BAN ニュース・ストーリー 2003年11月26日
カナダの廃船が非難の的
有害廃棄物の国際条約を無視
グリーンピース

情報源:BASEL ACTION NETWORK
CSL'S WRECKED SHIPS DRAW FIRE
MARTIN-OWNED CSL FLOUTED HAZARDOUS WASTE AGREEMENTS
GREENPEACE

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2004年1月30日


By Peter Brieger, The National Post
26 November 2003

 グリーンピースと他の環境団体は、ポール・マーティンが所有するカナダの船会社カナダ・スティームシップ・ラインズ(CSL)が所有する船の内の1隻が廃船として解体のためにトルコに送られたことに対して有害廃棄物の輸出を制限する国際条約を無視していると非難した。

 グリーンピースはまた、カナダ環境省( Environment Canada)がトルコ当局にCSLのマニトゥリン号が有毒化学物質を船内に有しているかもしれないということを通告しなかったと指摘した。

 CSLとカナダ環境省の双方は何も悪いことをしていないと主張している。、廃船の多くは潜在的に危険な化学物質を船体の断熱材、塗装、電気系統に使用しているがカナダには廃船に関する規定がない。さらに、このモントリオールを拠点とする会社は、この船はアメリカのブローカーを通じて売却されたので、その先どこに売られようとCSLには責任がないと述べた。

 「マニトゥリン号がトルコに売られたことは全く我々の管理範囲外のことである」とCSLの副社長ピエール・プレフォンタインはカナディアン・プレスの記者に述べた。彼はマニトゥリン号を買ったアメリカのスクラップ会社の名前を明かすことを拒否した。

 グリーンピースはこの説明を受けいれず、マニトゥリン号には何が含まれていたのか、CSLが所有していた時、船の解体をどうするつもりでいたのか説明するようマーティン氏に要求した。  「CSL社とポール・マーティンは廃船をブローカーに売却することが何を意味するか知っていた。もし、銃を子どもに売ればそれがどのように使われるかについて責任を逃れることはできない。我々は売却した後のことを話しているのだ」とグリーンピースのアンドリュー・メールは述べた。

 船主は、船内に有毒廃棄物が存在したとしても、実際には船体はほとんどリサイクル可能な鉄鋼なのであるから、アスベスト、PCB類、重金属などの有毒廃棄物の輸出入を禁ずる条約は、船には適用されないと主張する。
 環境団体は第3世界で船の解体を行うことは人間にとっても環境にとっても大災害であると言う。危険な化学物質と危険な作業環境の船解所で少なくとも1日に平均1人の作業者が死亡している。

 運動家たちは、船主たちがきちんとした法律がないこと及び末端での規制が緩いことを利用して、船の生涯の最後に関わりを持たないようにしていると非難している。
 環境団体は船主たちに、西側では環境規制が厳しく労働単価が高いので経済的ではないとして古い船を廃棄するやり方を変えるよう、長年、求めてきた。

 CSLとカナダ環境省はトルコ当局に対しマニトゥリン号だけでなくリサイクル用に送られた他の船についても書類を送付していなかった。それのみならずCSLはそれらの船が船解所に到着した時に、それらの船に有毒廃棄物が使われているかもしれないということを否定した。CSLはそれらの船をブローカーに売り渡した後のことは知らないと述べた。
 CSLは近年、3隻の船をアメリカのブローカーに売却している。

 オランダのグリーンピース運動家マリエッタ・ハンジョロは 「海運業界は、たとえスクラップにするために海岸に向かっていても船は決して廃棄物ではないと強く主張している」と述べた。

 マニトゥリン号は五大湖とセントとローレンス河の水路を30年以上、穀物から鉄鉱石まで何でも積んで往復していた。
 廃船としてブローカに売却された後はマニトゥリン号はトルコのイズミールにあるアリアガ造船所に曳航された。そこで解体された後、鉄材は現地の製鉄所で、補強鉄骨などカナダへの輸出用鉄材を製造するための原料として溶融された。これらの新たな鉄材はについてはカナダの鉄鋼メーカーが彼らのビジネスを脅かすものとして非難している。

