米 EPA
子どものがんリスク評価は係数で補正する:
改訂予定の ”がんリスク・ガイドライン”


情報源:Environmental Health Perspectives Volume 111, Number 13, October 2003
Adjusting for Youth: Updated Cancer Risk Guidelines
http://ehpnet1.niehs.nih.gov/members/2003/111-13/EHP111pa708PDF.PDF

(訳:安間 武 /化学物質問題市民研究会
掲載日:2003年10月31日


 数十年間、科学者たちは、小さな子どもは大人に比べて、ある化学物質のがんを引き起こす影響に対して感受性が高いということを示す証拠を集めてきた。今回、アメリカ環境保護局(EPA)は、発がん性物質に関するリスク評価における手法に、この情報を導入するという画期的な措置をとることとなった。
 すなわち EPA は、化学的特性データがない時には、”2歳未満の乳幼児は大人に比べて、突然変異誘発性発ガン物質に対して10倍、2歳〜15歳の子どもは3倍、それぞれ感受性が高い” という仮定を置くべきであるとしている。
 これらの補正係数がリスクj評価時に適用されると、ある化学物質については規制が強化されることになり、その結果、幼児期の曝露の危険性が低減されることになる。

 この新たな勧告は、EPA のドラフト ”発がん性物質への幼児期曝露によるがん発生の評価に対する補足ガイドライン” に記載されている。この”補足”(通常このように呼ばれる)には、がんのリスク評価のための EPA の最新のドラフト・ガイドラインが含まれており、2004年の初頭には最終決定されるものと予想されている。
 EPA の科学者たちは、環境化学物質のがんリスク評価を行う時には、現在、 EPA 手法のハンドブックとして、1999年改訂版のこれらのガイドラインを使用している。

 この”ドラフト補足”は、国家研究理事会(National Research Council)と EPA 科学審議会(EPA Science Advisory Board (SAB))の勧告に対応したものである。
 「この補足は、明示的に子ども用の評価を求めているので、現行の EPA のアプローチとは大きく異なるものである」 と EPA リスク評価フォーラムの理事長ウィリアム・ウッドは述べている。
 この補足は、胎児期を含む幼児期の曝露を大人と比較した、現在入手可能なデータの検証に基づいた定量的なアプローチを提案しているとウッドは述べている。その検証にあたって、 EPA は、突然変異誘発性物質、非突然変異誘発性物質、及び放射性物質への曝露によるがん発生に関し、50年前までさかのぼる23の研究事例を分析した。

 環境化学物質への幼児期の曝露のリスクは二つの理由から高まると考えられている。
 第一は、子どもの行動そのものが曝露の可能性を高めている。子どもは地面を這い回り、指を口に持っていき、大人に比べて体重当たりより多くの空気を吸い込む。
 第二は、子どもの発達中の組織は、化学的に誘引された変化に対し独特の感受性がありうる。
 ”補足”は、後者の状況を配慮したものである。限られた動物実験データによれば、DNA の損傷によってがんを生じる突然変異誘発性発がん物質は子どもに特に危険である。細胞は発達中にはより頻繁に分裂するので、DNA は化学的な損傷を受けても自身で修復する時間が少なくなる。脳細胞のような胚芽細胞は DNA 修復酵素を全く持たない。

突然変異誘発性化学物質に焦点をあてる

 ウッドによれば、”補足”は、 EPA の科学者たちに突然変異誘発性発がん物質を評価する時にのみ使用するよう指示している。言い換えれば、これらの係数は、発がんモードが突然変異誘発性として知られている時、そして、化学的特性データが子どもの動物にない時に適用される。これらの係数を適用するということは、発がん性物質の計算上の効能を年代グループ毎に拡大するという保守的なアプローチであることを意味する。
 ウッドによれば、これらの補正係数の使用が正当化されるのは、ある突然変異誘発性物質(例えば、DNA に作用する塩化ビニルや放射性物質)は成人期よりも幼児期に、がんの脅威をより多く及ぼすということを示す証拠があるからである。

(以下、詳細なので割愛)

(訳: 安間 武)


化学物質問題市民研究会
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