エコロジーセンター From the Ground Up 2006年1/2月号
会議報告:有害化学物質の曝露から子ども達を守る

情報源:Ecology Center: From the Ground Up, February / January 2006
Protecting Children from Toxic Exposures
by Kate Skillman
http://www.ecocenter.org/200601/children_toxics_200601.shtml

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2006年3月9日


 ”子ども達の発達を環境中の化学物質の有害影響から守るためには、予防が一番である。”

 これが、昨年11月にミシガン大学で行われた医療専門家の集まりで述べられた主要なメッセージである。エコロジー・センターも主催者の一員として協力した会議 ”有害なやり方をやめる:ミシガンで有害物質による子ども達の発達への脅威を守る” では、子どもの脳の発達に対する化学物質の影響に目を向けた講演とワークショップが行われた。

 この会議には、全国から医療介護組織、公衆健康専門家、教育者、発達障害専門家、地域健康ワーカー、心理学者、助産婦、医学生、その他が参加した。

 消費者製品中でよく使われ、また、環境中や食物連鎖中に広く分布する多くの化学物質は子ども達の発達中の脳にリスクを及ぼすことがある。この会議は、神経毒化学物質が子ども達を害することを示す科学的な証拠を検証する”有害なやり方(In Harm’s Way)”と呼ばれるピアレビューされたカリキュラムに基づいている。水銀、鉛、PCB類、農薬、難燃剤、及び溶剤など、すでに知られている神経毒化学物質に関する重要さ、予防の機会、及び、子ども達がいかに脆弱であるかについて議論が行われた。

”発達毒性に関する情報は、高生産量(HPV)化学物質、又は最もよく使用される化学物質の
20%以下しか公開されていない。”
マウント・サイナイ大学医学部 レオ・トラサンド博士

 参加者らは、アメリカ小児学会、社会的責任を負う医師たち(Physicians for Social Responsibility)、ボストン医療センター、コロンビア大学、ウェイン州立大学医学センター、及び、産業化学物質と子どもの被害との関連に関する広範なデータを提供したその他の専門家らから話を聞いた。

 午後のワークショップでは、発達障害団体のための有害物質への曝露を削減する戦略、学校、及び家庭での有害物質への曝露に対する実際的な予防、公衆健康推進者としての健康専門家、子どもの発達に関する食物、魚、及び栄養の影響、そして、有害物質予防を医療に統合することの重要性等に関する話題が討議された。

予防原則

 何人かの後援者らは、子ども達への危険性に関する方針決定において、危害についての合理的証拠がある時には、たとえ原因と結果の因果関係が完全には理解されていなくても、予防的アプローチがとられるということに言及した。最も脆弱なグループを保護するために、我々は子ども達が被害を受ける前に行動を起こす必要があり、又は基調講演を行ったレオ・トラサンド博士が述べたたように、子ども達が毎日曝露している最も一般的に使われている化学物質の毒性ガイドラインを確立する時には、”有害性が示されていないことは無害であることの証明ではない”とする原則を適用すべきである。このアプローチは、化学物質の製造者又は製品の製造者に対し、化学物質や製品の基本的なテストの実施責任を負わせるものである。

 市場に出ているほとんどの化学物質は子ども達やその発達に与える影響についてのテストは行われていない。発達毒性に関する情報は高生産量(HPV)化学物質又は最もよく使用される化学物質の20%以下しか公開されていないとマウント・サイナイ大学医学部の医師レオ・トラサンド博士は述べた。彼は、特に子ども達に対する毒性ガイドラインを確立する時が来たとして有害物質政策の変更を強く要求した。

 子ども達は、いくつかの理由により大人に比べて有害物質を原因とする病気になるリスクが大きいとトラサンド博士は指摘した。生理学的に小さなサイズ、組織が未発達、急速な成長と発達などが子ども達の脆弱性を増大させる。大人に比べて子ども達は体内の有毒物質を解毒する能力が小さい。また、子ども達は地面に接触して遊び、手を口にしばしば持っていくが、そのことは両方とも有害物質が体内に容易に入る曝露経路となる。最後に、子ども達は大人に比べて生きる時間が長いので、有害物質に曝露する時間が長く、より大きなリスクに曝される。

”この会議の多くの講演者は有機農産物を食べることの重要性を指摘した。”

 トラサンド博士はまた、今日、子ども達の入院や死亡の大部分は慢性疾患のためであると述べた。がん、先天性欠損症、神経発達系疾病、及び肥満を含む慢性疾患の医学的理解と治療はまだ始まったばかりであるが、環境はこれらの疾病の発生に重要な役割を果たしているかも知れない。一例として、白血病とある先天性障害は環境中の有害物質と強く関連していることを示す証拠が新たに出現している。小児がんは放射性物質、溶剤、及び農薬への曝露とある程度関連している。もうひとつの広範囲に発生している事例は大気汚染と子どもの悪性ぜんそくとのよく知られた関連である。

有害物質の脅威

 会議で議論された多くの化学物質は既にメディアからは注目されている。鉛、水銀、PCB類(ポリ塩化ビフェニル:1970年代に禁止されたが、現在でも魚、肉、及びチーズなど様々な食物中に存在する)、農薬、及び溶剤は誰の健康にとっても危険であるが、子ども達は特に影響を受けやすい。

