Environmental Health News (EHN) 2023年11月9日
化学業界は画期的な EU 化学政策を台無しにした可能性がある
それが米国にとって何を意味するかを解く

今後の選挙、右翼の復活、企業や業界団体からの政治的圧力により、
かつて称賛されていた化学物質規制の改善への期待は失墜する可能性がある
グレイス・バン・ディーレン
情報源:Environmental Health News (EHN) Nov 09, 2023
The chemical industry may have killed a landmark EU chemical policy.
Here's what that means for the US.

Upcoming elections, a right-wing resurgence, and political pressure
from corporations and trade groups may mean hopes of improvements
to once-lauded chemical regulation are dead.
By Grace van Deelen
https://www.ehn.org/eu-reach-chemical-policy-2666066709.html

訳:安間 武/化学物質問題市民研究会
https://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2023年11月15日
このページへのリンク:
https://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/eu/reach/news/231109_EHN_
The_chemical_industry_may_have_killed_a_landmark_EU_chemical_policy.html

 欧州の極めて重要な化学政策の改善は、多くの欧州環境擁護派が公衆の健康にとって後退だと言う政治的圧力や産業界の介入を受けて、永久に行き詰まっているかもしれない。

 REACH は、化学物質の登録、評価、認可、制限を意味し、2007 年に欧州連合で制定された。米国の化学物質規制とは異なり、REACH は化学会社に対し、農薬や洗浄剤、パーソナルケア製品、プラスチックなどに使用される化学物質の安全性をこれらの化学物質が販売される前に調査するよう義務付けている(訳注:REACHの基本理念のひとつ:安全性の立証責任の当局から産業側への移行)。 REACH は、EU で販売される製品に含まれるすべての化学物質に適用され、有害な化学物質によって引き起こされる健康への悪影響から国民を保護することを目的としている。

 EU内の環境擁護団体のネットワークである欧州環境局(EEB)の化学物質政策責任者であるタチアナ・サントスは、EU における基準をより高めることにより、世界的に他の基準も引き上げられる傾向にあると EHN に語った。”ヨーロッパ人だけでなく、世界の多くの地域が実際に REACH の恩恵を受けている”。

 2020年の欧州グリーンディール(訳注1)の一環として、欧州委員会(EUの行政府)は、特に化学会社が行う調査におけるより厳格なデータ収集を義務付けることで、有効性を向上させる REACH の改訂版を提案することを約束した。

 その後、欧州議会は改訂案を採決するか否かを決定するために採択にかけることになる。 欧州委員会は当初、2022年末までに改定案を公表すると約束していたが、その後、目標を 2023年12月に延期した。しかし現在、漏洩した欧州委員会の 2024年の議題のコピーと政治プロセスの内部情報に詳しい情報筋は、改定案が年内に発表される可能性は低い、あるいはそもそも全く発表されない可能性を示している。 これは、REACH が 2024年の欧州議会選挙前に改定されるという環境活動家らの期待を打ち砕くものである(訳注2)。 REACH 改訂がなければ、米国と EU の両方で製品を販売する化学会社は、より安全な化学物質に取り組む理由がひとつ減り、米国の消費者がその代償を払う可能性がある。

 支持者らは、改正の遅れは主に企業と政治の圧力によるものだと主張しており、昨年、化学会社と業界団体は EU 機関へのロビー活動に 3,350万ドル(約50億円)を費やした。

 ”有害化学物質は今後も非効率的に管理され、人間の健康と環境に影響を与えるだろう”とサントスは述べた。 ”早急な対応が必要である”。

最先端の化学政策

 有害化学物質は、特定のがんから発達上の問題、神経疾患に至るまで、広範囲にわたる健康被害を引き起こす。 たとえば、ビスフェノール A (BPA)、フタル酸エステル、ポリ塩化ビフェニル (PCB) などの内分泌かく乱化学物質 (EDCs) は、人間のホルモン系に害を及ぼし、成長と発達、睡眠、消化、生殖に問題を引き起こす。 EDCs およびその他の危険な化学物質は、洗剤、殺虫剤、塗料、プラスチック、パーソナルケア製品、衣類、家具など多くの家庭用品に一般的に含まれている。

 テキサス大学の環境法教授ウェンディ・ワグナーは、米国ではこれらの有害化学物質から消費者を守るための規制がかなり弱いとEHNに語った。米国の法律では、環境保護庁 (EPA) が化学物質の販売に禁止や制限を課す前に、EPA に対してその化学物質が危険であることを証明することを求めている。 さらに、EDCs などの一部の危険な化学物質の健康への影響は、その用量と必ずしも一致しない。つまり、化学物質がホルモン系をかく乱させるために必ずしも高用量である必要はない(訳注3)。 そのため、EPAなどの機関にとって規制は難しくなる可能性がある。EPA は化学物質を高用量で検査し、化学物質が高用量で安全であると判断された場合、低用量も安全であると想定する可能性がある。

 REACH は異なる。EU の化学会社は、販売する前に化学物質が安全であるという証拠を提出する必要がある。 ”REACH は化学物質をどのように管理できるかという論理を変えた”とサントスは語った。

 しかし、REACH の目標は EU の消費者にだけ重要というわけではない。 化学会社は通常、自社の製品を世界中の国々で販売しているが、国毎に異なる化学物質を製造するということはビジネス上合理的でない。 研究結果は公開されているため、EU 域外の規制当局も新しい化学物質に関する研究から得た情報を使用して基準を通知することができる。

 さらに、化学物質汚染は国境に関係ない。 有害化学物質は空気中や水中を長距離移動し、汚染源から遠く離れた人々や野生動物に影響を与える可能性がある。 ”有害物質の生成が減れば、世界中どこでも人々が有害物質にさらされる機会が減る”とサントスは語った。


訳注1:欧州グリーンディール
訳注2
訳注3


化学物質問題市民研究会
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