SPORT プレスリリース  2005年7月5日
SPORT 試験的検証プロジェクト
REACHの実行性の問題点とその解決を示す


情報源: PRESS RELEASE by SPORT, Brussels, 5 July 2005
REACH: SPORT pilot test identified workability concerns and solutions for new chemicals policy


訳:安間 武 (化学物質問題市民研究会
掲載日:2005年7月26日


 本日発表された SPORT(Strategic Partnership on REACH Testing / REACH の検証に関する戦略的パートナーシップ)試験的検証プロジェクトの結果は、現状のREACHの条文は調整と明確化が必要であるということを示した。この報告書は、化学物質の製造者及び川下ユーザーがREACHに求められる義務を果たすためには、ガイダンスとツールが必要であるということを強調している。この検証はまた企業と当局の双方は、REACHの課題に対応するために、情報伝達、共同作業、及び業務手順に関し、現状の彼らの手順を適合させる必要があると結論付けている。  SPORTプロジェクトは、提案されているREACHの実行性を確立するために設けられたプロジェクトである。REACHの下では、化学物質を年間1トン以上製造又は輸入する企業は、その物質が安全に使用することができることを立証するために、そのような物質を登録することが求められる。

 コンサルタントによってまとめられたSPORT報告書は、検証結果の記述とパートナー間で同意された39項の勧告からなっている。現在進行中のガイダンス・ツールと文書に関するREACH実行プロジェクト(REACH Implementation Projects (RIPs))の作業に反映されるこれらの勧告は、REACHの条文を調整又は明確化すること、及び産業界と加盟国の組織構造を適合させることを求めている。さらに同報告書は、川下ユーザーを積極的により良く参加させ統合するためのメカニズムを用意することを提案し、関係者は自身で間に合うように準備するよう促している。
 SPORTは、欧州委員会、加盟国及び欧州産業界の戦略的なパートナーシップであり、REACHが発効される前にいくつかのREACH要求の実行可能性を検証して確立し、欧州委員会、加盟国及び産業界の全ての関係者に対しREACHの実際的な運用を準備することを目的としている。REACH提案システムの共同試験的検証は、REACHの事前登録、登録、及び書類評価の実行可能性を評価し、問題が発見された場合にはその解決策を見出し、REACHの理解を深めることを求めるものであった。大企業及び中小企業からから選ばれた化学会社の代表は、8物質又は物質グループについて、選定されたREACHのステップに対し、できるだけ現実に合うようなシュミレーションを実施した。

 このプロジェクトは、SPORT運営グループを構成する欧州委員会(企業総局、環境総局、共同研究センター)、自主的参加加盟国(オーストリア、デンマーク、フィンランド、フランス、イタリア、オランダ、スウェーデン、スロバキア、イギリス)、産業界(欧州化学工業連盟(Cefic)、欧州産業連盟(UNICE)、中小企業代表(UEAPME)、川下ユーザー代表(DUCC))から成っている。NGOs、労働組合、及び欧州化学領域ネットワークは運営グループの会議にオブザーバーとして参加した。

 報告書の全文とSPORTに関する詳細情報は下記ウェブサイトから入手できる。
 http://www.sport-project.info


訳注:発表されたSPORT報告書に対し、オブザーバー参加した労働組合と環境NGOのコメントの概要を紹介する。

■ヨーロッパ労連(ETUC)2005年7月19日プレスリリース
 http://hesa.etui-rehs.org/uk/newsevents/files/1907-Reach-EN.pdf

ETUCはREACHは実行可能であると確信する

 2004年末のSPORTプロジェクト(*)立ち上げ以来、オブザーバーとして参加してきた欧州労連(ETUC)は化学物質規制の改革(REACH)は実行可能であるると確信する。
 SPORTプロジェクトの参加パートナーは、REACH実施のためのガイドライン作成を目的とするREACH実施プロジェクト(RIPs)にとって有用な勧告リストに同意した。

