IPEN 2017年2月 2020年以降の SAICM 第1回会期間プロセス会合
インフォーマル・ダイアログにおけるオルガ・スペランスカヤの声明
世界の大きな流れは
化学物質と廃棄物の適切な管理のための
新たな課題をどのように示しているか?

オルガ・スペランスカヤ (IPEN 共同議長)
情報源:IPEN, February 2017
Olga Speranskaya Statement on
How megatrends could present new challenges
for sound management of chemicals and waste
By Olga Speranskaya, IPEN Co-Chair
http://ipen.org/sites/default/files/documents/Olga%20Speranskaya%20
Informal%20dialogue%20presentation%207_Feb_2017.pdf


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2017年3月2日
更新日:2017年3月8日 new_3.gif(121 byte)
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/saicm/ipen/Beyond_2020/
Feb_2017_IPEN_Olga_Speranskaya_presentation.html


世界の大きな流れは化学物質と廃棄物の適切な管理のための新たな課題をどのように示しているか?

 環境汚染のダイナミックな傾向の世界のデータと研究は、環境負荷の急増を示唆している。その問題はひとつの次元では対応することができない。それは多次元のものである。

 化学物質の工業的生産と使用は、開発途上国と移行経済国にシフトしている。このシフトは、生殖をかく乱し、出生障害を引き起こし、環境中と人体内に残留し、不可逆的なダメージを引き起こすものを含んで、有害な化学物質を含有する農薬、製品、及びプロセスの増大する使用を伴う。開発途上国と移行経済国における不十分な国の法律、有害化学物質の環境と健康への影響に関する新たな情報の欠如、資金の欠如、そして技術的及び人的資源の欠如が、これらの国々を保護されず脆弱な状態のままにし、その結果、有害化学物質による不均衡な影響をもたらす。

 先進国は環境と健康関連の強化、及び、廃棄物管理技術を含んで技術開発に大きな投資をしているが、開発途上国及び移行経済国は、先進国ではもはや課題としてはみなされていない問題とまだ戦っている。例えば、塗料中の鉛がその例であり、アメリカ、カナダ、及び欧州連合では厳格に規制されているが、開発途上国及び移行経済国の大部分ではそれらがいまだに人々、主に子どもたちに脅威を及ぼしている。

 毎年市場に導入される数千の新たな化学物質について何を言うべきであろうか? これらの化学物質の大部分は、既存の化学物質条約によっても、国家の法律によっても規制されていないが、それらによって引き起こされる危害は、水銀や残留性汚染物質の様な、すでに知られている物質によって引き起こされるのと同じように深刻である。

 実際に SAICM は、化学物質条約によってカバーされない事実上すべての種類の化学物質暴露源に対応する唯一の国際的なメカニズムである。それは全ての国と地域に関連するので、特に開発途上国と移行経済国にとって重要である。これらの諸国の関連政府機関及び政府には、既知及び新規の化学物質への暴露に関連する重大な危害についての情報が欠如しており、また、これらの危害を最小にする、あるいは廃絶するために導入されるべき政策、プログラム及び技術についての情報も欠如している。しかし SAICM は、これらの危害についての情報を共有し、それらに対応するための国際的な協力を推進するための場を提供している。

 さらに私は、一般的な製品の環境的に責任ある消費、及び特に有害化学物質を含む製品の責任ある消費を促進するための集中的な教育の必要性を述べたいと思う。この方向に沿った初期の段階には、プラスチック袋の販売・使用を禁止すること、製品中の有害物質をより安全な物質に代替すること、あるいは有害物質を含む製品を完全に拒絶すること等がある。例えば、家庭用化学製品、塗料、及び長期保存食品中の有害成分の廃絶などである。同じ論理で、個人消費は廃棄物生成及び意図しない購入を最小化するよう見直されるべきである。

 この方向はかなり重要であり、小さな子どもたちへの教育から意志決定者への教育まで、そして矯正広告(corrective advertising)を通じて消費者市場に影響を与えることによって、一貫して追求されるべきである。これらの活動は NGOs の参加なくしては促進することはできない。

 私が最後に述べたいことは、技術的な慣行を見直す必要性である。数十年後にベンゼン化学が産業の根幹を形成するとは信じがたい。環境的危険性をもたらし、同じように更なる最小化と廃絶に不適切な有害な副産物と廃棄物を産み出すような技術を完全に捨て去る必要がある。まず第一にそのような技術には、電子廃棄物とプラスチックなどを含む有害で分別されていない廃棄物の焼却がある。

どんな技術開発が、化学物質と廃棄物の適切な管理のための新たな課題と機会を提示することができるのか?

