国際的な化学物質管理のための
戦略的アプローチ(SAICM)
関連情報
 (採択前)

化学物質問題市民研究会
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/

更新日:2009年4月16日
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http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/saicm_0.html


2006年2月ドバイでの SAICM 締結前の情報をこのページにまとめました。(09/04/20)
SAICM 締結後の情報については、下記のページご覧ください。 SAICM 締結後の情報(ここをクリック

 2006年2月にドバイで開催された国際化学物質管理会議(ICCM)において最終的にSAICMは後退させられましたが、IPENなど国際NGO6団体が2007年1月に発表した 「SAICMに関するNGO/CSO世界共同声明」 に示されるように、2020年までに有害化学物質のない社会を確実に実現するための重要な多くの理念がSAICMに残されています。


■SAICMとは何か?
  • SAICM とは、国連環境計画(UNEP)が推進する 「国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ」 Strategic Approach to International Chemicals Management(SAICM)のことです。サイコム又はサイカムと読みます。
  • 2002年ヨハネスブルグサミット(WSSD)で定められた実施計画で、 ”2020年までに化学物質が人の健康と環境への有意な悪影響を最小限にするような方法で使用され、製造されることを目指す” と述べていますが、そのための行動の一つとしてSAICMを2005年末までに取りまとめることになったものです。
  • SAICMの内容は2003年から2005年の間に、世界の各地域での会合をはさんで3回にわたる準備会合で議論され、2006年2月4日〜6日アラブ首長国連邦ドバイで開催された国際化学物質管理会議(ICCM)において議論の末に妥協案がSAICMとして採択されました。
  • SAICMには100カ国以上の政府代表、政府間組織、環境健康NGOs、労働組合、産業界及び学会が参加しています。
  • 2005年9月のSAICM第3回準備会合及び2006年2月4日〜6日の国際化学物質管理会議(ICCM)で、アメリカは、経済と貿易、及び国内の法規制に影響を与えないようにするために、SAICMは”自主的”なものであること、「予防的アプローチ」 と 「原則とアプローチ」 の記述方法を変えること、SAICMの範囲を変更することなどを要求し、SAICMを大きく後退させました。これはEUで策定中の化学物質規制案REACHに、アメリカや産業界が反対する構図と全く同じものです。
  • アメリカの攻撃については会議にNGOとして参加したThe International POPs Elimination Network (IPEN) や The International Chemical Secretariat (CHEMSEC) が報告しています。
  • 日本政府は、SAICM準備会合及び国際化学物質管理会議(ICCM)における討議過程やアメリカの主張に対しどのような立場を取ったのかを公開/説明していません。
  • しかし、2006年2月21日環境省主催第17回「化学物質と環境円卓会議」で、SAICMに参加したNGOメンバーから、「原則とアプローチ」の変更には日本政府も共同提案国の一員としてアメリカ政府と行動をともにしたことが報告されました。 (2006/02/22)
    (変更共同提案国:豪州、カナダ、日本、ニュージランド、韓国、米国)
  • 環境省はドバイでの国際化学物質管理会議(ICCM)の直前及び直後に下記報道発表を行いましたが、討議/決定の過程などは示されていません。
    平成18年1月31日 「国際化学物質管理会議の開催について」
    平成18年2月7日 「国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチの採択について」
  • SAICMについて、あるいはその討議/決定の過程について、ほとんどの市民は知らされないままに、日本の化学物質政策に大きな影響を与えるSAICMが決まり、結果だけが発表されました。
  • このようにSAICMは後退させられましたが、IPENなど国際NGO6団体が2007年1月に発表した 「SAICMに関するNGO/CSO世界共同声明」 に示されるように、2020年までに有害化学物質のない社会を確実に実現するための重要な多くの理念がSAICMに残されています。 (2006/02/08)


■SAICM 経緯

  • 2002年:国連総会、化学物質管理のための世界戦略を開発する決議を採択
  • 2003年:第1回準備会合(PrepCom 1)をバンコクで開催
  • 2004年:第2回準備会合(PrepCom 2)をナイロビで開催
  • 2005年:第3回準備会合(PrepCom 3)をウイーンで開催(9月19日〜23日)
  • 2006年:第1回国際化学物質管理会議(ICCM1)をドバイで開催(2月4日〜6日) SAICM採択
  • 2007年:アジア太平洋地域会合をバンコクで開催(5月21日〜23日)
  • 2009年:第2回国際化学物質管理会議(ICCM2)開催をジュネーブで開催(5月11日−15日)
  • 2012年:第3回国際化学物質管理会議(ICCM2)開催をケニアで開催(9月17日〜21日)


■国際化学物質管理会議 (ICCM) (2006年2月4日〜6日ドバイ) SAICM採択

  SAICM 文書

  関連記事


■アメリカの圧力で後退した 「範囲」、「予防原則」、「原則とアプローチ」
どのように後退したかをICCMでの最終決定(ドバイ)と第3回予備会合報告書(ウィーン)で比較する。
「原則とアプローチ」の変更には日本政府も変更共同提案国の一員として、アメリカ政府に加担した。

