欧州化学物質庁
REACH 高懸念物質16候補を発表
欧州 NGOs も9月17日に独自リストを発表予定


安間 武 (化学物質問題市民研究会)
情報源:ピコ通信第120号(2008年8月25日発行)掲載記事
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/
掲載日:2007年10月27日
このページへのリンク:
http://www.ne.jp/asahi/kagaku/pico/nano/japan/pico_120_080825_reach.html


 欧州化学物質庁((ECHA)は本年6月30日、最初の高懸念物質(SVHC)の候補リスト(5頁表)を提案し、パブリック・コンサルテーションにかけました。
 一方、スウェーデンのNGOであるChemSecは、欧州委員会が作成するリストには少数のよく知られている有害物質しか含まれず、消費者製品に含まれる多くの有害物質は見逃されることが懸念されるので、NGO独自のREACH優先リストを作るとし、2007年6月に、そのための情報提供を世界のNGOに呼びかけ、本年9月17日にブリュッセルで開催される"代替会議(Substitution Conference)"で、NGOリストを発表するとしています。
 本稿では昨年6月1日に発効したREACHの経過と要点をまずおさらいし、その後でREACHの重要なプロセスである認可に関わる欧州化学物質庁の高懸念物質候補リストの概要、及び、それに対抗してChemSec などのNGOが発表するというNGOリストの趣旨をChemSec の発表資料に基づき紹介します。
 REACHに関する詳細情報については、ピコ通信バックナンバー118、103、100、86、85、84の各号をご覧ください。

1.REACHのおさらい

■REACH発効

 2003年5月にインターネット・コンサルテーションにかけられて以来4年経過した2007年6月1日に、EU のREACH規則(化学物質の登録、評価、認可及び制限)が発効した。

■欧州環境庁設立

 2008年6月1日からヘルシンキに設立された欧州化学物質庁が公式に業務を開始した。同庁は化学物質の登録、評価、認可及び制限の手続きに関連するREACH実施の管理に責任がある。

■REACHプロセス

(1) 登録(Registration)
  • 新規化学物質か既存化学物質かを問わず、年間の製造・輸入量が、事業者当たり1 トンを超える化学物質が対象となる(農薬と医薬品は対象外)。
  • 事業者は登録する物質に関する所定のデータを欧州化学物質庁に提出する。
  • 年間10トン以上の化学物質については、有害性評価及びリスク評価を含む化学物質安全性報告書(CSR)を追加提出する。
(2) 既存化学物質の登録スケジュール
  • 約30,000種といわれる既存化学物質の登録を2008年から2018年までに行う。
  • 2008年6月1日〜2008年12月1日:
     1t/y以上の既存化学物質の予備登録
  • 2008年12月1日〜2018年5月31日:
     生産・輸入量に応じて既存化学物質の登録(高生産量、高リスクのものから)
(3) 評価(Evaluation)
  • 化学物質安全性報告書(CSR)を規制当局が評価し、必要に応じて追加試験の実施又は追加情報を事業者に要求する。
(4) 認可(Authorisation)
  • 高懸念物質は認可手続きの対象となる。
  • 高懸念物質の申請者はリスクが適切に管理されること、又はその使用による社会経済的便益がリスクを上回ることを示す必要がある。
  • 認可プロセスの目的は、高懸念物質の代替が技術的及び経済的に実行可能なら漸次、代替されるようにすることである。
(5) 制限(Restriction)
  • 規制当局は高懸念物質のリスク評価に基づき、必要な場合には、製造、上市、使用を制限する。
2.高懸念物質の定義と特定

■高懸念物質の定義注1

 高懸念物質は、REACHの第57条で下記のように定義されている。
  • 指令67/548/EEC(危険物質の分類、表示に関する指令)(注2)のカテゴリー1又は2(注3)の基準を満たす発がん性、変異原性、又は生殖毒性を有する物質(CMR)
  • REACH規則 付属書 XIIIによる難分解性、生体蓄積性、毒性を有する物質(PBT)
  • REACH規則 付属書 XIIIによる難分解性と生体蓄積性が極めて高い物質(vPvB)
  • 上記と同等のヒト健康又は環境に深刻な影響を引き起こす可能性を示す科学的証拠により、個別に特定される物質(例えば内分泌かく乱物質)

■高懸念物質の特定

 認可プロセスにおいて、加盟国当局又は欧州化学物質庁は、欧州委員会の要請に基づき、高懸念物質を特定することになっており、その報告書の様式はREACH規則 付属書 XV で規定されている。