 現在、全ての技術開発は化学物質の工業的使用及びアグロエコロジー(訳注1)の適用による農業での有害性削減、資源効率、及び非化学的代替に注力すべきである。

 技術的プロセスを開発する一方で、民間部門は有害性削減を確実にし、より安全で毒性のない化学物質を初めから設計することが重要である。これは、労働安全衛生、汚染防止、及び予防的措置と価値ある関連性を持ち、民間部門が化学製品の設計、製造、及び応用で有害物質の使用又は生成を削減し、廃絶するために、明確で進歩的な役割を提供する。

 化学物質を使用しない代替、よりクリーンな製造、及び懸念ある化学物質の情報に基く代替を含んで、より安全な代替製品とプロセスを確実にするために、より安全な化学物質を設計するというグリーン・ケミストリー原則が技術開発の中核になるべきである。

 私は、有害廃棄物を含む廃棄物管理技術に特に焦点を当てたい。発生源での廃棄物最小化、ゼロ廃棄物アプローチ、及び生物分解が管理戦略、計画、及び技術開発における重要な役割を果たすべきである。焼却技術は有害化学物質の排出・放出の源なので、完全に禁止されるべきである。廃棄物分別が適切に機能していない、又は存在しない国々にとっては特に深刻である。分別されていない廃棄物の焼却は飛灰(訳注2)はもとより、有害な水銀、ダイオキシン、その他の有害物質の排出をもたらすことに留意して、これらの国々はどの様な種類の廃棄物焼却炉の建設をも禁止すべきである。その上、廃棄物焼却施設は、非常にしばしば、すでに汚染されている地域に建設されるので、地域の人々と環境に追加的な負荷をかける。排出監視は日常的には行われておらず、通常、ある特定の有害化学物質だけが捕捉される。

 廃棄物の化学的破壊(chemical destruction)及び廃棄物のリサイクルのための現代的で環境的に適切な技術をレビューし、導入することは重要である。廃棄物リサイクルは、新たな製品中に現れることを回避するために、残留性有機汚染物質やその他の有害化学物質含む廃棄物のリサイクルを避けるべきである。我々は、現在までに、有害化学物質がまだ存在しているリサイクルされた物質から製造された子ども用製品を含む新たな製品中に残留性有機汚染物質(臭素化難燃剤)が現れるという証拠をもっている(訳注3)。

 開発途上国及び移行経済国に古い技術を移転することは全く許すことができない。しかし、時代遅れの汚染をもたらす技術を開発途上世界に移転するという明らかな傾向がある。先進国では使用が禁止されているか、又ははっきりと制限されている高い有害性を持つ農薬が開発途上世界に輸出され、やがて廃棄され、最後には人々の健康と環境を損なうということは、農業における無責任な技術移転の事例である。農業に関する知識、科学、及び技術は人々に脅威を及ぼすべきではなく、むしろそれらは農村の暮らしを改善し、公平で、環境的、社会的、及び経済的に持続可能な開発に役立つべきである。

 しかし、米国税関の記録によれば、2001年から2003年の間にアメリカは、17億ポンド(約770万トン)近くの農薬−1時間当たり32トン−を輸出した。科学・教育促進基金(Foundation for Advancement in Science and Education)のカール・スミスによる調査によれば、これらの輸出はアメリカではその使用が禁止されている 2,700万ポンドの農薬をが含んでおり、そのうち50万ポンドは既知の又は疑いのある発がん性物質である。内分泌かく乱性農薬は海外に1日当たり100トンの割合で輸出されている。

