2011年11月 SAICM/OEWG1
ナノテクノロジーと
工業的ナノ物質に関する
報告書


情報源:Open-ended Working Group of the International Conference on Chemicals Management
First meeting, Belgrade, 15.18 November 2011
Report on nanotechnologies and manufactured nanomaterials
http://www.saicm.org/documents/OEWG/Meeting%20documents/OEWG1%20INF8_Nano%20report.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2011年12月2日
このページへのリンク:
"http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/saicm/nano/2011_Nov_SAICM_OEWG-1_Nano_Report.html

事務局によるノート
  1. 第2回国際化学物質管理会議(ICCM2)の決議II/4 Eは、政府と利害関係者に対し、特に開発途上国と移行経済国に関連する問題を含むナノテクノロジーと工業的ナノ物質に関する報告書を作成するよう要請した。

  2. スイスとイギリスによってなされた初期の作業に基づき、事務局は報告書の概要を作成し、SAICM利害関係者からのコメントを求めた。コンサルタントは、SAICM地域会合からの勧告を含んで、受領したインプットを用いて報告書を作成することを委託された。

  3. 事務局はアネックスに示されるナノテクノロジーと工業的ナノ物質に関する報告書を参加者への情報として配布する。
Table of contents

エグゼクティブ・サマリー   3
I. Introduction   7
2. Nanomaterials and their applications   8
3. Beneficial uses of nanomaterials for health and the environment   10
4. Risk assessment and risk management   11
5. Economic and social impacts   31
6. Ethical issues   33
7. Public dialogue and wider engagement   36
8 Learning, training and capacity building   38
9. Work of international organizations   43
10. Conclusions and possible SAICM actions   48
References   52


アネックス
ナノ物質:SAICMの脈絡における応用、実施及び安全管理

 この報告書は、 SAICM 事務局のために作成されたものであり、事務局が利害関係者から受領したインプットを使用している。それは、Georg Karlaganis, Vladimir Murashov, Seonghee Seo の協力の下に、Rob Visser によってドラフトが作成された。


エグゼクティブ・サマリー
背景

 ナノ物質は、様々な新たな応用に使用することができる特別の特性を持っており、それらの内のあるものは数十年間すでに市場に出されている。ナノ物質の新たな用途に関する多くの研究が現在行なわれており、一方現在、その製造量は従来の化学物質に比べれば非常に多いというわけではないが、多くの他の応用が近い将来見込まれており、製造量は今後数十年間で大幅に増加することが予想される。

 しかし、これらの物質がヒト又は環境に従来の化学物質とは異なる影響を持つかもしれないので、ナノ物質のこれらの特別な特性はまた、ひとつの難しい問題でもある。この点について、従来の化学物質に関する安全管理の決定のための基礎として、毒性学で使用されている古典的なテスト及び評価アプローチが、ナノ物質にどの程度適用できるのかまだ定まっていない。またこの分野では、現在研究プログラムが進行中である。

 SAICM は、化学物質の安全性に関しては新規の課題としてナノテクノロジーと工業的ナノ物質に注意を払っている。ICCM2の決議 II/4‐E 第9節は、”政府と利害関係者に対し、特に開発途上国と移行経済国に関連する問題を含む、ナノテクノロジーと工業的ナノ物質に関する報告書を最初の公開作業部会(OEWG)、及び、第3回国際化学物質管理会議(ICCM3)利用できるよう作成することを要請”している。

 この報告書は、この要請に応えて作成された。13の利害関係者からのインプットがこの報告書に寄与した。この報告書の内容のために地域SAICM会議でなされた勧告が、概要に基づいて考慮された。

はじめに

 この報告書は、現在の市場状況、及び見込まれる展開の概観を概説している。それは、産業用途及び消費者用途の工業的ナノ物質の可能性ある応用を述べるているが、それらの健康と環境への有益な用途にも目を向け、開発途上国及び移行経済国の状況に特別の注意を払っている。この報告書は、次にリスク評価とリスク管理に関する知識の状況を述べる。それは、物質特性化、人の健康(労働者関連の側面を含む)、環境、情報管理、リスク管理に関して、どこに科学があるのかについて記述している。この報告書はまた、科学における不確実性と研究がもっと必要な問題に関して光を当てている。

