Los Angeles Times 2010年7月17日
研究者ら 抗マラリア蚊を作り出す

情報源:Los Angeles Times 17 July 2010
Researchers engineer malaria-proof mosquitoes
http://www.latimes.com/news/science/la-sci-malaria-20100717,0,7935517.story

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2010年7月19日


 マラリアは年間100万人近くを殺すが、人に感染するのに弱点がある。蚊が必要なのである。この感染症を根絶する可能性に向けて、研究者らはマラリア原虫に侵入されない遺伝子組み換えを行なった蚊の品種を開発したと報告した。

 遺伝子組み換え蚊の現場での実際の使用はまだ程遠いが、研究者らの報告書によれば、前例のないプラスモジウム原虫の100%ブロックを実現し、その手法に将来性があることを示し。

 アリゾナ大学の昆虫学者マイケル・リールに率いられた研究チームは、インスリンの生成に関連するひとつの遺伝子を変更した蚊を作り出した。この変更の効果をテストするために、研究者らは90匹の蚊にマラリア原虫を注射した。10日後、通常の蚊なら体内が原虫で満たされる時期であるが、実際には一匹も原虫がいなかった。

 これは、ヒトに感染するマラリア原虫を完全に阻止した遺伝子組み換えの最初の事例である。この研究はオンラインジャーナル『 PLoS Pathogens』に今週、報告された。

 ”我々は、原虫が少しは減ることを希望しただけだった。このような素晴らしい結果が出て非常にびっくりしている”とリールは述べた。

 完全阻止は感動的であるばかりでなく、生物学的にも重要である。他のグループは様々な遺伝子を組み換えることにより90%〜95%の阻止を達成していたが、そのような”完全ではない”防護では、原虫は蚊の阻止メカニズムに対応するようになり、抗生物質治療が完全ではない場合には薬剤耐性を持ったバクテリアが出現するのと同様なことが起きる可能性がある。

 研究者らは、すでに蚊が持っている細胞信号遺伝子を若干変更したものを使用した。その信号プロセスは、蚊の免疫反応とともに蚊の寿命に影響を与える。遺伝子操作することで、原虫が蚊の腸内で成熟するのに必要な16日より早く死ぬ蚊を作り出すことを目指した。

 それはうまく機能して、蚊は平均約20%通常より寿命が短くなった。原虫の完全阻止は予期していなかったボーナスであった。研究者らはこの遺伝子変更がどのように蚊のマラリア耐性をもたらすのかについてまだ解明していない。

 この遺伝子組み換えは成功したが、そのような蚊をがマラリア感染低減のために利用する前にふたつの大きなハードルがある。第一は、組み換えられた遺伝子が蚊の集団全体に広がらなくてはならないということである。このことは通常、その遺伝子が進化的に大きな優位性を持っている時きにのみ起きるが、これらのマラリア耐性遺伝子はそのような効果は持っていない。

 ”それは列車のようなものだ”と疾病管理予防センター(CDP)の医学昆虫学者でコンサルタントであるマーク・ベンディクトは述べた。”あなたは客車を手に入れた。それは遺伝子であるが、あなたは機関車も手に入れることができる”。機関車は、例えば望ましい遺伝子を持たないどのような蚊をも殺すような何かを作り出し、拡散を助けるDNAに遺伝子を結び付けることによって、実現されるであろう。

 他の研究者らはそのような賢い遺伝子的トリックを開発しようとしているが、実現するのはさらに数年先のことであろう。

 遺伝子を組み換えた飛行昆虫を環境中に放すと他の植物や動物に害を与える可能性がある。研究者らは現場でどのような試みをも実施する前に、広範な安全テストを実施する必要がある。

 リールは、いずれは研究者らが遺伝子組み換えされた蚊の効果的な利用法を完成させ、政府と公衆健康に関わる組織がそれらを利用するために共同で作業するであろうと考えている。しかし、専門家らはそのようなやり方には、20年以上とは言わないが、少なくとも10年はかかるであろうということに合意している。

 例えそうであっても、研究者らは蚊の遺伝子組み換えは難しいマラリア予防対策のひとつの重要な要素であると楽観的である。

 ”この投資は非常に価値がある”とベネディクトは述べた。”ヒト健康に影響を及ぼす力(ちから)は途方もなく大きい”。

 マラリア対策にとってワクチンもまた重要な部分を占めることが期待されている。マラリアを運ぶ蚊に対する遺伝子組み換え技術、及び感染しやすいヒト集団に対するワクチンを目標とするふたつの側面からのアプローチが、おそらく最終的なマラリア撲滅のために求められるであろう。

 ”我々はこれが魔法の弾丸であるとは決して思わない”とリールは彼の蚊について述べた。”それは道具箱の中の道具である”。


訳注:関連情報
  • Los Angeles Timesの記事に対する読者のコメント
     もし、他の蚊に対して進化的優位性を持つ非マラリア蚊を遺伝子操作で作り出せるとしても、環境中に放出することによる影響、予測できない一連の結果をどのように”テスト”するのか? 蚊は、単にマラリアだけでなくもっと多くの病気を媒体することができるかもしれない。遺伝子組み換え作物とは違い、蚊をひとつの場所に囲って閉じ込めることはできず、それらは対数的に増殖するであろう。もし不妊蚊を放ち他の蚊に及ぼそうとするなら、マラリア蚊を全て撲滅しない限り、それは単に一時的な解決を提供するだけである。もしそれらを撲滅するなら、それは食物連鎖の大きな基本的なリンクを壊すことになり、もっと大きな予測のできない結果をもたらすかもしれない。私は遺伝子組み換え技術そのものに反対するものではないが、これは、全体的な程度において無雑草(weed-free)とうもろこしよりもはるかに複雑である。
    (csnyderlll at 10:15 AM July 17, 2010 )

  • 2010年1月31日 読売新聞
    世界初 マラリアワクチン 阪大グループ実用化目指す
    http://osaka.yomiuri.co.jp:80/science/news/20100201-OYO8T00374.htm
     大阪大微生物病研究所の堀井俊宏教授のグループが、マラリアの最大規模の流行地域であるアフリカ・ウガンダで、発症を防ぐワクチンの実用化へ向けた臨床試験を3月にも開始する。2005年に日本国内で行った接種試験で、人体への安全性と、病原体のマラリア原虫を攻撃する物質(抗体)が血液中で増えることを確認しており、現地での試験を踏まえ、来年以降、発症を抑える効果の有無などを調べ、世界初のマラリアワクチン開発を目指す。・・・



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