 この問題は、偽造農薬を含む違法な農薬取引によって悪化させられている。違法な農薬貿易の量は 2007年から2011年の間に倍増しており、これは大変な問題で、国際的な組織犯罪である。例えば、ウクライナは毎年10万トンの農薬を輸入しており、その約25%が偽造農薬である。

 そのような状況の下で、SDG 2 (訳注4:持続可能な目標 2)を実現するることは非常に難しいであろう。SDG 2 は食料がすべてであり、人口増加、気候変動、環境に有害な工業化された農業システムの下ではこの目標の実現は困難であろう。しかし、もし持続可能な農業の核であるアグロエコロジー(訳注1)が主要な焦点となるならば、それは実現可能となるであろう。高い有害性を持つ農薬にもっと多くの仕事がなされるべきであり、それらを化学物質を使用しない代替を採用する国を支援するためにもっと多くの活動が必要である。

 技術移転は開発途上国で強く望まれているが、それは開発途上国及び移行経済国を後戻りさせかねない古い汚染をもたらす技術であってはならない。韓国がアスベストを禁止した時に、産業側は全ての機械を手に入れインドネシアに送った。

 最後に私は、全ての種類の船舶、海岸の基地、保守設備、海岸地域での経済活動によるプラスチックのような固体廃棄物など有害な化学物質を含む廃棄物の河川の三角州を含む世界の海洋への流入を厳しく制限する新たな基準と要求の開発と導入の重要性を強調したい。同時に海面、海面下、及び海底の廃棄物を収集するための、及び収集した廃棄物をリサイクルするための汎用的な技術を開発し導入することが必要である。

 プラスチック会社のビジネス計画の数値によれば、海洋中のプラスチックの世界の量は2025年までに2億5,000万トンとほぼ倍増し、これは魚3トンにつきプラスチック1トンに相当すると予測されている。海洋プラスチックは、多くの内分泌かく乱化学物質(EDCs)や POPs への、どちらも皮膚吸収又は汚染された海洋動物の摂取を通じての暴露に関して重要な論点となるかもしれない。カニやムラサキガイのような動物の濾過摂食(訳注5)メカニズムを通じて、あるいはメカジキなど頂点捕食者の食物連鎖の濃縮効果を通じて、マイクロプラスチックの摂取による内分泌かく乱作用の科学的証拠がすでにある。海洋プラスチックは焼却されるべきではない。この途方もない問題を解決する最良の方法は民間部門に次のことを要求することである。
 ・使い捨てプラスチック製品の製造と使用を止めること
 ・プラスチック容器及び包装の無料回収を実施すること
 ・リサイクルのための基盤整備に資金を供給すること

更新 (17/03/08)new_3.gif(121 byte)

将来の化学物質の安全性と持続可能な開発を確実にするための共同行動に、どのような選択肢があるか?

 私は、鉛塗料廃絶のための世界同盟(GAELP: Global Alliance to Eliminate Lead Paint)を設立することを支援したような人々との連携は、持続可能な開発に関する 2030年アジェンダの化学物質の安全性と実施を確実にするための共同行動のひとつの良い事例であると信じる(訳注6)。GAELP のように成功するパートナーシップは、包括的で、透明性があるべきであり、国際的に合意された目標の実現に資するべきであり、国際法、進歩的な標準とアプローチを順守することはもちろん、国家の法律及び優先事項と整合性がなくてはならない。

 化学物質の安全性と有害化学物質に関連する行動は、持続可能な目標(SDGs)の、全部ではないにしても、多くに参照され、暗示されている。化学物質と廃棄物に関するパートナーシップはこれらの目標の実現において測定可能な進捗を達成するのに役立つべきである。

 それらは、合意された原則と価値観に沿ったものであるべきであり; 説明責任があり; 多様な利害関係者の関与を確実にし、市民社会を含んだ様々なパートナーに概要を示す明確な役割を持つべきである。パートナーシップは、透明性に基づくべきであり、環境的課題に対して人権と予防的アプローチを尊重すべきである。それらは私的利益によって公共政策を再設計するべきではなく、むしろ公衆の必要に焦点を当てるべきである。

