ES&T 2006年7月26日
家庭用殺虫剤の新たな影響
殺虫共力剤は小川の堆積物中に存在する
殺虫剤の毒性を高める


情報源:Environmental Science & Technology: Science News, July 26, 2006
New consequences of household pesticides
A chemical that boosts pesticides' killing power
also increases the toxicity of legacy pesticides in stream sediments.
http://pubs.acs.org/subscribe/journals/esthag-w/2006/jul/science/pt_pesticides.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年8月2日


 ある種類の家庭用殺虫剤の禁止がそのように多くの環境的問題をもたらすとは誰が考えたであろうか? 昨年の10月にES&T で報告されたように、カリフォルニア大学バークレー校生態毒性学助教授ドン・ウェストンはカリフォルニア州サクラメントを流れるいくつかの小川でピレスロイドを有毒なレベルで検出した。本日、ES&T の Research ASAP ウェブサイト(DOI: 10.1021/es0601540)に発表されたウェストンの最新の論文は、共力剤ピペロニルブトキシド(piperonyl butoxide (PBO))が小川の堆積物中に蓄積しているこれらの殺虫剤の毒性をどのように高めるのかを検証している。

 PBO(訳注:ピペロニルブトキシド)は、細胞酵素が殺虫剤の分解を阻害し殺虫剤の致死性を高めるので、一般的にピレスロイド・スプレーに共力剤として加えられる。ピレスロイドは、有機リン系殺虫剤よりも人間に対する毒性が低いので消費者用殺虫剤として有機リン系殺虫剤の代わりに使われている(訳注:殺虫剤ピレスロイド)。しかし、農薬メーカーはピレスロイドが、都市の芝生から洗い流された殺虫剤が蓄積している小川の堆積物中に住む小さな甲殻類に有害であるかどうかについて適切なテストをしていない。

 ウェストンの PBO の環境影響についての関心は、2005年にサクラメント郡当局がウェスト・ナイル・ウィルス対策を目的とする蚊の退治のために殺虫剤の空中散布を開始したことにより引き起こされた。その殺虫剤は60%の PBO と6%の混合物であった。ピレスリンは除虫菊から生成される天然の殺虫成分であり、ピレスロイドはそれらを工業的に合成したものである。ウェストンは PBO が市内の道路から、すでに高い値でピレスロイドが検出されている地域の小川に流れ込んだ時に何が起こるのかを知りたいと望んだ。

 ”私はそれは見逃すことができない機会であると感じた。カリフォルニア州当局は健康への懸念から空中散布は現在ではほとんど行わなくなっていたからである”−と彼は述べた。さらに殺虫共力剤がすでにある残留農薬とどのように相互作用するのか今までに誰も検証していなかった。

 ウェストンが散布地帯を流れる小川からサンプルを採取した時に、PBO が 2〜4ppb というレベルで広い範囲で存在していることを知った。そこで彼は小川から堆積物を採取して実験室に持ち帰った。彼は小川の泥は周辺から洗い流されてくるピレスロイドのために毒性があることを以前から知っていた。そこで彼は毒性を低減するために汚染されていない泥をサンプルと混合した。そしてそのサンプルに 4ppb の PBO を加え、農薬への感受性が高い水底に生息する小さな甲殻類 hyalella を導入した。彼は PBO を加えると甲殻類の死亡率が 2倍になることを発見した。

 ウェストンは、PBO のような相対的に良性な成分と小川にすでに存在する農薬との相互作用については、米 EPA はその規制において目を向けてこなかったことであると述べている。実際、EPA はこの問題を検討するためのどのようなデータも収集していないと彼は考えている。ウェストンの疑いは EPA から ES&T が受け取った e-mail の中で確認されている。

 ”我々は、PBO を水に注ぐとすでに存在していた農薬の毒性が増大することを示すデータは持っていない”−と EPA の広報官エネスタ・ジョーンズは書いている。

 ウェストンの共著者であり、カーボンデールにある南イリノイ大学の動物学助教授ミカエル・リディは、農薬共力剤の問題は広がっているかもしれないと述べている。”我々は、DDT が未だに高い濃度で堆積物中にあることを知っている。DDT についても同じように PBO が共力作用を持つかもしれない”−と彼は述べている。リディは、他のアメリカの小川を調査するための研究費を現在申請中であると述べている。

 この新たな研究は、”農薬規制の複雑さを強調している”−とカリフォルニア州農薬規制局ディレクターであるメアリーアン・ウォーマーダムは述べている。彼女は、カリフォルニア州は、環境を守るために地方の水質管理委員会及び農薬製造会社と協力しなくてはならないと述べている。

 そのためにカリフォルニア州は 600 種のピレスロイド製品の再評価を開始している。同州はアメリカで最大のピレスロイド市場のひとつであり、同州での使用は最近上昇している。2000年に、農薬会社と農産物製造者はカリフォルニアで 695,000ポンド(約300トン)のピレスロイドを散布した。2005年には 1,000,000ポンド(約450トン)に達している。これらの数値には消費者が使用する防虫剤や芝手入れ用品の散布量は含まれていないが、そのレベルは同じくらいではないかウォーマーダムは考えている。

 実際、ウォーマーダムの部局が最近実施した検査で、カリフォルニア州で報告されていない農薬取引が 3,400万ドル(約37億円)あることを発見した。カリフォルニア州は罰金とこれらの販売で環境費を支払っていない小売業者からの返金を合わせて 700,000ドル(約7,700万円)以上を徴収することになると考えている。

ポール D. サッカー(AUL D. THACKER)



化学物質問題市民研究会
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