IPEN 2023年10月21日
子どもたちのおもちゃか、それとも有害廃棄物か?
研究により、10か国のプラスチックおもちゃには高濃度の
有害な塩素化パラフィンが含まれていることが判明
いくつかのおもちゃには高レベルの化学物質が含まれており、
有害廃棄物として認定される可能性がある

情報源:IPEN, 21 October 2023
Children’s Toys or Hazardous Waste?
https://ipen.org/news/children%E2%80%99s-toys-or-hazardous-waste

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
https://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2023年10月30日
このページへのリンク:
https://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kodomo/IPEN/
231021_IPEN_Childrens_Toys_or_Hazardous_Waste.html

 IPENとその加盟組織の内の 10か国からの団体が本日発表した調査結果から、子ども用のプラスチックおもちゃには驚くほど高濃度の有害化学物質である塩素化パラフィン類(訳注1)が一般的に含まれていることが明らかになった。 研究のためにテストされた31個のおもちゃ全てに、がん、発達中の脳損傷、内分泌かく乱、肝臓と腎臓の損傷、生殖に関する健康への脅威に関連する有害な化学物質(訳注3)である短鎖及び中鎖の塩素化パラフィン類( short- and medium-chain chlorinated paraffins/SCCP 及び MCCP)(訳注2)が含まれていることが判明した。

 おもちゃはベナン、ブルンジ、カメルーン、コンゴ民主共和国、インド、マレーシア、マリ、フィリピン、ウガンダ、米国で購入された。テストされた全てのおもちゃには SCCP 及び MCCP の両方が含まれていたが、SCCP は 2017年にストックホルム条約に基づいて世界的に禁止されている(訳注4)。MCCP は現在、世界的な禁止の可能性について評価されており、証拠はそれらが同様に有害であり、同様に世界的な禁止が妥当であることを示している。 いくつかのおもちゃには、有害廃棄物中の化学物質の量を制限する現在の提案を超えるレベルの SCCPが含まれており、これらのおもちゃは健康保護ガイドラインの下では有害廃棄物とみなされる可能性があることを意味している。

 ”我々は、子どもたちのおもちゃにこれらの非常に有害な化学物質が含まれていることに気づき、非常に動揺した。多くのプラスチックには有害な化学物質が含まれており、我々の研究では、これらの化学物質が子どもや家族が使用する製品に含まれて家庭に入り込む可能性があることが示されている”とマリの民間イニシアチブの評価と促進を支援するNGO(NGO AVPIP)のクヤテ・ゴンド・シソコは述べた。 ”業界はプラスチックでの有害化学物質の使用をやめなければならない。我々の子どもたちには安全なおもちゃが与えられるべきだ。”

 塩素化パラフィンは、プラスチックをより柔らかくし、柔軟性を高めるため、また難燃剤としてプラスチックに使用される。 これらは世界で最も危険で生産量が多い化学物質のひとつつである。 塩素化パラフィンはそのライフサイクルを通じてプラスチックから放出され、子どもたちがおもちゃで遊ぶときに、皮膚への接触、吸入、粉塵、摂取を通じて塩素化パラフィンにさらされる可能性があることが証拠で示されている。 最近の研究によると、現在の塩素化パラフィンへの暴露レベルはすでに人間の健康への悪影響と関連している可能性がある。

 SCCP が禁止された後、MCCP も同様に有害である可能性が高いにもかかわらず、産業界は大幅にプラスチックの SCCP を MCCP に代替していることを示す証拠がある。 IPEN の研究結果は、ある有害な脅威が別の有害な脅威に置き換わる危険な (いわゆる「残念な」) 事態を避けるために、化学物質を数十年にわたってひとつづつ制限するのではなく、クラスごとに制限することの重要性を示している。 SCCP が禁止されても、健康と環境のリスクにもかかわらず、許可される免除もあった。

 ”今日の結果は、免除を許可すると有害な脅威が継続的に発生する可能性があることを示す警告である”と、報告書の共著者である IPEN 科学顧問テレーズ・カールソンは述べた。”我々の研究は、危険な代替品が子どもたちや家族に何年にもわたって継続的な化学物質の健康上の脅威をもたらす可能性があることも示している。 我々の子どもたちは安全な製品を何十年も待つことができない。 我々の子どもたちの健康と将来の世代の健康のために、有害化学物質の使用を今すぐにやめなければならない。

 本日発表された結果は、プラスチックのライフサイクル全体にわたるラベル表示とトレーサビリティ(追跡可能性)の重要性を示している。調査されたどのおもちゃにも有害化学物質の存在を示すラベルは貼られていなかった。 さらに、本日発表された研究による世界規模の試験結果は、プラスチックによる化学物質移動の地球規模の特性を反映している。これまでの研究で、北極などの遠隔地を含む世界中の環境で塩素化パラフィンが発見されている。