 化学物質の安全性と持続可能な開発に関するパートナーシップは、有害化学物質への暴露により引き起こされる病気の疾病負荷を止めるのに役立つべきであり、人権侵害に対して強くあるべきである。それらは特に、子ども、女性、先住民、貧困者、及び慢性疾患を抱えた人々を含む脆弱な集団を支援すべきである。

 関連する国家の、及び政府間のプログラム及びプロジェクトへの NGOs の義務的な関与の必要性を国際的に積極的に継続して促進することを支援することが必要である。明確な多様な利害関係者の関与とパートナーシップを伴うプロジェクトは、私的資金提供者及び資金供与国はもちろん、地球環境ファシリティ(GEF) (訳注7)及びその他の国際的な資金供与機関による資金を優先的に供与されるべきである。

 継続的な生涯環境教育、地域の環境安全プロジェクト、基準線の監視調査、分析のための組織及び実施、汚染ホットスポットの特定及び除去のための公衆の環境評価及び管理の実施、分析への住民の参加にとって、NGOs は不可欠である。

簡潔な声明

 化学物質の安全性と持続可能な開発との間には固有の関連がある。

 化学物質の安全性は、ほとんど全ての持続可能な開発目標について明確で測定可能な結果もって達成することに寄与することができる。さらに、5つの新たな取組が2030アジェンダを支持して開発されるべきである。すなわち、ゼロ廃棄物、職場の知る権利、アグロエコロジー、プラスチック、及び女性と化学物質の安全性である。

 良い結果を達成するために、情報への権利、健康と健康な環境への権利、社会的、政治的及び市民の権利、そして女性、子ども及び労働者の権利を尊重する透明性のある包括的なパートナーシップが必要である。

 産業は、彼らが製造し使用する化学物質についての情報を提供する責任がある。健康と環境に関する情報は、企業秘密であってはならない。企業の利益は有害化学物質に関する情報を非開示とすることを正当化できない。

 今日、子どもたちは生まれた時に、数百ではなくとも、少なくとも数十の有害化学物質で体内を既に汚染されている。政府と産業は、そのリスクがよくわかっていない物質を含んで、子どもたちが有害化学物質と汚染に暴露するの防ぐ義務がある。

 我々は、アグロエコロジー、地域に立脚した革新、そして伝統的な人々の知識が効果的な連携の一部として認められるよう、農業へのアプローチを考え直す必要がある。

 2020年以降の枠組みの中で、少数者、貧困者、女性、先住民、その他の意味のある参加への権利と調和しつつ、 SAICM の参加型アプローチを保持することが重要である。

追加の疑問

今日、どのような廃棄物が我々を最も悩ませるか?

 電子廃棄物は、年間2,000万トンから5,000万トンという、最も増大している廃棄物である。国連環境計画(UNEP)によれば、190億ドル(約2兆2,000億円)に値する、世界の電子廃棄物の90%までが、毎年違法に処理され投棄されている。

 電子廃棄物中に含まれる鉛、水銀、カドミウム、及びフッ素系難燃剤のような有害化学物質は環境を汚染し、子どもや女性を含む不法な電子廃棄物リサイクルに曝露する人々の健康に不可逆的な危害を及ぼす。

 電子廃棄物は、もし安全に抽出され収集されるなら、貴重な物質を含んでいる。しかし、電子廃棄物中の有害化学物質に関連する人間の健康リスクを回避するためには、特別の訓練と機器が必要である。

 例えば、東欧、コーカサスおよび中央アジア(EECCA)のような地域では、電子廃棄物問題はかなり新しいが、電子廃棄物の量はこの地域の全ての国で増大している。非公式なリサイクルを避けるために、前もって人々を教育し、電子廃棄物が分別されて収集され、認可を受けたリサイクルのために適切な場所に送られるよう廃棄物分別のシステムを開発することが重要である。NGOs の役割は、非常に重要である。我々の経験によれば、NGOs は一般市民からの電子廃棄物収集のシステムを立ち上げ、キャンペーンを実施し、規制を準備し、電子廃棄物の目録作りを行っている。

塗料や車のバッテリー中に鉛やカドミウムがまだあるのか?

