G8 マイアミ宣言以後5年間の各国の進捗情況
2. 環境リスク評価と基準の設定

情報源:Five year review of progress since the G8 Declaration / April 2002, Canada
掲載日:2003年10月24日
(訳:安間 武 /化学物質問題市民研究会

2. Environmental Risk Assessment and Standard Setting
2. 環境リスク評価と基準の設定
2.1 マイアミ宣言における主要なコミットメント

  • 我々は、環境リスク評価と保護基準を設定する場合には、子どもの特別な暴露経路と容量−反応特性を考慮して国際的な施策を確立することを誓う。

  • 我々は、子どもへのリスクを検出し子どもへの単一及び複合暴露の影響を評価する我々の能力を高めるためにテスト指針の質を上げる必要性があるということに合意する。

  • 我々は、企業が経済協力開発機構(OECD)を通じて、修正した、調和の取れたテスト指針を採用することを主張する。

  • 我々は、環境の危険に対する乳幼児と子どもの特別な暴露と感受性を理解するために研究し、その研究結果と法的決定に関する情報を交換することを促進する。

  • 十分な情報がない場合には、我々は、子どもの健康を守るために、予防原則あるいは予防的アプローチをとることに合意する。

  • 我々は、残留性有機汚染、長期的な国境を越えた大気汚染、そして特に危険な農薬、化学物質、及び有害廃棄物の通商などのついての将来の相互的、地域的、そして世界的な条約における交渉と実施においては、合理的な科学に基づいた子どもの環境健康を考慮するよう要求する。

2.2 各国の実施状況

■カナダ

 カナダの法律は、カナダ環境保護法(1999)、食品医薬品法、害虫管理製品法、危険製品法などを含めて、人間の健康に与える環境の潜在的な影響を考慮している。
 人間のリスク評価は、データが入手可能で適切ならば、子ども独特の行動と暴露及び生理学的特性を勘案している。また、子どもの特別な過敏性も可能な限り評価における要素として取り入れている。調査が、許容できる摂取量や濃度から導き出すベースとして十分に信頼できない場合には、適切な不確実性係数が用いられる。
 食品医薬品法では、乳幼児用ミルクには本質的ではない食品添加物は許されていない(許容値ゼロ)。
 害虫管理規制局(PMRA)は、『子どもの健康の優先事項』という、子どもの環境健康と農薬へのリスク評価のための文書を作成した。 (ウェブサイト http://www.hc-sc.gc.ca/pmra-arla/english/pdf/spn/spn2002-01-e.pdf で入手可能。)
 カナダ政府は最近、新たな害虫管理製品法案を上程した。この新しい法案は、すでに害虫管理規制局(PMRA)のリスク評価プロセスに取り入れられている子どもの過敏性に対する特別の考慮を要求している。

 危険製品法は子どもの健康を守るための注意義務を含んでおり、また、子ども用品としての玩具、寝具、ベビーベッドと揺りかご、乳母車や折りたたみベビーカー、おしゃぶりなどのタイプを規制する条項がある。
 この法の下に、最近出された子どもの環境健康に関する勧告書には、軟性ビニル製の歯固めやガラガラに含まれるジイソニルフタレート(1998)や日よけに含まれる鉛(1999)に関する勧告が含まれている。

■欧州共同体(EC)

 欧州共同体(EC)では暴露の許容レベルが、入手できる最良の科学的情報とリスク評価手法を用いて決定された。暴露の許容レベルを決定するにあたっては、子どもを含む過敏な集団に特別な配慮が払われた。

 一般製品の安全性に関する EC の法律は過敏な集団として子どもたちを選定している。一般製品の安全性に関する理事会指令 92/59/EECの 主な目的は、特に子どもがその製品を使用する時、生ずる深刻なリスク要素を考慮して、市場に出される製品が安全であることを確実にすることである。

 さらに、玩具の安全性に関する法律が EC にはある。おもちゃの安全性について危惧する加盟国の法律に準じた理事会指令 88/378/EEC (後に理事会指令 93/68/EEC により改訂された)は、玩具が製造中に、そして市場に出される前に満たさねばならない基準や本質的な要件を設定している。

