米環境健康科学研究所(NIEHS)プレスリリース
極低レベルの血中鉛濃度が知能指数に影響を与える
ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシンが発表

情報源:NIEHS Press Release
NIEHS PR #03-04 April 16, 2003
Very Low Lead Levels Linked with IQ Deficits, According to NEJM Study
http://www.niehs.nih.gov/oc/news/leadiq.htm
掲載日:2003年4月20日



 鉛は極低レベルの血中濃度でも有害であるという研究報告がなされた。米環境健康科学研究所(NIEHS)の基金を受けたこの研究の結果は4月17日に『The New England Journal of Medicine』に掲載される。

 5年間にわたる研究により、鉛血中濃度が10μg/dl以下の子どもたちが鉛による知的障害を受けているということが判明した。さらに、鉛に起因する障害の程度は、低レベル濃度であるほど顕著であることもわかった。
 この研究はコーネル大学、シンシナティ子ども医療センター、及びロチェスター大学医学校の研究者達によって行われたものである。

 この新たな研究の重要な点は、現在、米疾病管理予防センター(CDCP)が鉛血中濃度の上限しきい値としている10μg/dlより低いレベルの鉛血中濃度の子どもたちに焦点をあてたということである。従来は主に10〜30μg/dlの範囲の血中濃度について研究がなされていたが、今回の研究ではこれらよりもっと低レベルの濃度で知的障害をもたらすことがわかった。

 「この研究で、子どもたちへの知的障害の多くは10μg/dlより低いレベルの鉛血中濃度で起こることがわかった」と研究報告の主著者であるコーネル大学栄養科学部のリチャード・キャンフィールドは述べた。鉛曝露に起因する障害の程度は予想していたよりも大きかったとして「10μg/dlの鉛血中濃度をもつ子どもたちの知能指数(IQ)は1μg/dlの子どものたちより約7ポイント低いということが分かり、大変驚いた」とキャンフィールドは述べた。

 またこの研究では、鉛血中濃度が10μg/dlから30μg/dlに増大しても、それによる知能指数の低下は僅かであることがわかった。「従来のほとんどの研究では我々が対象としたよりも高いレベルの血中濃度の子どもたちに焦点をあてていたので、従来の研究者は血中濃度がもっと低いレベルの時に知的障害が起きるということが分からず、血中濃度が10μg/dlに達した後の僅かな知能指数の低下分だけを算定していた可能性がある」とコーネル大学人間発達学部のチャールス・ヘンダーソンは述べた。

 ロチェスター大学医学校、NIEHS環境健康科学センターのデボラ・コーリースレクタは「この研究で、知能指数が低いことに起因する行動障害についても認識する必要があることがわかった」と述べた。

 1970年以前は、子どもの鉛中毒は鉛血中濃度が60μg/dlであると定義されていた。それ以来、鉛の上限しきい値は数回にわたって下げられ、現在の10μg/dlとなった。この定義のもとでは、アメリカの1歳から5歳までの子ども50人のうち1人以上は鉛による影響を受け、知能指数の低下、行動障害、学習障害に関連していることになる。米疾病管理予防センター(CDCP)によれば、10人に1人の子どもは5μg/dl以上の鉛血中濃度を持つ。

 「鉛曝露による悪影響に関する明確なしきい値など存在せず、従来考えられていたより多くの子どもたちが鉛の害を受けているということが、我々の研究でわかった。過去20年間で、血中鉛濃度が10μg/dl以上の子どもたちの数は大幅に減少したが、今回の研究結果は鉛曝露をさらに防止することの重要性を示している」とシンシナティ子ども医療センター及び子どもの環境健康センターのブルース・ランピエールは述べた。

 この研究ではニューヨーク州ロチェスターの172人の子どもたちに対し、 各12, 18, 24, 36, 48, 60月ごとに鉛血中濃度を測り、知能指数はは3歳と5歳の時点で測定された。研究者たちは子どもの知的機能に影響を与えると考えられる多くの要素についても勘案した。出生時の体重、母親の知能、所得、教育などである。

 「このような広範囲にわたる鉛曝露による影響は憂慮すべきことである。多くの子どもたちの平均知能指数が僅かに下がるだけでも、問題とする知能指数レベル、例えばIQ=80以下の子どもの数が劇的に増えることになるし、IQ=120以上の天分豊かな子どもの数が減少することになる」と、今回の研究メンバーではないが永年、鉛曝露について研究しているNIEHSの研究員ウォルターJ.ローガン博士は述べた。

 研究報告書の著者達は以下の通りである。

Richard L. Canfield and Charles R. Henderson, Jr., Cornell University, Ithaca, N.Y.; Deborah A. Cory-Slechta, University of Rochester School of Medicine, Rochester, N.Y.; Christopher Cox, National Institute of Child Health and Human Development, NIH, DHHS, Bethesda, Md.; Todd A. Jusko, University of Washington, Seattle, Wash.; and Bruce P. Lanphear, Cincinnati Children's Hospital Medical Center. NIEHS funds centers for environmental and children's health at University of Rochester, University of Cincinnati, and University of Washington.

(訳: 安間 武)


化学物質問題市民研究会
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