 鉛塗料にはまだ問題がある。鉛塗料廃絶のための世界同盟(GAELP)は、会社に対して鉛塗料の製造jと販売を止めるよう働きかけ、政府に対しては規制管理の法律を制定するよう働きかけ、現場で実際の変化を達成するために利害関係者にツールを提供している。鉛塗料の製造と販売において、かなりの測定可能な削減がすでに達成されており、さらなる削減が期待されている。これらの主要な防止策達成は、将来の世代の鉛暴露に測定可能な削減を容易にもたらし、したがって、これらは精神的欠陥、心血管系障害、及びその他の非感染症の発症削減をもたらす。

主要な測定可能な目標
  1. 2020年までに、80の開発途上国及び移行経済国からの塗料中の鉛に関する分析データを整備し、全ての国が下記を実施できるよう、公的に利用可能とする。
     1) 鉛装飾塗料及び、子どもたちの鉛暴露に最も寄与しているらしいその他の用途の鉛塗料に関して、法的拘束力のある効果的な規制管理を2020年までに確立する。
     2) 塗料、ワニス、染料、エナメル、うわぐすり、下塗り、又はその他の表面処理での鉛の使用禁止する法的拘束力のある効果的な規制管理を2027年までに確立する。

  2. 2025年までに、市場にある塗料の鉛含有量を監視して得られる公的に利用可能な結果が、新たな装飾塗料又は子どもたちの鉛暴露に最も寄与しているらしいその他の用途の鉛塗料は存在しないことを示す。

  3. 2027年までに、鉛塗料の遺物の安全な管理に関する戦略とガイダンスが開発され公的に利用可能となる。
  4. 2030年までに、公的に利用可能な監視が、ワニス、ラッカー、染料、エナメル、うわぐすり、下塗り、又はその他の表面処理は、鉛を含むという意図で製造され、販売され、輸出され、輸入され、又は使用されることはないことを示す。
化学物質の使用/需要の展望を形成する二つの主要な世界の潮流とは何か?

 市場にある化学物質の製造及び数が爆発的に増大しているが、包括的な情報を持っているものはほんのわずかしかないということが、我々の生活に大きな影響を及ぼしている。産業は、彼らが製造し、使用する化学物質についての情報を提供することに責任がある。我々の健康と環境に及ぼす化学物質の影響に関する情報は、企業秘密ではありえない。会社の利益は有害化学物質に関する情報を非開示にしておく必要性を正当化することはできない。

 我々は、現在世代に不可逆的な変化を引き起こし、将来の世代の生活に影響jを及ぼす、出生前の子ども達の有害化学物質への暴露に関連する疾病負荷と身体障害を目撃している。 今日、子どもたちは生まれた時に、数百とは言わなくとも、少なくとも数十の有害化学物質で体内を既に汚染されている。多くの化学物質は発達中の脳と身体に危害を与え、生涯、そしていく世代にもわたる悪影響をもたらす。世界保健機関(WHO)によれば、鉛暴露だけで年間60万の子どもたちに深刻な知的障害を引き起こす。政府と産業は、そのリスクがよくわかっていない物質を含んで、子どもたちが有害化学物質と汚染に暴露するの防ぐ義務がある。

 開発のための国際農業科学技術評価(IAASTD)によれば、貧しい栄養、低い食料品質、及び低い食料の安全が、少なくとも部分的には影響している慢性疾患の増加は、我々が明確に直面しているもう一つの世界の傾向である。我々はアグロエコロジーと農薬の非化学的な代替、特に人々の生活に不可逆的なダメージを引き起こし、現在及び将来の世代の生活を危うくする高い危険性のある農薬に着目する必要がある。農業知識、科学、及び技術を再考する必要性は、地域に基づく革新と伝統的な人々の知識が効果的な連携の一部としてよく認識されるよう緊急を要する。

廃棄物に対処する方法を具体化するかもしれない2〜3の技術は何か?

