2012年6月21日 SAICM/ICCM.3/17
ナノテクノロジーと
工業用ナノ物質に関する
報告書


情報源:SAICM//ICCM.3/17, 21 June 2012
Progress report on nanotechnologies and manufactured nanomaterials

http://www.saicm.org/images/saicm_documents/iccm/ICCM3/Meeting%20documents/iccm3%2017/ICCM3_17_EN.pdf

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2012年9月3日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/saicm/iccm3/iccm3_progrress_report_on_nano.html

事務局によるノート
  1. 事務局は、国際化学物質管理会議(ICCM)の決議 II/4 E日本語訳)に基づき、国連訓練調査研究所(UNITR)と経済協力開発機構(OECD)により作成されたナノテクノロジーと工業用ナノ物質に関する報告書を送付する。この報告書は、2011年11月15日〜18日にベオグラードで開催されたICCM公開作業部会(OEWG)第1回会合(SAICM/OEWG.1/12, 30 September 2011)に提出され、その会合以降になされた進展を反映することで更新されている。

  2. 事務局はまた、国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)の脈絡でナノ物質の応用、実施、及び安全管理に関する報告書のエグゼクティブ・サマリー(アネックス)(日本語訳)を謹んで送付する。これは決議 II/4 E に基づき事務局により委託されたものである。報告書完全版は、文書 SAICM/ICCM.3/INF/17 に含まれている。このエグゼクティブ・サマリーは公式な編集なし複写されたものである。

ナノテクノロジーと工業用ナノ物質に関する報告書
I. 背景

1. 国連訓練調査研究所(UNITR)と経済協力開発機構(OECD)は国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)の実施を支援している。2006年4月に、UNITAR 運営委員会は公式に戦略的アプローチ[1]を支持し、一方、OECD 理事会もまたOECD化学物質プログラムの一部として戦略的アプローチを実施する決議を2008年に採択した[2]。決議のフォローアップは、OECD化学物質委員会とOECD化学物質、農薬、バイオテクノロジー作業部会の合同会合で実施された。

2. 化学物質管理に関する第2回会議(ICCM2)に先立ち行なわれた準備作業に基づき、ナノテクノロジーと工業用ナノ物質は、包括的方針戦略(訳注:環境省訳)の第24項(j)(訳注:新たな政策課題が生じ次第、関心を集め、適切な対処を求め、協力的な活動を行うための優先事項の合意を作り出すこと)に規定されているICCMの機能に従い、国際化学物質管理会議の文書をもとに各項目について注目し、適切な行動を求め、合意を構築するために、ICCMにより詳細に検討されるべき4つの新規に出現した政策課題のひとつとなった。さらに、スイス政府はナノテクノロジーと工業用ナノ物質の話題を紹介するために、OECDやその他の組織が参加したサイドイベントを主催した。

3. (ICCM2)決議 II/4 E により、ICCM は、発展途上国及び移行経済国がナノテクノロジーと工業用ナノ物質を責任を持って使用し、潜在的な便益を最大化し、潜在的なリスクを最小化するための能力を高めることを支援するよう各国政府と利害関係者を促した。それはまた、政府及び政府間、国際的及び民間分野を含む非政府組織が利用可能なリソースを条件に下記を実施することを求めた。
(a) 様々な利害関係者の必要を理解しつつ、関連のある情報に容易にアクセスできるようにすること
(b) 新たな情報が入手可能となったらそれを共有すること
(c) そのような情報の理解をさらに高めるために、例えば、適切ならワークショップの利用を通じて、来るべき地域、準地域、国家及びその他の会合を利用すること

4. さらに、それは、OECDや化学物質の適切な管理のための組織間プログラム(IOMC)及び国際標準化機構(ISO)に参加しているその他の組織を含む関連する国際的な組織が、ナノテクノロジーと工業用ナノ物質のさらなる理解を得るという観点で利害関係者との対話に関与するよう要請した。

5. その結果、2009年に開催された化学物質委員会と化学物質、農薬及びバイオテクノロジーに関する作業部会の第44回合同会議に参加した出席者は、決議 II/4 Eを含んでICCMにより採択された新規に出現した政策課題に関する決議を討議した。その合同会議への参加者は、工業用ナノ物質に関する作業部会は、他の利害関係者、特に発展途上国に有益な膨大な量の文書を既に作成していることを認め、OECD事務局に対しUNITAR及びIOMCへの参加組織と共に、発展途上国を目標にしたナノテクノロジーに関する情報交換に関する作業を共に行なうことの可能性と、クイックスタート・プログラムからリソースを利用する可能性を探求するよう要請した。

