米専門家審議会 NIEHS/NTPに対し
発がん性物質報告書に新たな記載をするよう勧告

情報源: (NIEHS)/プレスリリース 12/15/00

FOR RELEASE December 15th, 2000 NIEHS PR #00-19
Advisory Panel on Federal Report
on Carcinogens Makes Recommendations
to NIEHS/NTP for New Listings
http://www.niehs.nih.gov/oc/news/rocrslt.htm
掲載日:2000年12月21日


 専門家審議会は、本日、アメリカ政府に対し、ステロイド エストロゲン(訳注:女性ホルモンの特性を持つ物質)を発がん性が“既知(known)”である物質として、『発がん性物質報告書』(Report on Carcinogens)に記載するよう勧告した。

 審議会の委員によれば、これらのステロイドは医療用として重要であり、明らかに患者に対し恩恵を与えるものではあるが、これらのホルモンはまた、ある条件の下では、子宮がん及び乳がんを引き起こす危険性があると長年考えられていた。
 審議会は8対1で、これらのホルモンには発がんに関し高い危険性があり、単に発がん性を増大させるというだけではなく、人間のがんの原因として“既知”である、とみなすことに合意した。

 『発がん性物質報告書』は発がん性物質に関する情報を国民や医療関係機関、規制当局機関に提供するよう、アメリカ議会によって求められ、ノースカロライナ州リサーチ トライアングル パーク(Research Triangle Park)にある米環境健康科学研究所(National Institute of Environmental Health Sciences - NIEHS)の一部門である国家毒性計画(National Toxicology Program - NTP)によって作成されているものである。NIEHS/NTPは、発がん性に関する第10次報告書を作成するための第1歩として、審議会の見解の調査を行った。第10次報告書は今後パブリック・コメントを反映した後に、発行される予定である。

 エストロゲンは女性の体内で自然に作られるものであるが、男性の体内でも少しは作られる。それらは閉経後の女性のホルモン療法用として、また避妊用として医療で使用される重要な物質である。それらの使用については長年、子宮がんや乳がんと関係があるとされてきた。審議会委員は、今回、その発がん性がはっきり認定されたので、医師や女性は医療上の恩恵と発がん性の危険をよく勘案して使用すべきであると述べている。しかし、医療上、エストロゲンの使用を制限したり、やめるということについては特に言及していない。

 審議会は、そのほか、抗生物質であるクロラムフェニコール(chloramphenicol)を、幼児期の白血病との関連についての証拠に基づき、人間への発がん性が“十分に予想される(reasonably anticipated)”物質とするよう勧告した。
 1948年に発疹チフスに対する特効性が発見されて以来、大量生産された抗生物質の一つであるが、不治の形成不能無力症(aplastic anemia)を引き起こす危険性があるとの理由により、チフスの発熱と髄膜炎で他の抗生物質が効かない場合に限って使用されていた。

 今回の勧告は、国家毒性計画科学カウンセラー(National Toxicology Program Board of Scientific Counselors)の一部である審議会が、ワシントンでの12月13日から15日までの3日間の討議の後に、出したものである。

 同審議会はまた、以下の物質を“既知(known)”である、すなわち発がん性がある物質としてのカテゴリーに格上げするよう勧告した。

  • 家具等の木製品の製造中に発生する木材粉塵
     これらは鼻孔がんの増加に関係している。世界中で200万人の人々が木材を扱う職場で木材粉塵に曝されている。
  • 太陽光からの、あるいは人工照射源からの広域スペクトル紫外線(UV) の輻射
     しかし、個々の紫外線のクラスUVA、クラスUVB、クラスUVCについては、クラス間のオーバラップが複雑であるという理由のために、人間への発がん性が“十分に予想される(reasonably anticipated)”という、別のカテゴリーとするよう勧告した。

 人間への発がん性が“十分に予想される(reasonably anticipated)”というカテゴリーに分類すべきものとして:

  • ハーブや香辛料の自然成分であるメチルオイゲノール(Methyleugenol)
     これらにはバジル、シナモン、ニクズク、メースなどが含まれる。これらはまた、ゼリー、焼き菓子、非アルコール性飲料、チューインガム、キャンディ、その他の食品に微量添加される添加物として使用されている。NIEHS/NTPのスタッフによれば、メチルオイゲノールは動物実験では、肝臓がん、胃がん、腎臓がん、乳腺腫瘍を引き起こすが、人間への発がん性があるかどうかの実験はまだ行われていない。
  • 産業用で使われる金属ニッケル
     しかし審議会では、ニッケル合金はこのカテゴリーに含めないこととした。ニッケル合金は特殊鋼やステンレススティールとして多くの用途があり、医療移植でも用いられている。

 審議会では、金属製品、電気製品、電子機器の製造における金属部品の脱脂や搬送/輸送機の洗浄に用いられるトリクロロエチレン(TCE) を、人間への発がん性が“十分に予想される(reasonably anticipated)”というカテゴリーから“既知(known)”である、すなわち人間に対し発がん性があるというカテゴリーに格上げすることが検討されたが、結局、格上げは行わないこととした。

 審議会は7対3で、通常のタルク(talc)は人間に対する発がん性はないこととした。審議会は一連の女性の卵巣がんについての研究を検証したが、女性のタルク使用と発がん性の関係について確信を持つには至らなかった。
 アスベスト状繊維タルクと呼ばれる特殊なタイプのタルクはアスベストのように見えるがアスベストではない繊維を含んでいる。審議会はこれらの物質を人間に対し“既知(known)”の発がん性があるというカテゴリーとはしないこととしたが、タルクを扱う作業者の肺がんに関するデータに基づき、人間への発がん性が“十分に予想される(reasonably anticipated)”というカテゴリーにすることについては5対5に意見が分かれた。

 発がん性物質に関する報告書については
http://ntp-server.niehs.nih.gov/NewHomeRoc/AboutRoC.htmlを参照ください。

(訳:安間 武)

化学物質問題市民研究会
トップページに戻る