G8 マイアミ宣言以後5年間の各国の進捗情況
11. 主要な発見と結論

情報源:Five year review of progress since the G8 Declaration / April 2002, Canada
掲載日:2003年 9月24日
更新日:2003年10月30日
(訳:安間 武 /化学物質問題市民研究会

11. Key Findings and Conclusions
11. 主要な発見と結論
11.1 主要な発見

 1997年以来、国際機関とともに多くの国が、環境的危険から子どもを守る必要性について強い関心を抱くようになった。例えば、WHO の欧州地域事務所は1998年に子どもの環境健康に関する計画を立ち上げ、”環境と健康のロンドン宣言に関する第3回大臣会議(1999)”でこの問題の重要性が認められた。
 マイアミ宣言は、子どもの環境健康に関する各国の及び国際的な認識を呼び起こし、子どもの健康を守る活動を促進することに役立った。

 この報告書に示す情報によれば、G8 の各国と EC は、環境の危険から子どもを守ることを意図した広範な法律、規制、政策、計画、及びその他の活動を有していることが分かった。これらの多くの施策は一般の集団の一部として子どもたちを守るもので、、子どもの健康を守ること自体に特化したものは少なかった。例えば、多くの国が微生物学的に安全な飲料水を確実にするための活動を行っているが、殆どの場合、各国の規制、基準、及び指針は子どもを一般集団の一部として守ることとなっている。ただ一国、アメリカだけが、Cryptosporidium と副生物の消毒に関する新たな規則で、子どもの潜在的な曝露と影響について特に考慮していることを述べている。

協力体制

 子どもの環境健康に関する G8 諸国の施策の特徴の一つは、各国政府が他の組織と協力体制(Partnerships)を取ることにあった。協力体制は多くの施策、特に調査研究及び公衆の教育と情報に関するプロジェクトにとって非常に重要な側面である。子どもの環境健康活動に関する組織の主なパターンは次のようなものである。
  • 国際組織:世界保健機関および地域事務所、子どもの健康と環境のためのヨーロッパ環境健康委員会及びタスクフォース、経済協力開発機関、及び北アメリカ環境協力委員会など
  • 政府機関:中央、州、省、県レベルの政府機関、地域当局
  • 学際:大学や研究所
  • 民間組織:健康介護組織、通商組合、各国及び国際 NGO、及び地域組織
  • 健康介護専門家、教育者、メディア
  • 企業
 子どもの環境健康に関する他の組織との協力体制の確立とともに、G8 各国政府は自国内の関係部署との密接な連携をはかった。現在の連邦/国家政府レベルにおける異なる省庁間の連携は、1997年当時に比べると強化されている。例えばカナダでは、連邦政府の天然資源省は子どもの環境健康の合同施策に共同で参画している。

北アメリカ環境協力委員会
−北アメリカにおける子どもの健康と環境−


 北アメリカでは子どもの環境健康に関する関心が高まっている。2000年6月、環境協力委員会の理事会において、カナダ、メキシコ、及びアメリカの環境大臣は、子どもの健康と環境に関する理事会決議(00-10)を採択した。この決議は、参加国は子どもを環境の脅威から守るための共同のアジェンダ(議題)をとも協力して展開することを約束するとしている。

 出発点として、アジェンダは、良好な健康に対する特定の環境関連障害、例えば、ぜん息やその他呼吸器関連疾病、鉛中毒を含む鉛の影響、及びその他の有毒物質に対する曝露、などに焦点を絞ることとしている。

 公衆の知見を高め、親や地域に子どもの健康に対する環境の脅威についての情報を提供することが重点項目であると認識された。

 この決議はまた、環境中における子どもの健康に関し、理事会に勧告するための専門家諮問委員会の設置を要求している。この諮問委員会は、2001年秋に正式に設置された。

子どもの環境健康を守るための
世界保健機関タスクフォース


 人間環境保護局は、増大する懸念とその必要性を唱える各国の声に対応して、1999年7月に ”子どもの環境健康を守るためのタスクフォース” を設置した。
 G8 宣言は、主な環境的健康への脅威のいくつかについて述べ、WHO の参加を要請しつつ、重点的活動項目を設定した。
 タスクフォースの活動は、この問題についての関心を高め、子どもの健康を脅かす主要な環境の脅威を認知し、評価し、緩和することを促進することにある。
 タスクフォースの使命は、環境中の生物学的リスクを考慮しつつ、また社会的及び心理社会的要素を認識しつつ、化学的及び物理的脅威に関連する子どもの疾病と障害を防ぐことにある。
 この使命を達成するために、タスクフォースは、コミュニケーションを図るとともに、環境の脅威について特定し、評価し、緩和するための行動を推進する。

