UNDARK 2021年4月12日
米フロリダ州フロリダキーズで
GMO 蚊が初めて放出される

テイラー・ホワイト

情報源:UNDARK, April 12, 2021
First GMO Mosquitoes to Be Released In the Florida Keys
By Taylor White
https://undark.org/2021/04/12/gmo-mosquitoes-to-be-released-florida-keys/

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2021年4月22日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_21/210412_UNDARK_
First_GMO_Mosquitoes_to_Be_Released_In_the_Florida_Keys.html



 EPAは、この春に放出されるオキシテック社(Oxitec)の蚊を承認した。 一部の科学者や地元の人々は、その展開を中止させたいと考えている。

 この春、バイオテクノロジー企業のオキシテック社(Oxitec)は、フロリダキーズ(訳注:フロリダ州にある細長い列島:ウィキペディア)で遺伝子組み換え(GM)蚊を放出する予定である。 オキシテック社はその技術をもって、主にネッタイシマカ/Aedes aegypti(訳注:ウィキペディア)によって感染する、生命を脅かす可能性のあるデング熱や、ジカ熱(訳注:感染しても症状が軽い)などの他の蚊媒介性ウイルスと戦うと述べている。
 米国疾病管理予防センターによると、2010年から 2020年の間に米国で 7,300を超えるデング熱の症例が報告されているが、その大部分はアジアとカリブ海で感染している。しかし、フロリダでは、2020年に 41件の旅行関連の症例があったが、現地で伝染したのは 71件であった。

 フロリダの在来の蚊は最も一般的な防除形態である殺虫剤に対してますます抵抗力をつけているので、科学者たちは昆虫とそれらが運ぶ病気を防除するための新しい、より良い技術が必要だと言う。”我々は他にツール持っていない。蚊帳は機能しない。ワクチンは開発中であるが、完全に効果的である必要がある”と、オックスフォード大学の数理生物学者であるマイケル・ボンソールは述べている。彼は、オキシテック社とは提携していないが、過去に同社と協力しており、世界保健機関と協力して GM 蚊検査フレームワークを形成した。

 ボンソールと他の科学者は、病気の負担を減らすためにアプローチの組み合わせが不可欠であり、おそらく GM 蚊のような新しい考えをその組み合わせに追加する必要があると考えている。たとえば、オキシテック社の蚊は、会社が”自己制限(self-limiting)”遺伝子と呼んでいるものを子孫に渡すように遺伝子組み換えがなされている。放出された GM 蚊のオスが野生のメスの蚊と繁殖すると、結果として生じる世代は成虫になるまで生き残れず、全体の個体数が減少する。

 しかし、オキシテック社は 2011年からキーズで GM 蚊を実験的に放出することを提案しており、その計画は地元の人々の間で疑惑があり、科学者の間で議論されてきた。一部の地元の人々は、モルモットになることを恐れていると言う。批評家は、GM 蚊が人間の健康や環境に及ぼす可能性のある影響について懸念していると述べている。 2012年、キーウェスト市委員会はオキシテック社の計画に反対した。 4年後の拘束力のない国民投票で、本来なら蚊が放出されたはずのキーヘブンの住民はそれを拒否し、周辺の郡の住民は放出を支持する投票をした。フロリダキーズ蚊防除地区委員会に決定が委ねられたため、当局は、キーズの他の場所で行われる裁判を承認した

 オキシテック社によると、プロジェクトの管轄権が米国食品医薬品局から環境保護庁に移管されたため、放出は延期された。

 同社は、キーズで OX5034 と呼ばれる新しいバージョンの蚊をリリースするための承認を再申請した。 5月、EPAは 2年間の実験的使用許可を付与したが、これは EPA がいつでも取り消すことができる。地方の承認がすぐに続き、最終的にプロジェクトに青信号を与した。


 オキシテック社は、2011年からキーズで GM 蚊を実験的に放出することを提案しているが、その計画は長い間疑いをもたれていた。
 オキシテック社の OX5034 蚊は、米国での放出が承認された最初の GM 蚊である。同社はすでにブラジルで OX5034 蚊の試験を実施しており、OX513Aと呼ばれる以前のバージョンの蚊を10億匹以上を、ここやケイマン諸島を含む他の場所で長年にわたって放出している。同社は、技術の有効性と安全性に自信を持っていると述べている。