 SPORTプロジェクトでわかったことは下記の通りである。
  • REACHが発効する2年以上も前であり、非常に短期間に、実施ガイダンスやツールもない状態で、産業界は登録書類を提出することが可能であることを自ら実証し、加盟国はそれらを十分に評価することができた。
  • パートナー勧告により、現在の提案条文を明確化し調整することは可能であるが、勧告は、現在、欧州化学工業連盟(Cefic)やその他の産業団体によって損なわれようとしているように、産業界の義務又は範囲を著しく変更しようとするものではない。
  • REACHの中に本質的に存在するパラダイムシフト、すなわち化学物質規制の改革に必要な役割と責任の変更、特にサプライチェーンにおける情報の伝達は、化学産業界内においていまだに実施されていない。産業界団体はREACHが発効する前に準備しなければならない。
 欧州労連(ETUC)は、現在のREACHにおける立証責任の産業側への移行原則を再度強調し、また生産量ベースの登録を支持する。もし生産量ベースに基づく登録方法が変更される様なことになれば、この原則はゆがめられる。

 REACHが全く実行可能であるということを確認したSPORT検証に加え、5月に発表されたKPMGのビジネス影響調査は、RECHにより発生するコストは完全に適切であるということを示している。従って欧州労連(ETUC)は、ヨーロッパの化学物質規制の改革ができるだけ早く採択されることを求める。

(*)SPORTプロジェクトは9加盟国、化学物質を使用している25社、化学物質を製造している29社が参加して化学物質を用いて実施された。8物質又は物質グループ、合計50種物質を用いて調査された。

■WWF Detox ニュース 2005年7月5日
http://www.panda.org/campaign/detox/news_publications/news.cfm?uNewsID=21690

SPORT の結論:REACHは機能する!

 REACHは機能するが、もっと多くのガイダンスが必要である。これが、加盟国、産業界及び欧州委員会がREACH規制案の実行可能性を検証したSPORTプロジェクトの主なる結論である。WWFはこのSPORTプロジェクにオブザーバーとして参加した。
 SPORT参加パートナーは、主に詳細な実施ガイダンスを求める勧告のリストに同意した。これらの勧告は政策決定者、産業界、及びREACH実施プロジェクト(RIPs)に向けられる。

 WWFは下記の点に特に関心を持っている:

  • SPORTの主要な勧告は、CEFICやその他の産業団体が主張しているような条文に著しい変更を加えるのではなく、会社や加盟国の便宜のためにもっと多くのガイダンスを発行することを求めるものである。
  • 重大なことは、報告書が化学産業界の”パラダイム”シフトがまだ行われていないことに触れており、これは産業界団体が会員各社に対しREACHに対応するための十分な情報を提供していないことに対する明白な批判である。
 SPORTでは8社中6社が完全な登録書類を用意できた。用意できなかった2社のうち、1社はREACHに従うことを望まず、したがって目的にそぐわなかった。したがって、登録書類を準備することは実行可能な作業であるように見える。
 また、9加盟国は登録書類に対し高品質で詳細なフィードバックを与えることができた。これはすばらしく末頼もしいことである。すでにREACHのもとでの最初の実際の書類評価g行われる4年前に、産業界と加盟国は順守の問題に関して対話を重ねてきた。

 産業界と加盟国は、ガイダンスとツール及び条文の明快さを必要とする多くの実際的な提案を見出しており、それらはREACHを成功に導くであろう。全てのパートナーは、各企業及び当局はREACHへの準備に今すぐ−REACHが発効する前に−着手しなくてはならないということを明確にした。

 結論として、SPORTは機能し、詳細なガイダンスが企業と当局にとって非常に貴重であるということを示した。産業界の思考の”パラダイム”シフト及びWWFによって提案された修正案の採用とともに、そのようなガイダンスは、人間の健康と環境を守るREACHに好結果をもたらし、さらにはヨーロッパ化学産業界の競争力を強化することになるであろう。


化学物質問題市民研究会
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