影響と成果

 子どもの環境健康に関する各国及び国際的な施策について評価すべき成果がいくつかある。
 子どもの環境健康に関する最も重要な成果の一つは、子どもの環境的危険への曝露とリスクが減少していることである。恐らく、最も明白な例は鉛である。加鉛ガソリンの廃止とその他の政府の措置により、大気中及び子どもの血中の鉛濃度は劇的に減少した。
 例えばイタリアでは大気中、水中、及び食物中の鉛濃度が著しく減少していると報告されており、また、イギリスでは1984年から1995年の間に子どもの血中鉛濃度中央値は係数3.6から5、減少したと報告されている。これらの減少は重要な公衆健康及び経済的利益をもたらしている。
 曝露とリスク削減の二番目の例は環境的タバコの煙(ETS)に対する多くの国の措置であり、家庭や公共の場所での子どもの曝露を減少させている。アメリカでは WHO と連携をとり、ポーランド、ラトビア及びアジアの2カ国を含む数か国において子どもの ETS への曝露を減らす計画を立ち上げた。これらの計画は子どもの健康にとって著しい利益があると考えられる。

 子どもの環境健康に関する他の2つの重要な成果は、子どもの環境健康を守ることの重要性が各国及び国際間で認識され、この問題に関して多領域、多部門の協調が、既に述べたように作り出されたことである。

11.2 課題毎の結論

リスク評価と基準の設定

 リスク評価と基準の設定プロセスは最近、 G8 の多くの諸国で子どもの環境健康を守るための必要性を考慮して、改定された、あるいは改定されようとしている。これらには、子ども独特の曝露、生理機能、及び発達の異なる段階における潜在的な影響についての配慮が含まれる。信頼性のあるデータが入手できない場合には、アメリカのようないくつかの国では子どもの健康を守るために特別な不確実性係数を導入している。

 リスク評価に関する更なる作業はいくつかの分野で役に立つであろう。特に各国間で科学的情報を共有でき、政府の政策立案者にそれらが伝達されるならば、各国及び国際間の政策と計画は入手可能な最良の情報に基づくことができる。また、子どもの環境健康に関するもっと多くの毒物学的、及び疫学的調査を推進、支援し、いつ、どのように予防原則あるいは予防的アプローチを適用すべきかを検討する必要がある。



 1997年の宣言における鉛に関連するコミットメントについてはめざましい進捗が得られた。子どもの血中鉛濃度は著しく減少した。”鉛リスク削減に関する OECD 宣言”が実施されている。加鉛ガソリンを廃止するなど子どもの鉛への曝露を削減する措置が取られた。公衆に対する知識の普及のためのキャンペーンが実施された。調査計画が立案され実施された。

 しかし、空気中の鉛濃度削減は成功したが、飲料水については更なる努力が必要である。多くの G8 諸国では、古い建物では鉛配管が使われている。これらの配管は、予防または是正措置がとられないと、飲料水中の鉛濃度を高めることになる。
 その他の注目すべき鉛曝露の源は製品中、特に子どものおもちゃの中に見出される鉛である。

微生物学的に安全な飲料水

 G8 諸国だけに限らず多くの国々が飲料水中の微生物学的危険性のための規制、基準、あるいは指針を持っているが、多くの場合、子どもの環境健康は、規制、基準、あるいは指針を生じさせるリスク評価プロセスの中で明示的に考慮されていなかった。将来は、可能な限り子どもの環境健康が考慮されるようにすることが重要である。

 この分野で重要なその他のことは、発展途上国において子どものために安全で衛生的な飲料水を確保することの必要性である。カナダ、アメリカ、イギリスを含む G8 諸国のいくつかは、この分野について発展途上国を支援するプログラムの概要を設定した。