 しかし、一部の科学者は、彼らが言うことが蚊の放出を決定する際のより公正なプロセスであるということを見極めるために、オキシテック社のフロリダでの試みを一時停止させたいと考えている。他の人々は、この技術がさらに必要であるというより明確な証拠を見たいと考えており、同社は最も疑いのないなデータを公開しただけであり、蚊が病気の伝染を抑制するかどうかなど、他の重要なデータを非公開にしたと主張している。また、リリースが実際に計画どおりに開始された場合、キーズの一部の居住者は妨害するつもりだと述べている。

 批評家はまた、オキシテック社がフロリダの地域社会と関わり、蚊を放つことに同意を得られなかったと言う。 ”最も腹立たしいのは、そのような決定のメリットまたはリスクの両方によって最も影響を受ける人々が、これらの選択がどのように行われるかについて、積極的に発言しないことである。それは本当に大きな問題だと思う”と、遺伝子工学の使用を”包括的意思決定プロセスのために”提唱するプラットフォームである編集自然を創設した分子生物学者で生命倫理学者のナタリー・コフラーは言う。 ”オキシテック社がこれを正しく行わない場合、将来、そのような他の有益なテクノロジーの使用を遅らせることに大きな影響を与える可能性がある”と彼女は付け加えた。

 オキシテック社の OX5034蚊は、地元のネッタイシマカの個体数を抑制することにより、蚊が媒介する病気の伝染に対抗するようにプログラムされていいる。米国が所有し、英国に拠点を置くオキシテック社は、彼らの蚊は「友好的」であると説明している。これは、メスとは異なり、人間を噛んだり病気を感染させたりしないオスのみを放出するためである。

 英国のオキシテック社の研究所では、同社は蚊を遺伝子操作し、昆虫に”自己制限”遺伝子を与えて、メスを抗生物質テトラサイクリンに依存させている。同薬がなければ、メスは死ぬ。オスとメスの両方に孵化する、これらの遺伝子組み換え蚊からの卵は、キーズに送られる。蚊は卵から成虫に成長するために水を必要とする。オキシテック社のチームが卵が入れられた箱に水を加えると、GM オスと GM メスの両方が孵化する。しかし箱の中にテトラサイクリンが存在しないため、GM のメスは幼虫の初期段階で死亡すると予想される。

 オスの蚊は生き残り、遺伝子を運ぶ。 オキシテック社の規制担当責任者であるネイサン・ローズによると、箱を離れると、蚊は飛んで行って野生のメスと交尾し、遺伝子を次の野生の世代に引き継ぐという。同社の最高開発責任者であるケビン・ゴーマンは、地元のメスの蚊の個体数は次第に減少し、当該地域の野生のオスの蚊の数もまた減少すると述べている。

 ゴーマンは、EPAや他の規制当局が、遺伝子組み換え蚊の繁殖にテトラサイクリンを使用することにリスクがないことを Undark に強調した。しかし、一部の科学者は、環境中のこの抗生物質の存在がリスクをもたらすと考えている。ノースカロライナ州立大学の遺伝子工学および社会センターの共同創設者であり共同ディレクターであるジェニファー・クズマによると、テトラサイリンは、下水中によく見られ、フロリダでは農業、特に柑橘類の果樹園において細菌感染を予防するために一般的に使用されおり、これらの目的で抗生物質を使用すると、環境、特に蚊が繁殖する水中にその抗生物質が残り、オキシテックのメスの蚊が生き残る可能性がある。同社は同抗生物質が使用されている地域の近くで蚊を放出する予定はないが、クズマは、EPAのリスク評価には当然なされるべき注意義務であるテトラサイクリンの滞留水のテストは含まれていなかったと言う。

 ”最も腹立たしいのは、そのような決定のメリットまたはリスクの両方によって最も影響を受ける人々が、これらの選択がどのように行われるかについて、ほとんど声をあげていないことである。それは本当に大きな問題だであると思う”」とコフラーは言う。”

 オキシテック社の GM 蚊の懐疑論者には、地元住民、医師、科学者、環境活動家が含まれる。これらの反対者の多くは、彼らは反 GMO ではないと言ってるが、承認プロセスがどのように処理されているかについては同意していない。あるグループは、最初に実験的なリリースを開始して以来、オキシテック社の不当行為と見なされるものの実行リストを保持している。このリストには、蚊を放出した国でオキシテック社が疾病監視をしていないこと;その技術の未知の対価(犠牲);そして、同社がその試験のいくつかの成功を誇張している;という不満が含まれている。

