を適切に評価しているか
 ・EDCs の主要な源と環境的結末は何か
 ・不合理なリスクをいかに管理することができるか
 特定な研究を記述した ”多年次計画” は2007年まで実施される。

 アメリカは、その研究を、国家科学技術委員会の下に EPA が主管する連邦内分泌かく乱物質ワーキング・グループを通じて調整している。
 EPA はまた、農薬、商用化学物質、及び、環境汚染物質を篩い分けるための ”内分泌かく乱化学物質スクリーニング計画(EDSP)” を実施中である。この計画は、FQPA(1996) の下に実施されるもので、2層からなっている。
 第1層は、内分泌系をかく乱する潜在的な物質と更なるテストの必要性を特定する。
 第2層は、人間の健康と野生生物の有害性評価に用いられる有害影響と情報を特定するためのデータを開発する。
 EPA は、 EDSP の新たな分析を展開し法的に有効なものにしつつあり、この作業を OECD と協力して実施している。

 1999年8月、国立科学アカデミーは、 『環境中におけるホルモン的に活性な物質に関する科学的評価の状況』 を発行した。この報告書は生殖系及び発達系への影響について述べている。

内分泌かく乱化学物質

 野生生物及び実験動物の調査により、ある種の汚染物質がホルモンかく乱性を有することが報告されている。内分泌かく乱物質の人間の健康影響に関するデータはまだ少ないが、胎芽(訳注:妊娠8週目までの胎児)、胎児、及び、幼児は、これらの化学物質への早期の曝露の結果、有害な影響を受ける危険性が大きい。

 人間の生殖系及び内分泌系は胎児期に複雑な発達をするので、この発達の段階では有毒な影響に対して非常に脆弱である。これは仮説であり証明されたものではないが、内分泌かく乱物質は、子どもの健康に与えるいくつかの驚くべき影響の中で、少なくとも部分的には関連性があるかも知れない。
 これらには、尿道下裂(男の赤ちゃんの尿道が短い先天性障害)の事例が倍増していると最近報告されていること、少女の早期成熟が増加していること、睾丸がんが増加していること、などが含まれる。



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