脚注
[1] See www2.unitar.org/cwm/publications/event/saicm_2006/UNITAR_BOT_SAICM_Decision_Final.pdf

[2] See www.oecd.org/officialdocuments/displaydocumentpdf/?cote=c(2008)32&doclanguage=en (リンク切れ)


II. 決議 II/4 Eの実施への寄与

6. 決議 II/4 Eの実施への寄与として、OECD と UNITAR は次の地域ワークショップを開催し、合計200人以上の参加者を得た。

(a) アジア太平洋:北京、2009年11月27日(当研究会参加
(b) 中央東ヨーロッパ:ウッジ、ポーランド、2009年12月11日
(c) アフリカ:アビジャン、コートジボアール、2010年1月25、26日
(d) ラテンアメリカ及びカリブ海、キングストン、ジャマイカ、2010年3月12日
(e) アラブ準地域:アレキサンドリア、エジプト、2010年4月11、13日

7. 政府、産業、市民社会の代表が関与したこの最初のワークショップの主要な目的は、ナノテクノロジーとナノ物質の使用に関連する現在の潜在的な応用及び可能性あるヒト健康と環境の安全影響についての意識を向上させることであった。追加的な目的は発展途上国と移行経済国が第3回国際化学物質管理会議(ICCM3)における討議に情報に基づいて参加することができるようにすることであった。

8. ワークショップでは、部分的にはOECD事務局により準備され、また、工業用ナノ物質に関するOECD作業部会により出された資料と文書の発表があった。作業部会メンバーもまた、資料を作成し発表を行なった。この一連のワークショップは、スウェーデン、スイス、イギリス、及びアメリカによって支援された。

9. また、化学物質の適切な管理のための組織間プログラム(IOMC)[3]への参加組織の支援による他の政府間活動に関する文書も利用可能であった。国際標準化機構(ISO)はその活動に関する情報を提供することによって支援した。OECDビジネス産業諮問委員会、OECD労働組合諮問委員会、そして環境非政府組織のような他の利害関係者もまた発表資料を作成した。

10. この最初の一連の地域ワークショップの成果には次のことが含まれる。

(a) 各国で一般的化学物質管理専門家として日々の活動を行なう参加者のナノ物質の影響に関する理解を高めたこと

(b) 国家レベルにおける適切な化学物質管理のための持続可能な一般的プログラムの一部として、各国がナノ物質を取り扱うために何を必要としているかに関する参加者からの情報提供を得たこと

(c) 国際化学物質管理会議第3回会合(ICCM3)におけるナノテクノロジーの議題を展開する討議に向けて、第2回会合(ICCM2)の成果を理解したこと

11. その後、2011年にUNITARは次のような第2弾の地域ワークショップを開催した。

(a) アフリカ:ナイロビ、ケニア、2011年4月5、6日
(b) ラテンアメリカ及びカリブ海、パナマ市、パナマ、2011年5月31日、6月1日
(c) 中央東ヨーロッパ:ウッジ、ポーランド、2011年6月27、28日
(d) アジア太平洋:北京、中国、2011年9月6、7日

12. 延べ200人の参加者があり、スイス政府による支援のあった第2弾の地域会合の成果は下記を含む。

(a) ナノテクノロジーと工業用ナノマテリアルを世界行動計画に含めることに関する政府及び主要な利害関係者による討議

(b) 公開作業部会第1回会合及び国際化学物質管理会議第3回会合(ICCM3)におけるナノテクノロジーに関する更なる討議のための準備における各地域の考え方の検討

(c) ナノテクノロジーの使用に関する及び各国及び組織の取り組みにおける参加者により準備された追加的でもっと詳細な情報

脚注
[3] SeeSee www.who.int/iomc/en/


III. 行動計画の展開又は選択された諸国の実施の進捗状況

13. 地域のワークショップの後、諸国はナノテクノロジーとナノ物質に関する国家計画の開発に着手するよう促された。そのような政策の組織的な開発は、「戦略的アプローチ」と、「有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関するバーゼル条約」、「国際貿易の対象となる特定の有害な化学物質及び駆除剤についての事前のかつ情報に基づく同意の手続に関するロッテルダム条約」、及び「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約」 との統合的アプローチと調整を確実なものにし;ナノテクノロジー問題を計画の策定に含めることを促進し;ナノ物質と全ライフサイクルと革新を包含し;科学と技術、貿易、健康、環境、労働、農業、産業、輸送、通関、外務、正義、計画を含む広範な主要利害関係者と省庁代表を関与させるであろうことが想像される。

