ヨーロッパの子どもに目を向けた環境健康アクションプラン
第4回 ヨーロッパ健康と環境大臣会議(ブダペスト)/ WHO


情報源:BUDAPEST, Hungary, June 25, 2004 (ENS)
http://www.ens-newswire.com/ens/jun2004/2004-06-25-01.asp
European Youth Focus of Environmental Health Action Plan
By Alexandru R. Savulescu

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2004年6月28日


【BUDAPEST, Hungary, June 25, 2004 (ENS)】
 世界保健機関(WTO)主催の ”第4回 ヨーロッパ健康と環境大臣会議” で、大気汚染が出生前の胎児に影響を与え、それが子どもの後々の健康に有害な影響及ぼしている−と、ヨーロッパ及び北アメリカから参加した公衆健康科学の専門家グループが述べた。
 専門家たちは、子どもの健康に関する WHO 会議のために今週、ヨーロッパ地域の52カ国から参加した健康と環境関連大臣たちに、その研究結果を発表した。5年ぶりに開催されたこの会議の目標は、若い人々の健康を改善するためのアクション・プランを協議し、採択することであった。
 専門家グループは、1994年以来発表されたデータの新たな検証により、大気汚染と幼児の呼吸器系による死亡との因果関係を示した。また、大気汚染への曝露に起因する呼吸器系疾病による子どもたちの死亡リスクが1%増加したことも示した。
 大気汚染曝露は広い範囲に起きているので、この小さな増加も多くの子どもたちにリスクを及ぼし、著者たちによれば、悪化ぜん息の発症、せきと気管支炎発症率の増加、さらには成人してから老化、感染症、喫煙、職業的汚染曝露の影響を受けやすい疑いがあることとと関連する ”隠されたもっと大きな氷山の一角” である。
 著者らは、このことが分かっただけでも、大気汚染、特に交通による大気汚染への子どもたちの曝露を削減するために強い勧告を行うことの十分な理由になると結論付けている。
 ”社会の中で最も脆弱なメンバーが、環境の危険から健康を守るための政策上の失敗の対価を払わなければならないということは、どのような観点から見ても許容することはできない。子ども時代の発達は生涯を通じての健康に影響するので、子どもが健康に影響を及ぼすダメージを受けるということは、社会全体が被害を受けるということである。この会議は、我々ができることを実施し、それをどのように実現するかということに合意する素晴らしい機会を提供するものである” と WHO 理事長リー・ジョンウックは述べた。

 非政府組織主催の ”健康な地球フォーラム” もまた、ブダペスで平行して開催されている。若い人々が両方の行事に参加している。会議への公式な代表団には19歳以下の若い代表も含まれており、彼らは他の若者たちと共に若者のフォーラムと議会(a youth forum and parliament)に参加するであろう。 ”環境促進学校の欧州ネットワーク” からの使節と代表もまた参加した。
 ハンガリーの社会家族保健大臣ミハリー・コケニー博士は、新たに EU に加盟した10カ国の一つであるハンガリーは、その将来を ”健康な世界における健康な国家として描いている” とし、さらにハンガリーは ”その目標を達成するために行動を起こし、この使命を共有しようとする全ての人々と連帯する用意がある。環境の危険から将来の世代を守るために、もうこれ以上遅らせることなく、直ぐに取りかからなくてはならない” と述べた。

 ハンガリーの環境と水大臣ミクロス・ペルサニは、”環境保護はそれだけのための行為ではない。それは直接的に人々の生活の質に影響を与える。従って、子どもたちのアレルギーが、ある環境汚染要素によってもたらされるということを理解したなら、人々は我々の環境のためにつぎ込む金とエネルーは決して贅沢ではないということを知るようになる” と述べた。

 しかし、この会議に合わせて発行された一冊の本が、環境関連の健康問題は自分たちの政治的目標のために、活動家たちによって誇張されていると主張して、この会議の立場に異議を唱えた。
 産業界の支援を受けたイギリスの慈善シンクタンクである ”国際政策ネットワーク (International Policy Network)” によって発行された 『環境と健康:神話と現実 (Environment & Health: Myths & Realities)』 は、がんのような人間の健康問題は現代の産業社会によってもたらされ、悪化させられたとする考え方に異議を唱えた。それは ”ブダペスト・ビジネス・ジャーナル” によって会議に合わせてて発行された。
 同書では、10人の科学者がこの WHO 会議で議論されている主要な環境と健康問題について分析しており、多くの環境と健康リスクは科学的研究と世論を損なうために誇張されてきたと結論付けている。

