女児に与えるフタル酸化合物の影響
情報源:Science News Online
09/09/00
Girls may face risks from phthalates
by Janet Raloff
Science News Online
Week of Sept. 9, 2000; Vol. 158, No. 11 , p. 165
掲載日:2000年9月11日


 女児の早熟の問題は特にプエルトリコで顕著であるが、当地の研究者たちはその原因と考えられることを突き止めた。

 プエルトリコには20年以上にわたり、幼い女児の乳房が異常に早く発達するセラーチェ(Thelarche)と呼ばれる不可解な現象がある。1000人の女児のうち少なくとも7〜8人にこの症状が現れている。多くは生後2ヶ月から24ヶ月の間に乳房が膨らみ始めるとサン・ジュアン市立病院の小児科医で内分泌学者であるカルロス・ブルドニーは述べている。
 彼とサン・ジュアンのプエルトリコ大学の共同研究者達は、この現象がいたるところに存在する汚染物質であるフタル酸化合物に関係しているというデータを米環境健康科学研究所(NIEHS)の月刊誌『環境展望9月号』で発表した。これらの化合物はプラスチックや潤滑油や溶剤等に含まれており、各種製品の製造に使用されている。
 これらは、国家毒性計画(National Toxicology Program -NTP)の委員会が最近、男児の生殖機能に悪影響を与える可能性があると結論付けた化学物質と同じものである(SN: 9/2/00, p.152)。

 彼らは当初、セラーチェは、乳房の発育を促すホルモンであるエストロゲンのような作用をする農薬が原因ではないかと考えて調査を行った。しかしプエルトリコ大学の化学者オスバルド・ロザリオによれば、41人の早熟セラーチェの女児と35人の正常な女児の血液を比較してみたが、血中に高レベルの農薬やその代謝物を見つけることは出来なかった。
 「早熟な乳房発達の女児の多くにみられたものは、動物において性ホルモンの働きをするフタル酸化合物であった」と彼は述べている。早熟グループの内24人(68%)は血液中にフタル酸化合物が検出されたが、正常グループではわずか6人(17%)からしか検出されなかった。
 両グループの比較において最も驚くべき相違は、フタル酸化合物の中で最も広く使用されているフタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP)の血液中の濃度であった。血液中にDEHPが含まれていた正常な5人の平均血中濃度は70ppbであったが、早熟な女児の平均血中濃度は450ppbであった。
 これだけのデータでは、まだまだフタル酸化合物がセラーチェの原因であるとは言えないとコロンビア州ミズーリ大学のシャナ・スワンは感想を述べているが、この調査は極めて重要なものであり、プエルトリコの早熟セラーチェ発生についての解明に協力を申し出た。

 ノースカロライナ大学チャペルヒル公衆衛生校のマルシア・ハーマンギデンスは、彼女とその共同研究者達が3年前に発表した”一つの傾向”を、フタル酸化合物によってうまく説明することができるのではないかと述べた。彼女達はアメリカにおいて少女が思春期になる年齢が早くなっていると発表していたが(SN: 5/3/97, p.272)、ハーマンギデンスはそれは遺伝子や汚染物質等が複合して思春期を早めているのではないかと疑っている。

 もしフタル酸化合物がその役割を演じているのならば、日常の食事が主要な原因かもしれない。デンマー、クセボルグの食物栄養研究所、ジェンス・パターソンによる最近の研究によれば、乳児食と乳児用ミルクの中からフタル酸化合物が発見されている。胎児がフタル酸化合物に曝されることもあり得るとしている。

 実際、アトランタのアメリカ疾病対策センター(CDC)、ジョーン・ブロックによれば、最近の調査により、出産適齢の女性の方が他のどのグループよりも明らかに高濃度のフタル酸化合物に曝されていることが分かった。彼は最近、アメリカ人男女289人の尿中のフタル酸化合物の成分濃度を測定した。驚くべきことに、女性の尿中で最多の成分であったフタル酸ジエチル(DEP)は オーデコロンに含まれる溶剤である。DEPの製造量は、プラスチック可塑剤として製造されるフタル酸化合物よりも遙かに少ない量である。ブロックの研究成果は『環境展望10月号』に掲載される。

 ノースカロライナ州リサーチ・トライアングル・パークにある化学産業毒性物質協会のポール・フォスターは広範なテストを行った結果、DEPは生殖機能に影響を与えないことが分かった、これは良いニュースだと述べている。しかし、雄の齧歯(げっし)類動物の発育に関する彼のデータは、ブロックが若い女性から検出した他の汚染物質、フタル酸ジブチル(DBP)が生殖機能に対し、かなりの有毒性を持つことを示している。このフタル酸化合物はマニキュアや色素や食品用ラップに含まれている。
 国家毒性計画(NTP)の委員会がフタル酸化合物の生殖機能への影響を検証した時にフォスターは、女性が曝されるDBPの濃度はブロックの研究チームが女性の尿中から検出したDBPの濃度の10分の1以下であると述べた。新しい彼のデータに基づき、NTPがDBPの危険性について再評価することを望むとフォスターは述べている。

参照文献:
References:
Blount, B.C....and J.W. Brock. 2000. Levels of seven urinary phthalate metabolites in a human reference population. Environmental Health Perspectives 108(October):979.
原文:『環境展望10月号』
http://ehpnet1.niehs.nih.gov/docs/2000/108p972-982blount/abstract.html

Colon, I....C.J. Bourdony, and O. Rosario. 2000. Identification of phthalate esters in the serum of young Puerto Rican girls with premature breast development. Environmental Health Perspectives 108(September):895.
原文:『環境展望9月号』
http://ehpnet1.niehs.nih.gov/docs/2000/108p895-900colon/abstract.html

(訳:安間 武)

化学物質問題市民研究会
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