リスク評価とリスク管理

 この主題に関する結論のひとつは、一方で、従来の化学物質と曝露による可能性ある健康と環境影響に関して多くの知識が利用可能であるが、他方で、そのような知識の全てがナノ物質に直接、移転できているわけではない。しかし、多くの場合、従来の化学物質に適用されている強固な手法と、用いられている枠組みは、工業的ナノ物質を扱うための適切な基礎を提供するであろう。広く適用されている政策は、可能なかぎり利用可能な規定を使い、予防的アプローチに従うことである。したがって、現時点では、1件毎の評価に信頼が置かれなくてはならず、リスクの定量化が可能でない場合には定量的な結果が使用されなくてはならない。次に、許容できないレベルの不確実性又は懸念が特定される場合には、予防が適用される。この文脈において、特に開発途上国及び移行経済国における廃棄物管理に関連する問題は特別の注意が必要である。

政策策定

 現在、ナノ物質の安全性を適切に扱うための法律を持つ国はない。一方、注意義務を求める既存の法律はナノ物質をカバーするために用いられる。いくつかの具体的な提案がナノ物質によりよく対応するためになされているが、それらに、安全データシートにナノ物質を含めること、ナノ物質を含む製品の政府登録の確立、産業によるナノ物質の潜在的なリスクについての情報の提供、化学物質管理のための国家プロファイルにナノ物質の管理についての章を統合すること等がある。

 しかし、ナノ物質のリスク管理のために手法を改造しなくてはならないような側面に対して、またリスクを定量化する可能性に対して、より良い洞察を得るためには、明らかにもっと多くの研究が必要である。一般的に、ナノ物質のリスクが現在管理されている方法について市民社会組織は、むしろ批判的である。

経済的、社会的、倫理的な側面

 このレポートはまた、ナノテクノロジーの導入の経済的、社会的、倫理的な側面、この問題にする公衆の議論の展開、及び国際的及び政府間組織の作業について議論している。

能力構築

 この報告書はさらに、ナノテクノロジーに関連する学習、訓練及び能力構築の問題に対応し、この点に関し、二つの関連する、しかし個別の要素を定義している。ひとつは、全ての国が多くの社会的な課題に可能な限り、よりよく対応するために、ナノテクノロジーを利用するための研究を実施する能力を持つことを確実にすることである。先進国がナノテクノロジーからより多くの便益を得、開発途上国が潜在的なリスクから多くの被害を受けるという懸てい念が強調され、この問題はナノ格差が生じる事を回避するために十分に検討される必要性が強調されている。研究パートナーシップの確立が前進を図る方法として述べられている。
 二番目の要素は、すべての諸国が、彼等の国でのこれらの物質の使用に関して十分に資金調達され、効果的な決定をすることができるようにするために、ナノ物質の安全評価に関する化学は進化している中で、工業的ナノ物質の健康と環境的安全の側面を評価する能力を持つべきであるということである。開発途上国及び移行経済国におけるこの分野の能力を強化することは非常に重要である。これを達成するための適切な方法を利用可能とすべきである。

ナノ物質の安全管理に関する勧告

 この報告書は、SAICMの脈絡の中で取り上げられることができる行動のために多くの提案をもって結論としている。詳細な勧告は下記に示される。
  1. 世界的な透明性を改善し、より良い意思決定プロセスを可能とするために、ナノテクノロジーと工業的ナノ物質に関する情報交換を容易にすること。そのような情報交換はいくつかの側面をもつ。例えば、できるかぎり IOMC (訳注)及びその参加組織を通すことが推奨される。

