C&EN ニュース2011年1月5日
母親から子どもに伝わる汚染物質

情報源:C&EN January 5, 2011
Pollutants' Passage From Mother To Child
http://pubs.acs.org/cen/news/89/i02/8902news1.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2011年1月11日


 有害物質:研究者たちは、母親が87の環境汚染物質をいかに効率的に胎児に伝えるかを見極めている。  研究者の国際チームは、母親が87の一般的な環境汚染物質をいかに効率的に子どもに伝えるか、初の数量化を行った。その結果、母親の血液中の汚染物質濃度とその胎児の汚染レベルを関連づける方法が明らかになったため、胎児と乳児にとって有害な化合物を規制当局者が突き止めることができるようになるかもしれない(Environ. Sci. Technol., DOI: 10.1021/es1019614) 。

 胎盤は胎児を有害化合物から守るのにかなり有効であると研究者はこれまで考えてきた、とハーバード大学公衆衛生大学院のPhilippe Grandjeanは述べている。最近では、妊娠中および授乳中の母親から環境汚染物質がその子どもに伝わり、こうした暴露によって子どもの神経発達、生殖発生、免疫学的発達、呼吸器の発達、代謝の発達が阻害される可能性があるということが研究者により立証されてきている。

 現在行われている研究の一環として、Grandjeanとその同僚らはノルウェーとアイスランドの間に位置するフェロー諸島に住む妊娠中の母親たちから、母体血、母乳、臍帯血、臍帯組織、胎盤組織のサンプルを採取した。フェロー諸島の伝統食品にはゴンドウクジラの肉や脂肪などがあり、これらはメチル水銀やポリ塩化ビフェニル(PCBs)といった残留性汚染物質の含有量が高い。Grandjeanの研究チームは、米国疾病管理予防センター(CDC)が定期的に計測管理している化学物質が採取したサンプル中に存在するかどうか分析した。

 その結果分かったことは、母親の血液中の汚染物質と、母乳や臍帯血など子どもに影響を及ぼす媒体の汚染物質濃度との間には関連があるということである。こうした関連性から、研究者は胎児暴露を評価するために、母親の血液や母乳を利用することができるということが示唆される、とGrandjeanらは結論づけている。

 母親の血液や母乳の汚染物質濃度と臍帯血や臍帯組織に含まれる汚染物質の量を比較することによって、研究者は母親と胎児における汚染物質の濃度比を計算した。例えば、PCBsやポリ臭素化ジフェニルエーテル(PBDEs)、塩素系農薬といった有機ハロゲン化合物の母体血清中濃度は、臍帯血清中濃度の1.7倍、臍帯・胎盤組織中濃度の2.8倍であることが分かった。

 この研究によって、ヒトの胎盤関門を容易に通過するがゆえに更なる研究が必要とされる化合物が特定された、と米国立環境衛生科学研究所のLinda Birnbaum所長は述べている。こうした化合物のひとつである低分子量PCBsは、胎児からのサンプルにおける濃度が母体血清中濃度の3倍にもなることがあった。

 女性が化合物に暴露することによってその子どもに悪影響が及ぼされる可能性を抑制しようとするのであれば、政策立案者はこの研究結果について考慮しなければならない、とジョージ・ワシントン大学公衆衛生健康サービス学部長のLynn Goldmanは述べている。

 共同研究者の1人であるCDCのLarry Needhamは、10月23日に腎臓がんで亡くなった。



化学物質問題市民研究会
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