14. 各国の中心的計画又は政策は、適切な化学物質管理の他の領域及びツールに関連付けつつ(例えば、化学品の分類および表示に関する世界調和システム、国家ナノテクノロジー評価、戦略的アプローチ実施計画);国家ナノテクノロジー計画の核となる国家政策を策定しつつ;国家ナノテクノロジー計画を支持し導くためのナノテクノロジー委員会を設立しつつ;リスクと応用に関する環境と健康保護に主要な焦点が当てられることを確実にしつつ;展開するナノテクノロジー優先度に基づいて監視と査定(evaluation)を実施しつつ;計画能力を構築又は強化するための優先的行動を特定することを支援することを意図しているであろう。

15. 2011年、UNITAR はスイス政府の支援を得て、3カ国が国家レベルでナノテクノロジー問題に取り組むためにプログラムに従った能力を開発することについて支援するパイロット・プロジェクトを立ち上げた。ナイジェリア、タイ、及びウルガイにより実施されたこれらのプロジェクトからの教訓は、国際化学物質管理会議第3回会合(ICCM3)で検討されるであろう。UNITARは、参加国がナノテクノロジー分野と国家レベルでとることができる可能性ある行動の現状を知ることを確実にするガイダンスと訓練資料を開発した。ガイダンスの開発に取り組むために国家ナノテクノロジー・プロファイルが開発され、地域会合ワークショップでコメントを求めるために発表された[4]

脚注
[4] For more information, see http://www.unitar.org/cwm/nano


IV. 工業用ナノ物質の環境、健康、安全の検討に関する OECD プログラムに関連する進捗

16. 政府と産業界は、工業用ナノ物質の環境、健康、安全の検討のための研究に相当なリソースをつぎ込んでいる。国際レベルでは、これらの取り組みは、工業用ナノ物質に関する作業部会の各会合と関連してOECDにより年に2回発行されるラウンドテーブル(tour de table)文書で報告されている。最新のラウンドテーブル(tour de table)は入手可能である[5]。

17. ひとつのOECDプログラムは、優先付けられた参照ナノ物質一式の調整されたテストを主要テーマとして行なわれ、それは工業用ナノ物質のテストに関するスポンサーシップ・プログラムとして知られている。それは次の3要素からなっている。

(a) 工業用ナノ物質の代表的一式の安全テスト:
 この作業は、参照ナノ物質の物理化学的特性、哺乳類への毒性、環境的運命、環境的毒性及び材料安全性について59のエンドポイントの調査を行なっている。2012年5月現在、非メンバー国と他の利害関係者に加えて約20のメンバー国が専門性を共同利用しテストに資金調達するために様々な能力の中でこのプログラムに参加することを約束している。

(b) 工業用ナノ物質とテスト・ガイドライン:
 この作業は、ナノ物質の独自の特性を考慮しつつ、既存のOECDテスト・ガイドラインが工業用ナノ物質の毒性学的特性の評価と特性化のために適切であるかどうかを検証する。

(c) ナノテクノロジーにおける代替手法の役割:
 この作業は、工業用ナノ物質のための、イン・ビトロ及びイン・シリコ(コンピュータ使用)アプローチ及び従来の毒性学的テストの改善に関連する事柄を含んで、代替手法とテスト戦略の採用を検討する。

18. スポンサーシップ・プログラム(第1フェーズ)の下に実施されたテストの最初の包括的な結果一式は、2012年末までに完成することが期待されている。2009年から2012年まで実施されるテスト・プロプログラム(第1フェーズ)は、主に化学分野からの、工業用ナノ物質の本質的なヒト健康及び環境特性に関する調査であり、それらに集中している。目的のひとつは、曝露とリスク評価に関する結論を引き出すのを支援することはもとより、ハザード評価へのアプローチが健全な科学(sound science)及び国際的に調和された基準に基づいていることを確実にすることである[6]。テストプログラムの結果は書類一式が完成したなら公的に入手可能となるであろう。第2フェーズは、テスト結果の評価(assessment)と、化学物質のために開発された既存のガイドラインが既存のガイドラインに適用可能な程度の査定(evaluation)に焦点を当てるであろう。この作業は、必要なら既存のテスト・ガイドラインの適切な修正、又は特定のガイダンスの開発の必要性の特定のための勧告をもたらすべきである。

