EHP2005年8月号 Science Selections
内分泌かく乱物質の膵臓への影響
低用量でもグルカゴンの分泌をそこなう


情報源:Environmental Health Perspectives Volume 113, Number 8, August 2005
Pancreatic Effects of EDCs - Low Doses Can Impair Glucagon Secretion
By Paloma Alonso-Magdalena, Ouahiba Laribi, Ana B. Ropero,
Esther Fuentes, Cristina Ripoll, Bernat Soria, and Angel Nadal
http://ehp.niehs.nih.gov/docs/2005/113-8/ss.html#panc

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2005年8月17日


 内分泌かく乱化学物質(EDCs)は体内においてホルモン受容体で作用を引き起こすことで、エストロゲンなどのように自然に生じるホルモンのごとく振舞う。古典的(classical)な細胞核エストロゲン受容体 ER-α 及び ER-β との間で起こすEDCsの相互作用については特性がよくわかっており、また非古典的受容体(nonclassical receptors)(細胞膜などで見出される)との相互作用に関しても知見が増している。古典的及び非古典的エストロゲン受容体はともに体中で発生し、これによりエストロゲンは体の機能を調整するための多くの役割を果たす。このように受容体が体中に広く存在することでEDCsに対し健康を妨げる無数の道を開くことになる。今、新たな研究が、膵臓の細胞がEDC曝露により影響を受けて健康を損なう結果をもたらす可能性があることを示唆している。[EHP 113: 969-977]

 膵臓はエストロゲンの目標であるようには見えないが、膵ランゲルハンス島(訳注:膵臓中にあってインシュリンを分泌する細胞群)の中のα細胞及びβ細胞上に古典的及び非古典的受容体を伴っている。これらの細胞はグルカゴンとインシュリンをそれぞれ分泌するが、これらのホルモンは血中の糖濃度を調整する機能がある。細胞中で血糖値が低いと、細胞膜内外のチャンネルを通じてカルシウム振動又は細胞中のカルシウム濃度の変動が増幅される。これらの振動がグルカゴン分泌の引き金となる。

 グルカゴンは、肝臓、脳、腎臓、腸、及び膵臓における脂肪組織中の機能を調整する。グルカゴンの第一の役割はブドウ糖の合成を高めることである。次の役割は脂肪組織からの脂肪酸の放出を増やすこと及び中枢神経で食欲をコントロールすることである。低糖度に対するこれらの反応は、細胞膜内エストロゲン17β−エストラジオールによって、さらにこの報告書で示された様にEDCsによっても抑制される。

 研究チームは二つのEDCsに注目した。ひとつはポリカーボネート・プラスチック製品や歯科充填剤に使われるビスフェノールA、もうひとつは1940年代から1970年代にかけて流産防止のために使用された合成エストロゲンであるジエチルスチルベストロール(DES)である。以前の研究に基づき、研究者らは17β−エストラジオールとEDCsは、グルカゴン製造細胞の膜上の非古典的エストロゲン受容体に結合し、細胞内で一連の二次伝達を活性化し、細胞膜内外のカルシウム・チャンネルと関連するカルシウム振動をコントロールする−という仮説を立てた。

 この仮説をテストするために、彼らは新たに分離したマウスの膵臓細胞(islets、島)を検証し、生理学的分析にかけた。競合結合分析により、17β−エストラジオール、ビスフェノールA、及びジエチルスチルベストロール(DES)は共通の細胞膜結合サイトを共有することが示された。この結合は、古典的ER媒介効果だけを抑制する純粋の抗エストロゲンICI182,780を使用した競合分析において影響を受けなかった。この結果は、共通の結合サイトは非古典的細胞膜エストロゲン受容体であるということを示した。免疫細胞化学的分析により、17β−エストラジオールとEDCsはグルカゴン製造細胞に結合されることが確認された。

 ビスフェノールAだけの分析では、疑われる経路に沿ったステップを抑制することが知られている化合物が使用された。これらの分析で17β−エストラジオールとビスフェノールAは最終的にはカルシウム振動を調整する一連の細胞反応に影響を与えるという証拠が得られた。これらの振動はレーザースキャンニング共焦点顕微鏡によって確認された。

 研究者らは、ヒトと動物に生物学的影響を生成するために必要なEDC濃度に関しては少し議論の余地があるとしている。彼らの研究は、カルシウム振動を抑制し潜在的にグルカゴンの分泌に影響を与えるためには、ナノモル(訳注10-9モル)範囲のEDC用量で十分であるということを示した。この抑制の結果として起こりうることには、ブドウ糖と脂質の代謝変化、及び蓄えられたブドウ糖と脂肪の使用低減などがあり、そのことは肥満につながる。

ジュリアR.バーネット(Julia R. Barrett)


化学物質問題市民研究会
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