EHP 2010年12月 サイエンス・セレクション
子どものADHDにおける環境汚染曝露の影響比較
Julia R. Barret

情報源:Environmental Health Perspectives Volume 118, Number 12, January 2010
Science Selections
Parallel Outcomes: Comparing Effects of Environmental Contaminant Exposures with ADHD in Children
by Julia R. Barrett
http://ehp03.niehs.nih.gov/article/fetchArticle.action?articleURI=info%3Adoi%2F10.1289%2Fehp.118-a542a

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2010年12月11日


 最もしばしば子どもに診断される神経行動障害である注意欠陥多動症(ADHD)は、世界中で人口の5%以上に影響を与えている。ADHDの病因はよく分かっていないが、ADHDの子どもに見られる特徴はまた、鉛やPCB類に曝露した子どもや動物にも観察される。この問題に関する二つの文献レビューは、ADHD診断基準の概要を提供し、ADHDの子どもの行動テスト結果と、鉛又はPCB類に発達期に曝露した子どもと実験動物から得られた発見との類似性を精査した [EHP 118(12):1646-1653; Aguiar et al.; EHP 118(12):1654-1667; Eubig et al.]。著者らは、これらの環境汚染物質への曝露と可能性ある他の物質がADHDを増大させているかもしれないと結論付けている。注意力は、警戒能力(警戒し仕事に集中する能力)及び覚醒感(vigilance/持続的な警戒)に関連する。

 実行機能(executive function)は、ADHD 及び鉛又はPCB類への発達期曝露の両方の重要な特性である。実行機能(executive function)は、ワーキング・メモリー、反応抑制、認識能力の柔軟性(精神的にギアを切り替える能力)、計画性のような目標指向問題解決(goal-oriented problem solving)に重要な認識能力を包含する。

 ADHD は、強い遺伝的要素を持つが、他の神経発達障害と同様に、遺伝的、環境的、及び社会的要素の相互作用が関与するように見える。ADHD の子どもの神経画像研究は、前頭葉大脳皮質のような実行機能と注意力を司る脳内領域に改変があることを示している。カテコールアミン(訳注1)神経伝達信号における改変もまた ADHD の子どもに見られる。そのような信号は、潜在的に環境的毒素によるダメージに敏感である。

 鉛への発達期の曝露は広く研究されており、子どもの行動へはもちろん、認識機能へ負の影響をもたらすことが知られている。研究を通じて、認識能力の柔軟性、覚醒感、警戒は最も一貫して鉛による影響を受ける機能であるように見えるが、ワーキング・メモリー、反応抑制、及び計画性に負の影響の存在を示す証拠もある。いくつかの研究は、子どもの血中鉛濃度と ADHD の関連性を報告している。

 対照的に、研究者らは、PCB類への曝露と ADHD 診断との関係を精査し始めたばかりである。PCB類への発達期の曝露は、覚醒感への影響はあってもわずかであるあるが、ワーキング・メモリー、反応抑制、認識能力の柔軟性、及び警戒能力を含む認識機能には影響を与えることが知られている。動物研究はさらに、鉛とPCBは、前頭葉大脳皮質のドーパミン(訳注2)信号を減少させることができる。

 環境中及び体内では鉛とPCB類ののレベルは減少しているが、未だに公衆健康の問題である。ADHD 及びその他の神経発達障害におけるそれらの役割をよりよく理解することが必要であり、この知識は、臭素化難燃剤、ビスフェノールA、フタル酸エステル類、有機リン系農薬、ポリフルオロアルキル化学物質など他の環境化学物質の調査を実施するうえで有用であり、これらの化学物質の全ては最近の研究によって、ADHD に関係している可能性があることが示唆されている。


訳注1カテコールアミン - Wikipedia
カテコールアミン (Catecholamine) とは、チロシンから誘導された、カテコールとアミンを有する化学種である。多くの神経伝達物質等(アドレナリン、ノルアドレナリン、ドーパミン)及び関連薬物の基本骨格になっている。カテコラミンとも呼ばれる。

訳注2ドーパミン - Wikipedia
ドーパミン(英: Dopamine)は、中枢神経系に存在する神経伝達物質で、アドレナリン、ノルアドレナリンの前駆体でもある。運動調節、ホルモン調節、快の感情、意欲、学習などに関わる。



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る