新生児の免疫系を損ねる
母親の食物中の有機塩素系化合物


情報源:Environmental Health Perspectives Volume 111, Number 16, December 2003
Insult to Newborn Immunity: Organochlorines in Mother's Diet
http://ehpnet1.niehs.nih.gov/docs/2003/111-16/ss.html#insu

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2003年12月10日


 遠く離れたカナダの北極海の海岸の村々の、海産物を生活の糧としている小さな漁業者集落の住人たちは、水生食物連鎖の中で生体蓄積する残留性の高い産業用及び農業用化学物質の一種である有機塩素系化合物などの化学物質を異常に高いレベルで、しばしば体内に取り込んでいる。
 今までの調査研究で、胎児期にある有機塩素系化合物に暴露すると、子どもの免疫系の機能が抑制されることが知られている。今回、ケベック市にあるラバル大学医療センターのホウダ・ビルーハらの研究チームが、有機塩素系化合物によって損傷されたことを示す免疫系機能の生体指標(バイオマーカー)を発見した。〔EHP 111:1952-1957

 有機塩素系化合物には、ポリ塩化ビフェニール類(PCBs)、ジクロロジフェニールトリクロロエタン(DDT)、ジクロロジフェニールジクロルエチレン(DDE)、ヘキサクロロベンゼン(HCB)、ポリクロロジベンゾ-p-ダイオキシン類(PCDDs)、ポリクロロジベンゾフラン類(PCDFs)などがある。
 一度、環境に放出されると、有機塩素系化合物は気流に乗って北半球の北方から南半球の高緯度の寒冷地帯まで広く拡散する。冷たい空気で温度が下がると、雨や雪にに混じって海面に堆積する、あるいは気相吸着と呼ばれるプロセスによって海面に付着する。このようにして一度、海面に捉えられると、有機塩素系化合物は生体中の脂肪組織に蓄積し、食物連鎖を通じて生体濃縮される。寒冷地帯では、比較的高いレベルでこれらの化合物が動物や人間の、そしてそれらの子孫の体内から見出される。

 セント・ローレンス川の中部及び低部海岸地方、ケベックから遠く離れた、ある北極海岸地域では、21の集落がシェルドレイクからブランク・サブロンまで数百キロメートルにわたって点在している。
 住民の大部分は海産物を食べて生活している。1990年以来、実施されたいくつかの調査により、低北部海岸の集落では特に PCBs 、水銀、及びダイオキシン様化合物への暴露が、南部ケベック地域の集団に比べて高いことが判明している。

 ビルーハらは、中部及び低北部海岸の漁業を行う集落で少なくとも5年間、居住した47人の妊婦を調査対象とした。参照グループとして、近くの2つの漁業を生活の糧としない集落に住む、従って恐らく食物連鎖による暴露が比較的低いことが予想される65人の女性を選択した。

 女性が出産した時に臍帯血サンプルが集められ、水銀、14種の PCB 類、及び 11種の塩素系農薬及びその代謝物の濃度が測定された。研究者たちはまた、免疫細胞を臍帯血サンプルから分離して、植物性赤血球凝集素(フィトヘマグルチニン)、T細胞の素質を評価するための有糸分裂促進[誘起]物質、にそれらを曝すことによって、免疫損傷に対する反応をテストした。
 一度刺激を受けると免疫細胞は通常、免疫系の作用を仲介し制御する小さな蛋白質である細胞分裂物質を生じる反応を引き起こす。
 研究者たちは、臍帯血から集められた免疫細胞を用いて、細胞分裂物質の生成が、 PCBs や他の塩素系化合物に胎内で暴露した新生児の体内で損なわれるかどうかテストした。

 予想した通り、p,p'-DDE、HCB、及び PCBs の平均濃度は、参照グループより漁業グループの方が明らかに高かった。DDT は、その主な代謝物である DDE としてしか残留しておらず、ほとんどの参加者から検出されなかった。
 さらに重要なことは、高い濃度の PCBs と DDE に暴露した新生児のンパ球細胞は、参照グループの新生児に比べて細胞分裂物質の分泌が少なかったということである。

 これらの結果は、 DDE と PCBs は、小さな子どもの免疫系に微妙な影響を与え、そのことが、子どもたちを感染症にかかりやすくしているということを示唆している。
 報告者らは、これらの微妙な生物学的影響が、これら海岸地域の集団の乳幼児の感染症のリスクを高めているかどうかを調べるために、疫学調査を実施することを計画している。

ジョン・ティベッツ (John Tibbetts)



化学物質問題市民研究会
トップページに戻る