 ”私はこの会社を信頼できないし、その技術も信頼できない”と、キーラーゴ(Key Largo)の住民であり、オキシテック社の計画を 9年間追い続けているマラ・ダリーは、と述べている。

 ”これは伝統的な農薬ではない”と彼女は付け加える。”これは追跡できる化学物質ではない。これはまったく異なる新しい技術であり、より良い規制が必要である。”

 モンロー郡内で蚊の駆除を実施する独立して選出された委員会であるフロリダキーズ蚊駆除地区(FKMCD)の会長であるフィル・ゴッドマンは、オキシテック社の証拠を信用しない人々の多くは技術を理解していないと述べている。”彼らは恐れを抱いている”と彼は言う。

 ”私に関する限り、フロリダキーズでは彼らの私への信頼はほとんどない”と彼は付け加える。

 しかし、ダリーやフロリダキーズ環境連合の事務局長であるバリー・レイのような人々は同意しない。 ”我々はそれが安全であることを知りたいのである”とレイは言う。彼のグループはより一般的に GM 技術をサポートしていると述べている。”フロリダキーズの生態系は他にない。フロリダキーズの地域社会はは他にない。我々にとって唯一のものだ。”

 ダリー、レイ、及びその他の人々は、彼らがフロリダキーズ蚊駆除地区委員会(FKMCD)の世論軽視を認識していることを指摘している。彼らは、地域社会が EPAの承認前に同意する機会を与えられていなかったと主張する。 2019年 9月にオキシテック社の技術応用に関する 30日間の公開討論会があり、放出に反対する 31,174件のコメントと、支持する 56件のコメントがあった。 EPAのスポークスマンであるメリッサ・サリバンが Undark に電子メールで送った声明は、当局がレビュー中にこれらのコメントを検討したと述べたが、批評家らはそれが実際に役立つにはあまりにも速すぎたと考えている。

 6月に、コフラーとクズマはボストングローブ(The Boston Globe)に、EPA の承認に関する意見記事を書き、当局の規制システムを批判し、新しいバイオテクノロジーを評価するためのより良いプロセスを求めた。研究者らは、”EPAが蚊の戦略に関するオキシテック社の主張をレビューするための独立した外部の科学諮問委員会を招集しなかった”こと、及び EPAが技術を承認した後にリスク評価を公表したことに懸念を表明した。コフラーとクズマは、”アメリカ国民は、これらの決定が利益相反なしに行われることを保証される必要がある”と書いた。 EPA のサリバンの声明は、EPAが”利用可能な最良の科学に基づいて広範なリスク評価を実施した”と述べている。

 一部の批評家はまた、より多くの市民の関与があることを望んでいた。 コフラーとクズマは、他の外部の専門家と一緒に、彼らの専門知識を蚊の管理地区委員会に提供して、キーズの地域社会と GM 蚊について、さらに話し合うことを提案したが、地区が反応しなかったとコフラーは言う。 オキシテック社自体が新製品に関するウェビナーを開始したが、それは EPA の承認後であった。 ”やっとたどり着いたが、これらは1年前に行う必要があった”とコフラーは言う。

 ドイツのマックスプランク進化生物学研究所(Max Planck Institute for Evolutionary Biology in Germany)の遺伝子研究者であるガイ・リーブスは、国民の信頼と熱意がなければ、オキシテックの蚊の技術が機能するかどうかは問題ではないと述べ、同社のアプローチは安全ではないとは考えていないと強調している。 ”フロリダキーズの住民がこの問題に非常に敏感になり、お互いに協力できなくなった場合、それは蚊にとっては良いことであるが、人々にとっては良くない”と彼は付け加えた。

 オキシテック社は、第1世代の蚊 OX513A に基づいて、このアプローチにより、ブラジルケイマン諸島の両方での試験で対象となる蚊の個体数が減少することを示したと述べている。しかし、この新しい OX5034 蚊の放出が、蚊の抑制に実際に価値があるという証拠はないとリーブスは言う。 オキシテック社はまた、新しい蚊がデング熱などの人間の病気を直接抑制する方法についても説明していない。病気の伝染と負担を減らすことは、この技術の有効性の尺度となるはずであるとコフラーは言う。