 欧州共同体の ”第6回環境行動計画−環境2010:我々の将来、我々の選択” は、化学物質、農薬、騒音、都市環境などに目を向けた環境と健康問題に関する将来の行動のベースを設定している。この計画に基づいてた将来の政策は、現在の諸政策を共同作用させつつ、統合した方策を実施し、その結果、人間の健康に対する環境の脅威の影響を削減することに役に立つであろう。このために、第6回環境行動計画は、汚染物質のそれぞれのグループに対し、次のことが考慮されるよう要求している。
  • 子どもや老人など特に弱い集団を考慮して人間の健康に対するリスクを特定し、それに基づき基準を設定すること
  • 汚染経路を評価し、暴露レベルを最小にするために必要な最も効果的な行動を決定すること
  • 環境と健康の優先度を、統合製品政策とともに、大気、水、廃棄物、土壌に関する特定の政策と基準に導入すること
 欧州共同体は、化学物質テスト・ガイドラインに関する経済協力開発機構(OECD)プログラムに参加する。

化学物質のテストに関する OECD ガイドライン

 1997年宣言(訳注:マイアミ宣言)の Annex A は、経済協力開発機構(OECD)に対し、発達系及び生殖系への毒性テストに関する最新の調和の取れたガイドラインを完成させるよう督促した。これらのガイドラインは完成し、2001年6月に欧州理事会によって採択された。

 OECDの化学物質テスト・ガイドラインは、国際的に合意され、各国政府、産業界、及び研究所で、新規及び既存の化学物質及び中間体の潜在的な危険性を特定し特性化するために用いられているテスト方法を集約したものである。それらは、物理的及び科学的特性、人間の健康への影響、環境への影響、環境劣化及び環境中への蓄積に関するテストを含む。
 1981年に採択されて以来、このテスト・ガイドラインは、OECD諸国のみならずそれ以外の国々で、潜在的危険性のある化学物質のテスト及び評価に携わる専門家らにより、認知された標準ツールとなっている。

 このOECDの化学物質テスト・ガイドラインは、法的安全性のテスト及びその後の化学物質及び製品の告示及び登録のために使用される。さらに、新化学物質及び製品の開発における候補化学物質の選定と順位付け及び毒性研究、等、様々な用途に使用される。

■フランス

 環境省、保健省、労働省はリスク評価をフランス公衆健康高等審議会に委任している。環境省の汚染とリスク予防理事会の一部として、産業環境部会がネットワーク監視、汚染のモデル化、健康に対する汚染の影響に関連する問題について監督している。

 フランス環境健康安全局は2001年に設立された。1997年以来、フランス政府と議会は、健康と安全を改善するために、環境監視研究所、健康製品安全局、食品安全局などを含むいくつかの部局と研究所を設立した。

■ドイツ

 2000年10月、リスク評価と基準設定のための手続きと構造の再編に関する特別委員会が環境省と保健省によって設立された。委員会は、より調和の取れた透明な環境健康リスク評価と基準設定のための提案を作成中である。委員会は弱い感受性の高い集団、特に子どもたちを配慮するであろう。他の関連行動として、健康関連環境基準の設定するために、リスク集団としての子どの考慮に関する文献調査(2001/2002)、及び 子どもの健康に関する2つの国際ワークショップ(2001年9月及び12月) がある。

 ドイツはまた、化学物質テスト・ガイドラインに関する経済協力開発機構(OECD)プログラムに積極的に参加している。

■イタリア

 子どもの健康保護は持続的開発のための環境政策の中で優先度の高い課題である。イタリアは、環境保護計画、環境基準、及びテスト計画を通じて子どもの健康を守るための行動を起こしている。イタリアはまた、ローマにある世界保健機構(WHO)健康と環境センターに協力するとともに、化学物質テスト・ガイドラインに関する経済協力開発機構(OECD)プログラムに参加している。