 ”私は塩素化パラフィンの製造業者によって汚染されたオハイオ州のコミュニティで育った。私の町にある彼らの施設は現在、全米で最も汚染された場所のひとつであるスーパーファンドのサイトに指定されている”と有害物質に関するアラスカ・コミュニティ・アクション(ACAT)事務局長で、IPEN 共同議長、そして今回の研究の共著者であるパメラ・ミラーは語った。”アラスカ人として、私は北極を含む最も辺鄙な地域にまで有害化学物質が拡散しているのを直接目撃した。 プラスチック汚染による化学物質の世界的な拡散を考えると、プラスチックによる化学的脅威を終わらせ、有害物質を含まないより安全な材料を促進するための世界的な政策解決策が必要である。”

 テスト用のおもちゃの購入に参加した IPEN 加盟 10 組織 は以下の通りである。
  • Jeunes Volontaires Pour L'Environment (JVE Benin) - Benin Action pour l’Ecologie le Developpement et l'Amangement Durable (ACECODAD) - Burundi
  • Cameroonian Association for the Promotion of Sustainable Development (CAPSUDGO) - Cameroon
  • African Green Society (AFRIGRES) - Democratic Republic of Congo
  • Gramin Vikas Evam Paryavaran Samiti (GVEPS) - India
  • Consumers' Association of Penang (CAP Malaysia) - Malaysia
  • Appui pour la Valorisation et la Promotion des Initiatives Privees (AVPIP) - Mali
  • Ban Toxics - Philippines
  • Pro-biodiversity Conservationists In Uganda (Probicou) - Uganda
  • Alaska Community Action on Toxics (ACAT) - USA
報告書全文:ここをクリック


訳注1:塩素化パラフィン(ウィキペディア

  難燃性、疎水性、可塑性、絶縁性、金属に対する高圧下での潤滑性を有し、安価であることから難燃剤、ポリ塩化ビニル用可塑剤、潤滑油添加剤などとして利用される。

 毒性と難分解性、生物濃縮性が高いことから、アメリカ合衆国では有害化学物質排出目録制度に基づき、1995年より事業者に移動排出量の報告が義務付けられている。欧州連合では1999年のリスク評価の結果、2004年以降金属加工と皮革産業での使用が禁止された。

 日本でも化審法に基づき、2005年2月に第一種監視化学物質に指定された。国際的にも残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)による規制が検討されていた。国際がん研究機関は炭素数12、塩素化率60%の塩素化パラフィンのヒトへの発がん性について Group2B(ヒトに対する発癌性が疑われる)と評価している。

 その後、2017年に「塩素の含有量が全重量の48パーセントを超える短鎖塩素化パラフィン」を POPs 条約の附属書A(廃絶対象)に追加することが決定され、これを受けて日本でも2018年10月1日に化審法の第一種特定化学物質に指定された(なお、化審法では施行令により「ポリ塩化直鎖パラフィン(炭素数が10から13までのものであって、塩素の含有量が全重量の48パーセントを超えるものに限る。)」と定義されている)。

 欧州連合では炭素数14から17の中鎖塩素化パラフィン(MCCPs)についてもRoHSによる規制を行うべきかコンサルティング・ファームへの諮問が行われていたが、2021年3月22日に公開された最終報告書で「附属書IIへの追加(=規制物質への指定)を推奨する」と結論された。

訳注2:塩素化パラフィン(SCCPs と MCCPs) 化学物質情報シート

 短鎖塩素化パラフィン(SCCPs)は、炭素原子が 10から 13のチェーンの長さを持つ塩素化炭化水素の混合体で、塩素の含有が 40〜-70% のものです。
 中鎖塩素化パラフィン(MCCPs)は、炭素チェーンの長さが 14 から 17 の塩素化炭化水素の混合体で、同様に、塩素含有 40〜-70% のものです。

訳注3:IPEN 報告書中での引用

ARE YOUR CHILDREN'S TOYS HAZARDOUS WASTE?
HIGH LEVELS OF CHLORINATED PARAFFINS IN PLASTIC TOYS FROM TEN COUNTRIES
IPEN, October 2023

(Page 8)
CHLORINATED PARAFFINS ARE TOXIC, BIOACCUMULATIVE, PERSISTENT AND UNDERGO LONG-RANGE TRANSPORT
Through the evaluation of scientific studies, the POPRC concluded that both SCCPs and MCCPs are persistent, bioaccumulative, toxic and that they undergo long-range transport.
Studies have shown that that chlorinated paraffins may cause damage to the liver and kidneys, disrupt theendocrine system, cause cancer, and are neurodevelopmental and reproductive toxicants (as reviewed in Wang et al. 2019, Mu et al. 2023, UNEP/POPS/POPRC.11/10/Add.2 & UNEP/POPS/POPRC.18/11/Add.3).

訳注4:短鎖塩素化パラフィンの有害性
デカブロモジフェニルエーテル及び短鎖塩素化パラフィンの分解性、蓄積性及び毒性等について (経済産業省 参考資料 3

 平成 29 年4月に開催されたストックホルム条約第8回締約国会議において、新たにデカブロモジフェニルエーテル及び短鎖塩素化パラフィンを附属書Aに追加することが決定された。これら3物質群については、残留性有機汚染物質検討委員会により、難分解性、生物蓄積性、毒性及び長距離移動性を有する残留性有機汚染物質としての要件を満たすことが、既に科学的に評価されている。−短鎖塩素化パラフィンの有害性の概要 別添 2



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