2012年9月24日 IISD Report
国際化学物質管理会議第3回会合(ICCM3)
概要:新規政策課題


情報源:IISD, 24 September 2012
SUMMARY OF THE THIRD SESSION OF THE INTERNATIONAL CONFERENCE
ON CHEMICALS MANAGEMENT
17-21 SEPTEMBER 2012
Emerging policy issues
http://www.iisd.ca/vol15/enb15196e.html

訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会)
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2012年9月26日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/saicm/iccm3/IISD/
IISD_ICCM3_Summary_Emerging_Policy_Isues.html


世界行動計画(GPA)への活動の追加

  ペイツ議長(Johanna Lissinger-Peitz (Sweden))は、電気・電子製品のライフサイクル中における有害物質のための活動をGPAに加えることに関する議論から開始した。
SAICM/ICCM.3/3; SAICM/ICCM.3/INF/4/Rev.2; SAICM/ICCM.3/INF/4/Rev.2/Add.1) (訳注1

 ブラジルは、新たな活動をGPAに含めることに反対であり、GPA中の既存の活動に注力することを求めた。チリは、バーゼル条約、ストックホルム条約、及びロッテルダム条約の潜在的な相乗効果もまた言及されるべきであると述べた。EUはアフリカ・グループを支持しつつ、取り組みの重複を警告した。

 火曜日(9月18日)の午前中、代表者等はSAICM実施についての評価と進捗に関する議論を続けた。ナノテクノロジーと工業的ナノマテリアルのための活動をGPAに加えることに関して(SAICM/ICCM.3/3; SAICM/ICCM.3/INF/4/Rev.2; SAICM/ICCM.3/INF/4/Rev.2/Add.1) (訳注1)、ナイジェリアは新たな作業領域としてGPAに含めることを支持した。EUは、ナノマテリアルの適切な管理を確実にするために、情報交換を促しつつ、ナノマテリアルの登録を確立すること、及び公的部門と民間部門のパートナーシップを確立することを求めた。

 ナノテクノロジーと工業的ナノマテリアル及び電気・電子製品のライフサイクル中における有害物質のGPAに追加することに関する作業は、新規政策課題に関するコンタクト・グループで議論するよう送付された。これらについては新規政策課題に関する下記サマリーで述べられている。


新規政策課題
 この議題は、月曜日(17日)、火曜日(18日)、金曜日(21日)の総会、及び、チェリー・ベイラード(カナダ)とマーカス・リチャード(セントビンセント・グレナディーン)を共同議長とするコンタクトグループで週を通じて取り上げられた。

 月曜日(17日)の総会で、事務局は、新規政策課題とPFCs(過フッ素化合物)の管理と安全な代替への移行(SAICM/ICCM.3/13)に関する進捗についての事務局ノートを紹介した。事務局は、塗料中の鉛、製品中の化学物質、及び電気・電子製品のライフサイクル中における有害物質を簡単に討議してから、これらの決議、さらに電子廃棄物についてはGPAへの追加の可能性に関する検討(SAICM/ICCM.3/3)(訳注1)に関する作業のためにコンタクト・グループに送付された。火曜日(18日)の総会は、PFCs(過フッ素化合物)とナノテクノロジーと工業的ナノマテリアルを議論し、決議と関連するGPAへの追加に関する作業のためにコンタクト・グループに送付された。

 金曜日(21日)に新規政策課題コンタクト・グループは、電子廃棄物及びナノテクノロジーとナノマテリアルに関する提案された活動の修正テーブルをどのように最良にGPAに加えるかを議論した。結果として利害関係者、時間枠、進捗の指標、及び実施面に関しては討議されず、リストの活動項目だけが完全に討議された。総会で承認された決議は、コンタクト・グループにより修正されたテーブルに基づき、これらの二つの領域をGPAに追加することを支持することであったが、ICCM3では活動だけが議論されたということを記す脚注が付けられた。しかし他のカラムにある情報は、代表者等がこの活動を計画し実施するときに潜在的に有用な情報であるとしてそのまま残された。

 金曜日(21日)の夕方、総会は、新規政策課題に関するドラフト包括的決議のために事務局により起草された決議案を検討した。国際環境法センター(CIEL)は、アメリカによる修正を受けつつ、すべてのSAICM利害関係者との効果的な対話を含む新規政策課題を扱うためのオープンで透明性のある手続きを実施するというコミットメントについてのパラグラフを加えることを提案した。

最終決議
 新規政策課題に関する包括的決議決議III/Xのために採択された決議(SAICM/ICCM.3/CRP.17)は、塗料中の鉛、製品中の化学物質、電気・電子製品のライフサイクル中における有害物質、及びナノテクノロジーと工業的ナノマテリアルに関して提出された進捗レポートに言及する導入部を加え、事務局が更なる進捗に関してICCM4に報告することを求めている。この包括的決議に加えられた主題毎の決議の概要は別途示す。


ICCM3の簡潔な分析
関連する課題への応答性の問題:新規課題
 2009年の第2回会合(ICCM2)でICCMは、新規政策課題を検討するためのプロセス、SAICM世界行動計画(GPA)に含める新たな活動、及びICCM会合に備えて、これらやその他の事柄を討議するための公開作業グループの確立を含んで、SAICM実施に必要ないくつかの手続きに関する決議を採択した。ICCM2ではまた、塗料中の鉛、電気・電子製品(電気・電子廃棄物に焦点)、及びナノテクノロジーとナノマテリアルを含んで、多くのことがらに関する予備的作業を求めた。