■日本

 日本政府は、様々な化学物質の影響を受けやすい子どものリスク評価に関する情報の収集、人間の臍帯中のダイオキシン濃度の評価を含む暴露評価の実施、及び、脆弱性エンドポイントを用いてのダイオキシンの1日許容摂取量( TDI )の設定などを行った。同省は、化学物質に対する子どものリスクを分析するための更なる調査を計画している。

 環境省は、特に汚染に敏感で脆弱な子どもや乳幼児を保護する必要性に対し注意深い配慮を払いつつ、適切な安全係数を持った環境品質基準を設定しようとしている。さらに、同省は基準の設定にあたって、乳幼児の特別なリスクを考慮に入れている。例えば、2000年には同省は、 メトヘモグロビン血症から乳幼児を守るために硝酸窒素と亜硝酸窒素の基準を設定した。

■イギリス

 リスク評価業務と基準の設定は子どもたちのような特定の集団を保護することを目指している。このことは、例えば下記のようなことを含む。
  • 胎児と成長期の動物に関する適切な動物データを使用する
  • 不確実要素を用いて、十分な安全マージンをとる
  • 子どもに関する疫学的調査を考慮する
 子どもへの暴露と影響についての情報は、特定の又は関連するデータが存在するならそれを考慮する、あるいは、倫理にかなった現実的なものとして入手する。例として、イギリス土壌ガイドラインを作成するための暴露評価モデル、及び、鉛基準のための疫学的ベースがある。
 イギリスは、経済協力開発機構(OECD)の化学物質テスト・ガイドラインに関し、主導的役割を果たしている。

■アメリカ

 食品品質保護法(FQPA)は、食品原料および加工品中の残留農薬に関する単一で健康をベースとする基準を設定し、全ての消費者、とりわけ乳幼児や子どもの保護を強化し、環境に優しい開発とリスクのより低い農薬の採用を促進している。FQPA は、乳幼児や子どもが特に農薬への感受性が高いということの重要性と、彼らは適切な保護を与えられる必要性があるということを強調している。FQPA が成立して以来、確立されてきた全ての残留許容限界量あるいは最大法的農薬残留限界は、子どもの保護を目的として設定されている。
 アメリカ環境保護局(EPA)は、乳幼児や子どもへのより良いリスク評価を行うために農薬ガイドラインを更新しており、EPA は現在、食品、飲料水、その他の非作業関連の農薬暴露、及び体内で同じように作用するその他の農薬の複合的な影響について検討している。
 アメリカは、化学物質暴露に関連する子どもへの潜在的な健康リスクについて、公衆にデータを供給するために、”自主的な子どもの化学物質評価プログラム”を実施している。

子ども独特の環境中の有毒物質への脆弱性

  • 子どもは、環境中の有毒い物質に対し、不均衡に高く暴露する。体重1キログラムあたりに換算すると、子どもは大人より多くの水を飲み、食物を食べ、多くの空気を吸い込む。さらに子どもの暴露を重いものにするその他の要素は、日常的に手を口に持っていく動作、及び地面に近いところで遊ぶということである。

  • 子どもの代謝経路、特に生後1ヶ月は未成熟である。子どもの解毒能力と汚染物質排出能力は大人とは異なる。多くの場合、子どもは大人よりも有毒物質への対応力が少ない。

  • 子どもは急速に成長し、発達しており、これらの発達プロセスは用意にかく乱される。胎芽及び胎児の期間、及び生後1年は、脳、内分泌系、生殖組織、免疫系、及び呼吸器組織は急速に成長し、発達し、分化している。もし、これらの発達プロセスが、鉛、水銀、溶剤、内分泌かく乱物質、その他の環境有毒物質によって乱されると、高い危害のリスクが生じ、そのような危害はしばしば不可逆的である。

  • 子どもは一般的に大人よりも将来生活が長いので、若い時の暴露に起因する慢性病が進む期間をより長く持っている。例えば、発がん性物質への若い時の暴露により成人期のがんリスクが増大し、子ども時代の電離放射線への暴露は成人後のがんリスクの発展に関連している。



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