Science, 2021年4月1日
鳥対ミツバチ:
大いなる農薬トレードオフに勝者と敗者がいる

エリック・ストックスタッド(Science 記者 環境問題)

情報源:Science, Apr. 1, 2021
Birds versus bees: Here are the winners and losers
in the great pesticide trade-off
By Erik Stokstad
https://www.sciencemag.org/news/2021/04/birds-versus-
bees-these-species-are-losing-out-great-pesticide-trade


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2021年4月7日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_21/210401_Science_Birds_
versus_bees_Here_are_the_winners_and_losers_in_the_great_pesticide_trade-off.html



 農場は、しばしば化学兵器を伴う、終わりのない金のかかる戦闘で、生産者を貪欲な害虫や攻撃的な雑草と戦わせる戦場である。悲しいかな、これらの兵器はまた、ミツバチ、魚、甲殻類などの無実の傍観者にも害を及ぼす。 現在、ある大規模な研究が、米国の農民が農薬の兵器庫を変更したことにより、ここ数十年で生じた壮大な変化を示している。鳥や哺乳類はうまくいっているが、花粉交配者や水生無脊椎動物が苦しんでいる。陸性植物への毒性の影響も急増している。これはおそらく、一般的な除草剤に耐性を持つようになった雑草と戦うために、農民がますます多くの種類の化学物質を使用しているためである。

 ”これらの傾向は、毒性の経時的な変化を顕著に示している”と、ペンシルベニア州立大学ユニバーシティ・パーク校の昆虫学者で、その新たな研究に関与していなかったジョン・トゥーカーは述べている。”彼らがしたことの規模は本当に、本当に印象的である”と、ボストンのマサチューセッツ大学の生態毒性学者ヘレン・ポイントンは付け加えている。

 ここ数十年で、米国で使用される殺虫剤の量は約 40%減少した。しかし同時に、有効成分はより強力になっている。たとえば、神経系に影響を与える速効性の殺虫剤であるピレスロイドは、非常に低濃度で非常に毒性がある。数キログラムの古い有機リン系農薬やカーバメート系農薬と比較して、1ヘクタールあたりわずか 6グラムしか必要としないものもある。このことにより、ドイツのコブレンツ・ランダウ大学の生態毒性学者であるラルフ・シュルツは、生態系の全体的な毒性が変化したのではないかと考えた。いくつかの研究は特定の化合物と生物を調べたが、全国規模で何も行われていなかった。

 シュルツらは、1992年から2016年までの米国の農民による自己申告による農薬使用に関する米国地質調査所のデータから始めた。また、同じ化合物について米国環境保護庁(EPA)から急性毒性データを合計 381を収集した。次に、彼らは EPA の規制閾値レベル(物質が植生や野生生物に害を及ぼす可能性がある量)を農地に適用された各農薬の量と比較し、”総適用毒性”(total applied toxicity)を決定した。

 良いニュース:1992年から2016年にかけて鳥と哺乳類の総毒性が 95%以上急落したと、[シュルツらの]チームは今日(2021年4月1日)、『Science』で報告している。これは主に古い農薬の段階的廃止によるものである。魚はピレスロイドに対してより敏感であるため、魚の毒性の低下はそれほどでもなかった(約3分の1)。悪いニュース:ピレスロイドは、食物網の重要な部分であるプランクトンや昆虫の幼虫などの水生無脊椎動物への毒性を2倍にした。そして、別の人気のあるクラスの農薬であるネオニコチノイドは、ミツバチやマルハナバチのような花粉交配者へのリスクを倍増させた。この全体的なトレードオフ−脊椎動物は影響が少なく、無脊椎動物はより強く打撃を受ける−は、小規模な研究でも見られた。

 しかし一部の農薬や生物種では、実際の影響を推定するのは難しい。それは、天候や時期など、化学物質が植物や動物に害を及ぼすかどうかに多くの要因が影響するためである。農薬が水生甲殻類や昆虫にどのように直接影響したかを調べるために、研究者たちは、米国中の 231の湖や小川からのピアレビューされた毒性暴露データを調べた。彼らはデータを近くで適用された農薬の量と比較して、”比較的強い”相関関係を発見した。

 植物もまた影響を受けている。 2004年以降、除草剤による総適用毒性は陸上植物で 2倍になった。上昇に貢献している主要な除草剤のひとつはグリホサートである。これにより、農業が簡素化され、土壌保全が改善され、1990年代にグリホサートに耐性を持つように遺伝子を組み換えた作物が登場した後、農家はより毒性の高い除草剤から切り替えることができた。しかしそれ以来、いくつかの雑草はグリホサートに対する耐性を進化させ、農民は追加の種類の除草剤を散布している。それは、他の種に食物と生息地を提供する畑の縁(field margins)で育つ顕花植物を脅かす。

 農薬の使用を減らすように遺伝子操作された作物種、バチルス・チューリンゲンシス(Bt)(訳注1)と呼ばれる殺虫化学物質を含むトウモロコシでさえ、その毒性暴露が急速に増加しているのを見てきた。 Btトウモロコシに適用される総毒性は、遺伝子組み換えされていないトウモロコシと同じくらい急速に増加しており、過去10年間で年間 8%増加している。 ”それは少し驚くべきことであった”とシュルツは言う。”私は、それを予期していなかったことを認めなければならない”。シュルツが疑う理由は、害虫が両方の種類のトウモロコシで過剰に使用されている化学物質に対する耐性を進化させており、より頻繁な散布が必要なためである。”それは本当に農業が苦しんでいる主要な問題のひとつである”。

 シュルツは、この結果が、意図しない危害を減らすために、政策立案者やその他の人々が害虫や雑草防除の複雑さ、野生種とのトレードオフについてより広く考えるのに役立つことを願っている。 トゥーカーは、植物や水生無脊椎動物の毒性の上昇は、生息地や食料資源の多様性を低下させ、最終的には動物の個体数に波及し、潜在的に損失を引き起こす可能性があると述べている。”米国の農薬使用と毒性データのパターンは、世界の他の地域にとって教訓のはずであり、その多くは害虫駆除のための生態学的相互作用よりも農薬使用に大きく依存しているようである”。

 マンハッタンのカンザス州立大学の農業経済学者であるエドワード・ペリーは、最終的にそのような決定は、社会がさまざまな種のグループをどのように評価するかにかかっていると言う。たとえば、規制当局は、欧州連合で起きているように、花粉交配者に利益をもたらすためにネオニコチノイドの使用を制限することができる。しかし、農民は、種にさまざまな危険をもたらす可能性のある他の殺虫剤におそらく切り替えるであろう。さもないと収量の低下と食料価格の上昇に直面する可能性がある。


訳注1:


化学物質問題市民研究会
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