REACH パブリック・インターネット・コンサルテーション
カナダ政府のコメント概要

(訳:安間 武 /化学物質問題市民研究会
情報源:COMMENTS ON THE EUROPEAN REGULATION CONCERNING THE REGISTRATION, EVALUATION
AND AUTHORIZATION OF CHEMICAL (REACH) BY THE GOVERNMENT OF CANADA

掲載日:2003年10月18日

カナダ政府のコメント概要
この概要はカナダ政府の
COMMENTS ON THE EUROPEAN REGULATION CONCERNING THE REGISTRATION, EVALUATION
AND AUTHORIZATION OF CHEMICAL (REACH) BY THE GOVERNMENT OF CANADA の
導入部、及び Canada as a Source of Experience and Knowledge を全訳、それ以降を部分訳したものです。


 カナダ政府は、欧州委員会が化学物質の登録、評価、及び認可 (REACH) に関するパブリック・インターネット・コンサルテーションへの参加機会を設けたことについて歓迎する。我々は以前に述べたように、人間の健康と環境を守り、そして革新と競争力を推進するという REACH の目標を共有するものである。我々はまた、国際協調がこのことに取り組む上で本質的に重要であるということを信じ、その実現に傾けてきた努力を共有するものである。
 このコンサルテーションは、提案された規制とその実施を促進するためにカナダのような他国の経験から知見を得ようとする欧州委員会の意思の表れであると考える。

 我々の回答の中で、REACH の特定の部分に関連する多くのコメントと示唆、及び、競争力、市場参入、国際貿易における義務、協調、及び強化された国際協力と連携に関連する考慮すべきことがらを表明している。同時に、我々が明確にすることで我々や他国が利益を得るであろう REACH 提案の特定部分を示す。そのことで我々の理解が最新のものとなり、我々の懸念が整理される。

 カナダ政府は、インターネット・コンサルテーションは、WTO の貿易に対する技術的障壁協定(WTO Technical Barriers to Trade Agreement)の 2.9.1条に規定されている早期通告 (early notice) であると理解している。これに関し、カナダは、欧州共同体(EC)が WTO 貿易に対する技術的障壁協定の2.9.2条に基づき正式に WTO に通告した時に、この提案に対しさらにコメントしたい。

経験と知識の源としてのカナダ

 2002年4月付けの前回のコメントで述べた通り、カナダ政府の見解は、REACH は EC 域外の諸国を含む全ての国々の産業に対し大きな影響を与えるであろうということである。従って、カナダ政府は、提案された規制は EC 域外の諸国との法的協力の可能性について十分考慮すべきであることを強調する。

 ご存知の通り、カナダは最近、カナダ環境保護法1999 (CEPA 1999) を改正した。カナダは、人間の健康と環境に対する既存化学物質のリスクに対し、包括的な優先度設定と検証を実施している、現時点では唯一の国である。
 この分野に関しカナダが現在までに得た経験によれば、一国が自身のリソースだけでこの課題を実現することは可能とは思われない。カナダは、全ての OECD 諸国と、さらに可能ならばそれ以外の諸国が協力して、この過去の遺産を処理する努力を分担すべきであると信じている。

 カナダ環境保護法の下で、既存化学物質のテストと評価のために開発された革新的な手法と技術により、カナダは健康と環境を守りながら動物テストを最小にすることを提案できる。さらに、優先順位を設定して評価すべき化学物質とポリマーにはかなりの重複がある。カナダは喜んで優先順位設定、スケジューリング、及びリソースへのインパクトに関連する経験を披露し、 EC と共にこの課題を克服するために協力するつもりである。

 新たな化学物質及び農薬に関連する我々の OECD での経験に基づき、我々は REACH にカナダ環境法(1999)の第316条と同様な条項を導入することを十分検討するよう推奨する。カナダの条項は、機密あるいは所有権のあるデータの保護を含む特定の条件と制限の下に、他国政府と評価及びその他の情報を共有することを許すというものである。

 カナダは最近、新たな化学物質規制の見直しを行い、その結果、申告手続きを簡素で合理的なものとし、文書の数を減らし、不必要なテストを排除することにした。
 産業界との2年間にわたる協議の成果の一つとして、広範に適用できるテスト方式について合意に達したが、その結果は健全で効果的な政策決定を支援するものである。緊急なリスク評価が求められる場合及び規制担当官が特に必要であると考える場合のテストもまた、規制の付属書としてのガイドラインに述べられている。

 REACH のテスト要求は、カナダの新規化学物質及びポリマーのためのテスト要求よりも広範であるが、我々の提案要求がコンサルテーションでの勧告に基づく変更に合致するなら喜ばしいことである。テスト要求に大きな違いがある所は、しばしば、異なる政策的事項、例えば労働安全など、を反映している部分である。

 カナダは、新たな化学物質に要求される基礎データに、除外と免除の使用(use of exclusions and exemptions)により大きな整合性を実現するよう努力すること、そし放棄の使用(the use of waivers)に大きな柔軟性を推進することがカナダと EC にとって相互の利益になると考える。
 例えば、カナダは現在、懸念の低いポリマーに対する規制要求を緩和することを検討中であり、さらに懸念の低い物質に関し他国と協力を続けたいと考えている。カナダはオーストラリアとの協力関係で多くの知見を得ており、ヨーロッパにおける政策決定を直接的に支援するであろう外国の通知体制と情報を認め、その膨大な将来のための価値を REACH の条項に反映したい。

