ナノテクノロジーの驚くべき可能性に秘められた
危険性を環境活動家が指摘

情報源:ENN Environmental News Network
September 10, 2002
By Jim Krane, Associated Press
Environmentalists see possible risks in nanotechnology's marvelous potential
http://www.enn.com/news/wire-stories/2002/09/09102002/ap_48381.asp

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2002年9月15日



 【ニューヨーク】 ナノテクノロジーにより、コンピュータを腕に埋め込むほどに小さくすることや橋や飛行機の材料をもっと強く軽くすることが可能になる。がんですら治療が可能となる。

 しかし、環境活動家の中には、物質を分子レベルで操作する最先端のナノテクノロジーが、その微小さが故に極めて危険な環境汚染を引き起こすのではないかという危ぐを抱く人もいる。

 「もし、ナノ物質が血液や地下水に入り込むとすれば、例えナノ物質そのものは危険性がなくても、他の危険物質と反応するかも知れない」と、遺伝子組み換え作物にも反対している環境団体ETCの研究員キャシー・ジョー・ウェッターは述べた。

 科学者達は、そのような恐れは空論に基づくものであり、ナノテクノロジーでは炭素、亜鉛、金などよく知られた毒性穏和な物質を使っていると述べている。研究者達はこれらの物質を原子ベルで扱い、ナノ物質はナノメートルの単位、あるいは10億分の1メートルのオーダーで測定する。

 「予測できない結果が生じるかも知れない。あるものは有害ということもあろう。しかし、そのようなことは、もっと大きな物質にも、また他の産業でも起こりうることである。そのリスクは得られる利益に比べれば、非常に小さい」と国立科学基金のナノテクノロジーに関する上席アドバイザーであるミハイル・ロコは述べた。

 ナノテクノロジー研究は、アメリカ政府が進める最重要科学部門の一つであり、今年は6億400万ドルの基金が提供された。ETCの推定によれば、世界で約40億ドルの基金が提供されており、その中には日本、台湾、韓国、オーストラリアの各国政府の基金も含まれている。

 ウェッターの所属するカナダの環境団体は先週南アフリカのヨハネスブルグで開催された持続可能開発世界サミットでこの問題を議論する場を作ったが、彼女は、今後、産業界はナノ物質が環境や健康へ与えるリスクの検証を行わないで、市場に出してくると信じている。もし人間が作り出したナノ物質が肝臓や肺に蓄積したら、どのようなことになるのであろうかと彼女は問いかけている。

 トランジスターに使われているシリコンに替わるものとして喧伝されているカーボンナノチューブ分子は、先のとがったアスベストファイバーによく似ていると彼女は述べている。2つの研究、マウスによる研究とモルモットによる研究、によれば、カーボンファイバーは多分人間にはほとんど危険性はないとしているが、ウェッター等は人間の肺を傷つけると考えている。

 研究者達が考えていることは非常にドラマチックなので、ETCは政府に対し、環境と健康への懸念について調査し、それが払拭されるまで、ナノテクノロジーの開発は中止するべきであると要請した。「実用化は直ぐそこまで来ている。これは新しい物質であり、よく見極める必要がある」とウェッターは述べている。

 上記2つの研究にはまだ基金供与はされていないが、今年中に研究成果を出すことを米EPAは期待しているとEPA国立環境研究センターの理事ピーター・プレウスは述べた。

 米農務省と食品医薬品局(FDA)は12月にナノテクノロジーに関するワークショップを開催し、農業及び食品の観点から検証することを計画している。
 我々は色々やろうとしているが、現在までの所、着手している作業はないとプレウスは述べた。

 ETCグループは、将来ナノテクノロジーが可能にする食品、例えば飲み手の要求に応えて色や香りを変化させる”対話型飲料”等には何百万、何十億のナノ物質が使われるであろうということを懸念している。

 ノーベル賞を受賞したヒューストン・ライス大学のナノテクノロジー研究者リック・スモーリーは将来のそのような食品は、まずFDAの検査を通過しなければならないとしている。

 ナノ物質は非常に小さいのでほとんど全てのフィルターを通過してしまい、目に見ることはできない。カーボンナノチューブのようなものは自然界には存在しない。もし、問題が生じてナノ物質を通常の環境から除去しようとしても、それはすでに手遅れである。実験室の外に出たナノ物質を検出するセンサーは存在しない。

 すでにいくつかの会社はナノ物質を製造している。電子部品用に売り込みが図られているカーボンナノチューブとともに、それらは塗料と日焼け止め剤に使用されようとしている。

 例えば日本の三菱は、トランジスターから化粧品にいたるまで何にでも使用できるカーボン・ナノ物質を、近々、工業レベルで生産するとアナウンスした。
 スモーリーの会社、カーボン・ナノテクノロジー社は、主に研究用に日産約1ポンドのカーボンナノチューブを生産している。いずれ日産1000ポンドの生産規模にしたいと彼は述べた。

 スモーリーはまだ非公開であるが米航空宇宙局(NASA)の研究によれば、少し気になることとして、テストで大量のナノチューブを肺に入れたマウスが1匹死んだと述べた。

 一方、ナノ物質使用の可能性の高い分野は、携帯電話のケース、車のドアー、コンピュータチップなどであろうが、ナノ物質は重合体(ポリマー)の内部に封じ込められているとして、スモーリーは「ナノ物質製品があっても、それによりナノ物質が辺りを浮遊したり、食品中に入り込んでくるわけではない」と述べた。

 ヒ素を含むガリウム・ヒ素化合物の様なナノ物質は、通常のガリウム・ヒ素化合物と同様に有害物質であり、コンピュータ・チップ製造会社で使用されている。

 「健康障害を起こすようなナノ物質のクラス分けは出来るのか? 出来る。それらは事前に準備されるべきものである。我々はそれらについて計画を立てることができる」とライス大学生態学・環境ナノテクノロジーセンター理事のケビン・アウスマンは述べた。

(訳: 安間 武)



化学物質問題市民研究会
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