ES&T 2006年8月23日
大気中の無機水銀が有機メチル水銀に
初めての実験を湖で


情報源:Environmental Science & Technology: Science News - August 23, 2006
Linking atmospheric mercury to fish advisories
An experiment in lake enclosures links mercury deposition and methylmercury production for the first time.
http://pubs.acs.org/subscribe/journals/esthag-w/2006/aug/science/rr_fishadvisories.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年8月4日


 湖や湿地の底泥の中で、バクテリアが無機水銀を有毒な有機金属であるメチル水銀に変え、その結果、魚類に蓄積する。しかし、今まで大気中の水銀の量と魚に含まれるメチル水銀のレベルとの決定的な関連を示すことはできていなかった。今回、ES&T’s Research ASAP website (DOI: 10.1021/es060823+) で発表された研究は、雨となって湖に降下する大気中の水銀の量を減らせばメチル水銀の生成もまた減少することを示唆している。

 ”この研究は、無機水銀の堆積とメチル水銀の生成との間の直接的関連を示す初めての現地実験という点で重要である”−と、ウッドホール海洋研究所チャド・ハマーシュミットは述べている。

 カナダ水産海洋省のダイアン・オリヘルによって指導されたこの研究で、研究者らは、カナダのオンタリオ州北部にある実験湖地域(Experimental Lakes Area )に設置した11基のメソコスム実験水槽設備に安定同位元素を標識とした水銀を加えた。その余分な水銀は典型的なその地域の堆積量の2〜15倍のレベルになった。オリヘルによれば、オンタリオ州北部の亜寒帯の湖は比較的水銀堆積が低く、アメリカ北東部の水域ではこの4倍以上の堆積がある。

 研究者らは8週間後に安定同位元素添加の水銀の1%弱がメチル水銀になり、もっと高いパーセントが大気に再放出されたことを見いだした。しかし、オリヘルはたとえ少量のメチル水銀であっても有害であるとして、”それは微量であるかもしれないが、それらは魚の摂取量に関する勧告に影響を与えている”−と彼女は述べている。

 ウィスコンシン大学海洋研究所の水生化学者ジェームス・ハーレイは、この研究は大気中の水銀を減らせばメチル水銀の生成を減らし、その結果おそらく魚の生体蓄積を減らすであろうと述べている。

 そしてハマーシュミットは、彼自身の研究がこの結果を裏付けていると付け加えた。アラスカの湖では、彼と彼の同僚らは底泥におけるの無機水銀の堆積とそれからのメチル水銀の流動を測定した。その関係は線形であり、このことを彼はすでに今月開催された”第8回国際地球汚染水銀会議 (Eighth International Conference on Mercury as a Global Pollutant)”で発表した。昨年、ハマーシュミットは蚊の体内水銀とアメリカの湖の平均的水銀堆積量との間に同様な関係を発見していた。

 その水銀会議で、オリヘルは、小魚においても同様な線形の関係があると報告した。彼女のチームは湖のメソコスム実験水槽設備に住むマスの若い魚の筋肉組織中の全水銀量の3分の1は同位元素標識のある水銀であることを見つけた。

 北アメリカの淡水魚中の高濃度水銀は、カナダ及びアメリカのほとんどの州の健康当局に魚の摂取が多すぎないよう警告することを促した。米EPAによれば、アメリカでは石炭及び重油火力発電所が最大の水銀排出源である。

 しかし水銀排出規制は、水銀サイクルの複雑性も理由の一部として論争の的であった。2005年、EPAは、水銀排出を2010年までに21%、2018年までに69%削減することを目指す上限設定取引(cap-and-trade)を採択した。この新たな研究はそのような制限は当初の期限より早く達成されるかもしれないことを示唆している。

レベッカ・レナー(REBECCA RENNER




化学物質問題市民研究会
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