G8 マイアミ宣言以後5年間の各国の進捗情況
3.子どもの鉛への曝露

情報源:Five year review of progress since the G8 Declaration / April 2002, Canada
掲載日:2003年10月26日
(訳:安間 武 /化学物質問題市民研究会

3. Children's Exposure to Lead
3.子どもの鉛への曝露
3.1 マイアミ宣言における主要なコミットメント

  • 我々は、子どもの血中鉛濃度が 10μg/dl 以下になるよう、さらなる方策をとることを要求する。血中鉛濃度がこのレベルを超える場合には、さらなる方策が要求される。

  • 我々は、鉛リスク低減に関する OECD 宣言を国際的に満たし、促進することを約束する。

  • 我々は、加鉛ガソリン使用の廃止、子ども用製品中の鉛への曝露の除去、塗料及びさび止め剤での鉛の使用の廃止、食物及び飲料水を通じて体内に取り込まれるもととなる製品中の鉛の制限、及び、これらを源とする鉛の除去と低減のためのスケジュール及び戦略の設定を約束する。

  • 我々は、鉛曝露による子どもへのリスクに関し世間に知らしめるためのキャンペーンを実施し、子どもの血中鉛濃度を監視するための科学的な方法とプログラムを開発することに賛同する。

3.2 各国の実施状況

■カナダ

 カナダでは道路通行車両用のガソリンへの鉛添加は1990年に禁止された。鉛と子どもの健康に関する新たな規制には次のようなものが含まれる。
  • 危険製品(液体コーティング物質)規制法:
    住宅用塗料、及び玩具、ベビーサークルで囲った子どもの遊び場、ベビーベッド、遊び場の構造物に塗布される塗料に含まれる鉛の量を制限する
  • 危険製品(上薬処理セラミックス及びガラス製品):
    上薬処理セラミックス食器の鉛浸出許容量は、アメリカ基準の 0.5〜3.0mg/l (製品により異なる)と同じにする
 カナダ保険省(Health Canada)は、子どもが曝露する恐れがある消費者製品中の鉛リスク低減戦略案を作成した。

■欧州共同体(EC)

 欧州共同体(EC)の立法は、特定分野(例えば、自動車や電子機器中での使用)だけでなく、危険物質に関する分野横断の法律を通じて鉛汚染に目を向けている。

■フランス

 加鉛ガソリンの販売は2000年1月以来禁止されている。大気汚染監視により、鉛許容レベルは満たされていることが判明している (全ての都市部において年間平均濃度が 0.05μg/m3 以下)。大気中の鉛濃度は、加鉛ガソリンの排除により3分の1に低減した。

 産業地帯周辺の有毒金属のレベルを低減する努力の一環として、リスクがありうる子どもの血中鉛濃度を監視することに特別の注意が払われている。さらに、鉛塗料による鉛曝露がありうる古い住宅に住んでいる子どもたちの血中鉛濃度を監視するための特別な計画が実施されている。

 飲料水中の鉛濃度を低減するためのいくつかの措置がとられている。例えば、2001年に導入された新規制では、飲料水中の鉛濃度は、2003年までに 25μg/l、2013年までに 10μg/l 以下にすることを要求している。

■ドイツ

 過去15年間、血中鉛濃度は著しく減少し続けている。しかし、高い鉛汚染源に関する調査は継続して行う。課題として水道水中の高鉛濃度の低減化がある。改正飲料水法は2003年1月から施行される。水道水中の鉛限界値は、2003年12月に、40μg/m3から25μg/m3となり、最終的に2013年には10μg/m3となる。
 ドイツの子どもの血中鉛濃度の代表サンプルは、2003年から2005年に実施される ”子どもと青年のドイツ環境健康調査” の一環として採集される。連邦環境局の ”人間生体監視委員会” は、子どもの血中鉛濃度の参照値と健康影響値を決定した。
 ドイツは OECD 鉛リスク低減プログラムに寄与している。

■イタリア

 過去10年間、大気、水、及び食品中の鉛濃度は加鉛ガソリンの廃止及び産業での鉛使用制限の結果、著しく減少した。
 イタリアは、OECD 鉛リスク低減プログラムの完全履行に著しく貢献した。