 カナダと EC はコスト節約、重複の削減、産業界の負荷の減少、及び通商障壁の除去を含む相互協力により多くの利益を享受しなくてはならない。カナダ政府は下記の機会を探ることがカナダ−EC の双方に益することとなると信じる。
 (1)データと成果を共有すること
 (2)共通の評価方法を受け入れ、又は使用すること
 (3)認定パッケージを標準化すること
 (4)作業を分担すること
 (5)規制政策決定の支援における相互の努力を認めること

 もし、毒物学的研究に関するコストが高い場合には、EC 内諸国及び EC の貿易相手国にとって、カナダのようにその要求を調和させる努力をすることが利益になる。

 カナダ政府は、カナダと欧州委員会が、可能な相互協力を展開することを含めて、化学物質リスク評価とリスク管理に関し対話を継続するよう推奨する。

(訳注:以下、カナダ政府のコメントの一部を項目のみ列挙する)


REACH

  • 規制官による管理が一貫し、整合性があるものにするために、カナダ環境法(1999)にあるような詳細なガイドラインを作成することの検討
  • 動物テストを減らすために科学的に正当化された代理データ、及び、強固で有効な SARs(Structure Activity Relationships)の採用の検討
  • 規制される産業界の負荷を減らすために、登録と認可の期限を延長することの検討
登録

  • 簡単な郵送方式による物質の事前登録システムの採用の推奨
  • 厳密には GLP (Good Laboratory Practice) に準拠しない既存化学物質に関する外国のデータを受け入れるのどうか不明であるが、産業界の負荷を減らすために、その使用について柔軟性を持つことを推奨
評価とデータの共有

  • 欠落している既存化学物質のデータはこれらの物質から利益を得ている OECD 諸国と産業界が作成すべき
  • 各国間の情報データ交換の仕組みを作るべき
認可

  • 申請者毎に認可するのではなく、包括的な認可の方法を検討すべき
  • 各国当局に認可期限を延長する権限を与えることを検討すべき
  • リスク評価及び社会経済的影響評価に基づく政策決定が混乱や通商障壁を起こさぬよう、あらかじめ ”許容できないリスク” を定義しておくことが重要
  • カナダ政府はある物質を危険と指定するのはリスク評価に基づくのかどうかを知りたい
コンソーシアム

  • テストのために企業がコンソーシアムを組み、評価のコストを応分に負担することを推奨する EU の努力は賞賛に値する
  • REACH ではコンソーシアム・メンバーだけに当該物質の使用が限定されるが、カナダのオープン・ケミカル・インベントリーでは誰でもが製造・輸入することができる
  • 明確にしたいことがいくつかある
     ・非コンソーシアム・メンバーが提出した既存データはどのようにして認めるのか?
     ・異なる供給者によって提出されたテスト結果に相違がある時はどのように解決するのか?
     ・その他、動物テストデータを2者が提出するケースの問題(略)
  • サプライ・チェーンの中でいつ、どの程度、追加情報を伝達すべきかの指針と基準を設けるべき
  • コンソーシアム・メンバーでないカナダ企業がEU市場に輸出することについて(略)
  • 企業機密に関わるデータの取り扱いについて(略)
競争力

  • REACH によるコストインパクトは大きく特に中小企業を不均衡に圧迫する
  • 多くの物質がコストがかかるという理由で市場から撤退することとなる
  • コストがかかるので投資意欲が下がり、研究・開発が減少する
  • 中小企業は開発(革新)に大いに依存する
  • 従って、カナダは REACH が化学産業の取引を減少し、中小企業の革新を抑制し、川下ユーザへの化学品の供給を限定することになるのを恐れる
分類と表示

  • REACH は分類と表示に関する Globally Harmonized System (GHS) を考慮すべき
  • GHS を2008年までに実施するという WSSD 計画への合意は実現できるのか?
範囲

  • 除外と免除に関する分類が重要。もし原油や天然ガスのように天然の物質が登録プロセスから除外されるなら、天然鉱石や精鉱も登録から除外されるべき
  • リサイクル可能な物質が REACH の管理範囲に含まれているが、現状これらはよく管理されているので、リサイクル可能な危険資源を REACH に含めることの利益は疑問である。これらの物質は、ヨーロッパ、OECD 諸国、及び国連において厳格な国際的規制を受けている
  • ポリマーに対するヨーロッパの扱いは他の貿易国の扱いと異なる
  • 無機合金と無機中間体の取り扱いについて明確にする必要がある
  • 無機及び有機原料に関、し異なる申請が行われると不公平な競争力問題を生じる
  • 成形品中の成分に関し、使用において予測できる状態で放出されるかもしれない危険成分に限定すべきと考える
国際的整合性

  • 国際的な協調が重要である
  • REACH は実質的に全ての物質について、企業がその安全性を立証することを求めているが、カナダは優先的にテストすべき物質を特定している
  • REACH の認可には国家レベルと EU レベルの2つの異なるメカニズムがあるように見え、このことは最終的に矛盾をきたすおそれがある
  • 欧州委員会がカナダをアイディアを実験することのできる場、経験を引き出すことができる場、そして協力が得られる場として見なし続けることを望む
(訳: 安間 武 /化学物質問題市民研究会)


化学物質問題市民研究会
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