19. テスト結果は、工業用ナノ物質の安全性に関わるOECDプログラムの他の作業に反映されるであろう。現在更新中のひとつの重要な文書は、工業用ナノ物質の安全テストのためのサンプル準備と量測定に関する準備的ガイダンス・ノートであり[7]、それはスポンサーシップ・プログラムから生じた新たな作業の観点から非常に重要であるとみなされている。テストからの追加的な情報が発表されたなら、OECDは追加的なテスト・ガイドラインの更新及び/又は新たな先端的ガイダンス文書の開発に着手するであろう。

20. 工業用ナノ物質の環境、健康、安全についての研究を知らせ、分析するために工業用ナノ物質に関するOECDデータベースが2009年4月1日に公的に発表された[8]。それは、工業用ナノ物質の安全性に関する完了した、現行の、及び計画されている研究の詳細を提供している。それはナノ物質、OECDテスト・ガイドライン及び特定のエンドポイントの名前を用いる必要がある。2011年8月現在、OECD加盟国、非加盟国、及び組織からの800プロジェクトがそのデータベースにリストされている。

21. 自主的計画及び規制的プログラムに基づく協力プロジェクトの作業は、工業用ナノ物質の安全性評価のための国家の情報収集計画及び規制プログラムをまとめて分析することを目的としている。傾向を特定するために、2006年から2009年の間に実施された規制ナノ物質に関する情報収集計画及び報告の分析が展開された[9]。さらに、このプロジェクトの一部として、国家の自主的又は規制的プログラムに関する情報の共有と問題の討議のための政府間の共同作業が実施された。OECDは、規制の課題を特定するという観点からナノ物質の様々な定義に関する作業に着手するであろう。

22. リスク評価に関する協力プロジェクトの作業は、リスク評価手法を強化するための情報を交換し、機会を特定することにより、工業用ナノ物質のための既存のリスク評価アプローチを査定すること(evaluating)を目的としている。この活動の結果として、包括的な文書である『工業用ナノ物質のリスク評価に関する重要な論点』[10]が開発されたが、それは、データが限定されており特定のリスク評価の論点に関する更なる研究が必要とされる環境において、リスクを評価するための現在の実施、課題、及び戦略を提示している。工業用ナノ物質により及ぼされるリスクの評価に重要な問題に関する作業は、継続されるであろう。

23. 曝露測定と曝露軽減に関するプロジェクトもある。この作業は、環境はもとより、一般的に職場、消費者及び公衆に目を向けている。今日まで、活動のほとんどは、職場におけるナノ物質への曝露に焦点を合わせてきた。諸国は職場における工業用ナノ物質への曝露に関するガイダンスと研究に関する情報を交換しており、多くの文書が既に発表されている。例えば、研究室におけるナノ物質への曝露に関連するガイドラインの編集と比較がこのプロジェクトの一部として発表された[11]。さらに、環境を通じての曝露に加えて、製品を通じての消費者のナノ物質への曝露に関する将来の作業が計画されている。

24. 最後に、OECDは工業用ナノ物質の環境的に持続可能な使用に目を向けている。その目的は、研究から廃棄までの様々な開発段階において、ナノテクノロジーが可能とする応用の環境と健康への肯定的及び否定的影響に加えて、工業用ナノ物質のライフサイクルの側面に関する知識を強化することにある。ライフサイクル評価とナノテクノロジーに関連する国家活動に関する報告書が公的に入手可能である[12]。


[5] Available from:
www.oecd.org/officialdocuments/displaydocumentpdf/?cote=env/jm/mono(2011)12&doclanguage=e.(リンク切れ)

[6] These two areas are to be covered by the projects on exposure measurement and exposure mitigation, and on risk assessment.