 例えば、鉛は子どもの免疫系と神経系に影響を与え、発達障害に関連している。それはまた、反社会的行動や低レベルの知能にも関連することがある。一般的に子ども達は、鉛には、経口摂取を通じて、大部分は鉛を含む塗料から発生する鉛ダスト通じて曝露するが、汚染された食物や水、又は石油精製所や鉛精錬所の近くでの大気吸入を通じても曝露する。

 水銀は、多動症、聴覚視覚障害の形で発達障害を引き起こす可能性があり、また脳と腎臓を損傷する。水銀曝露は魚、特にサメやメカジキなどの大型の魚の摂取を通じて曝露することがある。また、火力発電所からの排出や、家庭での破損した蛍光灯や温度計からも曝露する。

 PCB類への主要な曝露経路は動物の肉であるが、それは我々の食物連鎖がいまだにこの汚染物質によって汚染されているからである。屋内ダストは、まだ検証中ではあるが、臭化難燃剤への曝露の最も重要な経路である。農薬曝露は非常に一般的である。ほとんどの子ども達は、家庭、学校、庭で、そして農薬が残留している農産物やその他の食物を通じて、農薬を体内に取り込んでいる。

胎児期さらには妊娠前の影響

 胎児期の健康もまた会議で議論された懸念ある領域である。今日、妊娠している母親は飲酒や喫煙はアルコールやニコチンが胎児に影響を与えるのでよくないことを知っている。しかし、アルコールやタバコだけが懸念ある有害物質というわけではない。農薬、ベンゼン(ガソリンなど多くの製品中に見られる一般的な溶剤、及び放射性物質への胎児の曝露は、後の小児がんの原因となり得る。成人女性には必ずしも影響を与えない有害物質への曝露も胎児に伝えられる可能性があるが、胎児の体は大人と同じような解毒力を持っていない。

 会議の何人かのパネリストは、妊娠前の女性の有害物質への曝露でも、体内に有害物質が留まる時間が長いので、妊娠した時に胎児に影響を与えるということを示した。この理由のために、有害物質への曝露の防止は子どもだけでなく妊娠可能年令の女性にもまた重大なことである。

 有害物質からの保護を効果的に行うためには社会全体の取組が必要である。アメリカ小児学会ミシガン支部リチャード・マーチン博士はこの点を強調し、妊娠中又は授乳中の母親が有害物質に暴露すれば、赤ちゃんも同じように曝露することは避けられないとして、”我々は全て、これらの物質を体内に持っており、もっと気づかう必要がある”−と述べた。

予防戦略

 トラサンド博士によれば、”予防は治療”である。この会議の多くの講演者は有機農産物を食べることの重要性を指摘した。有機果物や有機野菜を食べること、又は、もし有機農産物が入手できなければ、少なくても果物と野菜はよく洗うか皮をむくことは、摂取する農薬のレベルを低減する。その他の食事での予防も重要である。マーチン博士は、”脂肪分の多い肉製品、特にファース・フードの摂取を減らすことは肉の脂身に蓄積しているPCB類のような化学物質を回避し、また、心臓疾患やその他の肥満関連疾病のリスクを低減することを意味する。魚に関する調査情報をよく見ることによってもまた、曝露を低減することができる”−と述べている。

 鉛と水銀への曝露の予防もまた食事を通じて実現できる。健康な食事を維持することで子ども達の発達中の脳への鉛の影響を低減することができる。水銀曝露を低減するためには、水銀含有量が少ないことが分かっている魚を食べ、また、マグロの缶詰の水銀レベルについても用心する必要がある(『 From the Ground Up,2005年11/12月号』の記事”店頭で購入した魚から高レベルの水銀を検出”を参照のこと)。

 コストが合理的で効果が有効な統合有害生物管理は、非有害物質を使用する代替の実施であり、特に子ども達が遊ぶ学校と公園で推進されるべきである。鉛塗料からの曝露を減らすための措置は鉛中毒を防ぐために重要である。鉛塗料が禁止された1978年以前に建築された家屋は、鉛塗料を含むリスクがより高い。

 トラサンダ博士はまた、都市計画の重要性にも着目している。肥満とその他の子ども健康問題を低減するために健康を配慮した都市環境を構築して、歩行と運動の文化を支えるべきである。肥満は体の脂肪中に有害化学物質を蓄積するので問題であるが、それ以外にも、肥満は慢性疾病の原因となり問題がある。

会議の支援団体

 この会議は下記の団体によって支援された。
エコロジーセンター、アメリカ小児学会ミシガン支部、ミシガン州医学協会、アメリカ精神遅滞協会、社会的責任を負うグレート・ボストンの医師達、マウント・サイナイ大学医学部子ども健康環境センター、20以上のミシガン州を拠点とする地域及び公共健康機関、協会、及び組織、環境団体、大学、カレッジ、学校、及びミシガン大学公衆健康学部環境健康科学科を含む研究所


関連リンク

  • To access the “In Harm’s Way” report, visit http://psr.igc.org/ihw-project.htm

  • For more information about common toxics in the home, see the April/May 2005 issue of From the Ground Up. All back issues are available at http://www.ecocenter.org

  • The Web site for the Center for Children’s Health and the Environment at Mount Sinai School of Medicine, http://www.childenvironment.org, has many helpful links for concerned parents.

  • To find out what kinds of fish are safe to eat these days, see the Michigan fish advisories; and for national fish information, see http://www.mercuryaction.org, a Web site sponsored by Physicians for Social Responsibility.

  • Information on pesticides and less toxic ways to control pests can be found at http://www.beyondpesticides.org/.


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