EU 新化学物質規制 REACH の
安全データシートの信頼性


情報源:Reach registration rules called into question
Environment Daily 1543, 31/10/03

この情報は「化学物質と予防原則の会」の
大竹千代子さんに提供していただきました。

(訳:安間 武 /化学物質問題市民研究会
掲載日:2003年11月2日


 EU の化学物質規制担当官らは、欧州委員会が提案している REACH 化学物質政策の根幹となる化学物質安全性情報システムの運用に広くはびこった欠陥があると報告した。この指摘は、欧州委員会が REACH 政策実施に伴い発生するコストを低減することにより REACH への信頼性を高めようと9月に行った内容修正に対する環境団体の批判に油を注ぐことになるであろう。

 安全データシート(Safety Data Sheets)は、化学物質規制の一部として世界中で長い間使われてきた実績のあるものである。10月29日(水)に発表された EU の REACH ドラフトでは、この安全データシートが、製造者から川下ユーザーや小売業者への情報伝達のための主要なツールであることを確認している。この新たな規制は、現行の1991年安全データシート指令を統合するものとなる。

 化学物質規制担当官らによる EU 諸国内の1,000件近くの化学物質製品の調査により、データシートに関して際立った問題があることが判明した。 ECLIPS (European Classification and Labelling Inspections of Preparations) と呼ばれるこのプロジェクトの最初の調査結果は、先週、ブリュッセルで開催された、EU が助成する ”ヨーロッパ化学物質立法強化ネットワーク CLEEN (Chemical Legislation European Enforcement Network)” の会議で発表された。

 表示及びデータシートに関し、完全に正しく記載されているのは、表示の38%、データシートの25%だけであるということが示された。同時に行われたドイツでの調査では、データシートの10%に、重大な欠陥があると指摘された。 「このことが、データシートの3分の2が全くの誤りであるというわけではないが、表示と安全データシートは化学物質の一連の流れ(チェーン)の中で根底をなすものなので、それが正しいということが重要である」 と同ネットワークのメンバーは記者に語った。

 安全データシートは、約30,000種あるとも言われている全ての化学物質を当局に登録する上で、提案 REACH において重要な役割を果たすものである。9月に REACH の提案内容が緩和されたことで、実質的にはその3分の2の化学物質をどうするかが問題となってくる。

 欧州委員会は当初、化学的安全性評価、すなわち使用が特定されたものに対する略式(abbreviated)リスク評価、を登録される全ての物質に行うことを考えていた。しかし最終提案では、製造量又は輸入量が10トンを超える、約10,000種程度の化学物質に対してのみ、これらの評価が必要であるとしている。1〜10トンまでの約20,000種については、危険情報だけを記載した安全データシートだけで十分としている。

 10月29日(水)に REACH 提案とともに欧州委員会によって発表された”広範な影響評価”によれば、この変更により、 化学産業に対するコスト軽減は、約5億ユーロ(約650億円)になるとしている。

 安全データシートの問題に関する指摘は CLEEN のものが最初ではないが、この新しい調査はかつて行われたものの中で最大規模のものであり、欧州全土で約200社、900種の化学物質を検査したものである。

 すでに、1〜10トンの化学物質に対する要求を緩和したことに対し批判していた環境団体 WWF は、この調査は ”現行のシステムにいかに問題があるか” を確認したものであると述べた。安全データシートの欠陥は全体の REACH 登録化学物質データベースの信頼性を脅かすものであるとキャンペーン担当のマイケル・ウォールストは述べた。

参照ウェブサイト
Chemical Legislation European Enforcement Network (CLEEN)
Press release 4th CLEEN conference, Brussels, 23./24.10.2003
WWF European Policy Office


CLEEN プレスリリース
化学物質のユーザ用危険情報は信頼性があるか?
第4回 CLEEN 会議、ブリュッセル、2003年10月23、24日

Press release 4th CLEEN conference, Brussels, 23./24.10.2003

 これは、ブリュッセルで開催された第4回 CLEEN (Chemicals Legislation European Enforcement Network) 会議において議論された最も重要なことがらである。強化プロジェクト”ECLIPS”の調査結果によれば、表示については38%、安全データシート(SDS)については25%しか完全に正しいものはなかった。化学物質製品の危険特性とその防護措置について記述しているこの情報は、化学物質製品を扱う専門家ユーザーにとって非常に重要なものである。

 現在までに、ECLIPS (European Classification and Labelling Inspections of Preparations)プロジェクトでは参加国が、約200社、900種の化学物質製品のデータを評価した。このプロジェクトの運営目標は、危険成分を含む製品について、その会社、その取り扱い方法、及びその表示について検査することである。。
 2004年まで、さらにデータを収集して評価する。最終報告書は20049年6月に発行する予定である。

 CLEEN ネットワークの目標は、EU の化学物質立法の強化を図ることにある。EU 加盟国及びノルウェー、Accession Countries、及び欧州委員会の検査部門、政策部門からの代表がベルギーに集まっている。
 これらのプロジェクトは、CLEEN が、 EU 全体の化学物質立法分野の活動強化、情報交換、及び規制の実施を向上させるために重要で有効な機関であることを示している。

 現在の CLEEN 事務局はギリシャとオランダが担当している。2004年からはオーストリアとドイツがこの役目を担い、スペイン、スウェーデン及びオランダが支援することになる。

2004年/2005年に実施予定のプロジェクト
  • ノルウェーは、木材防腐剤に関する検査活動について紹介した。その成果として不法取引と表示及び書類の不備をあげた。
  • オランダは、EU 全土のプロジェクトで PCB 汚染機器を特定することを提案した。PCB は人間の健康と環境に大きな脅威を与える物質である。
  • スペインは、同国の当局間の情報交換に関する活動を紹介し、化学物質に関する EU 全体の情報交換システムを構築することの可能性をプロジェクトで検討することを提案した。
  • ドイツは、”e-コマース”に関するプロジェクト提案を準備することとなった。このプロジェクトではインターネットを通じた危険化学物質の取引について調査する。
 CLEEN ネットワークの活動は、現在、欧州連合が提案している新たな化学物質政策(REACH)によって影響を受ける。関係者は、化学物質立法の強化に関する経験に基づき、欧州委員会のドラフトに対し、コメントと勧告を行った。


化学物質問題市民研究会
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