[7] Available from:
www.oecd.org/officialdocuments/displaydocumentpdf?cote=env/jm/mono(2010)25&doclanguage=en

[8] Available from:
http://webnet.oecd.org/NanoMaterials/

[9] Available from:
www.oecd.org/env/nanosafety

[10] Available from:
www.oecd.org/officialdocuments/displaydocumentpdf/?cote=env/jm/mono(2012)8&doclanguage=en

[11] Available from:
www.oecd.org/officialdocuments/displaydocumentpdf?cote=env/jm/mono(2010)47&doclanguage=en

[12] Available from:
http://www.oecd.org/officialdocuments/displaydocument/?cote=env/jm/mono(2011)54&doclanguage=en

ナノ廃棄物

25. OECDは、2012年5月にナノ廃棄物の安全な管理に関するワークショップを開催した。ナノ廃棄物に関する背景説明資料が準備され、この話題を取り巻く少し複雑な定義的及び司法的論点に加えて、現在及び将来のナノ廃棄物の多くの潜在的な発生源に光を当てた。同時に、曝露緩和と曝露評価に関するプロジェクトを通じて、OECDはナノ物質への曝露の評価に関連するプロジェクトの調整を開始している。これらのプロジェクトは、非束縛ナノ物質及びマトリクス中で束縛されたナノ物質の調査を含む。現在、工業用ナノ物質のための廃棄及び処理技術に関連する研究活動を含んで利用可能な情報のレビューが実施されている。

他の機関の関連する活動

26. 2009年に、国際連合食糧農業機関(FAO)と世界保健機関(WHO)は、”食品及び農業分野におけるナノテクノロジーの応用:潜在的ナ食品安全影響”と題する専門家会議を開催した[13]。

27. 2010年にFAOはブラジル政府と共同で、食品、水、農業の分野において著しい便益を提供する可能性を持つ新規に出現しているナノテクノロジーに関する討議のためのフォーラムとしてひとつの国際会議を開催した。FAOは、欧州食品安全機関(EFSA)、国際食品科学技術連合(IUFoST)、及びOECDと共同で、利害関係者間の意見交換を促進し、開発途上国が特に関心をもつこの分野の連携の機会を探るために、3つの技術的ラウンドテーブル会合を開催した[14]。

28. FAOはWHOとともに、彼等の組織の役割をさらに定義し、将来の活動を特定するという観点から、食品安全に関連するナノテクノロジー分野における進展に遅れをとらないように活動し続けており、彼等は現在、食品と農業分野において適用されているナノテクノロジーに関する最先端の文書を開発中である。


[13] The report of the meeting is available from:
http://www.fao.org/food/food-safety-quality/food-safetyquality/topical-issues/nanotechnologies0/en (リンク切れ)

[14] The report of the sessions is available from:
ftp://ftp.fao.org/ag/agn/agns/NANOAGRI_2010.pdf.

アネックス

ナノ物質:SAICMの脈絡における応用、実施及び安全管理

 この報告書は、 SAICM 事務局のために作成されたものであり、事務局が利害関係者から受領したインプットを使用している。それは、Georg Karlaganis, Vladimir Murashov, Seonghee Seo の協力の下に、Rob Visser によってドラフトが作成された。

エグゼクティブ・サマリー
背景

 ナノ物質は、様々な新たな応用に使用することができる特別の特性を持っており、それらの内のあるものは数十年間すでに市場に出されている。ナノ物質の新たな用途に関する多くの研究が現在行なわれており、一方現在、その製造量は従来の化学物質に比べれば非常に多いというわけではないが、多くの他の応用が近い将来見込まれており、製造量は今後数十年間で大幅に増加することが予想される。

 しかし、これらの物質がヒト又は環境に従来の化学物質とは異なる影響を持つかもしれないので、ナノ物質のこれらの特別な特性はまた、ひとつの難しい問題でもある。この点について、従来の化学物質に関する安全管理の決定のための基礎として、毒性学で使用されている古典的なテスト及び評価アプローチが、ナノ物質にどの程度適用できるのかまだ定まっていない。またこの分野では、現在研究プログラムが進行中である。

 SAICM は、化学物質の安全性に関しては新規の課題としてナノテクノロジーと工業用ナノ物質に注意を払っている。ICCM2の決議 II/4‐E 第9節は、”政府と利害関係者に対し、特に開発途上国と移行経済国に関連する問題を含む、ナノテクノロジーと工業用ナノ物質に関する報告書を最初の公開作業部会(OEWG)、及び、第3回国際化学物質管理会議(ICCM3)利用できるよう作成することを要請”している。

