環境中の水銀と自閉症は関係がある−新たな研究

情報源:Environment NEWS SERVICE, AmeriScan: March 17, 2005
Environmental Mercury, Autism Linked by New Research
http://www.ens-newswire.com/ens/mar2005/2005-03-18-09.asp#anchor4

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2005年3月20日


 【サンアントニオ、テキサス】 テキサス州で環境中に排出される水銀で、1,000ポンド(約454キログラム)当たり自閉症が2桁の増加率となる−とサンアントニオのテキサス大学健康科学センターの研究者らが報告した。
 この研究は、2001年に報告されたテキサス州の254の郡の水銀総排出量と、約1,200のテキサス学校区における自閉症と特別養護学級の増加率を比較したものである。

 ”環境中に排出される水銀1,000ポンド(約454キログラム)当たり、自閉症が17%増加するということが分かった」と報告書の主著者であり、健康科学センター家族と地域医療部の準教授、レイモンド・パルマー博士は述べた。

 自閉症は発達障害のひとつであり、個人によって症状の程度が異なるが、通常の社会的振る舞いを行う能力が損なわれ、繰り返し動作と発声で特徴付けられる。自閉症は児童200人に1人の割合で起こると考えられており、統計によって異なるが、最近は増加していると報告されている。

 パルマーらは、”この新たな研究は有害物質規制と防止政策への提言である。有毒な水銀排出に関する政策が州によって異なることが発達障害の発生に与えている影響−について調査すべきである」としている。
 事故等での漏洩による大規模な水銀曝露が発達障害に関係することは以前から知られていたが、この研究は、潜在的に慢性で低用量の水銀曝露と自閉症のような発達障害との関連性を検証した最初の研究のひとつであるとパルマー博士は述べた。

 水銀は、ヒ素、鉛に次いでアメリカで3番目によく見出される有毒物質である。

 都市に電気を供給し、一般的には人口密集地帯に近接している石炭火力発電所は、アメリカで最も多く水銀を排出する汚染源である。テキサスは、カリフォルニア、オレゴン、ウェストバージニアに次いでアメリカで4番目に水銀排出量が多い州である。
 静的なモデルを用いて、研究者たちは、特別養護学級の増加は水銀の高い排出レベルと関係していることを示した。しかし、”この関連性を説明するのは、自閉症の増加である”とパルマー博士は述べている。

 著者らは、この研究は郡レベル及び学校区のデータに基づく生態学的調査であるということを警告している。この種の研究は、個人レベルでの解釈に役立つものではない。

 この研究は、発達障害発生の変動を占うものとしての時間経過に伴う水銀レベルの変動を検証していないので、更なる調査が必要であると研究者らは述べている。

 ブッシュ政権は16日水曜日に、石炭火力発電所に対し、現在可能な最大の技術を駆使した水銀除去装置を設置するという方法ではなく、議論の余地ある排出取引計画の下に、水銀汚染の抑制を命ずる規制案を取りまとめた。

 これに対し、ニュージャージー州とペンシルベニア州は告訴して裁判で争うと発表し、他の州もいくつかの環境団体とともに告訴するとしている。

 アメリカ全土の1,300の火力発電所からの水銀排出は現在規制されていない。これらの設備は毎年48トンの水銀を排出し、アメリカ全体の水銀排出量の40%に達すると見積もられている。

 汚染された魚を摂取することで通常起こる水銀への曝露は、人の生涯にわたる神経系損傷と野生動物の生殖障害を引き起こす。脳が発達を続けている小さな子どもたちと、妊娠可能な女性たちは、この有毒な金属によるリスクが最も高い。

 この研究は、研究者用のジャーナル”Health & Place”、Elsevier Ltd.によって発表された。
著者:Claudia S. Miller, M.D., from the department of family and community medicine at the Health Science Center; Zachary Stein from San Antonio; Stephen Blanchard, Ph.D., of the department of sociology at Our Lady of the Lake University; and David Mandell, Ph.D., of the University of Pennsylvania's Center for Mental Health Policy and Services Research

研究チームは、水銀と自閉症の時間経過に伴う関連性について調査する第2次報告書の作成に取りかかっている。


化学物質問題市民研究会
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