米化学会 ES&T 2008年5月21日
EPA 毒性リスク評価 危機に
政治的干渉と透明性の欠如が
科学を堕落させ評価を遅らせる


情報源:ES&T May 21, 2008
EPA toxicity risk assessments in crisis Political interference and lack of transparency taint science and delay assessments
http://pubs.acs.org/subscribe/journals/esthag-w/2008/may/policy/jp_iris.html(リンク切れ)
http://www.grassrootsnetroots.org/articles/article_12494.cfm(GNA へのリンク)

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2008年6月26日


 米上院の聴聞会で証言した専門家によれば、米EPAが最近発表した有害化学物質の評価法の修正は、既にEPAの信頼性を損なっている政治的介入と秘密をさらに制度化する。公聴会は、議会の環視機関である米会計検査院(GAO)が作成した、「統合リスク情報システム(IRIS)の改装のためのEPAの取り組みに関する報告書」を討議するために4月に召集された。GAOは、EPAの変更は評判のよいIRISデータベースを陳腐なものとすると指摘し、議会はEPAにその修正を取り下げるようも求めることを検討するよう勧告した。

 IRISデータベースは、ヒ素やPCB類など個々の化学物質に関する毒性評価を含み、これらの評価はEPAの規制の基礎となる。EPAのIRISへの取り組みは敬意を払われており、その評価はアメリカの国家プログラムだけでなく他の諸国の政策にも反映されているとEPAは指摘している。

 公の意見を聞かずに月10日、EPAはIRISプロセスを変更すると発表し、その変更は即座に発効した。その変更はIRISをもっと透明性、客観性、合理性があるものにするとEPAは書いた。その変更はEPAの研究開発室(ORD)の副長官、ジョージ・グレイによって推進されたが、彼はに研究開発室(ORD)のリーダーに就任した直後に、IRISの改善を行うと述べた。”ARIS評価は純粋科学ではなく、科学と科学政策の混合である”とグレイはES&Tに述べた。

 しかし、批判家は、EPAは米国防省(DOD)や米エネルギー省等他の連邦政府機関がそれぞれの評価のほとんど全ての段階で関与することを許す公式な方針を策定したと批判している。例えば、連邦規制プロセスを環視するホワイトハウス行政管理予算局(OMB)は、IRIS評価に意見を述べる機会が2から7に増えている。

 ”我々は、EPAが信用できる評価を時宜を得て完成させることが日常的にできていない、すなわち現在滞っている70の評価業務を消化できていないのだから、IRISデータベースが役に立たないものになる深刻な危険性に曝されていることがわかった”とGAOの天然資源環境のディレクター、ジョン・ステファンソンは上院環境公共事業委員会の証言で述べた。GAOはまた、OMBがレビューするという変更はIRIS評価を身動きできないものにし、EPAの独立性を阻害すると指摘したとステファンソンは述べた。OMBは、理由を示すこともなく、EPAに対して5つのIRIS評価を止めるよう命令したと彼は付け加えた。

 EPAは既にIRIS評価のペースを落としているとEPAの職員は指摘している。GAOによれば、EPAは過去2年間、32の評価ドラフトを外部のレビューに出したが、そのうち完成したのはわずか4つだけである。現在、IRISJ評価を実施するのに平均7年かかっているが、予備的審査済み毒性値(Provisional Peer Reviewed Toxicity Values)として知られる、実質的には同一の内部レビュ−を1年で完了できると、元EPA科学者は、ES&Tに匿名条件で話した。

 ”修正されたプロセスは連邦機関からのコメントを”審議(deliberative)”と定義しているが、このことはそれらは公的記録の一部とはならず、情報公開法の対象から免除されることになる”と「ニューイングランド責任ある公務員」の代表カイラ・ベネットは述べている。

 ジョンズ・ホプキンス大学の疫学者で元EPA予防農薬有害物質室の副長官リン・ゴールドマンは、EPAの化学物質評価承認の拒否は、すでに個人に影響を与えていると指摘した。”私の指摘する点は、科学を抑圧する行動は公衆の健康保護に現実に影響を与えるということである”とゴールドマンは公聴会で述べた。2004年、EPAの科学者らは、国際がん研究機関により2006年にヒト発がん性物質と公表された合板中に見出される成分、ホルムアルデヒドの7年に及ぶ評価をほぼ完了させた。

 しかし、IRISプロセスはホルムアルデヒド産業の要望で延期された。一方、産業側がスポンサーの研究組織である化学工業毒性学研究所(CIIT)はホルムアルデヒドの健康影響に関する独自の評価を発表したとゴールドマンは述べた。2004年、EPAは、EPAの科学者またEPA科学諮問委員会の同意を得ずに、繊維版によって引き起こされる有害大気汚染についての規則にCIIT評価を導入した。

 2005年のハリケーン、カトリーナとリタの後、政府は家を失った人々に12万戸のトレーラー・ハウススを提供した。合板でできたこれらのトレイラー・ハウスは多量のホルモアルデヒドを含んでいることが発見されており、住人は病気になるかもしれない。EPAは、いまだにホルムアルデヒドの評価を完了させていない。

 拡大する行政管理予算局(OMB)の役割と連邦政府の魅惑的機関はIRISに干渉するためにこっそり”政治的科学”をIRISプロセスに注射する−とゴールドマンは付け加えた。国防総省(DOD)のような機関は、廃棄物浄化を実施する時に、EPA基準に合致させる責任がある。したがって、これらの機関はEPAの科学的結論に拒否権を行使すべきではないと彼女は述べた。

”GAOレポートの中には、いくつかのかなり深刻な誤解がある”とグレイは述べた。”新たなプロセスはEPAがもっと多くの科学的情報を他の機関から得ることを可能にする。これはそれぞれの化学物質評価を改善する”と彼は付け加えた。しかし、委員会議長バーバラ・ボクサー上院議員(民主−カリフォルニア)は、プログラムを改善するために何も行動が起こされないなら、議会は踏み込んで化学物質を禁止するであろう。

ジャネット・ペレイ (JANET PELLEY)


Summary: Toxic Chemicals: EPA's New Assessment Process Will Increase Challenges EPA Faces in Evaluating and Regulating Chemicals GAO-08-743T April 29, 2008


化学物質問題市民研究会
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