 廃棄物に対処するための最良の技術は、廃棄物を作り出さないことである。

 ゼロ廃棄物とは、廃棄物と材料の容量と毒性を体系的に回避し除去するよう、全ての資源を大事に使い再生するよう、そしてそれらを焼却したり埋め立てることがないよう、製品とプロセスを設計し管理することを意味する。ゼロ廃棄物を実施するということは、地球、人間、動物、又は植物の健康への脅威である、土地、水、又は大気への放出の全てをなくすことである。
  1. 民間部門は、有害ではない;頑丈な;再使用可能な;解体が容易な;修繕と再構築が容易な;最小で適切な包装;再生可能又は堆肥可能な製品を作るべきである。
  2. 全ての主要都市において、再使用、リサイクル、及び堆肥化のために発生源で廃棄物の分別が実施されるべきである。
  3. 有害性のないゼロ廃棄物製品、再使用可能な出荷容器、簡素な包装、再生された堆肥化可能な製品、再製造機器、及び賃貸又は共有機器を含むゼロ廃棄物購入方針が採用されるべきである。
  4. 電子機器無料引き取りプログラムは拡大生産者責任措置の一部であるべきである。
  5. 多層、使い捨てのプラスチック容器包装は禁止すること。
  6. 残留廃棄物処理のための非焼却手法に完全移行すること。
  7. 有害化学物質をリサイクルすることなく、サーキュラー・エコノミー/ゆりかごからゆりかごまで(訳注8)を促進すること。
  8. 廃棄物エネルギー回収焼却炉及びセメント・キルンのための政府補助金は排除すること。
真に状況を改善する技術はあるのか?

 グリーン・ケミストリー(最初から有害性を除去する);普及啓発;政府の規制。
 技術開発は政府の規制に沿って行われるべきである。例えば、民間部門は使い捨てのプラスチック製品の製造と使用を止め、プラスチック容器・包装の無料回収を実施し、リサイクルのための基盤整備に資金供給をすべきである。

 同時に政府は、多層の使い捨てプラスチック包装や食品ラップ、容器、ストロー、買い物袋、持ち帰り容器などのプラスチック製品を禁止すべきである。

化学物質/廃棄物及び社会経済的な平等

 次のような問題が世界の社会経済的不平等を生む。
 ・他の国に廃棄物を投棄すること
 ・危害に関する包括的な情報を示さずに市場で化学物質製品を販売すること
 ・化学物質製品のコストを政府や公衆に外部化すること
 ・二重基準(ダブルスタンダード):先進国には有害性のない製品、開発途上世界には有害製品

(終わり)


訳注1:アグロエコロジー
アグロエコロジー(オルター・トレード・ジャパン )

訳注2:ごみ焼却飛灰
ごみ焼却飛灰と石炭灰−フライアッシュの違い/国立環境研究所

訳注3:リサイクルされた物質から製造された新たな製品中に残留性有機汚染物質
2015年5月 Arnika Association/IPEN 共同報告 有害なおもちゃか、有害廃棄物か:新しいプラスチックに古いPOPs 政策決定者のための概要

訳注4:SDG 2
UN USTAINABLE DEVELOPMENT KNOWLEDGE PLATFORM / DG 2:
(End hunger, achieve food security and improved nutrition, and promote sustainable agriculture)
目標2: 飢餓をゼロに/国連開発計画 駐日代表事務所

訳注5:濾過摂食( filter-feeding)
濾過摂食/ウィキペディア

訳注6:鉛塗料に対する取り組み
SAICM-OEWG についての IPEN の手短な見解 2011 年 11 月

訳注7:Global Environment Facility: GEF
地球環境ファシリティ(GEF)について - 環境省
開発途上国で行う地球環境保全のためのプロジェクトに対して、主として無償資金を供与する国際的資金メカニズムである。

訳注8: circular economy/cradle-to-cradle
 ・サーキュラー・エコノミー(Circular Economy)とは何ですか?
 ・Cradle to CradleR(ゆりかごからゆりかごまで



化学物質問題市民研究会
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