■日本

 環境省は、他国の子どもの鉛曝露に関する情報を収集した。日本の子どもの鉛曝露の予備調査を実施する予定である。

■イギリス

 イギリスの血中鉛調査の結果、有害な影響が認められる値の4分の1のレベルに子どもの血中鉛濃度は減少している。しかし、鉛曝露に関し完全に安全なレベルなど存在しないので、政府は人間の曝露を合理的な実施方法で低減することに努めている。
 血中鉛濃度の低減は、すでに実施されている措置及び最近の加鉛ガソリンの禁止措置の結果であるが、今後の飲料水中の鉛濃度の規制値引き下げにより更なる効果が期待される。
 環境食品農業省は鉛に関するアドバイスを発表し、次のような無料のブックレットを発行した。
  • 『あなたの飲料水中の鉛』
  • 『鉛のパイプではありませんか? (1995年初版)』
  • 『改装しましたか?』
  • 『あなたの家の古い塗装に関するアドバイス (1998年初版)』
 1998年、”中央医療事務所” はイギリスの全ての医師たちに鉛への曝露の潜在的危険性について知ることの必要性について呼びかけた。

■アメリカ

 5歳以下の子どもの平均血中鉛濃度は、1976年〜1980年までの 16.5μg/dl から、1992年〜1994年の 3.6μg/dl に減少した。減少率は78%である。平均血中鉛濃度の減少は、1973年〜1995年の加鉛ガソリンの廃止に負うところが大きい。 1992年〜1994年に、約150万人の17歳以下の子どもたち(約2.3%)の血中鉛濃度は 10μg/dl 以上であった。1歳〜5歳の子どもの4%(890,000人)が高い血中鉛濃度を有していた。

 アメリカでは現在、 ”子どもへの環境健康リスクと安全リスクに関する大統領タスクフォース” の下、連邦政府の ”子どもの鉛中毒を2010年までになくす戦略” の勧告を実施中である。勧告は下記の事項を含む。
  • 子どもを住宅の鉛塗料の危険から守ることにより、子どもが毒される前に行動を起こす
  • 血中鉛濃度の検査を拡大し、危険性のある子どもたちをフォローアップすることにより、早期に措置をとる
  • 鉛の危険性を抑制するためのコストを低減する革新を推進し、研究調査を実施する
  • 保護戦略を改善するために、子どもが鉛に曝露する経路を明確にする
  • 効果を測定する
 アメリカは、 ”有毒物質排出目録(TSRI)” の下、鉛と鉛化合物の環境への排出に対する報告義務のしきい値を下げた。

 ”鉛の危険レベルを特定する規則” により土壌及び埃に対する基準が設定され、アメリカ全土でこれに従う運動が実施されることとなった。このプログラムは、基準合致のための支援、監視、強化努力とともに、鉛の危険性、特に鉛塗料からの曝露について両親や地域センターに知らせるための地域活動や教育用資料の配布を行っている。

 疾病管理センター(CDC)と環境保護局(EPA)は、他の諸国と協調して、血中鉛濃度の調査を実施し、加鉛ガソリンの廃止の促進を図っている。

なぜ、子どもは鉛に対し特に脆弱か

 鉛は、子どもに深刻な健康問題を引き起こす強い神経毒である。子どもと胎児は、大人よりも鉛を吸収しやすいために、そして、免疫器官と組織は鉛の影響を受けやすいために、特にリスクが高い。

 鉛は血流に吸収され、体内組織、特に骨と歯に蓄積する。胎児と小さい子どもは急速に体が発達し鉛を吸収しやすいので、特にリスクが高い。

鉛の子どもに対する健康影響

 鉛は、体の基本的な機能を阻害するので有毒である。たとえ、低濃度の鉛曝露であっても、子どもに生涯の悪影響を及ぼす。

 低濃度では、鉛は神経系と腎臓へのダメージ、学習障害、多動症、注意欠陥症、行動障害、発育障害、聴力障害、知能発達障害を引き起こす。

 高濃度では、鉛は子どもに対し、発作、意識喪失など激しい影響を及ぼし、時には死に至ることもある。鉛濃度が 10μg/dl 以下で生じる影響もあり、鉛曝露の安全値は存在しない。



化学物質問題市民研究会
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