 アリアガでは錆び付いた廃船の残骸が海岸に沿って横たわっており、約1,200人の人々がそれらの船の解体で細々と生計を立てている。彼らは、ほとんど着るものも身につけず、錆びた床からの転落や破片の落下の脅威に曝され、足場の悪いところでのガス切断作業や爆薬の仕掛けなどを行っている。ほとんど毎日、火事の報告があり、解体作業者は常時手足の切断や死亡事故にあっている。

 この解体所についての昨年のグリーンピースの調査によれば、ほとんどあらゆる面が深刻で不適切である。事故報告書などないに等しいか、あるいは信用できない。緊急医療施設はないか、あっても非常に限定されている。

   造船所内での死亡や傷害事故について信頼のおける統計もわずかにあるが、今年初めのインドの造船所でのギリシャのオイル・タンカー、アミーナ号の爆発事故などは明らかに事故の危険性がそんざいすることの証拠である。まだ大量の油が船内に残っているのにガス溶断作業が行われ、爆発により10人の作業者が死亡し、多くの人々が怪我をした。

 グリーンピースはまた、トルコの造船所は、油まみれで重金属と猛毒のPCBで汚染されていると報告している。
 10年以上も前のドイツの学者たちによる報告書によれば、空気は発がん性物質のアスベスト繊維で汚染されているとしているが、批判家たちによれば現在にいたるまで何も改善されていない。
 現地の漁師からは漁獲高が激減したと報告があり、また解体船からは排水が海に放流されているとの報告がある。

 マニトゥリン号は昨年、このような場所にやってきた。

 廃船プローカーはスクラップの鉄はトン当たり100〜200ドルでどこでも売れると述べている。このことからマニトゥリン号は500万ドル(約5億円)位で売却できたはずであるが、実際にはもっと安く、しかも数万ドルになる曳航費は含まれていなかったと考えられる。

 カナダで最大の船会社の一つであるCSLだけが海外の船船解所を使用しているわけではない。カナダ太平洋の多国籍企業であるCPシップのような他の船会社の廃船も他の4つの主要船解体国であるインド、バングラディッシュ、中国及びパキスタンで解体されている。

 トルコを含むこれら5カ国が、毎年、世界中で使用されなくなった雑多な船700隻の98%を解体しており、解体業界全体では船主に約10億ドル(約1,000億円)を支払っている。カナダでは年間平均わずか5隻の船が解体業界に貢献している。

 CPシップの広報担当エリザベス・カンナは、彼女の会社は全ての危険物質を除去して大洋を曳航又は航海することは危険であると考えていると述べた。しかし同社は国際船舶会議(International Chamber of Shipping)のリサイクル・コードの遵守にこだわている。それは自主的な指針であり、船主は危険物質のあるものを除去し、残りのものに関しては解体主が船に何が積まれているかわかるよう完全なリストを作成することを求めている。
 CSLのような会社は船解体をクリーンなものにする努力から遅れているとカンナは述べた。

 過去20年間、低賃金国の船解体業者は、西側の高度に機械化された、そして高価な造船所の代替として自らを売り込んだ。それは船主には魅力的な選択であった。というのは西側で残ったわずかな解体業者は、しばしば、船を引き取るだけで船主に何も払わないからである。

 「もし船をヨーロッパやアメリカの造船所に送れば、金がかかる。インドやその他に送れば船を引き取った上、金を払ってくれる」とカナダ環境省の海洋政策専門家のポール・トッピングは述べた。

 カナダにある2つ船解体会社の1つ、インターナショナル・マリーン・グループの社長ウェイン・エリオットによれば、北アメリカとヨーロッパの厳しい環境規制がまた、発展途上国の船解所を使用することに拍車をかけるているとしている。
 「我々は他の会社のようには船体に金を払うことはできない。実際を知れば、我々は足元にも及ばないであろう。ここではコストがかかり過ぎる」とエリオット社長は述べた。
 「ここでは1隻の船を解体するのに5ヶ月かかるが、よそでは4週間でやるかもしれない。彼らは1,000人の作業者を動員し、20人は死亡させているだろう。そのように大勢を一時に船に載せるのは非常に危険なやり方だ」と彼は述べた。

