米化学会 ES&T サイエンス・ニュース 2008年5月21日
PFOS 廃止が問題を精算
アメリカ人のPFOS血中レベルが劇的に低下

情報源 ES&T Science News - May 21, 2008
PFOS phaseout pays off
PFOS levels in Americans' blood have dropped dramatically
http://pubs.acs.org/subscribe/journals/esthag-w/2008/may/science/rr_pfosblood.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2008年6月2日

ES&T (2008, DOI: 10.1021/es800071x)に発表された研究によれば、2000年に発表された3M社グループのパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)製品の自主的廃止は既に問題を精算した。3M社の研究者らによるこの新たな研究はアメリカの成人献血者の血中PFOSレベルは、2000年から2006年の間にほとんど60%低下している。パーフルオロオクタン酸(PFOA)もまた、25%減少した。

 PFOSがヒトや野生動物から検出されるようになった後、3M社は2000年にPFOSとその関連化学物質の製造を止めると発表した。当時、これらの化学物質は、界面活性剤、殺虫剤、及び紙、布、カーペット、衣服の保護コーティング等の消費者用及び産業用製品に使用されていた。2000年に3M社はPFOAの製造も止めたが、他の会社がPFOA、及び分解してPFOAとなる前駆物質の製造を続けた。PFOS、PFOA及びその他の過フッ素化合物の毒性は現在もまだ調査されているが、動物実験データによれば暴露により肝臓と胎児の発達に影響を与え、がんを引き起こすかもしれないということを示唆している。最近のある研究は環境中と同等の用量でPFOSがラットの免疫系に影響を与えることを示した。

 ”これはすばらしニュースである”とアルバータ大学(カナダ)の環境分析化学者ジョン・マーティンは述べている。”かつては最も高く汚染されていたアメリカ人の血液のサンプルで、PFOSレベルは急速に低下している”と彼は述べている。

 論文の中で3M社の医学部門の科学者ゲアリー・オールソンらは、全米6ヶ所の赤十字センターで献血者から採取した血漿サンプルを分析した。それぞれの場所で、年令と性別について同等の分布で100サンプルを分析した。彼らが測定した過フッ素化合物にはPFOSとPFOAが含まれている。

 低下は一様に起きているとオールソンは述べている。”我々は、異なる6ヵ所において低下の割合が同じであることを見つけた”と彼は説明している。”低下は年令と性に関係なく一様であった”。

 この研究はまた、過フッ素化合物のヒトへの暴露源について重要な手がかりを与えている。急速で一様な低下は、暴露源は我々全てが使用する消費者製品であることを示しているとマーティンは説明している。消費者製品がかつてPFOS又はPFOAを少なからぬ量を含んだことはないが、前駆物質又は、意図的に又は非意図的に製品中に入り込む化学物質がPFOS又はPFOAの形に代謝することがあり得る。この論文は暴露は前駆物質によって起きるという理論を支えるものであるとマーティンは付け加えた。

 オールソンらの研究は、アメリカ人の血中のPFOSとPFOAのレベルが低下の傾向にあることを初めて示したものであるとトロント大学のスコット・マブレーは指摘した。”PFOSは著しく低下しているが、PFOAの低下はそれほどでもないことを明確に示した確かなデータである”と彼は述べ、他の会社(アメリカでは特にデュポン社)が、PFOA及びPFOAに分解する前駆物質、並びに他の過フッ素カルボン酸を削減し最終的には廃絶することに同意したのは2005年のことであったことに言及した。

 PFOSの低下を明らかにした以前の研究では、その低下はPFOAと類似していた。”消費者の日常生活において、どのような過フッ素化合物−PFOS又はPFOA族−への暴露も同じであった。しかし現在は3M社が措置を取ったことと、他の会社が”措置を取らなかったこと”の影響をはっきりと見ることができる”とマブリーは述べている。

 アルバーニにあるニューヨーク州立大学の毒物学者クランタチャラム・カンナンらもまた、ニューヨーク州で生まれたヒトの新生児から採取した血液分析でPFOSとPFOAの著しい低下を見ている。これらの結果を述べた論文は間もなく ES&T (2008, DOI: 10.1021/es8006244)で発表されえるであろう。

 アメリカではPFOSのレベルは低下しているが、中国の市民から得た血液ではPFOSのレベルは上昇しているように見えると著者らは言及している。中国ではPFOSはまだ製造されていると考えられている。”もしそうであっても、このことが残りの世界と野生生物にどのような意味を持つのかわからない”とマーティンは指摘している。この研究は将来を予測することには使用できないとオールソンは述べている。”米疾病管理予防センターのNHANESのような監視プログラムが継続して行われることが重要である”と、客観的に測定された健康と栄養に関する国のデータ資源として最大で最長の期間実施されている全米健康栄養試験調査(National Health and Nutrition Examination Surveys)を引用した。

レベッカ・レナー(REBECCA RENNER)



化学物質問題市民研究会
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