ES&T 2006年3月22日
ペット・ボトル飲料水中のアンチモン

情報源:Environmental Science & Technology: Science News - March 22, 2006
Bottled antimony
http://pubs.acs.org/subscribe/journals/esthag-w/2006/mar/science/kc_antimony.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2006年3月24日

 飲料水がプラスチック・ボトルに詰められると、アンチモン(訳注:関連サイト)の濃度が上昇する。研究者らはこの有毒元素が容器から溶出しているのではないかと考えている。

PET 容器中の水は、生理学的機能に毒性のある重金属であるアンチモン(訳注:関連サイト)で汚染されていることが発見された。 jupiterimages.com
 ボトルの水を飲んでいる消費者は予想しているよりはるかに多くのアンチモン−ヒ素に似た化学的特性を持つ潜在的に有毒な元素−を摂取している。幸いなことに今日までに報告されている濃度は非常に低く、健康問題になるようなことはない。

 ある直感で、ドイツのハイデルベルグ大学環境地球化学研究所の研究者らは、カナダのボトル飲料水15銘柄、ヨーロッパの48銘柄について、この重金属の含有量を測定した。今年の1月に発表された論文で((J. Environ. Monit. 2006, 8, 288-292)、汚染されていない地下水の平均濃度である 2ppb より100倍以上高いアンチモン濃度を報告した。

 研究者らは、当初はボトル飲料水中のアンチモンを検査するつもりではなかった。”我々は、新鮮な地下水の特性を調べることに興味があっただけであるが、文献中の多くの分析がなぜ、我々が検出したものより高い濃度(容器の水)を報告しているのか不思議に思うようになった”−とこの論文の主著者であるウィリアム・ショティックは述べている。

 ヨーロッパのプラスチック製造業の業界団体プラスチック・ヨーロッパの PET 健康安全環境委員会議長マイク・ニールによれば、現在、市場に出ているほとんどのボトル飲料水はポリエチレン・テレフタレート(PET)の容器で売られている。三酸化アンチモン(訳注:PRTR法 第一種指定化学物質)はPET製造時に触媒として用いられおり、一般的には1キログラム当たり数百ミリグラムのアンチモンを含んでいる。ちなみに、岩石や土壌中の天然アンチモンの含有量は1キログラム当たり1ミリグラム以下である。

 業界団体である国際ボトル飲料水協会(IBWA)の最新の統計調査によれば、ボトル飲料水の世界の消費量は過去5年間で2倍以上に増加して、410億ガロン(約1億5,500万キロリットル)に達している。IBWA によれば、2004年には世界中で、1人当たり平均6.4ガロン(約24リットル)を消費している。2005年には、ボトル飲料水の最大消費国であるアメリカの市場だけでも98億ドル(約1兆円)に達する。

 ショティックらはPETボトル中の水は550pptのアンチモンを含んでいることを見出した。PETボトル中の高純度の脱イオン水であってもアンチモン濃度は160pptになる。さらにもっと長期間、水がボトル中にあれば、アンチモンの濃度はもっと高くなるであろう−とショティックは述べている。

。  アンチモンがPETボトルから溶出していることを確認するために、ショティックらはドイツのボトリング会社から原水を収集して、アンチモン濃度 4ppt を検出した。 しかし、地方のスパーマーケットで購入した同じ会社の水では、”360ppt であったが、同じ銘柄を購入後3ヶ月間オフィスに置いておいたら630ppt になった”−とショティックは述べている。

 プラスチック・ヨーロッパの二ールは、これらの濃度は飲料水基準よりはるかに低く、その基準値は日本が2ppb、ヨーロッパが5ppb、そしてアメリカとカナダが6ppbであると指摘している。世界保健機関(WHO)の指針では20ppbまでは安全であると考えられている。さらに、”全ての容器材料はそれぞれ異なる量で食品中に移行し、PETは成分移行の最も少ないポリマーのひとつである”−と彼は指摘している。

 しかしショティックは環境全体への広範な影響について疑問を呈している。”プラスチック中には多くのアンチモンが存在する。問題はは、それが最終的にはどうなるかということだ”ーと彼は述べている。鉛、水銀、カドミウム、ヒ素などの他の重金属とは異なって、アンチモンの環境中の運命については、今日までほとんど研究がなされていない。米EPAはこの金属を可能性ある発がん性物質(a possible carcinogen)とし、また優先的汚染物質としてリストしている。ショティックらのカナダ北極圏の氷床深部に関する以前の調査ではアンチモンのエアゾールの移行は30年前に比べて今日では50%高いことを示している。

 アンチモンは昔から使用されているが、その消費量は1970年代の初めから、難燃剤の使用増加とともに劇的に増加していると米地質学調査(USGS)の商品専門家ジェームス・カーリンは述べている。中国は現在、世界の総生産の85%を生産している。米有毒物質疾病登録局の資料によれば、アンチモン鉱石の採掘と処理はアンチモンの環境中への排出の主要経路である。少量は廃棄物償却及び石炭火力発電所からも排出されている。

 半分以上の量のアンチモンは難燃剤に使われている。残りは主にテレビやコンピュータ用のブラウン管ガラス、プラスチックの安定剤と触媒、弾薬、摩擦ベアアリング、鉛バッテリー、及び半田などに用いられていると米地質学調査(USGS)の資料は示している。。

クリス・クリステン (KRIS CHRISTEN


化学物質問題市民研究会
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