◆包括的方針戦略の「U.スコープ」の範囲が狭められ、食品と医薬品がSAICMから除外された(脚注1)。

3. SAICM は、持続可能な発展を促進し、また、製品中を含むライフサイクル全般において化学物質を対象とするという観点をもって、下記を含む対象範囲をもつ。(脚注1
(a)化学物質安全の環境、経済、社会、健康及び労働面
(b)農業用化学物質と工業用化学物質
脚注1
 化学物質又は製品の安全性の健康・環境に関する側面が国内の食品又は薬剤の当局又は取決めによって規制されている範囲では、SAICM はその化学物質・製品に適用されない。

U.スコープ(第3回予備会合報告書)
3. SAICM は、持続可能な発展を促進し、また、製品中を含むライフサイクル全般において化学物質を対象とするという観点をもって、下記を含む対象範囲をもつ。
(a) 化学物質安全の環境、経済、社会、健康及び労働面
(b) 農業用化学物質と工業用化学物質


◆包括的方針戦略の「W.目的/A. リスク削減/e項」の予防の記述が後退させられた。

「W.目的/A. リスク削減/e項」(ICCMでの最終決定)
14. SAICM のリスク削減に関する目的は以下のとおりである。

(e)化学物質が人の健康と環境に及ぼす有意な悪影響を最小化する方法で生産・使用されることを目指しつつ、環境と開発に関するリオ宣言の第15 原則に記されている予防的取組方法(precautionary approach)を適切に適用すること

「W.目的/A. リスク削減/e項」(第3回予備会合報告書)
14. リスク削減に関する戦略的アプローチの目的は:

(e) [懸念に対し合理的な根拠がある時には、化学物質の環境又は健康影響に関して完全な科学的確実性が欠如していても、予防的措置(precautionary measures)を適用すること。] [深刻な又は不可逆的なダメージの恐れがある場合には環境と開発に関するリオ宣言の原則15に述べられている予防的アプローチ(precautionary approach)を適切に適用すること]

◆包括的方針戦略の「原則とアプローチ」では、 第3回予備会合報告書にあった理念を示す個々の原則名は全て削除され、原則が由来する条約、議定書、宣言などを列挙するだけとなった。特にリオ宣言については 「環境と開発に関するリオ宣言」 とだけの表現となり、原則番号/原則名を明示せず、理念を不透明にするものであり大きく後退した。

「原則とアプローチ」の変更には日本政府も変更共同提案国(豪州、カナダ、日本、ニュージランド、韓国、米国)の一員として、アメリカ政府と行動をともにしたことが判明した。(2006年2月21日環境省主催第17回化学物質と環境円卓会議におけるWWFジャパン村田氏の報告) (2006/02/22)

Y.原則とアプローチ(ICCMでの最終決定)
20. SAICM及び世界行動計画を策定し実施する際に、政府や他の利害関係者は、以下によって導かれる。

(a)以下にある原則とアプローチ。
(@) 人間と環境に関するストックホルム宣言、特にその第22 原則
(A) 環境と開発に関するリオ宣言
(B)アジェンダ21、特にその第6、8、19、20 章
(C) 国連ミレニアム宣言
(D) 化学物質安全に関するバイア宣言
(E) 持続可能な開発に関する世界首脳会議実施計画

(b)以下の国際合意のうち、それぞれの政府に適用されるもの
(@) オゾン層破壊物質に関するモントリオール議定書
(A) 有害廃棄物の越境移動と処理の規制に関するバーゼル条約
(B) 国際貿易における有害化学物質及び駆除剤の事前通報合意手続きに関するロッテルダム条約
(C) 残留性勇気汚染物質に関するストックホルム条約
(D) 職場における化学物質の私用の安全性に関するILO 第170 号条約

Y.原則とアプローチ(第3回予備会合報告書)
[20. 世界行動計画を含んで、戦略的アプローチを開発し実施するに当り、政府とその他の関係者は下記の原則とアプローチによって導かれるべきである。

(a) 一般的適用のために当初から開発されているもの
(@)環境と開発に関するリオ宣言の原則 3 を含む適切な条項に述べられている世代間公平(Inter-generational equity)
(A)環境と開発に関するリオ宣言の原則 15 に述べられている予防(Precaution)
(B)環境と開発に関するリオ宣言の原則 4 に反映されている釣り合い(Proportionality)
(C)アジェンダ21と環境と開発に関するリオ宣言の原則 16 に述べられているコストの内部化(汚染者支払い)(Internalization of costs (polluter pays))
(D)環境と開発に関するリオ宣言の原則 10 に述べられている公衆の参加(Public participation)
(E)環境と開発に関するリオ宣言の原則 10 に述べられている知る権利(Right to know)
(F)国連ミレニアム宣言とヨハネスブルグ実施計画第4項に述べられている良いガバナンス(Good governance)
(G)環境と開発に関するリオ宣言の原則 7 に述べられている国家間の協力(Cooperation among States)
(H)環境と開発に関するリオ宣言とアジェンダ21に体現されているパートナーシップ・アプローチ(Partnership approaches)
(I)人間環境に関するストックホルム宣言の原則 22、及び環境と開発に関するリオ宣言の原則 13、原則 16 で勧告され、国連国際法委員会の国境を越える害に関する文書が留意している責任と補償(Liability and compensation)