3.高懸念物質候補リスト

■最初の高懸念物質候補リスト
  • 欧州化学物質庁は2008年6月30日に高懸念物質の候補リスト(16物質)を発表し、パブリック・コンサルテーションにかけた(8月14日締め切り)。
  • 加盟国はこれらの化学物質が最終的には認可対象となるかもしれない物質として候補リストに含めるという理解の下に、今回はドイツ、オーストリア、フランス、オランダ、イギリス、スウェーデン、ノルウェーの7カ国が合計16物質について提出した。
  • このリストにある物質名、CAS No. 提案国、提案理由を末尾の表に記載したが、オリジナルのリストにはこれらの項目以外にREACH規則 付属書 XVの様式にしたがった提案書がリンクされている。
  • 末尾の表には編集注として、主な用途、化審法関連情報などを参考用に付け加えた。
■候補リストのレビュー
  • コンサルテーション後に、欧州化学物質庁の加盟国委員会はコンサルテーションのコメントをレビューする。
  • もし加盟国委員会が当該物質は高懸念物質の基準を満たすということに同意するなら、同庁はそれらをいわゆる"候補リスト"に入れる。
  • この"候補リスト"は同庁のウェブサイトに発表され、新たな物質が高懸念物質として特定された場合には定期的に更新される。
  • 同庁は最初の候補リストを2008年10月末までに発表することを計画している。
■認可リスト
  • 候補リストにある物質は最終的には認可対象となる物質のリストに含められるかもしれない(REACH 付属書 XIV 認可リスト−現時点は空白)。
  • ある物質が"認可リスト"に一度含められると、その使用は認可対象となる。 ・そのような物質の上市又は使用を望む会社は、欧州化学物質庁(ECHA)に認可申請を提出しなくてはならない。
  • 認可の決定は欧州委員会によってなされる(REACH認可プロセス)。
■最終的に候補リストはどうなるのか

 EU指令67/548/EEC(危険物質の分類、表示に関する指令危険物質)にリストされている有害物質の総数は3,366であるが、そのうちのCMRカテゴリー1と2の物質が全て候補リストに含まれるというわけではない。また、REACH付属書XIII ではPBT及びCMRの特性を定義しているが具体的な物質名は挙げていない。
 今回発表された候補リストは16種類であったが、今後どのようなスケジュールでどのような物質が候補リストに挙げられるのか現時点では不明である。

 REACHの登録スケジュールによれば、
▲1000t/y以上の物質▲100 t/y以上の水生生物に猛毒性、水生環境で長期影響のおそれのある物質、及び▲1t/y CMR物質−は2008年12月から2010年11月30日の間に登録しなければならない。
 最初の候補リスト(16物質)の最終確定が本年10月末だとすると、今後候補リストに追加される高懸念物質の数はそれほど多くなく、ChemSecが懸念するように少数のよく知られている有害物質しか含まれないことになりかねない。

4.NGOによる高懸念物質リストの作成

■ChemSecの呼びかけ

 スウェーデンのNGOであるChemSecは、REACH 発効に伴い欧州委員会が作成する有害化学物質候補リストは十分ではないと考えられるので、NGO独自のREACH優先リストを作る必要があるとし、そのための情報提供を世界のNGOに呼びかけた(2007年6月)。

■趣旨
  • 欧州委員会は、"最悪"とみなさる物質の候補リストを作成しているが、そのリストには少数のよく知られている有害物質しか含まれず、消費者製品に含まれる多くの有害物質は見逃されることが懸念される。
  • ChemSecは、他のヨーロッパやアメリカのNGOsと協力して、NGO 独自の優先物質リスト、すなわち、廃止しなくてはならないとNGOが要求する"非常に高い懸念のある物質"のリストを作成する。
■代替のためのNGOプラットフォーム
  • この特別なプロジェクトの目的は、認可手続きが代替により"高懸念物質"を早急に廃止し、産業界に"有害物質使用削減"を促し推進する効果的なツールとすることである。
  • このプロジェクトは、REACHにおける"代替"を推進することを狙いとして、ヨーロッパの主導的NGOsとの連携のためのプラットフォームを形成している。
  • このプロジェクトはNGO諮問委員会によって導かれており、そこには欧州環境局(EEB)、WWF欧州政策事務所、グリーンピース欧州ユニット、地球の友ヨーロッパ(FoEE)、健康と環境連合(HEAL)、欧州消費者団体(BEUC)、国際環境法センター(CIEL/米国)等が参加。
■REACH Sin* List の発表

 2008年9月17日にブリュッセルで開催されるSubstitution Conference(代替会議)で、このNGO REACH優先リストはREACH Sin(*) Listとして発表されると言われている。

(*) Sin: Substitute It Now! 今すぐに代替を!