 西側の造船所での船の解体価格は高いが、環境汚染と人間の健康への脅威にかかるコストは規制のない造船所においてははるかに巨額であると批判家たちは主張している。
 厳格な規制を要求し土俵を同じにしなくてはならないとオランダのグリーンピース運動家マリエッタ・ハンジョロは述べている。

 「船主がその船の最終的処理について法的に責任を問われない限り、危険な廃船は最も規制の少ない国々に持ち込まれ、人々と環境に対し悲惨な結果をもたらし続ける」と彼女は述べた。

 ある批判家たちはこれらの規制は、バーゼル条約と呼ばれる国際条約の中に、すでに存在すると述べている。80年代の後半、西側諸国は有毒廃棄物の処分について規制を強化したので、それらの仕事を喜んで受け入れる貧しい国々にシフトしていった。そこで1998年に国連の支援を得て有毒廃棄物が富める国から貧しい国に送られることを止めさせるための会議がもたれた。

 カナダ及び他の150カ国以上が、輸出国が受入国に廃棄物であることを申告する義務を輸出国に負わせる合意書に署名した。輸入国はそのような物質の受け入れを拒否することができる。トルコのように自国の禁止措置をとる国もあるが、多くは厳格には実施されていないと批判家は述べている。

 「カナダはこの国際条約を破っていることを認めているように見える。アスベストやPCBで汚染された船がこれらの法の対象となることに対する障害はなにもない」とシアトルに拠点を置く環境監視のバーゼル・アクション・ネットワーク、コーディネータのジム・パケットは述べた。

 バーゼル条約締約国のために作られた独立機関の報告書はリサイクル用の船であっても廃棄物と見なすべきであるとしているが、これらの船は条約に含まれたことも、外されたこともない。船主とその廃棄船が条約の対象として義務付けられるかどうか激烈な議論が交わされた。

 海運業界は、船の95%以上はリサイクルできる鉄なのだから、危険物質が残っていても廃棄船の輸出は単なる廃棄物の輸出ではないという立場を長年とっている。

 「もし、PCBを船のトランスから除去して容器に入れてどこかに出荷したのなら、疑いなくその船は廃棄物ではない。そうでない場合が曖昧になる。しかし批判家が言うことは妥当である。すなわちそれらの船にはバーゼル条約の法的対象となるガラクタが存在する」とトロント大学の環境学教授マーク・ウィンフィールドは述べた。

 グリーンピースは船会社がもっと機械化されたそして厳格な安全規定を適用する規制された造船所で解体すべきであるということだけを、あるいは、既存の廃棄物取引法を船にも適用すべきであるということだけを望んでいる。

 カナダを含むバーゼル条約締約国会議が先月ジュネーブで開かれ、多くの法的な問題に関して討議し、船舶もある状況の下では廃棄物として扱われるという合意がなされた。今週、国連の機関で海洋に関する基準の設定が役目である国際海事協会(IMO)が会議を開始し、船主のためにリサイクル指針を採択することが期待されている。

 グリーンピースのハンジョロは、もっと自主的な指針が真に必要とされ、規定の義務付けが第一歩であると主張する。

 「そのような決定がなければ、アジアとトルコの労働者と環境のための現場における現実の改善に対し希望を持つことができない」と彼女は述べている。

 カナダの船解体業者エリオットは、カナダ政府がこの問題に指導力を発揮することで、解体ビジネスのいくらかでもをこの国に戻し、遠く離れた造船所をきれいにすることに役立つことを期待している。

 「我々は昔から、油を飲料水中に投棄すること、あるいはあたりにPCBを撒き散らすことは望んでいない。我々の問題を輸出することは正しくない」とエリオットは述べた。


化学物質問題市民研究会
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