(b) 特に化学物質管理の脈絡の中で開発されたもの、又はさらに開発されるもの
(@)アジェンダ21の第19章と第20章で勧告されている化学物質と廃棄物の適切な管理のための調整され統合されたアプローチに基づく統合化学物質管理(Integrated chemicals management)
(A)アジェンダ21の第6章、第19章、第20章に述べられている防止(Prevention)
(B)アジェンダ21の第19章、第20章に述べられている代替(Substitution)
(C)アジェンダ21の第19章に述べられている世代間平等(Inter-generational equity)
(D)多国間の化学物質や廃棄物協定で詳しく述べられ定義されている予防(Precaution)
(E)アジェンダ21の第19章でさらに展開されている知る権利(Right to know)
(F)化学物質の安全に関するバイア宣言でさらに展開されているパートナーシップ・アプローチ(Partnership approaches)]


■財政的支援
2006年2月21日環境省主催第17回化学物質と環境円卓会議におけるWWFジャパン村田氏の報告 (2006/02/22)
◆クイックスタートプログラム:
SAICMの目的実施のための初期の能力向上活動を支援すること。
自発的で時限的な信託基金を含み、多国間と二国間、その他の形態の協力を含む。
英国(US$30万)、スイス(300万CHF)、スウェーデン(US$300万)、フィンランド(額未定)が会期中に支援を約束。
合計約US$1000万

世界第 1、2位の化学工業国である米国、日本からは何も聞こえなかった。


■世界行動計画から削除された C表
2006年2月21日環境省主催第17回化学物質と環境円卓会議におけるWWFジャパン村田氏の報告 (2006/02/22)
A表:可能な作業領域を示した総括表
B表:可能な作業領域とその関連活動、行動主体、目標/時間枠、進捗の指標、実施の側面をまとめた表
C表:第3回準備会合において合意に達しなかった活動及び、SAICM実施段階でさらなる考慮が求められるであろう活動の表

◆日本政府はC表の行動リストは議論も合意もされていないので削除すべきとカナダ、アルゼンチン、ウクライナとともに主張した。

C表にある項目と活動の例:
  • 子供たちと化学物質安全
    *子供へのリスクが特定された場合の暴露削減、予防原則に従った行動など
    *子供用品やおもちゃの化学物質混合物に関する活動
  • 労働安全衛生
    *アスベストの全面的な禁止に向けた作業
  • 駆除剤の健康と環境へのリスクの削減
    *取り扱いと使用が容認しがたいリスクをもたらす場合は販売停止と回収
  • 汚染された土地の浄化
    *土地浄化、被害者支援のための基金の確立と防止プログラムの確立
  • 法的責任と補償
    *汚染による人健康や環境への損害に対する国際的・国家的な法的措置の策定

■国際化学物質管理会議 (ICCM) (2006年2月ドバイ) ドラフト文書


■SAICM 第3回予備会合(2005年9月ウイーン)の結果
SAICM 第3回予備会合用ドラフト文書と比べると、何が変わったのかよくわかる。
REACHにおけるEUとアメリカ陣営の対立の構図がそのままSAICMにも反映されている。
 合意が得られなかった論点(報告書中でカッコ([])付きの部分)は2006年:国際化学物質管理会議(ICCM)で決着することになる。

アメリカの主な主張
 SAICMはボランタリーなものであること、貿易障壁とならぬようにすること、医薬品、食品添加物は除くこと、予防的アプローチの記述方法と原則とアプローチの記述方法を変えること()、SAICMの範囲についての記述方法を変えること

注:原則とアプローチの第20項について、ドラフトでは下記のような重要な原則/アプローチが記述されていたが、アメリカはこれらの記述を削除しようとしている。
 世代間公平、予防、釣り合い、コストの内部化(汚染者支払い)、公衆の参加、知る権利、良いガバナンス、国家間の協力、パートナーシップ・アプローチ、責任と補償

日本政府の立場
 基本的にはアメリカや産業界の主張に同調して動いていると思われるが、SAICM準備会合における討議過程、資料、日本はどのような発言をしたのか、どのような立場を取ったのか、などをウェブで全く公開/説明していない。


■SAICM 第3回予備会合(2005年9月ウイーン)ドラフト文書


■SAICM 第2回予備会合関連文書(日本政府資料)


■元EU議会議員インガー・シェーリングさんの講演
(東京宣言推進実行委員会主催ワークショップ(2005年9月15日))



■SAICM 関連ウェブサイト


■SAICM関連の国際環境会議・宣言
(日本語訳及びオリジナルを参考までに示します)


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