大気の品質

 フランスとイギリスを含む G8 諸国のいくつかは、1997年以来、ある汚染物質について大気中の汚染が改善されたと報告している。その他の国々も各種産業や運輸分野からの排出を規制する措置を実施中であると述べている。
 子どもの環境健康に関連する屋内空気品質に関する施策を述べたものは少ない。ドイツ環境局の ”屋内空気委員会” は子どもの健康を考慮したガイドラインを作成した。またアメリカは ”学校のツール” 計画を開発しており、現在は改定中で、カナダでも採用されている。
(訳注:Indoor Air - IAQ Tools for Schools EPAの学校用室内空気質(IAQ)ツールキット紹介
 及び旧版の当研究会による日本語訳


 G8 諸国の子どもたちは通常、その時間の大部分を屋内空気環境で過ごし、屋内空気環境は屋外空気に比べて特定の汚染物質については高い濃度なので、G8 諸国は屋内空気品質確保のための措置をとることが重要である。一方、”長期的国境を越えた大気汚染に関する国連 ECE 協定” の下でとられるべき措置を含む、屋外空気の品質改善も重要である。

環境的タバコの煙(ETS)

 現在、G8 諸国の多くは、家庭及び公共の場所での子どもの ETS への曝露を削減する措置を実施している。これらの措置には、既に喫煙している大人や若者に禁煙するよう働きかけること、若者が喫煙を始めることを防ぐこと、及び非喫煙者の ETS 曝露を減少する自主的及び法的措置をとることなどが含まれる。
 自主的措置にはイギリスの ”公共の場所憲章” 及び ETS の危険性を訴える宣伝キャンペーンがある。
 法的規制には地方条例が公共の場所での喫煙を禁じる、あるいは分煙施設を求めるなどがある。
 子どもの ETS 曝露を削減するために、現在実施している努力をさらに続ける必要がある。

内分泌かく乱化学物質(EDCs)

 EDCs 研究の国際目録は完成し、国際的な科学評価の開始が2ヶ月以内に発表されるであろう。多くの G8 諸国が評価に参加している。
 この科学評価の完了後に、G8 諸国やその他の国々は連携して研究戦略をたて、リスク管理及び汚染防止戦略に関して共同作業を行う。EDCs のリスクについて公衆とコミュニケーションをはかるために、多くの努力が必要である。

気候変動

 マイアミ宣言には気候変動に関し特にコミットメントはないが、既に述べたように、G8 諸国のいくつかは地球気候変動が子どもの健康に与える影響に目を向けた行動を起している。それらの中で主要なものとして、ドイツは気候変動に関する国家計画で、二酸化炭素の排出を2005年までに1990年レベルの25%減とする、イタリアは温室効果ガスの削減を京都議定書の要求に合わせるための国家戦略と目標を設定した、カナダは気候変動と子どもの健康に関するプロジェクトを支援している、などがある。

子どもの環境健康に関するその他の計画と施策

 G8 諸国は、子どもの環境健康に関する様々なその他の計画と施策を報告している。全ての国々はこの問題に関する国際行動に参画している。ワークショップや会議を組織し参加する、国際機関と連携する、残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs)などの国際条約への署名、批准、実施を行う、などである。
 日本やアメリカなど少数の国が子どもの環境健康に関連するプロジェクトへの公式支援を表明している。先進国と発展途上国における子どもの死亡率や発病率が大きく異なるという事実は、G8 諸国が将来なすべきこととして、発展途上国が子どもの環境健康を守るための十分な能力を持つことができるよう、多大な支援を行う必要があることを示している。

 G8 諸国はまた、子どもの環境健康に関する追加的な政府の政策、計画とプログラム、他の種類の活動、及び主要な科学的研究と監視について言及している。全体として、個々の国々は自国独自の必要性と事情に基づく対応を行う一方で、この問題に対する国際的な協力体制の必要性を示唆している。

将来計画

 殆どの国が子どもの環境健康に関する将来計画の概要を示している。これらの計画は、現在の施策の継続から革新的な新たな計画まで幅が広い。子どもの環境健康に関する組織的基盤を整備する、政府部内省庁間の連携を強化する、公衆の教育と活動の普及をはかる、国際活動に参加する、関係者を参画させる、研究、監視、調査を強化する、そして新たなリスク管理の施策を打ち上げる、などである。

 子どもの環境健康に関する G8 諸国の将来計画の特徴と範囲は、この問題を最も重要度の高い活動として認めていることである。



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