ツイン・シティズ・コム 2007年3月24日 記事紹介
3M 訴訟の大きな論点:誰が被害を受けたのか?
汚染事件は住民による集団訴訟へ

情報源:Twin Cities Com March 24, 2007
3M suit's big issue: Who got hurt?
Pollution case goes to court Tuesday with residents seeking class-action status
BY BOB SHAW, Pioneer Press
http://www.twincities.com/ci_5512189

概要紹介:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2007年3月28日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/kaigai/kaigai_07/07_03/070324_Twin_Cities_3M.html


 ミネソタ州で過去最大の環境損害訴訟のひとつについて法廷での戦いが3月22日(木)に始まった。

 一方の当事者である3M社は、数千の家庭の飲料水をその化学物質(過フッ素化合物/PFCs)で汚染したことは認めたが、そのわずかな量がどこかで誰かに被害を与えたという事実を見たことがないと主張する。
 法廷戦略:原告は被害を受けたことを示せ

 他方の当事者は他の多くの人々を代表する予定のワシントン郡の6人の住人である。彼らは3M社が彼らの水を汚染し、彼らを身体的及び精神的に傷つけ、彼らの財産価値を損ねたと主張して3M社を訴えた。
 住民らの戦略:3M社は安全であることを示せ

 数億ドル(数百億円)の金とミネソタ州のビジネス巨人の評判とワシントン郡内または近辺に住む6万人以上の人々の健康の懸念がこの裁判にはかかっている。
 環境法の世界でこのように大きな訴訟はかつてない。

 ”それはミネソタ州最大の会社のひとつである3M社に対する訴訟であり、それは豊かな地域社会の中で起きている。それは非常に大きな訴訟でありその影響は莫大なものである”とこの訴訟には関与していないミネソタ環境保護センターの弁護士ケビン・ルーサーは述べた。

 2004年の同様な事件でデュポン社は、ワシントン郡の水供給系中で見いだされるものと同じ化学物質がオハイオ州とウェストバージニア州の住人の水中に見出されたことで起きた集団訴訟の和解のために3億ドル(約330億円)を支払った。デュポン社の金は水供給系からその化学物質を取り除くことと住民の健康調査のために使われた。その事件ではその化学物質が有害であるという結論は出さなかった。
 3M訴訟に関わったアラバマ、ウェストバージニア、及びミネソタからの弁護士らがオークデールとレイクエルモの6人の住民を代表して弁護団を結成している。

 裁判は3月27日(火)から始まるが、判事はこの訴訟が集団訴訟となリ得るかどうかに関する主張を聞くことになる。

 ワシントン郡裁判所判事メアリー・ハノンは6人の原告だけが潜在的なダメージに対して裁判資格があると決定することもできるし、あるいは汚染した水を消費した誰でもが訴訟を起こした6人と同じように法的に集団訴訟の対象となり得ると決定することもできる。
 判事は今後数ヶ月後には決定し、秋には審理が始まるであろう。

 その化学物質とは過フッ素化合物(PFCs)であり、テフロンやスコッチガード防汚剤などの製品を作るために1940年代から使用されている。2000年にはPFCsは25億ドル(2,800億円)のビジネスであったと原告側弁護士らは書いている。

 PFCsは世界中で検出されている。自然ではほとんど分解せず、魚類、鳥類、哺乳類の体内から見いだされる。

 この化学物質は1975年までワシントン郡の埋立地に投棄されていた。当時はそのような投棄は合法であり普通のことであったと3M社側の弁護士は述べている。

 2004年、オークデールとレイクエルモの住民らは二種類のPFCsが飲料水を汚染していることを知った。パーフルオロオクタン酸(PFOA)とパーフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)である。

 弁護士らはその区域を調査し、数十人の住民が通常よりも高い汚染レベルであり、ある子どもの場合は74倍以上であることが判明した。それは彼らにとって3M社の指紋のように決定的な証拠であった。

 3M社の法的文書の中で、”原告側の弁護士は扇動的な地域会合を開催し、25,000通のメールを発信し、個別に住宅訪問し住民が血液テストを受けることに同意すれば50ドルを提供すると申し出た”と書いている。

 しかし、PFCsは有害か?

