ENS 2002年9月13日
水銀の使用制限のための世界条約
情報源:Environment News Service (ENS)
GENEVA, Switzerland, September 13, 2002
Experts: Global Treaty to Limit Mercury Needed
http://ens-news.com/ens/sep2002/2002-09-13-03.asp
掲載日:2002年9月16日



 世界各国政府は水銀による人間と生態系へのダメージを制限するために法的拘束力のある条約締結に向けての交渉を開始すべきであると150人の科学者からなる国際グループが、本日、勧告声明を出した。

 国連環境計画(UNEP)の世界水銀評価ワーキング・グループはジュネーブでの1週間にわたる会議の後、政府は条約交渉を開始すべきと勧告した。一方、各国は、水銀に替わる製品とプロセスを用いて、水銀を含む製品の製造と消費をなくすことにより、水銀によるリスクを削減すべきであると述べた。
 水銀への曝露により、脳や神経、肝臓が終生の障害を受けるということはよく知られている。水銀は胎児に影響を与えるので、妊婦には特に重大である。

 水銀は自然界において、岩石、土壌、火山からも放出されるが、人間の活動により、産業化される前に比べて、大気中の濃度は3倍以上になったと専門家達は述べている。
 推定値は色々あるが、それでも約5,000〜10,000トンの水銀が毎年大気中に放出されていると考えられ、そのうち50〜70%は人間の活動に起因するとUNEPグループ専門家達は述べている。
 人間に起因する水銀放出の主な発生源は、火力発電所の石炭燃焼と産業、商業、住宅での石炭燃焼である。その他の発生源としては自治体の固形廃棄物焼却炉、非鉄金属鉱山、金の採掘、等がある。

 水銀はまた、優れた電導性と柔軟性のために、広く日用品にも使われている。水銀を含むものとして、体温計、歯の詰め物、蛍光灯、電気製品、電池、等がある。
 水銀は、また、電力用、自治体用、家庭用のあるタイプの計器として使われている。例えば、スイッチ、メーター、温度計、圧力計、散水器用接点、等である。
 また水銀は、いくつかの農薬や殺生物剤、医薬品、化粧品にも使われている。
 またある国では宗教儀式で用いられている。

 人々はメチル水銀に汚染された魚や貝類を食べることで、最も多く水銀に曝露する。多くの行政当局は魚が水銀で汚染されているので、それらを食べることに対して警告を発している。
 人々は、また廃液、焼却炉、そして水銀を含む燃料を燃やす工場から空気中に出た水銀を吸い込むことで曝露することもある。
 水銀は、歯科治療や医療でも放出されるので、歯科や医療サービスの従事者は職場の汚染された空気を吸入したり、皮膚接触によって水銀に曝露することがある。
 埋立場に持ち込まれると、水銀は徐々に地下水に浸透し、あるいは大気に蒸発する。水銀は長距離を移動し、長期間、環境中に残留する。
 3月に発表された2つの研究によれば、火力発電所で化石燃料を燃焼した際に大気中に放出された水銀は、北極や南極にまで達し、食物連鎖系に入り込んでいる。

 法的拘束力を持つ水銀条約に加えて、世界水銀評価ワーキング・グループは、各国政府が非拘束の世界行動計画を立て、各国がリスクコミュニケーション、評価、活動等に関する情報を共有するための協力体制を強化するよう求めた。
 ワーキング・グループは、妊婦など弱い立場の人々へ手をさしのべるとともに、発展途上国や経済的移行状態の国に対し技術的及び経済的援助をするよう勧告した。
 水銀に関する健康と環境の観点から、及び環境に配慮した代替物質という観点から、研究、監視及びデータ収集をさらに強化するということがワーキング・グループの勧告の中で述べられている。
 これらの勧告と詳細な評価レポートは、来年2月にナイロビで開催されるUNEPの理事会に提出されることになっている。

 「科学者や専門家達からのこれらの勧告は、水銀の環境と健康に対するリスクを削減し、なくすために重要な第一歩である。これから先は政治家や政策決定者の手に委ねられ、今後どのようにこの問題を進めるべきかを決定しなくてはならない。」とUNEPの理事長、クラウス・トーファーは述べた。
 ワーキング・グループのの個別の技術的勧告に基づき、理事会は、将来の水銀に関する世界行動計画を設定するための政策的決定を行うであろう。

 いくつかの国ではすでに水銀汚染に対処する行動を起こしている。
●EUでは、3億3000万ユーロ(3億2400万ドル)の予算を計上して、時代遅れな塩素製造装置からの余剰水銀を安全に処分することになっている。
(訳者注)
 参照 海外環境情報:Environment News Service, BRUSSELS, Belgium, September 6, 2002
 ヨーロッパ、塩素製造に使用した水銀の後始末に取り組む

●米上院では今月はじめに、アメリカ国内での水銀体温計の販売を禁止する法案を採択した。

●5月にアメリカ環境保護局(EPA)は、コンピュータやテレビ、水銀を含む家電製品が自治体の埋立場や焼却場に持ち込まれるのを抑制するために、廃棄物規制法を修正することを提案した。
(訳者注):廃棄物ではなく再生可能品としたために、海外への輸出が可能となり、その結果、発展途上国への合法的な廃棄物輸出となるとの批判もある。
 参照 海外環境情報:Environment News Service, WASHINGTON, DC, May 29, 2002
 アメリカ環境保護局(EPA)電子廃棄物の削減を目指す

 水銀に関する詳細情報については、アメリカ毒性物質及び疾病登録局の下記ウェブを参照のこと:
http://www.atsdr.cdc.gov/tfacts46.html

 アメリカの非営利組織で水銀の危険性を公衆に知らせている”水銀政策プロジェクト(Mercury Policy Project)”のウェブは:
http://www.mercurypolicy.org/

 水生生態系における水銀に関するアメリカ地質学調査ファク・トシートのウェブは:
http://water.usgs.gov/wid/FS_216-95/FS_216-95.html

 歯科治療における水銀使用については、歯科アマルガム水銀症候群のウェブは:
http://www.amalgam.org/

(訳: 安間 武)



化学物質問題市民研究会
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