 この報告書は、この要請に応えて作成された。13の利害関係者からのインプットがこの報告書に寄与した。この報告書の内容のために地域SAICM会議でなされた勧告が、概要に基づいて考慮された。

はじめに

 この報告書は、現在の市場状況、及び見込まれる展開の概観を概説している。それは、産業用途及び消費者用途の工業用ナノ物質の可能性ある応用を述べるているが、それらの健康と環境への有益な用途にも目を向け、開発途上国及び移行経済国の状況に特別の注意を払っている。この報告書は、次にリスク評価とリスク管理に関する知識の状況を述べる。それは、物質特性化、人の健康(労働者関連の側面を含む)、環境、情報管理、リスク管理に関して、どこに科学があるのかについて記述している。この報告書はまた、科学における不確実性と研究がもっと必要な問題に関して光を当てている。

リスク評価とリスク管理

 この主題に関する結論のひとつは、一方で、従来の化学物質と曝露による可能性ある健康と環境影響に関して多くの知識が利用可能であるが、他方で、そのような知識の全てがナノ物質に直接、移転できているわけではない。しかし、多くの場合、従来の化学物質に適用されている強固な手法と、用いられている枠組みは、工業用ナノ物質を扱うための適切な基礎を提供するであろう。広く適用されている政策は、可能なかぎり利用可能な規定を使い、予防的アプローチに従うことである。したがって、現時点では、1件毎の評価に信頼が置かれなくてはならず、リスクの定量化が可能でない場合には定量的な結果が使用されなくてはならない。次に、許容できないレベルの不確実性又は懸念が特定される場合には、予防が適用される。この文脈において、特に開発途上国及び移行経済国における廃棄物管理に関連する問題は特別の注意が必要である。

政策策定

 現在、ナノ物質の安全性を適切に扱うための法律を持つ国はない。一方、注意義務を求める既存の法律はナノ物質をカバーするために用いられる。いくつかの具体的な提案がナノ物質によりよく対応するためになされているが、それらに、安全データシートにナノ物質を含めること、ナノ物質を含む製品の政府登録の確立、産業によるナノ物質の潜在的なリスクについての情報の提供、化学物質管理のための国家プロファイルにナノ物質の管理についての章を統合すること等がある。

 しかし、ナノ物質のリスク管理のために手法を改造しなくてはならないような側面に対して、またリスクを定量化する可能性に対して、より良い洞察を得るためには、明らかにもっと多くの研究が必要である。一般的に、ナノ物質のリスクが現在管理されている方法について市民社会組織は、むしろ批判的である。

経済的、社会的、倫理的な側面

 このレポートはまた、ナノテクノロジーの導入の経済的、社会的、倫理的な側面、この問題にする公衆の議論の展開、及び国際的及び政府間組織の作業について議論している。

能力構築

 この報告書はさらに、ナノテクノロジーに関連する学習、訓練及び能力構築の問題に対応し、この点に関し、二つの関連する、しかし個別の要素を定義している。ひとつは、全ての国が多くの社会的な課題に可能な限り、よりよく対応するために、ナノテクノロジーを利用するための研究を実施する能力を持つことを確実にすることである。先進国がナノテクノロジーからより多くの便益を得、開発途上国が潜在的なリスクから多くの被害を受けるという懸てい念が強調され、この問題はナノ格差が生じる事を回避するために十分に検討される必要性が強調されている。研究パートナーシップの確立が前進を図る方法として述べられている。
 二番目の要素は、すべての諸国が、彼等の国でのこれらの物質の使用に関して十分に資金調達され、効果的な決定をすることができるようにするために、ナノ物質の安全評価に関する化学は進化している中で、工業用ナノ物質の健康と環境的安全の側面を評価する能力を持つべきであるということである。開発途上国及び移行経済国におけるこの分野の能力を強化することは非常に重要である。これを達成するための適切な方法を利用可能とすべきである。

ナノ物質の安全管理に関する勧告

 この報告書は、SAICMの脈絡の中で取り上げられることができる行動のために多くの提案をもって結論としている。詳細な勧告は下記に示される。
  1. 世界的な透明性を改善し、より良い意思決定プロセスを可能とするために、ナノテクノロジーと工業用ナノ物質に関する情報交換を容易にすること。そのような情報交換はいくつかの側面をもつ。例えば、できるかぎり IOMC (訳注)及びその参加組織を通すことが推奨される。