 有害であると原告側の弁護士は述べている。ラットとサルでの多くのテストが高用量のPFCsは出生障害、がん、及び肝臓と甲状腺障害を引き起こすことを示している。彼らは微量のPFCsは数年後には目に見える障害となる亜細胞へのダメージを引き起こすと主張している。

 3M社は潜在的な有害性を知っており、パンドラの箱のふたを閉めようと努力するヘラクレスのようにそれを隠そうとしたと弁護士らは書いた。3M社は”住民の居住地を3M社のPFCs有害廃棄物の投棄場所にした。”

 それは違うと3M社は言う。人に有害であること示す証拠がないことについて自信があるように見える。PFCsは数千の安全性研究によって検証されている。そのうちの1,500以上は3M社によって独自に実施されている。結論は高用量では動物に有害であるが微量であれば人には有害ではない。

 3M社の主張は説得力があると元ミネソタ州汚染管理局長で、現在は環境訴訟専門の弁護士であるグラント・メリットは述べた。彼は微量の汚染物質が有害であると主張するには十分でないと述べた。法的にダメージを受けたというためには汚染が危害を引き起こしたとする証拠がなくてはならないと彼は述べた。
 ”もし私がそこに住んでいれば、そこの水を飲まないだろう”と彼は述べた。しかし、ひとつの汚染物質の害を”証明するのはやさしいことではない。陪審裁判では難しい。”

 ミネソタ環境保護センターの公衆健康科学者であるサムエル・ヤミンは、デュポン社の場合のような和解を求めている。デュポン社は水供給系からこの化学物質を除去し住民の健康調査を行った。”よい投資である。”

 ヤミンは、社会は新たな汚染からの脅威はそれを除去するためのお金に値すると述べた。もし、安全性について疑いがあるなら、慎重に対処するのが最もよいと彼は述べた。
 ”もしそれを完全に除去できる方法があるなら、それをなすべきである。そうすれば残りのことは容易に片付けることができる”とヤミンは述べた。

 3M社は多くの自主的な取組を行ってきた。PFOAとPFOSが発見されたときにオークデールの市水にフィルターを設置し、個人の井戸を使用している家庭にレイクエルモ市の水道を供給するために600万ドル(約7億円)を負担した。
 1月には毒性は低いPFBAがレイクエルモからハスティングまでのもっと広い範囲で報告されたが、その区域は集団訴訟の起こり得る潜在的な区域を含んでいる。

 新たな研究がこのPFC訴訟における整然とした議論を乱す可能性をもたらした。ジョーンズ・ホプキンス大学の研究者が2月にPFCsが、動物ではなくヒトに有害であるかもしれないことを示す初めての研究を発表した。リン・ゴールドマン博士はボルチモアで生まれた赤ちゃんのグループを調査したが、全ての赤ちゃんは臍帯血にPFCsを持っていた。PFCsレベルがより高い赤ちゃんは出生体重がわずかに低く頭周が小さかった。

 しかし3M社幹部は、ゴールドマンの研究におけるPFCsの量の50〜100倍のレベルで妊婦をテストしたがその子どもにはなんら影響が出なかったと述べている。ゴールドマンの研究はミネソタ当局が水道水中のPFCs安全許容値を変更するためにはあまりにも予備的過ぎると健康局広報担当のドン・シュルツは述べた。

 この裁判は判事メアリー・ハノンが集団訴訟と認めるかどうかに直接的に関わっている。原告側の弁護士は潜在的な全てのケースを一時に審理する方がよいと述べている。さもないと個々のケースの訴訟になれば数年間法廷は裁判で溢れるであろうと彼は述べた。

 そうなれば、原告側の大勝利である。

 ”集団訴訟が認められれば、会社は非常に大きな影響を受ける可能性があり、会社は泥沼にはまり込む。金の負担が高まる” とグラント・メリットは述べた。

 3M社は、6人の原告にもその他の誰にも危害が起きていないと述べて集団訴訟に認定することに反対の主張をしている。
 もし、危害があったならその程度は非常に大きなものであったであろう。”原告の1人はオークデール処分場の近くに35年間住んでいたが、ある原告は処分場から10マイル離れたところに18ヶ月住んだだけであると3M社の弁護士は書いている。

 ”私は不安を抱かずに歯を磨くことができない”と二人の子どもをレイクエルモにあるPFCsに汚染された個人用井戸を飲料水として使って二人の子どもを育てているキャシー・コストリッツは述べた。

 コストリッツは原告ではないが裁判を見守っている。もし集団訴訟が認められれば参加したいと彼女は望んでいる。
 彼女は果物を仕事でバスルームの流しで洗っている。私はコーヒーを飲む時にそのことについて考える。娘がシャワーを浴びる時、気がかりになると彼女は述べた。

 現在はレイクエルモの市水道に接続されているが、彼女の財産価値は損なわれたと彼女は考えている。
”私は第一に娘を守らなくてはならず、その次は我々の投資を守らなくては・・・”とコストリッツは述べた。



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