(安間 武)

注1:化審法の規制対象(参考)
基本的に難分解性、生体蓄積性、(ヒト・生態)毒性(PBT)物質。化審法でも発がん性、変異原性、生殖毒性(CMR)物質、及びその同等物質も対象とすべきと当会は考える。

注2:指令67/548/EECによる分類と表示
http://ecb.jrc.it/classification-labelling/search-classlab/

注3:CMRのカテゴリー分類
発がん性、変異原性、生殖毒性(CMR)の各物質についてカテゴリー1、2、3が定義されており、そのうちカテゴリー1及び2がREACHの認可リストの対象になる。
 カテゴリー 1:ヒト有害性が知られている物質
 カテゴリー 2:ヒト有害性があるとみなされるべき物質で、十分なデータがある
 カテゴリー 3:ヒト有害性の懸念がある物質であるが、データが十分ではない
http://europa.eu.int/eur-lex/lex/LexUriServ/LexUriServ.do?uri=CELEX:32001L0059:EN:HTML

欧州化学物質庁2008年7月
REACH 高懸念物質 候補リスト
(提案理由:CMR 、PBT、vPvBについては2頁の高懸念物質の定義参照)
物質提案国提案理由編集注
(主な用途、化審法関連情報)
物質名CAS No.
アントラセン
Anthracene
120-12-7ドイツPBT木材の保存剤や殺虫剤、塗料、カーボンブラック、JapanチャレンジプログラムOECD評価予定、日本の年間取扱量オーダー1,000トン
4,4’-メチレンジアニリン
4,4'- Diaminodiphenylmethane
101-77-9ドイツCMRポリウレタン中間体の原料、JapanチャレンジプログラムOECD評価済み、化審法第2種監視化学物質、日本の年間取扱量オーダー1,000トン
フタル酸ジ−n−ブチル
Dibutyl phthalate
(DBP)
84-74-2オーストリアCMR塩化ビニル、酢酸ビニル、ニトロセルロース、メタクリル酸等の樹脂の可塑剤、化審法既存点検対象物質(生態影響)、日本ではほとんど使われていない
シクロドデカン
Cyclododecane
294-62-2フランスPBT化学物質原料
化審法第一種監視化学物質
塩化コバルト
Cobalt dichloride
7646-79-9フランスCMR塗料、めっき、インキ乾燥剤用原料、
化審法既存化学物質
五酸化二ヒ素
Diarsenic pentaoxide
1303-28-2フランスCMRヒ素化合物製剤、木材防腐・防蟻剤
化審法データベースにない
三酸化二ヒ素
Diarsenic trioxide
1327-53-3フランスCMR金属ヒ素の原料、液晶ガラスや鉛ガラス製造時の清澄剤
化審法既存化学物質
二クロム酸二ナトリウム・二水和物
Sodium dichromate, dihydrate
7789-12-0フランスCMR無機クロム顔料、金属表面処理(腐食防止)
化審法での扱い不明
ムスクキシレン
5-tert-butyl-2,4,6-trinitro-m-xylene
(musk xylene)
81-15-2オランダvPvB香水、セッケンをはじめ多くの調合香料
化審法第一種監視化学物質
フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)
Bis (2-ethyl(hexyl)phthalate)
(DEHP)
117-81-7スウェーデンCMR塩化ビニル、ニトロセルロース等の樹脂、塩化ゴム等の可塑剤。 塗料、顔料、接着剤、潤滑油の添加剤。
国内で塩ビに使われる可塑剤の約6割
日本の年間取扱量オーダー100,000トン
JapanチャレンジプログラムOECD評価済み
ヘキサブロモシクロドデカン(異性体混合物)
Hexabromocyclododecane
(HBCDD)
25637-99-4スウェーデンPBT難燃剤
臭素系難燃剤の代替品として日本などで使用量が増えている
化審法既存化学物質
短鎖型塩化パラフィン
Alkanes, C10-13, chloro
(Short Chain Chlorinated Paraffins)
85535-84-8イギリスPBT難燃剤、可塑剤
化審法データベースにない
トリブチルスズオキシド
Bis(tributyltin)oxide
56-35-9ノルウェーPBT殺菌・防黴剤、船底塗料添加剤
化審法第一種特定化学物質
ヒ酸鉛
Lead hydrogen arsenate
7784-40-9ノルウェーCMR農薬(日本では失効)
化審法既存化学物質
ヒ酸トリエチル
Triethyl arsenate
15606-95-8ノルウェーCMR化審法データベースにない
提案によれば発がん性カテゴリー1、水生生物に非常に有毒
フタル酸ブチルベンジル
Benzyl butyl phthalate
(BBP)
85-68-7オーストリアCMR塩化ビニル及びニトロセルロース樹脂の可塑剤。
日本ではほとんど使われていない。
化審法既存点検対象物質:生態影響

編集注
 化審法/Japanチャレンジ関連情報は化審法データベース(J-CHECK) による。



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