 ゴーマンによると、独立した疾病抑制データはブラジルの自治体によってのみ収集されている。これは、同社の試験のほとんどが大規模に放出されているからである。これらの自治体は、オキシテック社の蚊が放出地域でのデング熱の症例を減らしたことを示しているとゴーマンは言う。 オキシテック社が追加のデータを収集するためには、同社は長期間にわたって広い領域で放出してテストする必要があると彼は付け加えている。ゴーマンは、会社が正式な健康影響調査を報告する必要はないと主張している。

 リーブスは、オキシテック社はまた、この製品を維持するために必要なリソース、効果を発揮するまでにかかる時間、またはコストについても説明していないと付け加えている。フロリダキーズ・プロジェクトの費用について問われたとき、オキシテック社は Undark に電子メールで、”オキシテック社は商業的軌道に乗り、利益を得る以前の会社である。我々はフロリダでのこのパイロット・プロジェクトから利益を得ることはない。自分たちでお金を払っている”と答えた。

 オキシテック社は、過去10年間で10億匹を超える OX513A 蚊を放出した。独立した科学者らによると、それらの実験のいくつかはうまくいかなかった。

 たとえば、イェール大学の研究者とブラジルの共同研究者は、ブラジルでのオキシテック社の 2015年放出の OX513A を分析した。科学者たちは、遺伝子組み換え蚊の子孫の中には、死んで野生の個体群に新しい遺伝子を渡さないはずだったものが、成虫になるまで生き残り、在来種と交尾したことを確認した。 2019年に Nature に発表されたイェール大学の研究によると、在来の蚊の10〜60%にオキシテック蚊の遺伝子が含まれていた。論文の著者らは、これらの混合蚊が病気の制御や伝染にどのような影響を与えるかわからないと結論付けたが、彼らの発見は、混合蚊の遺伝学を監視することの重要性を強調していると付け加えた。

 オキシテック社はその調査結果に同意せず、[論文が発表された]ジャーナル[Scientific Reports]のウェブサイトで回答した。 オキシテック社はギズモード(Gizmodo)に、イェール大学の研究には”オキシテック社の蚊の技術に関する多数の虚偽の、推論的で、根拠のない主張と声明」が含まれていると語った。そして、コフラーと他の3人の科学者がザ・カンバセーション(The Conversation)にオキシテック社のブラジルの裁判について書いたとき、オキシテック社は記事を撤回するように圧力をかけたとコフラーは言う。

 ”やっとたどり着いたが、これらは1年前に行う必要があった”とコフラーは言う。”

 この次のリリースでは、一部のキーラーゴの住人らは彼らの怒りに基づいて進んで行動しようとしている。。たとえば、キーラーゴの住民ダリーは、蚊が彼女の近所に放出された場合、たとえそれが連邦当局とのトラブルを意味するとしても、見つけた箱に殺虫剤を入れるか、専門家に送ってテストすると言う。 かつて私を逮捕した警官がいて、彼女は私のために手錠をきれいにしておくつもりだと言っていた”と彼女は言う。 ”私は気にしない。”

 理想的には、そうする必要がないことだろうとダリーは言う。彼女と他の地元の人々は、最新の蚊が届けられるさ前にオキシテック社に止めさせることを望んでいる。ダリーは、キーラーゴで最近起こったような抗議行動を組織し、裁判で自分の財産を使用したくない住民に庭の看板を配るのに忙しいと言う。”地元の人々は腹を立てている。だから私は地元の反対を報道するようスコミに働きかけている”とダリーは Undark にメールで書いた。

 ”私の同意なしに製品を市場に出すための、めちゃくちゃにひどい(friggin)試験のために実際に我々人間の血を使用することができる最初の飛翔昆虫または動物だ”とダリーは言う。

 ”それが私の血よ”と彼女は付け加える。 ”それは私の息子の血よ。それは私の犬の血よ。”

更新:この記事以前のバージョンは、フロリダで下水を処理するために抗生物質テトラサイクリンが使用されていると誤って示唆していた。それは下水中に存在するが、それは薬物がユーザーによって代謝され、下水に流された結果である。下水処理には使用されていない。

 テイラーホワイト(Taylor White)は、マサチューセッツ州ケープコッドを拠点とするフリーランスのジャーナリストであり、ニューヨーク大学ジャーナリズム校の科学、健康、環境報告プログラム科を卒業している。彼女の記事は、NOVA GBH、Dana-Farber Cancer Institute、米国科学振興協会、GenomeWeb、Spectrum、及び Science Vs に掲載されている。



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