 この構造と適切な予備的作業のもとに、ICCM3は、これらの新規政策課題と内分泌かく乱物質(EDCs)に関する新提案に対応するために次のステップを決定しなくてはならなかった。これらの課題のあるものは、長年国際的な化学物質及び廃棄物の議題であり(電気・電子廃棄物)、”新規”の問題として正当に検討されることができなかった(塗料中の鉛)。これらについてのチャレンジは、効果的に人または環境の曝露と危害のリスクを減らすための意味のある行動を呼び起こすことであった。他の課題は、ナノテクノロジーとナノマテリアルや内分泌かく乱物質(EDCs)のように、比較的新しいものであった。これらの課題について、代表者らはそれらが”新規の課題”としての状態にあることを主張又は確認することに同意し、より良く理解するための集団的行動を引き起こし、特定されたリスクをいかに最良に管理するかに関する意思決定を可能にすると共に潜在的なリスクについて意識向上を図らなくてはならなかった。これらのことがらに関して、ひとつのチャレンジは、SAICMの包括的戦略政策(OPS)に記述されている”予防的アプローチを適切に適用する”ことであった。

 SAICM交渉中における予防の役割に関する議論、及びストックホルム条約のような関連するプロセスに見られるように、潜在的なリスクに科学的不確実性が存在するようなナノテクノロジーとナノマテリアルや内分泌かく乱物質(EDCs)などの課題に取り組もうとする時に、全ての人が同じページを見ているわけではない。少数の参加者は、2020年という期限はそう遠くはなく、多くの発展途上国は、化学物質の安全性を管理するための基本的な法的枠組み、技術的基盤、及び/又は施行能力が欠如しているということを強調しつつ、SAICMの限定されたリソースは、よく確立されている問題と、”基本的な事柄(basics)”への対応に費やされるべきであるという見解を述べた。化学産業からの参加者もまた、”リスクは用量次第(the dose makes the risk)”(訳注2)であり、新規課題に対する行動は、単に固有のハザード特性ということだけで、あるいは、潜在的なリスクが完全に理解されるまで、とられるべきではないと主張した。

 これらの主張に対して、様々な利害関係者が、既存の又は新規の課題に取り組むことは、二社択一というようなものではなく、能力やリソースは国によって著しく異なるかもしれないが、化学物質の環境と健康への有害影響はそうではないと述べた。2020年目標に向けての限られたリソースと時間的制約という二つのチャレンジを十分に認識しつつ、これらの代表者らは、国際的化学物質政策に対するSAICMの関連性及び付加価値は、他の協定書は法的拘束力のある特性又は狭い対象範囲であるという理由で対応が遅くなり過ぎるかもしれないような課題に応答する能力に、まさしく存在すると述べた。

 潜在的なリスクに関するもっと科学的な証拠が必要であるとする主張に関して、多くの代表者等は、適切な化学物質管理には予防を適用することが必要であると答えた。ある発展途上国の代表者は、”我々は予防原則に基づいて活動する必要があり、もしある課題に懸念があるという科学的証拠があるなら、我々は、遅すぎることになる前に、そのことに注意を払うべきである”とコメントした。

 SAICMは政府が2020年目標に向けて動くことに役立つ決議を提供することができる応答性のよい協定であることを確認する、新規課題に関する包括的決議をICCM3は採択した。他の重要な成果として、ICCMは、深刻な健康影響を及ぼすことがよく知られており、安全な曝露レベルなどは知られていない子どもの鉛曝露を防止する緊急の必要性があるということを強調しつつ、ICCM2においてその目的のために設立された塗料中の鉛を廃絶するための世界連合(Global Alliance to Eliminate Lead in Paints)を通じて、塗料中の鉛の廃絶を達成するという約束を再確認した。その使用量が世界中で指数関数的に増大し続けている電気・電子製品に関して、ICCM3は、有害成分のラベル表示、環境を配慮した設計、及び、製造者に自身の製品の再使用、リサイクル、及び処分について、より大きな責任を負わせる拡大生産者責任(EPR)政策を含んで、将来の行動を導き、リスクの削減に貢献することができる国際的な最良の慣行一式を特定し、編集し、創出する作業を承認した。そ決議の電気・電子製品に関する部分は意図的な製品の陳腐化の問題には目を向けなかったが、EPRは、有害廃棄物に関するバーゼル条約の重要な目的である、より寿命の長い製品を設計する動機と電気・電子廃棄物の生成の最小化に役立てることができる。

 ナノテクノロジーとナノマテリアルに関して、ICCM3は、潜在的なリスクに対応するためにこれらのリスクに関する意識を向上させ、意思決定プロセスに提供する情報の交換と対話を含んで、SAICMが更なる行動を取るために適切なフォーラムであるということを確認した。このことは、これらの新たなテクノロジーと物質の潜在的なリスクの多くを知らない発展途上国にとって特に重要なことである。ICCMはまた、工業的ナノマテリアルに関連する潜在的な危害から労働者、公衆及び環境を保護するためのアプローチの開発を含んで、及び、ナノマテリアルのリスク評価を含んで、環境、公衆、及び職業的健康影響の理解を深めるために、科学的に適切な研究を実施し又は資金的に支援しつつ、利害関係者が実施することができるGPAの下におけるこの分野の新たな活動に同意した。最後に、ICCM3は、EDCに対応することは優先事項であることを力説し、既存の知識のギャップを埋めるデータを生成し、EDCsに関する潜在的なリスクに関する情報を普及し意識向上を図るための具体的なステップを、これらのリスクに対応するための潜在的な応答と共に提案した。


訳注1
2012年7月11日 SAICM/ICCM.3/3 SAICM 世界行動計画への追加の提案

訳注2:パラケルススの法則


化学物質問題市民研究会
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