    訳注: IOMC
    第3回POPs 対策検討会資料(環境省)より
    http://www.env.go.jp/chemi/pops/kento/03/pdf/ref05.pdf
     化学物質の適正管理のための国際機関間プログラム(IOMC)は、1992 年の環境と開発に関する国連会議における勧告に従い、化学物質の安全性の分野における協力関係の強化と調整活動の拡大を目的として、UNEP、ILO、FAO、WHO、UNIDO、OECD(参加機関)によって1995 年に創設されたものである。1998 年1 月、UNITAR は正式に参加機関としてIOMC に加わった。IOMC の目的は、人間の健康と環境に関係する化学物質の適正な管理を実現するために参加機関が共同又は個々に手がける政策及び活動の調整作業を促進することにある。

    • 安全情報のための国際的な”ナノ・ポータル(ナノ拠点)”が設立されること。
    • 実施中の研究についてのクリアリングハウス(訳注:複数の情報システムを中継し、様々な形式のデータを相互に利用できるようにするための仕組み)が設立されること。
    • 技術的、法的、制度的情報を共有するためのメカニズムが確立されること。
    • SAICM地域内での意識向上活動が継続され深められること。

  2. できるかぎり IOMC 及びその参加組織を通して、工業用ナノ物質の適切な管理のための国際的に適用可能な技術的及び法的なガイダンスと訓練用資料の開発。これには下記が関連するであろう。
    • ナノテクノロジーと工業用ナノ物質の安全についての評価と管理に関するガイダンス資料。
    • 国家プロファイルの更新を含んで、既存の国家化学物質安全プログラム中のナノ物質安全の統。合に関するガイダンス資料。
    • 工業用ナノ物質の適切な管理を含めるための国家の法的枠組みの採択に関するガイダンス資料。
    • ガイダンスに基づく訓練資料。
    • 訓練活動。
    • ガイダンス資料をテストするために使用できるパイロット・プロジェクト。
    • 公衆のための教育資料。

  3. 工業用ナノ物質に関する地域SAICM戦略の開発を支援すること。これは、研究とリスク評価及びリスク管理問題に関する協力のための準備を含むことができる。

  4. 特に健康と環境保護に有益な応用に関連する技術移転を容易にすること。これは、それらの目的達成するために財政的に支援されるべき様々なタイプのパートナーシップを含む可能性がある。パートナーシップは次のようなことを含むであろう。
    • 開発途上国及び/又は移行経済国。
    • 例えば、専門家、レビュー、見識のの提供などを含んで、様々なやり方で貢献することができるであろう市民社会組織を含む公立及び民間の機関。

  5. ナノテクノロジーと工業用ナノ物質に関する行動を含む具体的な作業領域により世界行動計画(Global Plan of Action)を更新すること。

  6. ナノ物質を含むもっと多量の製品が市場に出るようになった時に、安全問題を取り扱う諸国の準備を強化するために、将来可能性のあるSAICM資金メカニズムにナノ物質の安全性に関連する資金調達プロジェクトの可能性を含めること。

  7. ナノテクノロジーと工業用ナノ物質に関連してスチュワードシップの役割と責任を強化し、主要な条件をつけずにそのような国際的な作業に金銭的な貢献を提供することにより、公衆との対話はもとより、資金的援助、意識向上の支援、情報交換、訓練活動に参加するよう産業界に要請すること。

  8. 国際連合危険物輸送勧告(United Nations Recommendations on the Transport of Dangerous Goods)化学品の分類および表示に関する世界調和システム(GHS;Globally Harmonized System of Classification and Labelling of Chemicals)に関する国連専門家委員会(UN Committees of Experts)に工業用ナノ物質の安全性に対応するGHS基準の採択又は開発のための作業計画の緊急の準備を勧告すること。

  9. ロッテルダム重役、ストックホルム条約、バーゼル条約の締約国に、もし有用なら、当該義務範囲となる工業用ナノ物質の適用と影響を検討することに特に目を向けることを考慮するよう勧告すること。

  10. ナノテクノロジーと工業用ナノ物質の全ての側面に関して、例えば、広い公衆の関心ごとである工業用ナノ物質に関連する問題への対応に関する進捗を議論するために、全ての利害関係はの参加するセミナーや世界会議を開催することにより、公衆との対話の支援を継続すること。


化学物質問題市民研究会
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