 ”もし、各国が人間の健康と持続可能な開発を促進するための取組みを優先させるなら、リスクは相互に比較して評価されるべきである。貧困な中で生きる人間のリスクは他とは異なり、一般に、現代の技術と現代の産業社会がもたらすリスクよりもはるかに大きい” とこの本の著者の一人であるジュリアン・モリスは述べている。

 この会議のために WHO は、『環境に起因する疾病の苦しみ (Burden of Environmental Disease)』という報告書を発行したが、そこでは病気の5つの環境要因として、不安全な水、屋内及び屋外の空気汚染、鉛、そして怪我を挙げている。その報告書は、ヨーロッパ全域を通じて存在する大きな経済的な差異が子どもたちの環境に起因する疾病と廃疾の苦しみに影響を与えていることは認めている。
 WHO は、産業化、都市の汚染増大、気候変動、化学物質使用の増加、そして環境の悪化が、 ”数世代前には想像もできなかった” ようなリスクを子どもたちに及ぼしているという立場を取っている。
 それとは対照的に 『環境と健康:神話と現実』  の共同編集者ケンドラ・オコンスキは、現代生活の悪い結果に目を向けるのではなく、我々はなぜ豊かな経済社会にいる人々は健康で、長生きし、幸せに暮らしているのかを議論すべきであると ”信じている”。”ヨーロッパと世界中の子どもたちは、この将来を享受するに値する” と彼女は述べた。

 ヨーロッパの子どもたちの ”より健康な将来” は、まさに WHO が達成しようと目指しているものであると、WHO ヨーロッパ地域事務所の健康責任者ロベルト・ベルトリニ博士は述べている。しかし、豊かな経済社会における生活の質とは何なのかということに関する世界保健機関の見解は、このイギリスのシンク・タンクの見解とは異なっている。

 WHO のデータは、ほとんどのヨーロッパにおける子どもたちの生活水準は一般的にはよくなっているにもかかわらず、ぜん息、アレルギー、肥満、がん、先天性欠損症の発生率は増大していることを示している。子どもたちの体は発達中なので、子どもたちは特に環境的な危険性に脆弱である。

 世界中で5歳未満の子どもの年間死亡数が300万であるという子どもたちの健康に対する環境の影響を示すために、WHO は、ここブダペストで 『子どもの環境健康と環境の地図 (Atlas of Children's Environmental Health and the Environment)』 を発行した。
 ”この本は我々と世界に対する警鐘である。子どもの死亡数が警告を発している。それは陰惨な画像により、このことの無策を説明している。我々は現実を直視し、持続可能で明るい将来に向かって、今、行動を起こさなくてはならない” と持続可能な開発と健康な環境担当の WHO 副理事長カースティン・レイトナー博士は述べた。

 世界保健機関は今回初めて、子どもの環境と健康に関する WHO 文書の世界電子ライブラリーを提供している。この ”ブダベスト・コレクション Budapest Collection” は子どの環境健康リスクに及ぼす影響−屋内及び屋外の空気汚染、水と衛生、化学物質、怪我、食品安全と栄養、世界気候変動、社会経済的要因、及びタバコ−に関する100以上の文書からなっている。

 これらの文書は、1999年のロンドンにおける第3回環境と健康に関する大臣会議以来、WHO 本部及び6つの地域事務所によって発行されたものである。この第3回大臣会議において、ヨーロッパの健康と環境担当大臣たちが、環境の脅威に対する子どもたちの脆弱性を認め、安全と健康な環境を子どもたちに与えることを約束した。
 これを受けて、多くの分野別研究論文、報告書、雑誌掲載論文が発行され、それらが現在ブダベスト・コレクションの一部となっている。

 ”この世界規模の成果は、子どもたちの健康に及ぼす環境の影響を如何に少なくするかにについての多くの専門分野にわたるの洞察を提供することで、政策決定者や科学者にとって重要なツールとなる" とベルトリニ博士は述べた。

 提供される CD は、ユーザーが容易に検索し、目を通し、様々な言語の全文をダウンロードできる対話型検索機能をオプションで持っている。
 ”ブダペスト・コレクション” のコピーは gcc@who.it 又は fgi@who.it にメールで要求することで入手できる。

 ブダペスト会議は1989年にドイツのフランクフルトで始まった環境と健康への対応の一部であり、それ以来、5年ごとに開催される会議として続けられている。


化学物質問題市民研究会
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