2003年11月23日バーゼル・アクション・ネットワーク : ニュース・ストーリー
携帯電話の番号継続措置で電子廃棄物が増加
情報源:BASEL ACTION NETWORK
CELLPHONE RULING WILL ADD TO E-WASTE
訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2003年12月12日


【November 23, 2003 By Charles Seabrook; The Atlanta Journal-Constitution】
 携帯電話会社を変更しても自分の電話番号を変更しなくてもすむ、新しい便利な措置が来週からとられるので、数百万台の携帯電話、バッテリーチャージャー、その他アクセサリー類が以前にまして安易に廃棄物として処理される可能性が高い。

 古い携帯電話のあるものはリサイクルされたり慈善品として提供されるが、大部分の数百万のものは、携帯電話会社を変更すると使えなくなるので、埋立地に山を築き、有毒金属と化学物質がさらに地下に漏れ出すことになると科学者や環境派は心配している。
 携帯電話は、すでに有毒汚染を引き起こしているコンピュータ、モニター、テレビ、音響機器、バッテリーなどその他の廃棄電子機器の巨大な山に仲間入りしようとしている。
 これらは電子廃棄物は e-waste、 e-scrap、 e-garbage などの名前で呼ばれている。

 科学者たちは、廃棄された物質は、埋立地から漏れ出して地下水を汚染する可能性のある大量の鉛、水銀、カドミウム、その他の物質を含んでいると警告している。
 「それは時限爆弾のようなものだ」 とジョージア工科大学の産業システム技術学部教授で電子廃棄物の解決方法の開発プロジェクトを指導しているジェーン・アモンズは述べた。
 1台の大型テレビ又はコンピュータ・モニターだけで8ポンド(約3.6kg)の鉛を含んでいると彼女は述べている。
 専門家の調査によれば、これらの物質には、特に子どもたちに対し、鉛含有塗料や加鉛ガソリンと同じような危険性を及ぼすという問題がある。鉛含有塗料は1978年に使用が禁止され、ガソリン添加剤は1980年代に製造が中止された。
 血液中のほんのわずかな量の鉛や水銀でも子どもに深刻な障害を引き起こす可能性がある。

 携帯電話は、厄介なことに、鉛や、人間に対する発がん性が疑われているヒ素、カドミウム、及びベリリウムを含んでいるので、数百万台が廃棄されると大きな電子廃棄物問題となると、産業界の専門家は述べている。
 「携帯電話は小さいので、環境への影響も小さいように見える。しかしその使用台数が非常に増大しているので、それらが生成する廃棄物による環境と公衆健康への影響は非常に大きなものがある」 とニューヨークの環境研究団体であるインフォーム社の上席研究員ベティ・フィッシュベインは述べた。
 フィッシュベインの昨年の調査によれば、アメリカでは1億3千万人が携帯電話に加入しており、電話機を平均18ヶ月で新しいものに交換している。

 アトランタの都市部では4世帯のうち3世帯が携帯電話を持っており、アメリカで最も世帯保有率が高い。全国平均では、3世帯のうち2世帯が携帯電話を所有しているとニューヨークにあるスカボロ研究グループは述べている。

 来週月曜日から実施されることになった新たな措置で、電話会社を変えても個人の電話番号は変えなくてもすむので、今後数ヶ月で数百万のアメリカ人が電話会社を変えることが予想される。
 電話会社を変えると電話機本体も変える必要が生じる。アメリカでは、電話会社を変える時に新しい電話機本体を使用者が購入するよう、いくつかの競合する技術基準が存在するからである。
 一方ヨーロッパでは一種類の技術標準しかないので、人々が電話会社を変えても今までの電話機本体を継続して使用することができる。

 新しい措置がとられることでアメリカの廃棄電話が洪水のようにあふれることを予想して、無線産業界は新たなウェブサイトを立ち上げ、使用者の古い携帯電話をどのようにリサイクルできるのかについての情報を提供している。
http://www.recyclewirelessphones.org

限られたリサイクル

 現在までのところ、リサイクル・プログラムはあまり成功していない。タッカー市で使用済み携帯電話を回収するコレクティブグッドという名前の会社を、4年間、経営しているセス・ハインは、使用済み携帯電話のわずか 1%がリサイクルされ再利用されているに過ぎないと述べている。ハインは、コレクティブグッド社が回収する携帯電話のほとんどをラテンアメリカやカリブ海の諸国の携帯電話会社に売っていると述べている。
 このことは新たな問題を引き起こしていると前述のジョージア工科大学ジェーン・アモンズ教授は述べている。再生した携帯電話を貧しい国に輸出するということは、最終的にはその機器がそれらの国々で埋め立て処分されるということを意味している。

 携帯電話は、電子廃棄物の問題の一部である。アメリカ環境保護局 (EPA) は、今年だけで、9千万台のパーソナルコンピュータが廃棄され、そのうちリサイクルされるのはわずか15%であろうと予測している。

 ジュリアン・パウウェルは古いコンピュータの氾濫を見ながら、アトランティックにあるコンピュータ、モニター、ノートパソコン、プリンター、その他電子機器をリサイクルし、環境に優しい方法で処理するゼンテック社を経営している。彼は、携帯電話は数トンのコンピュータ機器の洪水に比べれば、たいしたことはないと述べている。
 しかし、彼の会社は全体の中でわずかな量しか扱っていない。全米の電子廃棄物でリサイクルされると予定されているものの大部分が、実際には発展途上国、大部分がアジアに輸出されていると環境団体は主張している。

 少なくとも電子廃棄物の80%は、環境基準が整っておらず、賃金の低いこれらの諸国に輸出されている。これらの条件が、廃棄物の中から少量の金、銀、銅、及びアルミニウムなどを回収するために、作業者は健康を危険に曝しているとアモンズ教授は述べている。
 回収のすんだ残りのガラクタは埋立地に捨てられ、飲料水を汚染し、人々を病気にしていると彼女は述べている。

アジアの危機

 グリンピース・チャイナとシリコン・バレー有毒物質連合(Silicon Valley Toxics Coalition)を含む環境 5団体は、昨年の調査で電子廃棄物はアジアの多くの場所で危機状態になっていると報告している。
 「電子廃棄物問題に正面から取り組むよりも、アメリカは便利で、最近まで隠していた逃げ道、危機をアジアの途上国に輸出する方法をとっている」 と報告書は述べている。

 これにも関わらず、EPA は、まもなく、12万両の鉄道貨物車に匹敵する 1,200万トンの電子廃棄物でアメリカの埋立地が溢れるであろうと推定している。
 電子廃棄物の山がそびえることを懸念して、いくつかの州ではこの問題に対処するための手を打ち始めている。
 ジョージア州では、昨年、州議会が、今後、5年間にわたってこの問題を検討し解決策を提案するための ”コンピュータ機器処分及びリサイクル諮問委員会” を設立した。

 とりうる措置は自治体が電子機器を埋め立て処分することを禁ずることである。

 アモンズ教授が指揮するジョージア工科大学のプロジェクトも解決策の提案を約束している。研究者たちは電子機器中に含まれるどのような物質をも回収し再使用するシステムを検討している。それができればリサイクル業者は利益を上げることができ、使用者は古くなった機器を処分しやすくなる。

 最終的には、製造者は、危険物質を使用せず、使用後、直ぐに廃棄する必要がないように、もっと簡単にリサイクル、再使用、あるいは機能向上のための改造(グレードアップ)ができる製品を設計することが望まれるとアモンズ教授述べている。



化学物質問題市民研究会
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