    訳注: IOMC
    第3回POPs 対策検討会資料(環境省)より
    http://www.env.go.jp/chemi/pops/kento/03/pdf/ref05.pdf
     化学物質の適正管理のための国際機関間プログラム(IOMC)は、1992 年の環境と開発に関する国連会議における勧告に従い、化学物質の安全性の分野における協力関係の強化と調整活動の拡大を目的として、UNEP、ILO、FAO、WHO、UNIDO、OECD(参加機関)によって1995 年に創設されたものである。1998 年1 月、UNITAR は正式に参加機関としてIOMC に加わった。IOMC の目的は、人間の健康と環境に関係する化学物質の適正な管理を実現するために参加機関が共同又は個々に手がける政策及び活動の調整作業を促進することにある。

    • 安全情報のための国際的な”ナノ・ポータル(ナノ拠点)”が設立されること。
    • 実施中の研究についてのクリアリングハウス(訳注:複数の情報システムを中継し、様々な形式のデータを相互に利用できるようにするための仕組み)が設立されること。
    • 技術的、法的、制度的情報を共有するためのメカニズムが確立されること。
    • SAICM地域内での意識向上活動が継続され深められること。

  2. できるかぎり IOMC 及びその参加組織を通して、工業的ナノ物質の適切な管理のための国際的に適用可能な技術的及び法的なガイダンスと訓練用資料の開発。これには下記が関連するであろう。
    • ナノテクノロジーと工業的ナノ物質の安全についての評価と管理に関するガイダンス資料。
    • 国家プロファイルの更新を含んで、既存の国家化学物質安全プログラム中のナノ物質安全の統。合に関するガイダンス資料。
    • 工業的ナノ物質の適切な管理を含めるための国家の法的枠組みの採択に関するガイダンス資料。
    • ガイダンスに基づく訓練資料。
    • 訓練活動。
    • ガイダンス資料をテストするために使用できるパイロット・プロジェクト。
    • 公衆のための教育資料。

  3. 工業的ナノ物質に関する地域SAICM戦略の開発を支援すること。これは、研究とリスク評価及びリスク管理問題に関する協力のための準備を含むことができる。

  4. 特に健康と環境保護に有益な応用に関連する技術移転を容易にすること。これは、それらの目的達成するために財政的に支援されるべき様々なタイプのパートナーシップを含む可能性がある。パートナーシップは次のようなことを含むであろう。
    • 開発途上国及び/又は移行経済国。
    • 例えば、専門家、レビュー、見識のの提供などを含んで、様々なやり方で貢献することができるであろう市民社会組織を含む公立及び民間の機関。

  5. ナノテクノロジーと工業的ナノ物質に関する行動を含む具体的な作業領域により世界行動計画(Global Plan of Action)を更新すること。

  6. ナノ物質を含むもっと多量の製品が市場に出るようになった時に、安全問題を取り扱う諸国の準備を強化するために、将来可能性のあるSAICM資金メカニズムにナノ物質の安全性に関連する資金調達プロジェクトの可能性を含めること。

  7. ナノテクノロジーと工業的ナノ物質に関連してスチュワードシップの役割と責任を強化し、主要な条件をつけずにそのような国際的な作業に金銭的な貢献を提供することにより、公衆との対話はもとより、資金的援助、意識向上の支援、情報交換、訓練活動に参加するよう産業界に要請すること。

  8. 国際連合危険物輸送勧告(United Nations Recommendations on the Transport of Dangerous Goods)化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS;Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals)に関する国連専門家委員会(UN Committees of Experts)に工業的ナノ物質の安全性に対応するGHS基準の採択又は開発のための作業計画の緊急の準備を勧告すること。

  9. ロッテルダム重役、ストックホルム条約、バーゼル条約の締約国に、もし有用なら、当該義務範囲となる工業的ナノ物質の適用と影響を検討することに特に目を向けることを考慮するよう勧告すること。

  10. ナノテクノロジーと工業的ナノ物質の全ての側面に関して、例えば、広い公衆の関心ごとである工業的ナノ物質に関連する問題への対応に関する進捗を議論するために、全ての利害関係はの参加するセミナーや世界会議を開催することにより、公衆との対話の支援を継続すること。


化学物質問題市民研究会
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