グランジャン博士のウェブサイト
Chemical Brain Drain - News 2014年1月17日
知らない時はどうするか?

情報源:Chemical Brain Drain Website - News
What do you do when you don't know?, 17 January 2014
By Philippe Grandjean, MD
http://braindrain.dk/2014/01/what-do-you-do-when-you-dont-know/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2014年2月1日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kodomo/CBD/What_do_you_do_when_you_don't_know.html

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 【2014年1月17日】 一週間前、アメリカのウェスト・バージニア州カーナ・バレーで数千ガロンのMCHMと呼ばれる石炭処理化学物質が貯蔵タンクから飲料水供給系に漏れ出した(訳注1)。州当局はすぐに、州都チャールストンを含む地域に自治体の水を使用することについて警告を発した。数時間以内に、地域の店からボトル詰飲料水が全て売り切れた。数日間でこの漏洩により、レストランや事業者とともに30万人の住民が代替の水源に依存することを余儀なくされた。

 どうしてこのような大きな化学物質漏洩が起きたのか?現在までのところ、ほとんど詳細は公表されていないが、具合の悪いことがいくつかあった。タンク施設は1991年以来、検査を受けていなかった。実際に、貯蔵タンクは、化学物質製造施設やプロセス施設のように、検査することが求められていなかった。会社の保守と安全管理は明らかに不十分であったが、誰も事故が起きてしまうまでチェックをしなかった。この漏洩は、地域の住民が不愉快な臭いがすると不平を訴えて発見されたが、、その化学物質が何なのかを決定する方法はなく、日常的なテストもなされていなかった。

 ケミカル・バレー(化学物質の谷)とも呼ばれるカーナ・バレーの水供給系は、多くの化学産業による化学物質汚染が既に強く疑われていることが知られていた。緊急事態の備えは? ほとんどなかった。しかし、 MCHM は、連邦政府の法律では”きわめて有害な化学物質”として分類されておらず、したがって当局は、適切な緊急時計画を立てておくことを求められていなかった。

 このニュースが流れると、混乱が広まった。誰も MCHM(4-メチル-1-シクロヘキサンメタノール)の可能性あるリスクについて何も知らなかった。州の異常事態宣言がこの化学物質の漏洩で影響を受けた9の郡で発令された。それから連邦政府専門家との協議の後、MCHMの1ppmという低濃度ならウェスト・バージニア州民が飲んでも安全であるということになった。しかし、当局は、この物質の毒性情報も規制ガイドラインも健康基準もないのにこの数値をどのようにして算出したのか説明することを拒否した。

 利用できる唯一の情報は、体重1キログラムあたり825ミリグラムの用量で暴露したラットの半分が死ぬというMCHM製造社イーストマン(Eastman)からの秘密報告書であった。その発表された文献は、物質、可能性ある長期影響、可能性ある脳汚染を含んで人の発達期の毒性に関する情報が欠けていた。環境防衛基金(Environmental Defense Fund)の毒性学者リチャード・デニソンは彼のブログの中で、ウェスト・バージニア州当局は、住民への水供給の復旧を急ぐあまり、”当てにならない科学(shaky science)”を信じていると苦情を述べた。この化学物質に関して健康データは利用可能ではなく、したがって我々は長期的影響について知識がないのだから、有害影響を受けなかったと聞いたとしても安心できるかどうかわからない。

 この事件はまた同時に、アメリカの化学物質規制法に存在する抜け穴を暴露している。実際に、問題は1976年の有害物質規制法(TSCA)にまでさかのぼることができる。それが制定されたときに、既に使用されていた多くの化学物質は規制の対象から外された。これらの全ての物質には”既得権”が与えられ、 ”安全である”とみなされた。これは大きな間違いであった。

 1月15日夕方遅く、ウェスト・バージニア州当局は最終的に、MCHMがもはや検出されなくなくなるまで妊婦はこの水を飲むべきではないと決定した。当局によれば、この決定は、米・疾病管理予防センターとの協議に基づき、”十分な予防(abundance of precaution)”の下になされた。この十分な予防は少し遅すぎた。

 ”これは、あなたのコミュニティであり、あなたの権利であり、あなたの水である”と、消費者運動家エリック・ブロコビッチは今週初めに開かれた地域の会合で述べた。そのとおりであり、そしてあなたの子どもたちと彼らの脳は、有害物質とともに、”未知”の化学物質から保護されるに値する。


訳注1


化学物質問題市民研究会
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